ロックのお勉強 魔道士協会編
お勉強の時間は続く!
「なあ、どうして『魔道士協会』が出てくるんだ? 俺は魔道士じゃないぞ?」
疑問を素直にぶつけてみた。
いきなり『鍵師』が訪ねてきたら、向こうも吃驚すると思うぞ?
「ま、そうくると思ったわ。これは大事なことだからよーく聞いてね」
ずいっと顔を近づけてくるミューリィ。
大事ということは、テストに出るくらい大事なんだろう。
「冒険者は国の唾付きだけど、『魔道士協会』は完全に独立した組織なのよ。高名な魔道士達が、その巨大な力を争いに使われないために創った組織で、国の管理下から外れた超国家的組織なの」
高位の魔道士になると、魔法一発で戦況を変えるどころか、敵を全滅させることも可能らしい。
そんな力をどこかの国に偏らせるのは、各国の関係を悪化させるだけというのは納得できる。
地球でいうところの「核兵器」に近いのかもしれない。
「それでね、『魔道士協会』は各国のバランスをとっていたんだけど、他にも似たような状況に陥った業界があったのよ」
「…それが『迷宮盗賊』だったってことか?」
「正解よ。理由は…解るわね?」
ダンジョンの定期的な管理は、『迷宮盗賊』の役目だ。
罠の解除はそうそう他の奴が出来るものじゃない。
となれば、腕のいい『迷宮盗賊』は囲っておきたいと思うのは自然な流れだな…
「そこで、『魔道士協会』と『迷宮盗賊』は連携することにしたのよ。ダンジョンには魔道士の欲しがる魔法技術が多く存在するから、彼らとしてはダンジョンに入りたい。だけど、罠や鍵の解除は出来ないから、私達みたいな『迷宮盗賊』に頼らざるを得ない。それなら一緒にやっていこうって流れになったの」
確かに、それは理解できる。
魔法技術もそうだが、モンスター関連でも魔道士としては欲しいものも多いだろうし、魔法の罠以外の罠にかかって命を落とすことを考慮すると、手を組んだほうがお互いの利益になる。
「それに、お互いに技術を教えあうことで、お互いの生存率を上げることもできるわ」
魔道士には罠の解除等を教えて、俺達は魔法を教わる。
双方に利益がある話だ。
でも、そうなると…
「ルークみたいな治癒や補助をメインにしている奴はどうなるんだ?」
「神官も基本的には『魔道士協会』に所属しているわ。神殿には派閥がある宗派もあるから、基本的には神殿に縛られる訳じゃないのよ。
もちろん、宗派によっては所属の重複を認めていないところもあるけど」
これはどう考えればいいんだろう。
あまりしばりつけると反発が怖いってところか?
「治癒系の魔道士というのは希少なのよ。神殿っていうのは腐敗が進みやすい世界だから、場合によっては権力争いに巻き込まれて命を落としたりするのよ。治癒魔法使いがいれば、御布施稼ぎ放題だから」
生臭い話だなぁ…
自分達を金儲けの道具としか見ていないのであれば、自衛手段として何かを講じるのは当然だな。
「勿論、ルークも『魔道士協会』所属よ。まぁルークの宗派はそのあたりがかなり緩いってのもあるけど」
戒律の厳しさはそれこそピンキリだそうだ。
最も厳しいところだと、食事はパンと水だけなんてところもあるらしいんだが、それは確実に栄養失調で死ぬだろ…。
他にも、異性との接触は禁止とか、飲酒の禁止とか、一定額以上の個人的貯蓄の禁止なんて掲げている宗派もあるらしい。
何だよ、一定額以上の貯蓄禁止って…
どうせそれ以上の金は御布施になるんだろうし、きっとその金額が多ければ要職に就きやすいってところだろう。
「ちなみにルークの宗派は光の属性神を祀っているわ」
ま、このあたりは俺の知るレベルのRPGでもそうだったな。
回復や浄化は光魔法だったし。
「光の属性神ってことは、他の属性神を祀った宗派もいるってことだよな? そのあたりの関係はどうなんだ?」
「他の宗派もそれぞれ独自の属性神を祀っているんだけど、関係性は悪くはないと思うわよ? 昔は宗派間での争いもあったみたいだけどね。
」
宗教絡みの争いは面倒なものがほとんどだからなぁ…
良好な関係ならば安心できるな。
「宗派によっても違うけど、基本的には違う宗派の神殿に行っても無碍に扱われることはないから安心して」
どうやら顔に出ていたらしい。
ニヤニヤしているミューリィのしたり顔がウザい。
「確か…属性って火・水・土・風・光・闇だったよな。俺みたいな無属性はどうなるんだ?」
ふと思いついたことを言ってみたが、途端にミューリィの顔色が悪くなる。
何か言いにくそうな様子でそわそわと不審な動きを見せてる。
「あ、あのね、『無属性』についてなんだけど、ちょっと色々とあってね………」
「ん? 属性魔法が使えないってことならディノから聞いたぞ?」
なるほど、俺が属性魔法を使える可能性があるかを期待してると思ってたんだな?
