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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第9章 異世界の楽しみ方
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開店休業

何とか上がったので急遽更新。

ダンジョン探索はお休み中です。

 桜花を召喚した翌日、俺は桜花と一緒にキールの店に向かった。

 街を歩くと皆の目が桜花に釘付けになっている。

 いや、なっているはずだ。

 うちの子はかわいい。

 釘付けにならない奴は今すぐ視力検査して眼鏡をかけるべきだ。

 きっと裸眼視力がひどいことになっているんだ。


 屋台のおっちゃんやおばちゃんから串焼きやら果物やらをもらい、口のまわりを汚しながら歩く姿に悶絶する輩もちらほら見える。


「ほら、口のまわりが汚れてるぞ」

『マスター、ありがとうです』


ハンカチで口のまわりを拭ってやる。

 俺に子供が出来たら、きっとこんな感じになるんだろうか。

 でも、意外と悪くない。

 ま、今は仕事優先だから、それどころじゃないけど。


「キール、居るか?」

「おう、ロックか…って何だ! そのかわいいのは!」

『アタシはオウカです! マスターのしもべです!』


 ちょっとまて、その単語は危険だ。


「おい、ロック!こんなかわいい女の子を下僕とはいい度胸じゃねぇか! ちょっと表に出ろ!」

「キール、こいつはこんな格好ナリだがアラクネだ。俺の従魔なんだよ」


 俺が桜花を抱き上げると、ぬいぐるみのような蜘蛛が足をわきわきさせる。

 それを見てキールも漸く理解してくれたようだ。

 

「何だよ、それを早く言えよ。どこで手に入れたのか教えてもらおうとした俺が馬鹿みたいじゃねぇか」


 みたいじゃなくて、本物の馬鹿だ。

 一体その情報を知ってどうするつもりだったんだよ、こいつは。


 そんなことはどうでもいい。

 キールの性癖については後でリルにでも通報ししらせておくとして、まずは俺の用件を済ませておかないと…


「それよりも仕事の話で来たんだよ。キール、お前の店でこいつを扱ってくれないか?」


 俺が魔法の鞄マジックポーチから目的の品々を取り出してカウンターに並べると、キールはその表情を真剣なものに変えた。

 やはりこれの真価がわかるらしい。


「…ロック、これを何処で…いや、出所を探るのは意味がないか…」

「これは俺の故郷で作られたものだ。知り合いが訪ねてきてくれてな、その際に持ってきてもらったんだ」


 カウンターに置かれたもの、それは日本で仕入れた南京錠だった。

 一応だが、俺が異世界人だってことはギルドメンバーしか知らない。

 隣の『銀の羽亭』のタニアですら知らない。

 その理由について色々と説明があったんだが、正直なところ覚えてない。

 ま、余計なことを喋って皆に迷惑かけるわけにもいかないから、対外的には『物凄く遠い小さな島国出身ということにしてある。

 この件については、セラも母親には言っていない。

 自分の母親に嘘をつくような真似をさせて心苦しいが、セラが納得してくれたのが救いかもしれない。


「これは…鉄でもないし銅でもない。それにここまで綺麗に磨き上げられる技術も凄ぇ」


 キールが唸るのも無理はない。

 この南京錠は全て亜鉛ダイカスト製だからな。

 亜鉛ダイカストは亜鉛合金を型に流し込んで、高圧をかけて成型したものだ。

 硬度はもとより、見た目の綺麗さもあって、よく南京錠で使われる。

 他にも真鍮や炭素鋼、黄銅やステンレスなんて素材もあるが、最近の品物は亜鉛ダイカストと他の素材の部品を組み合わせて作るのがほとんどだ。


「これはかなりの強度だし、何よりこんなに小さいってのがまた凄い。それにこの鍵だ。こんなに小さいのに、ここまで精緻に削ってある。こんなの俺の知り合いの鍛冶屋でもまず無理だ」


 キールの言おうとしてることはわかる。

 こっちで作られた錠前と鍵を見たが、一様に皆大きい。

 その理由もはっきりしていて、錠前をある程度のパーツ毎に作って組み上げるんだが、そのパーツが全てにおいて大きい。

 当然、そのパーツで組めば、大きいものが出来上がる。

 

 パーツを作る鍛冶屋が、そんなに小さいものを作る技術がないってのが実情だ。

 ま、今は向こうでもこんなのは全部機械任せだから偉そうなことは言えないが…

 

