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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第8章 色々と勉強です
61/150

ロックのお勉強 色々と把握しましょう

PV200万超えました!

皆様のおかげです!

そして今回もあらくねちゃんメインです。

14日の更新が危ういので、前倒ししました。

『マスター、これおいしーです』


 用意されたクッキーを両手で持ちながら、まるで栗鼠のようにかりかりと齧るアラクネ。

 傍から見れば、裸の5歳くらいの幼女が無心でクッキーを食べてる姿にしか見えないんだが、流石にロリコンの趣味の無い俺でも、精神衛生上ちょっとやばい。


「な、なぁ、そのままじゃ寒いだろう? 何か着ようか?」

『アタシはへーきですよ?』

「いや、俺が平気じゃないんだが…」


 ちなみに、他のメンバーがどうしてるかというと、ノワールは色んな方向からアラクネを観察してるし、ディノとミューリィは笑い転げてる。

 そんなに俺が困ってる姿は面白いのか…

 アイラ、セラ、ジーナはアラクネが何か動きを見せる度に黄色い声を上げている。


 つまり、収拾する人間がいないということだ。

 とにかく俺はアラクネに何か着せようとしてるんだが、全くうまくいかない。

 一度無理矢理俺の上着を着せようとしたら、


『マスター、アタシわるいことしたですか?』


 なんて上目づかいで言われてしまった。

 しかも涙目で。


 だが、ここは一つ、心を鬼にしてでも何とかしなければ、後で何を言われるかわからない。

 俺はクッキーを食べ終えたアラクネに向かって話しかけた。


「なぁ、お前は女の子なんだから、男の人の前で裸になっちゃいけません」


 しかし、アラクネは反撃してきた。


『マスターはマスターだからへーきです』


 それは全く答えになってない。


「あのな、俺は服を着て欲しいんだよ。上だけでもいいから」

『でも、からだをかくすと、まわりがわからないですよ』


 あー、そういうことか。

 つまり、アラクネはその全身で気配を探ってるということになるのか。

 となれば、この姿が正しい…んだろうけど、俺たちにとってはきっと正しくない。


 すると、今まで腹を抱えて笑ってたミューリィが口を挟んできた。


「ねぇ、あなたはロックが喜ぶことは好き?」

『ハイ! マスターがうれしいとアタシうれしいですよ!』

「なら、何か服を着ないとロックは嬉しくないわよ?」

『ホントーですか? アタシ、ふくきるです!』

「今はきちんとした服がないから、とりあえずこれで我慢してね」

『ハイ! がまんするです!』


 ミューリィは修練場の収納から手ぬぐいを出すと、アラクネの胸に巻いて背中で結んだ。

 所謂、チューブトップのような形になり、とりあえず俺の精神は修復方向に向かった。








 ひとしきり笑ったディノはすごく興味深いらしく、アラクネをしげしげと観察している。


「普通、アラクネといったら大人の女性の上半身を持つものじゃが…これは見たことがないわい。それに、アラクネを使役する者自体が前例が無い」

「そうよね、アラクネってかなり凶暴なモンスターだし…」

『ひどいです! アタシきょーぼーじゃないです!』


 頬を膨らませて怒りを露わにするアラクネだが…

 その怒り方は絶対逆効果だぞ?

 

『それで、どうしてあなたはここに来たの?』


 ノワールが優しい口調で問いかける。

 アラクネもノワールが自分よりも高位の存在だと理解しているようで、小さく頷くとぽつりぽつりと話し始めた。


『アタシ、いつもみたいにあそんでたです。そしたらへんなにんげんが4ひきいて、アタシをたくさんたたいたです。そして、きがついたらここにいたです』


 人間が4人。

 いきなり現れたってことは、間違いなく勇者なんだろうけど…

 それを聞いて、ノワールの表情も少し沈んでいるようだ。

 あいつも母親を殺されかけたんだったな…


『あ! …マスター…アタシわるいこです…』


 いきなりアラクネが声を上げたかと思うと、その後は消え入りそうな声だった。


『アタシ…マスターがくれたの、まもれなかったです…。マスターがくれたの、こわれちゃったです…。だから…わるいこです…』


 何とか絞り出すような小さな声で、途切れがちに話す。

 俺があげたのって…あの安物のマグカップのことか?

