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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第8章 色々と勉強です
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ロックのお勉強 色々やってみよう編

今年最後の更新です!

 ダンジョン封鎖の方針が決まった翌日、俺は修練場に来ていた。

 というのも、ダンジョンの封鎖に関しては特に出番がないので、色々と自分の訓練をしておこうと思ったからだ。


 実は、ダンジョンまでの足に四駆を出そうとしたんだが、皆が「足代わりに使う訳にはいかない」と言い張るので、仕方なく諦めた。

 それに、移動距離を大まかに聞いたところ、どうも今のガソリン残量では片道のみになりそうだということもあった。


「また仕入れに行って、色々と補充しておかないとな…」

『私も行ってみたいけど…』


 俺の膝の上に座ってるノワールが悔しそうに呟いてる。


 実を言うと、調味料関係のストックがやばかったりする。

 タニアに差し入れした調味料のせいか、最近は『銀の羽亭』の料理が街で人気になってるらしい。

 というよりも、元々が香辛料の類をそんなに使えなかったせいで、味のバリエーションがなかっただけなんだが…


 それに、数回ダンジョンに入っただけでも、実際にあればいいなと思う道具がいくつか思い当たった。

 今度はそれの仕入れもあるし、色々と日用品なんかも用意しておこうと思ってる。

 食器類は、コンビニのキャンペーンでもらったマグとかばかりだったから、安物の食器セットでも買っておこうと思う。

 こちらでは食器は鉄や銅を薄くしたものがメインで、貴族は銀食器を使ってるみたいだ。

 アルミの食器でも買って、タニアに差し入れしてやろうかとも思ってる。

 アルミなら軽いし、錆びないから。


『それはそうと、訓練しなくていいの?』

「ああ、すまん。色々と考えてた。そうだ、ノワールにも何か土産を買ってきてやろうか?」

『私はこれで十分よ?』


 そう言って膝から降りると、着ている服を見せびらかすようにくるりと回った。

 今、ノワールが着ているのは、某服飾チェーンで購入した黒をベースにした子供服だ。

 黒地にロゴの入ったTシャツに黒のパーカー、黒地に白のワンポイントのあるレギンスに、ブラックデニムのスカートを合わせている。

 靴は黒革のブーツで、スタッドが打ってある。

 まるで、ヘヴィメタルバンドのライブで見かけそうな出で立ちだが、ノワールのどことなく妖艶で人間離れした可愛さとよくマッチしている。

 それにしても、Tシャツのロゴが「DRAGON」なのは狙っているとしか思えない。

 これを知っててのチョイスだとすると………おそるべし、リル。


「それならいんだが、別に遠慮するほどのものでもないだろう? そんなに高価なものは買えないからな」

『それじゃ、何かロックの世界の符のようなものが欲しい』


 符? うーん、割符みたいなものか? 


