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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第11章 新たなダンジョンの探索調査
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封鎖解除されました

本日2話目です。

「ロニー、装備の確認は終わった? サーシャは魔石の予備の確認をしておいて。ミューリィは精霊との契約の確認!」



 俺達が首都から戻った翌朝の光景だ。

 フランがいつになく張りきって指示を出している。

 ギルドの皆に聞くと、彼女はダンジョン内でよりも、事前の準備や渉外のような裏方の仕事のほうが性に合ってるらしい。

 確かに一番最初に会った時は初級ダンジョンの罠に嵌ってたんだよな。

 誰にでも得手不得手はあるから仕方ないことではあるが、最近は少し余裕が出てきたような気がする。

 


「随分張りきってるな?」

「当然よ、新規ダンジョンの一番隊なんて大役を任されるなんてすごいことなんだから。ついこの前まで存続すら危なかったのにここまでになるなんて………父さんと母さんの墓前にも報告しなきゃ」



 ばたばたと受付を飛び出していくフラン。

 誰もがそれを笑って見ている。

 つい先日まではライバルギルドに仕事を独占されてたなんて思えないほど活気に満ちている。

 


 ダンジョンの封鎖が解除されるという報せは、プルカの街の姿を一夜で激変させた。

 日銭を稼いで戻ってきた探索者達は、その報せを聞くと即座にダンジョン探索の準備を始めた。

 当然、ペトローザの詰所に探索パーティの申請者が殺到することになり、各ダンジョンの入場申請が早々に締め切られるという事態に陥ったらしい。



 プルカではダンジョンの入場パーティの数に制限を設けている。

 というのも、あまり多くの探索者達が入ることにより、モンスターが減ってしまうのだ。

 減ったモンスターはしばらくすれば復活するのだが、問題はそこではない。

 モンスターがいないということは、当然ながら探索者どうしが鉢合わせすることが多くなる。

 目ぼしいアイテムすら見つけられない探索者が鉢合わせしたらどうなるか………最悪の場合、喧嘩ではすまないだろう。



 そのために、モンスターの数を減らしすぎないように入場規制をかけている。

 こういった調整を行うのも、斡旋屋としてのペトローザの役目だ。

 他にも、ダンジョン内のモンスター素材の買取やアイテムの買取、斥候や回復役の派遣、独自の探索チームによる地図作成などの仕事がある。

 それが封鎖解除により一気に動き出すとなれば、ペトローザの忙しさは凄いものになるのも当然だろう。

 もちろん、商会を纏める立場にある者の忙しさも相当のようだ。

 何故そんなことが分かるかというと、ギルドの受付のソファに埋もれるようにして、焼き菓子をむさぼるリーゼロッテの姿があったからだ。



「忙しくてまともに食事も摂れませんわ、こちらでお菓子をいただけて助かりました」

「大丈夫なのか? 随分とやつれているみたいだが…」

「仕方ありませんわ、ダンジョン封鎖にあたっての入場税の返還や解除後の入場パーティの審査、やることはどんどん増えておりますので…」



 やつれてはいるが、その表情はとても輝いている。

 このお嬢様がここまでになるとは………きっと儲かってるんだろう。

 ちなみに、リスタ男爵家はペトローザからダンジョン絡みの売上のいくらかを税として徴収しているそうだ。

 そのかわり、有事の際は男爵家の私兵を介入させる。

 実はリスタ家の私兵はダンジョン戦闘のエキスパートだとか。

 確かにあの夫人が鍛え上げた私兵ならば、そう簡単にやられることもないだろうからな。



 特にダンジョンでの有事で恐ろしいのは、モンスターの大量発生らしい。

 ダンジョンから溢れ出たモンスターを駆逐できる実力を持った私兵を抱えることができる貴族はそうはいないらしく、男爵夫人の人柄によるところも多いとか。



 まあそんなこんなで、今プルカの街は非常に活気づいている。

 正直なところ、首都よりも活気があるんじゃないかと思える。

 プルカの街は、言わば『現場』だ。

 現場が活気があるというのはいいことだと思う。

 