 …そうか、あれを大事に護っててくれたのか…


「そうか、ありがとうな。そこまで大事にしてくれて」

『でも…こわしちゃったです…』

「心配するな、形あるものはいずれ壊れるんだし、そこまで大事にしてくれるお前が悪い子なわけないだろう? 今度はもっといいものをあげるから、それをもっと大事にしてくれればいい」

『う…うわああぁぁぁぁん! マスター! マスター!』


 今までその罪悪感に押し潰されそうになってた反動からか、俺に縋りついて泣くアラクネ。

 そこまで大事にしてくれて、怒るわけがない。

 むしろ、そんな安物をあげた俺を叱ってやりたいくらいだ。

 俺はアラクネの頭を出来る限り優しく撫でてやる。

 …ふわふわの髪の毛の手触りが気持ちいい。

 結局、彼女が泣き止むまでずっと頭を撫でてやった。







『まずはあなたのことを色々調べたいんだけど、名前がないと不便よね。ロック、この子に名前をつけてあげなさい。それが契約の証になるわ』

『マスター、なまえつけてくれるですか!』


 名前…ねぇ…

 一応は女の子だから、その辺を考慮して…


「それじゃ、クモ子で…」

「「「「『 却下 』」」」」


 瞬時に却下されてしまった。

 それどころか、


『マスター、もっとかわいいのがいいです』


 くっ、俺に味方はいないのか?

 唯一無言のディノを見れば、笑いすぎで呼吸困難に陥ってる。

 だから無言だったのかよ…


「あんたねぇ、もう少し考えてあげなさいよ! 何よクモ子って!」

「酷すぎるよ、ロック」

「それは…私も酷いと思います」

「クモ子ってどういう意味?」

『…私の時と一緒じゃない…』


 非難の嵐だ…

 仕方ない、ベタな名付けだけど、今使ったのは『桜』札だったから…

 でも、そのままじゃ芸が無いから…


「それじゃ、『桜花オウカ』ってのはどうだ? 媒体になった札に描かれている花の名前だ」

『オウカ…おはなのなまえですか! マスター!アタシはオウカ!』

『なかなか綺麗な名前じゃない、良かったわね』

『ハイ! うれしーです!』

「どうでもいいんだけど、最初に変な名前を思いつくのって何かしきたりでもあるの?」

「そんなものあるわけないだろう」


ミューリィは呆れ顔でそんなことを言ってくるが、そんなしきたりがある場所に行ってみたいものだ。

 こういう名前って半ば直感でつけるものじゃないのか?

 俺には子供がいないし、仲間の鍵屋の子供は一郎、次郎だったし…

 でも、喜んでもらえて何よりだ。





『それじゃ桜花、あなたには色々と調べておきたいことがあるの』

『ハイ! なんですか?』

『あなたはロックを護る存在として生まれたのよ? それだけの力をあなたが持っているかを確認する必要があるわ』

『アタシはマスターをまもるです!』


 ちんまりした体で胸を張る姿は可愛いが、本当に戦えるのか?

 ていうか、こんな幼女に護られる俺って…


「とりあえず、どんな攻撃手段があるか見せてもらえんか?」

「そうよ、それ次第では色々と考えなくちゃいけないから」


 ディノとミューリィの意見は尤もだ。

 この2人はメルディアでの司令塔だから、戦力はきっちりと把握しておきたいんだろう。


『アタシは『糸』と『毒』と『子蜘蛛』がつかえるです』

『他に使えるのは? その大きさでは直接攻撃は難しそうね』

『アタシ、おっきくなれるです!』


 ノワールのふと漏らした一言に反応した桜花は、その身を眩い光に包む。

 光はそのサイズをどんどん大きくしていき、ついには2tトラックくらいの大きさになった。

 