『何かの存在…というか物事を表した絵札のようなものがあれば…と思ったんだけど』


 絵札ね…何かあったかな…


「そうだ、確かダッシュボードに暇潰し用のやつがあったはず…ちょっと待ってろ」


 俺はある物の存在を思い出し、急いで倉庫に向かった。


「確か半年くらい前に現場に入ってから、そのままのはず…お、あった」


 そこには名刺サイズの箱があった。

 それをポケットにしまうと、急いで修練場に戻った。


「こんなものでいいのか? 一応、この絵にもそれぞれ意味がある札だ」

『これは…ずいぶんと変わった絵ね。でも、とても綺麗』


 俺が持ってきたのは「花札」だ。

 鍵屋の仕事には、一般客だけじゃなく、鍵メーカーから依頼される仕事も多い。

 特に、マンションの玄関鍵の取り付けはよく頼まれる仕事だ。

 当然、工事現場で数日作業するんだが、他の業種の職人達と昼休みのコミュニケーションとしてこういうアイテムは大活躍する。


「これは4枚×12種類の48枚で遊ぶゲーム用の札だ。といても、賭け事に使われることが多いがな」

『12種類? どんな意味があるの?』

「植物を題材にしてるが、暦に当てはめて考える場合もあるな」

『暦? 12の月のこと?』

「そうだな、例えばこれは松という植物を題材にしてるが、これは、えーと、1の月を意味してるんだ」

『この鳥のような絵は何なの?』

「これは、同じ植物を表す札のうち、価値の高い物に描かれてる。何も描いていないものは価値が低いってことだ」

『ふーん、これ、借りていいかしら?』

「構わないぞ、こっちじゃゲームのルールも知らないだろうし、一人でやるわけにもいかないからな。ところで、どうするつもりだ?」

『それは内緒よ。あとのお楽しみにしておきましょう。それよりも、魔力操作の訓練を始めるわよ?』

「あ、ああ、頼む」


 そして漸く、俺の魔力操作の訓練が始まった。










「ど、どうだ? こんな感じか?」

『んっ、いいわ、その調子よ。もう少し強くして』

「わかった…もっと強くするぞ」


 俺の荒い息遣いに、ノワールがそっと言葉を被せる。

 ぎこちない俺の動きを優しくサポートしてくれている。


『なかなかいいわ、その調子でお願い』

「まずい…そろそろ限界だ」

「何してんのよ! あんた達!」


 修練場の扉が勢いよく開け放たれた。

 そこにはアイラが真っ赤な顔をして立っていた。


「2人っきりで変な声出して…って、何してんの?」

「それはこっちの台詞だと思うんだが…」


 今の俺達の状況は、俺が胡坐をかいて膝の上に発動体を置いている。

 背後では、ノワールが俺の肩に手を置いている。

 何を勘違いしたのかは大体想像できるが、敢えてそこは追及しないでおこう。

 どこでそういう知識を得たのかは若干問い詰めたい気もするが。


「お前はミューリィに付いていったんじゃなかったのか?」

「それがね、魔道士協会から連絡があって、封鎖を明日からにしてくれって。だから、途中で戻ってきたんだけど…ロックは何してるの?」

「見てわかるだろ? ノワールに補助してもらって魔力操作の訓練だ」

『ちょうどいいタイミングだから、ここで切り上げましょう。いきなり大きな負担をかけても身体のバランスが崩れるだけだから』

「む…もう少し出来ると思ったんだが…仕方ないな」


 俺は魔法というか魔力については素人だ。

 だから、熟練者の指示には素直に従っておくことが大事だ。

 無理して今後に影響の出るようなことは極力避けなきゃいけない。

 

「それじゃ、休憩にしようか。作業場でお茶にしよう」

「何かお菓子あるの?」

『甘いものが嬉しいわ』

「わかったよ。全く、いくら仕入れてきても足りないな。いっそのこと、箱買いするか」


 このままじゃ、俺は鍵屋じゃなくて食品卸業になってしまうかもしれない。

 キールのところに南京錠でも売り込んでみようか…。

 




 





「それで、さっきの札はどうするんだ? 新品がよければ、今度の買出しで買ってくるぞ」

『いいえ、使い古されたものが最適よ。そのほうが魔力の通りがいいの』


 そんなことを言いながら、光札と種札を抜き出していくノワール。

 休憩を終えた俺達は、再び修練場に戻るとノワールが始めようとしている作業を見守っていた。


『向こうの世界の品物に魔力が通るかわからないけど、使い込まれたものであれば…うまくいくかもしれない』


 …何を言ってるのかわからない。

 花札に魔力を通してどうするんだろうか。

 それで花札が勝ちやすくなるのならありがたいが、そんなはずはないだろうし…

 

 と、そこに声をかけてくる人物がいた。


「あら、面白そうなことをしてるじゃない」

「ふむ、ドラゴンの使う術とは興味深いのう」


 ミューリィとディノが修練場に入ってきた。

 封鎖が明日以降に延期となれば、この2人がここにいるのも当然か…

 あれ、セラはどうしたんだ?


「セラは自宅に戻ってるわよ。デルから話があるって言ってたから」


 ここで母親から話があるってことは、当然今回の封鎖絡みだろう。


「で、これは何をしてるのかしら?」

『先日のダンジョンで危険な目にあったらしいから、万が一の時のために…ね』


 話をしつつも、魔力を込める所作は続く。

 だが、あまり芳しくないらしく、表情が曇っている。


「どうした? やっぱり難しいのか?」

『元々が魔力の無い世界の物だからかしら。これ全部は難しいけど…この5枚だけなら何とかできそうよ』


 14枚の札のうち、光札だけをより分けるノワール。

 確かに光札は点数も高いし、5枚揃えば最強役だしな。

 ま、本人がそれを自覚してるわけないだろうけど。

 

「ほう、このカードを触媒にした簡易召喚術のようじゃな」

『あら、わかるの? そんなに広まっていない術のはずだけど』

「まあこれでも無駄に歳を重ねてるわけではないからのう」


 ディノはノワールがやろうとしてることがわかってるのか?

