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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第10章 動き出す迷宮
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秘密の建物

ちょっとした異変が…

「これは…宝箱か? でも、何でこんな場所に…」


 確か宝箱の持ち出しは出来ないはずじゃなかったか?

 ダンジョンマスターの怒りに触れるとか…


「ここの宝箱は模造品コピーなのよ。それも限りなく本物に近いわ」

「どういうことだ?」


 ミューリィが説明してくれたが、こんな模造品をここに保管しておく意味がわからない。

 それに、模造品を作る意味も。


「これはね…ゲンがやりたかったことでもあるのよ。それをロックにも知っておいて貰いたかったのよ」

「師匠が…やりたかったこと…」

「これはのう、ワシ等が数多くのダンジョンを巡って宝箱の特徴を集めて、ゲンがそれを基に作ったものじゃ。よく見てみい」


 サフィールさんと一緒に建物内に入ってきたディノが説明してくれる。

 これは…師匠が作ったものなのか。


 

「ワシとサフィールのパーティにゲンが参加したときにゲンから頼まれたんじゃよ。当時は鍵開けなどという仕事は馬鹿にされておってのう、誰も受け持つ者がおらんかった。そのせいで鍵解除に失敗して命を落とすパーティが後を絶たなかったんじゃ」

「おかげでダンジョンが活性化し始めてしまったんです。ダンジョンのレベルが上がってしまい、初心者パーティがたくさん犠牲になりました。協会としても何か対処すべきと思っていたときに、ディノがゲンを連れてきてくれたんです」


 そうか…師匠としても命に関わることとなれば、何とかしたいと思ったんだろう。

 まさかそれが異世界とは思っていなかったんだろうけど。


「ゲンくらいになればここの宝箱など簡単すぎるんじゃが、一般の探索者ではそうもいかん。そこでゲンから提案されたんじゃよ、『初歩的な鍵開けの基礎を教えよう』とな」

「当時としては画期的な話でした。こういう技術は隠匿するのが当然と思われていましたから」

「じゃが、そのおかげでパーティの生還率が上がったんじゃ。協会では現在も基礎技術の講習をしておる」


 そういう技術は然るべき者が然るべき管理を…ってのが師匠の口癖だったっけ。

 犯罪者に渡れば大変なことになる。

 この宝箱はその情報源みたいなものだからな。

 ディノ達がこれだけ過敏になるのも仕方ないことなんだろう。


「おかげで協会としても、探索者の安全を考慮していると各方面から高評価を受けています。傘下の盗賊ギルドにも一部この技術を教えています」

「特にラムターの王室でもかなり評価してもらってるのよ。おかげでラムターでは協会の力はかなりのものよ」


 ミューリィが偉そうにふんぞり返る。

 何でこいつが威張る…

 それはいいんだが…






「なぁ、あの隅に置いてあるのって…」

「…やはりそれに気付くとはのう、さすがはロックじゃ」


 俺が気になったのは、隅のほうの一角にある宝箱の山だった。

 どうも気になる。

 うまく言葉で表せないのがもどかしいが、兎に角気になる。

 

「あれはのう…本物なんじゃよ…」

「本物? さっきは模造品だって…」

「申し訳ありません、それは私がお願いしたんです。不躾ながらあなたの実力を試させていただきました」


 サフィールさんが申し訳なさそうに言う。

 

「で、俺はどうなんだ?」

「はい、ゲンの弟子というのは決して騙りなどではないと確信しました。何故なら、その宝箱は特別なダンジョンにあったものと言われているからです」

「特別なダンジョン?」

「ええ、これまで踏破したパーティはたった一組だけ、しかもそのパーティは直後に行方不明になったと言われているダンジョンです。そして現在、その攻略が全く行われていないダンジョンです」

「そんなダンジョンがあるのか?」


 それはかなり危険なダンジョンじゃないのか?

 でも、何で宝箱がそのままの状態でここにあるんだろうか。

 

「それに、ダンジョンから持ち出し出来ないはずの宝箱が何でこんなところにある?」

「それは…そのダンジョン自体が全く探索情報が無いので分かりませんが、唯一言えるのは、そのダンジョンにはこれまでの概念が全く当てはまらないということだけです」


 それは全くの未知数ということか。

 そんなダンジョンを踏破した奴がいるってのは凄いな。


「そのダンジョンとは…『ブロンの大迷宮』です」

「…聞いたことあるな、確か存在は確認しているが、入り口がどこにあるか一切不明だってやつだろ?」


 確か以前ミューリィに教えてもらった。

 この世界で最大のダンジョンで、堕ちた女神の伝説のあるダンジョンだっけか?

 でも、そのダンジョンの宝箱が何でこんな場所にあるんだ?


「そんなダンジョンの宝箱が何でこんなところにあるんだ? どこからか持ち込んだのか?」

「いいえ、この宝箱は以前からここにありました。それどころか、この建物の外に出すことが出来ないんです」

「出すことが出来ない? それはおかしくないか? それなら何でこんな建物の中にあるんだ?」

「それはのう、この建物も一緒にあったからじゃよ」


 ディノが説明してくれるが、どうも意味が理解できない。

 宝箱はダンジョンから出せない、そしてこの建物の中に宝箱がある…ということは…。




「ここがかつて『ブロンの大迷宮』の入り口だった・・・場所じゃよ。今は機能しておらんがの」










「こ、ここが? だって首都のすぐ傍だぞ?」

「既にこの建物は入り口の機能を失っておるんじゃが、時折宝箱だけがここに出てくるんじゃ。幸いにもミミックやモンスターが出てきたことはないがのう」

「ですが、これもダンジョンの宝箱の一部であることには違いありません。もしここで解除に失敗すれば、どのような影響が起こるかわかりませんので、厳重に封印してあるんです」


 それにしても、ここがそんな凄いダンジョンの入り口だとは…

 となると、師匠もそのダンジョンに関わってるということか?