「ま、まさかあの姿に戻るの?」


 アイラがやけに焦ったような声を出す。

 こいつは何を焦ってるんだろうか。

 俺としては、あの姿のアラクネは眼福なんだが…


 そんな俺たちの思惑を全く無視して、光は次第に薄れていく。

 そしてそこに現れたのは…


 


 2tトラックくらいの大きさの、ぬいぐるみの様な蜘蛛と…

 その頭部から生えた、巨大な幼女だった。              

 …なんだろう、このどこかやりきれない気持ちは…



『マスター! これでマスターまもれるです!』


 その腕をぶんぶんと振り回しながら、笑顔をこちらに向けてくる。

 見れば、皆が魔法の的にしている大岩を軽々と持ち上げている。

 それも片手で。

 見た目のファンシーさとは裏腹に、やってることは恐ろしい。

 どうやら糸をうまく使って持ち上げてるみたいだが…


『こんなこともできるです!』


 その状態からいきなり跳躍した。

 あまりに素早い跳躍だったんで、俺には消えたようにしか見えなかった。

 何故跳躍したと分かったかというと…


『マスター! こっちです!』


 修練場の隣にある、ギルドの建物の壁の3階あたりに張り付く桜花の姿があったからだ。

 あの巨体でありながら、この身軽さと敏捷性。

 それにあの怪力。


「もしかして、元のアラクネより強くなってるんじゃないの?」

『その可能性は十分に考えられるわ』


 ミューリィの問いにノワールが冷静に答える。

 俺は元のアラクネの強さを知らないから良くわからん。


『私の魔力をベースにして札を媒体にした召喚を想定したんだけど、本当は別の何かを喚ぶつもりだったのよ。でも、あなたのロックに魅かれる力が強すぎて、半ば強引に入り込んできたの。本来ならそのレベルに達していなかったのだけれど、ロックの魔力を注ぎ込んでもらうことで格上げされたみたいね』

「ほう、そんなことがあるとは…」

「ちなみに、想定していたモンスターって何だったの?」


 この2人は目を輝かせて、子供みたいだな…

 ま、そうそう見られる物じゃないから仕方ないんだろう。

 元々何が来る予定だったのかは俺も気になる。

 