「で、これを俺に売れってのか? こんなの変な筋に感付かれると厄介だぞ?」

「だから、流れの商人が置いてったってことにしてくれればいいさ。もちろん、売る相手はキールのお眼鏡に適った相手に限定してくれていいし、売値も俺は関与しない。ちょっとした小遣い稼ぎしたいだけだ」

「小遣いってお前な…こんなの売った金が小遣いってどんだけ豪遊するつもりなんだよ…」

「仕方ないだろ? 今はダンジョン封鎖中なんだから」

「ああ、そうだったな。今日からだろ? 期限はあるのか?」

「期限については俺もわからん。ある程度したら協会から通達が出るみたいだが」

「それで今は絶賛無職中ってわけか! お前達も大変だな」


 無職という言い方は酷いが、実際のところは当たらずも遠からずだ。

 ディノ、ミューリィ、サーシャの魔法関係者はそれぞれダンジョンの封鎖のための封印に動いている。

 ロニー、ガーラント、アルバートはそれぞれの護衛についている。

 もちろんディノ、ミューリィ、サーシャはそれぞれが凄腕なので、余程のことがなければ負けることはないが、今回は戦闘が目的じゃない。


 今回の封鎖は、魔道士協会が創った封印具を使って封鎖する。

 その封印具に魔力を流して発動させると、その場所に入れなくなる。

 無理に入ろうとすれば、その体に呪術のようなものでマーキングするので、後で追跡できるという優れものだ。

 封印具のための魔力をとっておく意味もあって、護衛をつけたらしい。

 というのも、ダンジョンには探索者や冒険者だけがいるわけじゃない。

 良くないことだが、探索者や冒険者を狙って稼ぐ野盗もいる。

 そういう連中にとっては、封鎖しようとしている人間は排除する対象にされてしまう。

 だからというわけじゃないが、俺は留守番だ。


 別に悔しくなんかない…はずだ…


「ま、ちょっと羽根を伸ばす時間が出来たってところだな。俺もこの街に来てそんなに間もないから、街の散策でもするよ」

「そうだな、ここはいい街だぞ? 俺としても、お前みたいな変わった奴に住み着いてもらえれば退屈しのぎにもなるってもんだ」

『マスター、かわってるですか?』

「変わってるのはこいつのほうだぞ? 知らないおじさんに近寄っちゃいけません」

「おいおい、俺は純粋にその子の可愛さをだな…」


 こいつも既に桜花に魅了されているらしい。

 聞けば、モンスターにはそういう能力を持った存在もいるらしいが…

 まさか桜花、そんなの使ってないよな?


「あ、ちなみに桜花はディノが孫みたいに可愛がってるからな。下手なことしたら逆鱗に触れるから注意しろよ?」

「ま、まさかディノ様が? まさか嫁を迎えるのに大魔道士と戦わなければならないなんて…」


 誰が嫁だよ…

 俺の目の黒いうちは桜花は嫁には出さん!


「ちなみにリルのお気に入りでもあるからな」

「…それを聞いておいて良かったと、今心の底から思った。知らずにいたら社会的に抹殺されかねん」


 リル…お前どんだけなんだよ…

 キールが産まれたての小鹿のように震えだしたぞ。


「まあそんなことは置いといて、こんないいものを売ってくれるんならこっちとしては文句は無いな。出所は秘匿しとくから安心しろ。こう見えても商業ギルドじゃそれなりに力もあるからな」

「わかった、それを聞いて安心したよ」

『オウカもあんしんしたです!』

「桜花ちゃんにそう言われるのは嬉しいな。ちなみに安心できなくしたら?」

『アタシがばりばりたべるです!』

「こんなの食べたら病気になるからいけません!」

「何気に酷いぞ、お前?」


 そんなやり取りをひとしきり愉しむと、俺たちはギルドに戻った。










「おかえりなさい! 天使オウカちゃん!」


 ギルドに戻ると、いきなりリルが飛び出してきた。


「フランから預かってるわ! さあ、これも着てみて!」


 どうやら2人はまた徹夜をしたらしい。

 リルの目は昨日よりさらに充血がひどい。


「で、フランはどこに…うわ!」


 とりあえずソファに座ろうとして、ソファの端に座って燃え尽きているフランに驚いた。

 座ったままの姿勢で眠る姿は、人々に感動を…与えるわけないか、理由が理由だし。


『マスター、ひらひらです!』


 リルから受け取った服を見せてくる桜花。

 今回は薄いピンクのワンピースで、フリルがいっぱいついている。

 しかも今回は、スカート部分で蜘蛛の体を隠せるようにしてる。

 

