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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第10章 動き出す迷宮
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ちょっとした話をしよう

ミューリィとのちょっとした会話です。


「首都って意外と治安が良くないみたいだな」



 ぶらりと入った酒場兼食堂のような店で、小魚の素揚げのような料理をつまみながらミューリィに愚痴る。



「スラムでならまだわかるが…」

「うーん、今は仕方ないと言うしかないのかも…」



 何やら複雑な表情を見せるミューリィ。

 どうも裏事情がありそうな感じだ…



「新しいダンジョンが発見されたって話は知ってるでしょ?」

「ああ、今は調査中なんだろ?」

「新しいダンジョンは未知のお宝が発見されることもよく知られているんだけど、当然それを狙った連中も集まるの。その中には無法な奴等もいるから、国としては騎士団の精鋭を常駐させて警備してるのよ。だからってわけじゃないけど、首都の治安が疎か…というか、さっきみたいな雑魚がのさばることになってるの」



 …結局のところ、人手不足ってことか。

 だが、そこまでするものなのか?



「それで首都の治安が乱れたら困るだろ…」

「でもね、新しいダンジョンは国にとっても大事な収入源になるかもしれないのよ? それを何処の誰とも知れない連中に荒らされたら、それこそ国の威信に関わるわ」



 特にこの国はダンジョンの管理を推し進めてるからな…

 確かに国で推し進めてる分野を荒らされれば、他の国に対してのアドバンテージがなくなるかもしれない。


 

「一応、騎士団でも巡回の頻度を上げたりしてるんだけど、どうしても穴が出来ちゃうのよ………あ、これ美味しい」

「…でも、改めて見ても、お前…強いよな」



 チンピラとはいえ、4人を瞬時に制圧なんて、相当な力の差が無ければできない。

 流石はダンジョン探索を数多くこなしているだけあるな。



「そうでもないわよ? あの連中はどう考えても雑魚だったし。ナイフの刃もぼろぼろだし、仕掛けてくる場所も逃げ道が多い場所だった。少なくとも、あの連中は大して脅威じゃないわ。むしろロックのほうに行かないか心配だったんだから」


 

 まさかの事実判明。

 …そりゃ、俺は弱いけど…

 面と向かって言われると結構凹む…



「…そういうことに簡単に気付く辺りも含めて、強いってことだよ」

「うふふ、ありがと。褒めてもらうのも悪くないわ」



 にやにやしながら果実水を飲み干す。

 何となくだが、こういうところが気に障る。



 さっきのチンピラだって、弱そうとは言うが、俺にとってはかなりぎりぎりだった。

 というのも、ひ弱そうな外見とは裏腹に、かなり力が強かった。

 …というよりも、俺の力が弱いのか。



 一緒にいる女に護られる男ってのは…かなり精神的にキツイな。

 



「…自分に力が無いのが辛いんでしょ?」

「げほげほっ!」



 唐突にそんなことを聞いてくるミューリィ。

 思わず咳き込んでしまった。



 気付けば、大きな瞳が間近にあった。

 まるで大きなエメラルドのような瞳に、思わず吸い込まれそうになる。

 


「あんたたちは本当に師弟ね。ゲンも同じことでずっと悩んでいたわ」

「師匠も?」

「ええ、街のチンピラ相手に負けるほどだったわ。たぶん今のロックよりも弱かった」



 それは…あまり知りたくない情報だった。

 師匠はいつまでも師匠らしく、強くあっていてほしかった。



「でも、ゲンはある時を境に悩まなくなったのよ。あれはハンナとマリーンを嫁に迎えた頃だったかしら。何かふっきれたような顔だったわ」



 それは…どういうことを言いたいんだ?

 内助の功みたいなものなんだろうか?


 

 というよりも、何でいきなりそんなことを言いだしたんだ?