 俺にはさっぱりわからない。

 そんな感情が顔に出ていたらしく、ディノが補足してくれた。


「ノワールが行っているのは、言わば召喚用の魔法具作成じゃ。魔力を供給するだけでそこに刻まれた銘を持つ存在を呼び寄せる術じゃよ」


 おお! 召喚! 昔やってたゲームでもそんなのがあったな。

 空を割って出てくるドラゴンとか、不死鳥とか出てくるんだっけ。

 

「書き込んでいるのはおぬしの眷属か? もしかして竜種かの?」

『まさか、まだ幼体の私には眷属を呼ぶことはできないわ。そこそこ高位のモンスターが精一杯よ』


 よく考えてみればそうだな。

 ノワールはまだ子供なんだし、そんな子供を頼りにする大人ってのはちょっと情けない。

 できれば自分の力で何とかしたいもんだが、それが出来ない今の自分が恨めしい。

 

「あまり深く考えんほうがいいぞい。お前さんの存在自体が、このギルドにいい影響を齎しておるんじゃから。誰もお前さんが戦えんことを否定しておらんよ」

「そうよ? そのためのギルドなんだから。足りない部分は補っていけばいいだけよ。一人で何でも出来る奴なんているわけないし」


 俺が落ち込み始めたタイミングで、ディノとミューリィがフォローを入れてくる。

 餅は餅屋っていう諺もあることだし、専門分野は専門家に任せろってことなのはわかる。

 とりあえず、今の俺に出来ることを精一杯やるしかないか…











 ノワールの作業が結構時間がかかるとのことなので、今日は魔法関連の訓練を諦めた。

 ディノもミューリィもいるんだから、何か魔法関連の座学でもと思ったんだが、2人ともノワールの作業が珍しいらしく、相手にしてもらえなかった。


「こんな珍しい光景、そうそう無いじゃろうて。お前さんへの講義はいつでも出来る」

「うわー! こんな方法もあったんだ! 私も今度試してみようかな?」


 と、こんな感じだった。


 なので、アイラもいることだし、予定を変更してアイラに鍵のことを教えることにした。


「そうだ、ジーナも呼んでくれ。ジーナにも色々教えておきたい」

「ぶー! 何でなの!」

「何でってお前…ジーナだって鍵師なんだろ? 俺が教えるのは当然だと思うんだが…」

「………せっかくセラがいないのに…」

「………そういうことは一人前になってからにしてくれ…」


 ここしばらくは落ち着いていたんだが、先日のクランコの一件でまたぶり返してきた。

 ま、実害が無ければ俺としては構わない。

 彼女達も、技術を身につけたいという気概は十分にあるし。


 

 しぶしぶ修練場を出て行くアイラ。


「それじゃ、作業場に来てくれ。準備しておくから」

「はーい」


 アイラが投げやりな返事をしてくるのを確認すると、作業場に向かう。

 2人の腕前は大体把握してる。

 アイラのほうがやや上ってところだ。


「となると、シリンダーの仕組みから教えるか…」


 こちらの鍵で多いのが、単純なピンタンブラー式だった。

 ピッキングでどうにでもなるんだが、それゆえに他のギミックと連動してることが多かった。

 だからこそ、確実なピッキング技術を教える必要がある。

 そのためには、鍵穴の仕組みをきちんと理解しておいてもらわなければ…


「まずは分解して、細かい部分から教えていくか…」


 アイラとジーナが来るまでの間に、準備を進めておく。

 用意するのは、廃棄する予定だった錠前とシリンダーだ。

 これで、2人には基礎知識から教えるつもりだ。

 師匠から色々と教わっているんだろうが、師匠はこういう基礎の座学はまずしない人だったから、2人も知らない可能性が高い。

 

 鍵師は職人というイメージが強く、現場で仕事を見て覚えるのも大事だ。

 だが、実際は細かい基礎の仕組みを理解していなければ、複雑な鍵のタイプには対応できない。

 だからというわけではないが、鍵師は新しい知識の習得には貪欲な人が多い。

 かくいう俺も、新製品や外国製品、古い鍵の情報収集には余念が無かった。

 アイラ達も、俺の持つ知識を貪欲に吸収していって欲しい。


 と、作業場の入り口が騒がしくなった。

 どうやら戻ったセラも合流したようで、きゃいきゃいと少女特有の声が響いている。


 さて、しっかりと鍛え上げてやるから、覚悟しておけよ?


来年はもう少し物語が動く予定です。

とてもシリアスな内容もあったりします。

当然ながら、勇者も出てきます。


ロックの出生の秘密なんかにも触れていきたいと思っています。

やりたいことの100分の1も表現できないもどかしさは、来年の目標として受け入れております。


もっともっと頑張りますので、これからもこのマニアックなお話にお付き合いいただければ幸いです。


それでは皆様、良いお年をお迎えください。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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