『ドラゴンよ』

『オウカはドラゴンじゃないですよ?』


 何気なく出された名前に、皆が絶句する。

 いや、桜花だけは理解してないみたいだが…



「つまり…今の桜花はドラゴン並の力があるということかの?」

『実際に比べてみたわけじゃないけど、多分飛竜ワイバーン程度なら軽くあしらえるんじゃない?』

「…あんた、なんてことしてくれたのよ…」


 ミューリィがジト目で見てくるが、そんなことを俺に言われても困る。

 俺だって桜花を指定したわけじゃないんだから。

 でも、これだけ縁が強いっていうのは、何か嬉しい気分だ。


『それじゃ、細かな戦力分析は後ですることにして、契約の最終仕上げをするわよ』

「え? まだ終わってなかったのか?」

『あとはロックの力で彼女との繋がりパスを固定するの。ロックにわかるように言うのなら、ロックと桜花の部屋に誰も入ってこないように鍵をかけるのよ』

「なるほどのう、ワシ等の使う召喚ではそこまで契約を固定することはないのう」

「でも、繋がりパスを固定できれば、召喚した存在を奪われることもないわね」


 2人に聞くと、使った術式さえ分かれば、喚び出した存在を奪い取ることも可能らしい。

 ノワールが言っているのは、そうさせないために術式の回路を閉じてしまえということのようだ。

 尤も、ノワールの使った『秘術』の術式を理解できる人間がいるとは思えないが…

 でも、100%というものは存在しないのが常だ。

 俺を慕ってきてくれた桜花の為にも、きちんと契約を結んでおこう。


「わかった、俺はどうすればいいんだ?」

『桜花に触れて繋がりパスを認識しなさい。桜花! 元に戻ってこっちに来なさい!』

『ハイ! マスターといっしょになるです!』


 その発言に一部不穏な空気を醸し出す人がいたが、こんな子供の言うことだし、相手はモンスターだぞ…


 足に擦り寄ってきた桜花の頭に手を置いて目を閉じる。

 すると、桜花と俺の手の間に何かパイプのようなものを感じた。

 上手く表現できないが、俺の手から血管がそのまま伸びているような感じだろうか。

 何かがそれを通して桜花に流れていくのを感じるし、逆に桜花からも何かが流れてくる。


「…たぶんコレじゃないか? 何となくだが認識できたみたいだ」

『マスターとつながったです!』

『なら次はその繋がりパスに集中してみて。どこかに一箇所だけ「繋ぎ目」があるはず。そこがあなた達の繋がりパスの起点になる場所であり、最も弱い場所でもあるの。そこをしっかり「鍵」をかけなさい』


 ノワールに促されるままに意識を集中すると、俺の手と桜花の頭との間に小さな繋ぎ目があった。

 ここをしっかりと閉じるイメージ…ただ閉じるだけじゃ駄目だな、いっそのこと継ぎ手とボルトで固定して…ナットは外れないようにキーナットにしよう…


 俺のイメージ通りに繋ぎ目が強化されていく。

 そしてしっかりと継ぎ手とボルトで固定されるイメージができあがった。


『マスター、すごくあんしんするです』

『最後に何かあなたを象徴する証をつけさせなさい』

「証…ねぇ…」


 俺を表すものと言えば鍵しかないだろう。

 でも、ただの鍵じゃつまらない。

 契約をより強固にするには、より強固な錠がいる。

 

「なあ、桜花。俺との契約のために、ちょっと協力してくれるか?」

『マスターのためにがんばるです』

「これから俺がイメージするものを受け入れてくれ」

『わかったです』


 イメージするのは、以前ノワールにやったものとは違う形の南京錠。

 外国製でとても強度が高く、GPS機能まである逸品だ。

 首元にはチョーカーを、そして南京錠を取り付けるイメージで…

 桜花も俺のイメージを受け取ったのか、どことなく嬉しそうな顔で目を閉じている。


『できたです』


 桜花の声に目を開くと、桜花の首には黒のチョーカーと、その中心部分につけられた輪にぶら下がる南京錠。


「これでいいか…俺の象徴はやっぱり鍵と錠だからな」

『これで正式に契約完了よ。桜花みたいな特殊なモンスターは狙われやすいけど、これでそう簡単には奪い取られたりしないわ』


 物騒なこともあるんだな…

 召喚したモンスターを奪うなんて…


「いや、結構あるんじゃよ。魔獣使いの一部の者は、他の魔獣使いから奪い取ったりしておる」

「魔獣使いは『協会』に属してないヤツが多いから、実態が掴めないのよ」

「じゃが、ここまですれば問題ないじゃろうて。黒竜の『秘術』を破れるような実力のある者なら、他人のものを横取りなどせんからの」


 でも、これで一安心だな。

 倒されたと聞いた時には自分を見失いかけたが、こうやって再会出来たんだし…


「それじゃ、皆で休憩にするか」

『私の分のクッキーはあるのよね?』

『おいしーのたべるです!』

「桜花ちゃんかわいい」

「ほんとですね…」

「こんな妹ほしかった」


 そんなことを各々話しながら修練場の出口に向かおうとした途端…





「「 きゃああぁぁぁぁぁぁ! 」」


 2人の女性の叫び声が入り口から聞こえた。

 そして人が倒れるような音。


「何だ! どうした!」


 急いで入り口に向かうと、そこにはよく知った顔の女性が倒れていた。

 その周囲には赤い液体が…


「…この2人は可愛いものが異常なまでに好きだから…」


 …ミューリィの呆れた声が強い説得力を持つ。




 そこにいたのはフランとリル。

 2人共、鼻血をだくだくと流しながら、幸せそうな顔で気絶していた。


あらくねちゃんの名前…ベタですね。

彼女、強いです。

パワーアップもしていく予定です。

次回は色々とアレな展開になるかも…


次回更新は16日あたりの予定です。

確定できなくてすみません…

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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