「それでさ、ロックはどっち狙いなの? それとも両方?」

「どっちって…何がだ?」



 突然、変なことを訊いてくる。



「そりゃもちろん、アイラとセラのことよ。あの2人、ロックに気があるから、たぶん断らないわよ?」

「…そのことは理解してるが、まだあの2人は半人前だ。一人前になるまではそう言う考えは持たないようにしてる」



 最近こそ落ち着いているが、以前の2人はかなり酷かった。

 勝手に嫁気取りで…

 正直なところ、結婚なんてしたら一生これが続くのかも…なんて不安になった。



 だが、弟子である以上、色恋よりも腕を磨くことを優先してもらわないとこっちが困る。



 ダンジョンで改めて『鍵開け』という仕事の重要性を理解させられた。

 一緒に探索するパーティの安全を担う、大事な役目だ。

 ほんの僅かな誤差がパーティの全滅すら招きかねない。

 浮ついた気持ちでついてこられても困る。



「はぁ…あの2人も大変だわ。2人が幸せになるのはいつになるのかしら…」

「仕方ないだろ、物事には優先順位ってのがある。これが『鍵開け』に関わらなければ俺だって吝かじゃない」



 もし俺がどうでもいい仕事であれば、2人の想いを受け入れてしまったかもしれない。

 だが、鍵に関することだけは妥協出来ない。



「あの2人、プルカでも結構有名なのよ? アイラはあの容姿でありながら純朴だし、セラは他の貴族からの婚姻話が多いのよ。尤も、セラに関してはデルフィナが自由に恋愛させるつもりらしいけど」

「…まぁ、確かに2人は可愛いよ」

「だからこそ、あまり待たせないであげてね。たぶん、ロックが何か言ったんでしょうけど、一時期のような強引さが無くなってる。ロックに嫌われないためにね」


 

 そう言われて思わず考え込んでしまう。

 あの2人が一人前になるのはまだまだ先のことだ。

 そこまで待たせて…というか、あいつらが待ってくれるのか?

 


「でもさ、どうしてそんなに一人前にすることに拘るの? 別に恋人になったからって修行できない訳じゃないでしょ?」



 確かにそうなんだが…これは俺自身への歯止めでもある。



「俺はそんなに強い人間じゃない。何かあった時に、2人に依存してしまうのが………怖いんだよ」



 以前、俺が仕事でしくじった時、当時付き合ってた彼女に依存してた。

 今では欠片ほども思い出したくない過去だ。

 仕事にも行かず、彼女の収入で食わせてもらってた。



 早い話が『ヒモ』状態だ。



 そんな状況を見かねた彼女から別れを切り出された。

 当時はかなり荒れたが、後で考えてみれば当然だった。



 そんな彼女も今は結婚して子供もいるそうだ。


 

 俺は…また同じ状況に陥るのが怖い。

 自分に慢心してしまうのが怖い。



 だから、2人に対して厳しい態度を取っている。

 2人が一人前になれば、今度は俺を追うライバルになる。

 そうすれば、俺も仕事に対する緊張感を持ち続けられる。



「だから、2人とは一定の距離を保ってるってこと?」

「ああ、申し訳ないとは思っているけどな」


 

 まだ駆け出しのくせに、大した失敗も知らないくせに偉そうだった。

 過去の自分をぶん殴ってやりたくなる。

 


「…2人のことを守ろうとは思わないの?」

「手っとり早く守れる力があるならな。俺のどこにそんな力がある? 俺にできるのは、2人に俺の知識と技術を教えて、レベルアップさせることだけだ」

「そんなことは………ううん、ごめんね。ロックも2人のことを真剣に考えてくれてるんだよね」



 物理的な鍵についてのことは、こっちの世界の人たちからすれば未知の領域に近いんだと思う。

 僅か数ミリの世界なんて、想像することもできないんだろう。



 一度失敗すれば命が終わる。

 そんな状況で、繊細さを保ち続けることがどれほどできるのか。



 幸いにも、日本という安全な国で知識と経験を得ることができた。

 俺の武器はそれだけだ。

 決して誰かを守れるような、わかりやすい力じゃない。


 