「さあ! 早く着替えてみて!」

「いいからお前はもう寝ろ! 見るに耐えられん!」

「そ、そんな! 離してデリック! 私の天使が!」


 リルの醜態についにキレたデリックがリルを引き摺って仮眠室に向かう。


「あー、後でちゃんと着せるから、今は寝とけ」

「本当ね! 嘘だったら社会的に抹殺するからね!」


 何か怖いこと言ってる…

 フランはフランで満足そうな表情だし…


「全く、今日からダンジョン封鎖で暇だから良かったものの…」


 ぶつぶつ言いながら戻ってくるデリックのズボンの裾を掴んでいる女の子がいる。

 確か、デリックの娘の…


「えっと、ウルスラちゃんだったよね? こんにちは」

「…こんにちは」

「どうした、ウル? ロックにお礼を言うんじゃなかったのか?」


 お礼? 

 何か感謝されるようなことしたか?


「この前、土産を買ってきてもらったろ? その礼がしたいらしい」

「…おいしいお菓子をありがとう。わたしのことは『ウル』ってよんでください」


 俺に礼を言っているが、ウルの視線は…やっぱり桜花に釘付けだ。


「いや、ウルに話したらどうしても桜花を見たいと言って聞かなくてな…」


 ま、今は暇なんだし、こういう日があってもいいんじゃないかな。

 元々殺伐とした内容の仕事してるし、こういう息抜きも必要だと思う…多分。


「それじゃ、こっちにおいで。桜花、この子はデリックの娘で『ウル』だ」

『アタシはオウカです!』

「は、はじめますて…ウルスラです! ウルってよんでくだしゃい!」


 あまりの緊張に、ただの自己紹介で2回も噛んだ。

 でも顔は満足げだ。

 ひたすら桜花の頭を撫でている。


「近所にはウルよりも小さな子供がいなくてな…いつも妹扱いされてるんだ。でも本当はお姉ちゃん扱いして欲しいらしくてな…」

「そういうことか…よし、桜花! ウルはお前よりお姉ちゃんなんだから、お姉ちゃんと呼んであげるんだ」

『はい! ウルおねえちゃんです!』


 ウルの表情が途端に明るくなった。

 桜花に抱きつくと、ソファに座って髪の毛を触ったり蜘蛛部分を撫でたりしてる。


「いつも妻と2人で待ってるからな…寂しい思いをさせたんじゃないかと思ってな…本当はこんな我儘はまずいんだが…」

「別にいいんじゃないか? 誰も嫌な思いはしてないだろ? それよりもウルとの関係に悩むデリックの姿を見るこっちが辛い」

「…そう言ってもらうと助かる」


 デリックがそんな悩みを持ってたなんて初耳だが、悩んで苦しむデリックの姿を見たくないのも事実だ。

 それなら、桜花には少し遊び相手になってもらうとしよう。

 

「桜花! ウルに怪我させるなよ?」

『マスター…アタシがんばるです…』

「おめかししましょうねー」


 桜花を見ると、髪の毛を三つ編みにされたり、ポニーテールにされたりしてる。

 今の設定は、妹のヘアースタイルを整える姉といった感じか。

 心なしか桜花の返事も弱弱しい。


「それにしても、奥さんはどうした?」

「ああ、今日は朝から体調が悪いらしくてな。ウルの面倒を見るのも辛そうだったから…」


 このあたりがデリックの奥さんへの気遣いなんだろう。

 あまり無理をさせたくないってのが伝わってくる。

 でも、本当は一緒にいてやったほうがいいんじゃないかとも思う。

 独身男の考えだから、参考になるかわからないが…


「それにしても、ウルは本当に嬉しそうだな。連れてきてよかった」

「そうだな…それならいっそ2人目を作ったらどうだ?」

「いや…その…そっちのほうは頑張ってはいるんだが…」


 真っ赤な顔でしどろもどろになるデリック。

 普段の冷静さが何処に行ったんだ?

 でも、とりあえずやる事はやってんだな…

 はいはい、ごちそうさん。


桜花が魔性の女になりつつある…


次回更新は21日頃を予定しています。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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