 一体どこまで関わってるんだろうか…


「なぁ、もしかして、この建物のことって王室には知られてるのか?」

「勿論報告しています。ただ、このレベルの封印術を持っているのが我々以外にはそうそういないので、我々に管理を一任されています」

「まぁこの封印はワシのオリジナルじゃからのう、そんな簡単には解かれることはないわ」


 ディノが胸を張って言う。

 確かにディノくらいの力を持った奴はいないんだろうけど…

 でも、鍵だって手段を選ばなければ開ける方法はあるんだし、そのあたりはどうなんだろう?


「…最近よく話を聞く『勇者』あたりだったらどうなんだ?」


 俺が何気なく漏らした一言にディノとサフィールさんが敏感に反応する。

 2人の目がまるで刃物のようなぎらつきを見せる。

 思わず足が竦む視線だ。


「…それは考えてなかったわい。ユーフェリアに釘を刺しておく必要があるじゃろうて」

「でも、あの王家はごり押しで押し通ることも辞さないでしょう。それに、あの国は間諜の質だけは諸国に引けをとりませんから、ここの情報もいずれは掴まれるでしょう」

「ならばどうする? こちらから先手を打って動き辛くするための手札はクランコの件くらいじゃが…」

「それは悪手でしょう。クランコに『勇者』が現れたというのはあくまでも憶測でしかありません。むしろ言いがかりをつけたと反撃の余地を与えてしまいます。…もしもの場合、あの方の力をお借りするかもしれませんので、覚悟しておいてください」


 俺たちを放って2人で真剣に打ち合わせを始めてしまった。

 ミューリィも協会のワンツーの話に関わりたくないらしい。


「だって、面倒事しかないでしょ、あの内容じゃ。そんなものに何で態々首を突っ込む必要があるの? それに、一人くらい自由に動ける人がいたほうがいいでしょ」


 だそうだ。

 確かに自由に動ける人間がいるというのは強みだ。

 そういう役割は結構若手が受け持つことが多いんだが、俺はそれに否定的だ。

 そんな役割には、意外と重要なことが回ってきたりする。

 結局、それに対応できる人間がいないから仕方なく・・・・受け持つ。

 で、その難しさに失敗する。

 だから、ミューリィがそういう役割にいてくれるのはとても心強い。

 

「あれ? そう言えば桜花はどこにいった?」


 俺が宝箱に気を取られているうちに背中から降りたらしい。

 よくよく見ると、本物の宝箱のある一角に、宝箱の陰に隠れて桜花の足が見えた。


「そんなところで何やってる………おまえ、桜花か?」

『そうですよ? 何言ってるんですか? おかしなマスターですね』


 すごく流暢な返事をする桜花。

 それはいいんだが…少し育ってるのはどういうことだ?

 さっきまでは5歳児くらいだったのが、今は10歳児くらいにまで成長してる。

 相変わらず蜘蛛部分はヌイグルミ…というか着ぐるみみたいだが。

 昔、鍵の仕事で行った遊園地で、メインキャラクターの着ぐるみを着ていた人が休憩中に上半身だけ脱いだ状態でいるところを見たことがあるが、何故かそれを思い出していた。


「なあ、ミューリィ? 桜花が…育ってるんだが…」

「あら、ほんと。でも、それも理解できるわ。ここは魔素が濃いみたいだから、それを吸収して成長したんだと思う」


 あら、ほんと………っておばさん臭いな。

 年齢からすればb…


「何かすっっっっごく失礼なこと考えてない?」

「ソンナコトナイデスヨー」


 一瞬だが、ミューリィの後ろに何か恐ろしいものが見えた気がする。

 うまく言葉では表せないが、あれを解放させてはいけない気がした。



『それにしても、ここはすごく心地いいです。なんだか力が満ちてくる気がします』

「あ、ああ、それは良かった」


 桜花はのびのびと寛いでいる。

 そんな様子を俺たちはただ眺めていた。


「…私、桜花があんな風になったのには何となく見当がついてるのよ」

「…何が原因だ?」

「あのさ、ここって『ブロンの大迷宮』の入り口だった場所だけど、完全に閉じられている訳じゃないって思うの。だから、時々宝箱が発生するんだと思う」

「それが何の関係があるんだ?」

「実はさ、『ブロンの大迷宮』のダンジョンマスターが『堕ちた女神』っていう話は知ってるわよね? その『堕ちた女神』は全てに等しく加護を与えると言われていたのよ。人にも動物にも、勿論モンスター・・・・・にもね。そのダンジョンマスターが管理するダンジョンから流れてくる魔素にさらされれば成長するのも当然ってことよ」


 桜花を膝の上で寛がせながら、相変わらず話をしているディノとサフィールさんを眺める。

 

「昨日から気になってたんだけど、ロックは何でサフィール様のことは「さん」付けしてるの? 私は呼び捨てなのに」

「だってサフィールさんはエルフでも偉いさんなんだろ? 敬語くらい使うよ」

「…なんか納得できないんだけど…」

「それじゃ呼び方を変えるか、ミューリィ『さん』?」

「…やっぱり元のままでいいわ…」


 ミューリィの妙な言いがかりを何とか押さえ込んで、引き続きぼーっと2人を眺めてた。


 ディノの奴、桜花が成長したって知ったらどんな反応するんだろう…

桜花の異変はちょっとどころじゃないですね…


できるだけ週イチペースだけは守っていきたいです。


読んでいただいてありがとうございます。



新しい連載やってます。

ワケあり女子高生の異世界トリップものです。


http://ncode.syosetu.com/n8972cm/


よろしければ暇つぶしにどうぞ。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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