残念ながら、それについてはきっちりとトドメを刺されてる。
「そ、そうなのよ! ロックには可哀そうだけど、無属性は属性魔法とはものすごく相性が悪いから…」
「別にそんなに気に病むこともないだろ、俺だって理解してるんだから。俺の役目は魔法の絡まない鍵開けだろ? 魔法は専門家に任せるよ」
素人がちょっと齧った程度で使い物になるはずないのは、どんな仕事でも共通だと思ってる。
他人の縄張りを荒らすつもりはさらさら無い。
「そ、そうよね。ロックはそれが仕事よね。頼りにしてるから!」
まだ目が泳いでる…
確かに、この世界ではほぼ全ての人間に属性魔法の素養をつけるみたいだから、俺みたいなのは珍しいみたいだが…
よほど俺がショックを受けてると思ってるんだろう…
「ま、気にするな。それよりも、他にも色々と教えてくれ」
「え、ええ、もちろんよ。えーと、『魔道士協会』の続きだったわね」
「ああ、ルークが『魔道士協会』所属ってところまでは聞いた」
「それじゃ、続けるわ」
こほん、と小さく咳払いして、話し始めるミューリィ。
「ちなみに、私も『魔道士協会』に所属してるわ。一応上位に在席してるから、私の名前を出せば大概は何とかなるわ」
こいつはエルフのとある部族の族長候補らしいし、実力も知られてるからそれなりの地位にいるんだろうとは思ったが、まさかそこまでとは思ってなかったな。
「意外に凄いんだな、ミューリィって」
「意外って何よ! もっとちやほやしてもいいのよ? 」
そんなことをしたら絶対に調子に乗るぞ、こいつは。
酒さえ入らなければな…
「ディノはそこのトップなんだろ?」
「ええ、『協会』には…『協会』っていうのは一般に知られている略称ね………『協会』には5人の筆頭魔道士がいるの。その5人が方向性を決めてるんだけど、その第1位がディノなのよ」
おおう…なにげにすごい人だったんだな…
そりゃ「爺さん」なんて呼び方してたらサーシャも怒るよ。
彼女はディノの弟子なんだし。
「ということは、メルディアって結構凄いのか?」
「まあね、代替わりで少し落ち目になりかけたけど、フランの両親とゲンがいた頃は、『協会』からの仕事でかなり活気があったのよ」
フランの両親についてはよく知らないが、師匠の腕ならほとんどの鍵を開けられるはずだ。
その評価は正しいと思う。
「でも、これからはロックが頑張ってくれるし、今後の見通しも明るいわ」
「責任重大だな、それは…」
あまりプレッシャーをかけてほしくはないが、師匠を超えるという目標がある以上、頑張るのは当然だな。
まったく、でかすぎる存在を目標にしちまったな…
「魔法についてはこんなものだけど、他に聞きたいことはある?」
「無属性について知りたいんだが…」
「…ごめん、無属性はよくわからないの…」
「あ…ミューリィは属性魔法だけだっけか?」
「私は精霊魔法がメインなんだけど、精霊はどういうわけか無属性との相性がすごく悪いの」
「サーシャは少しは使えるんだろう?」
「でも、彼女もほんの一齧りみたいなものよ。属性魔法で対処できなかったためのものだし、属性魔法に慣れると無属性に必要な想像力を組み立てるって考え方が鈍るのよ」
「それじゃ、ディノは?」
「多分ディノでも無理よ。ディノも無属性は使えないし、サーシャに教えたのも古い文献からの引用らしいから」
結局、手探りで編み出していくしかないんだろうな。
魔力操作をきちんと出来るようにならないと難しいかもしれない。
窮地に追い込まれて覚醒するなんて都合のいいことある訳ないし、しばらくはノワールに補助してもらって練習するか。
「わかったよ、とりあえず魔力操作の練習は欠かさないようにする。もしかしたら何か見えてくるかもしれないしな」
「そ、そうよ、その意気よ!」
ミューリィの後押しを受けて、俄然やる気を出した俺は、部屋を後にした。
自分の努力次第で可能性が拡がるとなれば、前向きにもなるってものだ。
だから…
「ごめんね…ロック…」
ミューリィが何かを呟いたことに、全く気付かなかった。
実はメルディアは結構すごい人たちの集まりだったんです。
年内にあと1~2話投稿するつもりですが、諸事情により投稿日が確定できません。
すみませんがよろしくおねがいします。