 それをしっかり伝えることで、2人の力になれればと思ってる。

 だからこそ、危険なダンジョンに挑むのは早すぎる。

 


「…もうこの話はここで止めよう。折角首都に来たんだから、楽しい気分でいたい」

「そうね…じゃ、首都にいる間は私がパートナーになってあげる。もっともっと紹介したい場所もあるし」

「おい、何でお前がパートナーなんだよ」

「あ! 馬鹿にしてるでしょ! これでも首都ではそれなりに有名なんだから」

「…それなりなのか」



 ちょっと気分が滅入ってきたので、多少強引に話を終わらせた。

 やっぱりこいつとは、こういう関係がいい。

 それに、昔の話を掘り返しても、いい事なんてない。

 過去は過去であって、未来を変えるのはいつでも自分だから。




 食堂を後にした俺達は、首都の中心にあるという王城を見に行くことにした。

 


「王城って…さっきからずっと見えてるアレか?」

「そうよ、大きいでしょ?」



 何故そこでミューリィが薄い胸を張るのか理解に苦しむ。

 実はさっきから、ちょっと離れた場所にでかい建物が見えていた。

 大きさで言えば、20階建てくらいのビルと同じか?

 遠目からでも模様が見えるってことは、かなりの大きさの石…というかあれはもう岩だな。

 某海辺の夢の国のお城みたいだ。



「もちろん中には入れないけど、外から見るくらいは平気だから」

「そうだな、土産話くらいにはなるだろ」

「ほら、早く行こ」



 俺の左腕に自分の腕を絡めてくる。


 

 う、腕に当たるこの感触は………もしかして………



 うん、肋骨だな。



 日本で読んだ海外小説だと『エルフは体の線が細い』なんて書いてあったが、これはそんなもんじゃない。



 もう少し肉を食え。

 


「どう? どきどきする?」



 上目遣いのドヤ顔が神経を逆なでする。



「ん? どうしてだ? お前が栄養失調で倒れないかどうかは確かにどきどきするな」

「何でそうなるのよ!」



 怒っているように見えるが、その目は全然怒ってない。


 

 全く…余計な心配をかけさせたな。

 そうと判れば、今のこの楽しい時間を楽しむとするか。



「お前、まともに肉を食べてるのか? さっきから肋骨が当って痛いんだよ。 もしかして新しい攻撃手段か?」

「そんなわけないでしょ!」




 しばしの沈黙が訪れる。





「「 あははははははは! 」」



 2人同時に笑いだした。


 

「やっぱりロックには落ち込んだ顔は似合わないわ。ごめんね、私が変な話を振ったせいで…」

「そう言うな。昔のことを少し思い出しただけだ。お前が気に病むことじゃない」

「…ありがとう、ロック」



 ミューリィがいきなり真剣な表情に変わる。



「こんな良くわからない世界に飛び込んできてくれてありがとう。おかげで皆も明るくなったわ。特に、デリックなんてあんなに喋るの見たことなかった。これもみんなロックが皆にいい影響を与えてくれたおかげよ」

「別にそんな大したことしたつもりはないが…」

「たぶんいずれわかるから………」



 何だろうか。

 俺は俺の出来ることしかしてないんだが…



 でも、ミューリィがそう言うんであれば、俺が気付かないうちに何かしてたんだろう。



 …まさか夢遊病ってことはないよな?



「………絶対に……………から」

「ん? 何か言ったか?」



 考え事をしていたせいで、ミューリィの呟きを聞き逃してしまった。

 何を言ってたんだろうか?

 独り言みたいな感じだったから、そんなに大したことじゃないんだろう。

 

活動報告にも書きましたが、拙作がなろうコン一次を通過してしまいました。

読んでいただいた皆様のおかげと思っております。

どこまでいけるかわかりませんが、これからも頑張っていきたいと思います。


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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