「貴方達はいつ出発しますの?」

「私達は明後日の早朝から潜る予定です」



 リーゼロッテの問いに、戻ってきたフランが答える。

 目元が赤い………両親の墓に報告してきたんだろうか。

 だが、決して悲壮な表情はない。



「今度のダンジョン、どうやら『塔』らしいですわよ」

「そうみたいですね。となると、かなりレベルの高いダンジョンということになるでしょう。こちらもフルメンバーで挑みます」



 今回の大まかな作戦については、事前に簡単に説明があった。

 メルディアうちとしてはほぼフルメンバーで挑むことになる。

 先行組と後衛組で別れて探索し、俺は後衛に入る。

 先行組にはロニーやミューリィ、ディノといった攻撃力の高いメンバーが入って露払いをする。

 もし複雑な罠や鍵があれば、後衛と合流して俺が解除している間の守護をしてもらう。

 そのため、今回は先行組にアイラが参加する。

 そこに至るまでに結構揉めたんだが…




「どうして私がロックと一緒じゃないの?」

「アイラは探知能力が高いから、斥候役として先行組に入ってほしいのよ」



 フランから説明があった時、真っ先にアイラが異議を唱えた。

 アイラはその能力はともかく、身体能力もかなり高いので斥候には向いている。

 だが俺達と別行動というのが気に入らないらしい。



「なぁアイラ、お前には先行して罠や鍵の情報を教えてほしい。自分で解除できると思ったら解除してくれてもいいが、できれば俺が行くまで待っててほしい。お前達にも見て覚えてほしいことがたくさんあるからな」

「でも………それならロックも先行組に…」

「あのな、俺は戦闘力が低いんだぞ? そのために先行組に露払いを頼んでるんだろ?」

「うう………わかったよ………」



 こんな感じで納得させた。

 厳しいかもしれないが、事前情報では今回のダンジョンはかなり難易度が高いらしいから、フランとしても万全の体制をとりたいんだろう。

 もちろんフランも同行するが、彼女はダンジョンの外で非常時に備えて待機だ。

 通信用の宝珠で逐次情報のやりとりをして指示を出すという大事な役割を担当する。



 俺のやることと言えば………いつもと特に変わらない。

 難易度の高いダンジョンの鍵がどれほどのものなのか、今から楽しみだ。

 一応俺の方も準備は進めてる。

 今は充電ドリルのバッテリーの充電中だ。

 こちらは晴天が多いので、ソーラーパネルで充電は賄えているが、複数となるとやはり厳しいものがある。

 発電機を使ってもいいんだが、ちょっとうるさいからな………

 雷魔法があるんだから、電気の魔法があってもいいと思うんだが…

 今度ディノに相談してみよう。













 その日の夜、『銀の羽亭』にギルドの全員が集まった。

 見れば何人か、見ない顔がいる。

 壁に背をつけて、ぼんやりと佇んでいる。

 あいつらは一体何者だ?



「なぁロニー、あいつらは誰だ?」

「ああ、あいつらは不測の事態が起こった時のための救助要員だよ。冒険者ギルドに頼んで何人か派遣してもらったんだ。場合によっては後衛チームに入るかもしれない」

「信用できるのか?」

「冒険者ギルドは超国家組織だから、そう変な輩は入り込まないと思うよ。一応、派遣依頼はリスタ家から出されてるから、あの・・夫人が面通ししてるだろうからね」



 確かにそういう役割まで考えると、メルディアうちだけでは対処しきれないから理解は出来るんだが………



 どうにも気になる奴がいる。



 どうも視線が泳ぎがち………というか、何かを探してるみたいだ。

 俺の気のせいかもしれないが………



 と、フランが皆の前にカップ片手に立ちあがった。



「いよいよ明日、新たなダンジョンに出発します。探索は夜明けと同時にスタートしますので、ゆっくり出来るのは今晩だけです。皆さん、今日は思う存分英気を養ってください。それから、リスタ男爵夫人より、補助要員を出していただきました。どうぞ一言」



 俺が気になっていた連中がにやにやしながらフランの横までやってきた。

 その人数は5人。

 俺が気になってるのはそのうちの2人だ。



「俺はランガー、元シドン帝国軍で小隊を任されていた。足を怪我して第一線を退いたが、補助要員くらいなら全然大丈夫だから任せてくれ」


 

 こいつは灰色の短髪を油で固めている。

 確かに歩くときに若干右足を引きずっているな。

 こいつの独特な目つきが気になったんだが、軍人だからなのか?



「私はベルハルト、ユーフェリア南部の貴族の四男です。継承権もないので、自由気ままな冒険者をやってます。よろしく」



 こいつは赤っぽい茶髪を肩まで伸ばしたイケメンだ。

 どうもこいつは………

 全く掴みどころがないというか………



「どうしたの、ロック? やけに険しい顔してるじゃない」

「あ、ああ、あの2人がどうにも気になってな…」



 俺の様子がおかしいのをミューリィが目ざとく見つけたらしい。

 心配してくれてるのをはぐらかすのも失礼だと思ったので、素直に思ってることを言ってみた。

 それを聞いたミューリィは少し考えるようにして、小さく耳打ちした。



「あの2人は特におかしいところはないと思うんだけど…」

「ああ、俺の気のせいかもしれないから、あまり深く考えないでくれ」

「そう? それならいいんだけど…」



 確かにあの2人がおかしいという証拠はない。

 俺の気のせいかもしれない。

 だが、これでも日本で色々と防犯絡みの相談を受けたり、仕事をしたりしてきた。

 どうもこいつらからは、言ってるような粗暴な雰囲気がしない。

 礼儀正しい冒険者だっている! と怒られそうだから敢えて言わないが…



 やっぱり気になるな………









 その夜の皆の騒ぎっぷりは凄まじかった。

 ダンジョン封鎖の鬱憤が溜まっていたことと、新ダンジョンの探索という栄誉が皆の箍を外してしまったようだ。

 見回せば、まさに死屍累々といった感じだが、ギルドのメンバーはしっかりと自制したようだ。

 


「あともう少しで出発よ、皆準備して!」



 フランの声に皆が一斉に動き出す。

 ギルドの前に並んだ数台の馬車に、物資が積み込まれていく。

 それにしても、こんなにたくさんの荷物が必要なのか?



「この荷物は………多すぎじゃないのか?」

「何言ってるの? 大部分はリスタ家からの供出品よ? 男爵家の私兵がダンジョンの警護とかしてるから、その人達用の物資がほとんどよ。うちの荷物はロックが魔法の鞄マジックポーチを使えば問題ないでしょ」



 唯一暇そうにしていたミューリィに聞いてみた。

 アイラやセラどころか、カウンター担当のリルや経理のデリックですら忙しそうに動いてる中、のんびり椅子に座ってたのがこいつだっただけなんだが…

 そう言えば、色々と先行調査してたな。

 ダンジョン管理ってのも大変だ。

 それだけにうまく管理できた場合の利益もすごいんだろう。









「皆さん、準備は出来ましたね? それでは出発します!」



 フランの号令で十台以上の馬車が列を作って動き出す。

 ギルドメンバーは2台の馬車が宛がわれており、そこに分乗している。

 今回はギルドは休業で、メンバー全員で探索に当たる予定だ。

 


「なあリル、本当に行くのか?」

「ええ、フラン一人に任せるのは厳しいでしょ?」



 カウンター担当のリルもフランのサポートにつくそうだ。

 デリックはその護衛として参加している。

 身体が鈍っていては困る! とか言って、ロニーと一緒に先頭の馬車に乗り込んでたな…

 


 で、俺たちは何をしているのかというと、転移魔法陣を使って首都から戻ってくるはずのディノを待っている。

 ダンジョンの場所はプルカから馬車でほぼ丸一日のところらしい。

 だいたい100キロくらい離れているんだろう。

 ただ、そのくらいなら四駆だと数時間だから、俺とミューリィが残ってディノを乗せる役になったってわけだ。



「本当に来るんだよな?」

「ディノ様もかなり張り切ってたから、すっぽかすことはないわね」



 と、倉庫の中から光が漏れた。

 次の瞬間、豪快に扉を開けて出てくるディノ。

 


「す、すまんのう、待たせてしまって。ちょっと色々とあっての」

「気にするな、それよりも忘れ物は無いな?」

「ええ、大丈夫よ。早く皆を追いかけましょう」



 四駆のエンジンをスタートさせて、調子を確認する。

 相変わらず、エンジン音もいい感じだ。

 さて、これから4人で皆を追いかけるとするか…






 え?

 何で4人・・いるんだ?


人数が増えていることに気付かないあたり、ロックも興奮しています。


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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