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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第8章 色々と勉強です
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ロックのお勉強 国際情勢編

意外な事実が判明!

 リスタ家から戻った俺達は、主要メンバーにディノ爺さんを加えて一連のことを話し合っていた。


「大体のことは理解できた。じゃが、本当に王国の『勇者』かのう。王国にはそんな人材はおらんじゃろうし」

「それは私も同感です。今、知られているの『勇者』は王国とは無縁のはずです」

「でも、ペトローザの情報だから、そんなに信憑性の無い話じゃないと思う。それに、ガセならここまで大々的に封鎖なんて考えないでしょう? デルもある程度の確証はあったみたいだし」


 慎重な意見のディノやルーク、そしてミューリィ。


「僕は興味がないからね」

「そんなもん、ぶっ飛ばせばいいんじゃねえのか?」

「そんなものは排除してしまいましょうよ」


 方や攻撃的? というか1名投げやりな意見もあるのがロニー、ガーラント、サーシャ。


 もちろん、投げやりなのがロニー。

 ちなみにガードのアルバートは別口の依頼で不在だ。


「そんなことできる訳ないでしょ? 下手打てばギルドうちの存在自体が危うくなるのと?」


 至極当然な意見のフラン。

 相手は国だしな…


 …ちょっと待て、よく考えてみたら…



「それじゃ、できるだけ早急に入り口の封鎖をするわ。それから、もしそれらしいパーティに遭遇しても、極力やり過ごしてね。それじゃ、解散」


 ミューリィが打ち合わせを締めるまで、俺はひたすら考え込んでいた。

 打ち合わせの内容を聞いていなかった訳じゃない。

 決まった内容に不服があるわけじゃない。


 これは俺自身の問題でもある。

 完全に俺の落ち度だ。

 だが、今更こんなことを堂々と言えるわけがない。

 何としても、皆に悟られる前に何とかしなければ…



「どうしたの、ロック? 何か悩み事?」


 いきなり声をかけられて吃驚した。

 変な声が出そうになったが、何とか押し留めることには成功した。

 その声の主は…フランだ。

 いつもは少々抜けたギルドマスターのくせに、こういう時だけは勘がいい。


「あ、いや、なんでもない。少し考え事をしていただけだ」

「そう? その割にはかなり深刻そうな顔してたけど…」


 頼むから早くどっか行ってくれ!

 こんなことしていたら、絶対に勘繰られる。


「まあまあ、ロックもいきなりで疲れてるだろうし、少し休めば元気になるわよ」

「そ、そうね、そうよね! ごめんなさい、ゆっくり休んで」


 フランはそう言い残して部屋を後にした。

 助け舟を出してくれたミューリィがしたり顔でこちらに近づいてくる。


「フランは追い払ったわよ。何か悩みがあるんでしょ? お姉さんに相談してみなさい」

「…お婆さんの間違いだろ?」

「お婆さん言うな! そりゃ確かにエルフは長命だし、ロックよりも年上だけどさ…」

はるかに・・・・年上、だろ?」

「はあ…もうそれはどうでもいいわ。でも、何か悩んでるのは本当でしょ? そういう悩みを抱えたままダンジョンで命を落とす探索者も珍しくないの。本来の実力の欠片も出せずにね」


 ミューリィの言葉に力が籠るのを感じた。

 彼女はこれまでに、そうやって命を落としてきた探索者を数多く見てきたんだろう。

 強い力を持った視線が俺を射抜く。

 周りを見れば、部屋には俺とミューリィの2人だけだ。


 透き通るようなエメラルド色の瞳に吸い込まれそうになるのを必死に堪える。

 彼女は本心で俺のことを心配してくれている。

 ダンジョンという場所の危険さを熟知している彼女だからこそなんだろう。

 特に俺は戦闘力が皆無だからな…。



 仕方ない、覚悟を決めるか…


 

「わかったよ、正直に言うから、笑うなよ?」

「何言ってんの? 笑うなんて失礼なことするわけないでしょう?」


 



「俺、この国どころか、この街の名前も知らないんだよ…」


 ミューリィの瞳がより大きく見開かれた。









「あははははははは! 何それ! あんたどれだけこっちにいたのよ! 今までそんなことも気付かなかったの?」

「…笑わないって約束じゃなかったのか?」

「だって! だって! 街にも随分溶け込んでると思ったのに、まさかほとんど知らないなんて、馬鹿みたい!」

「…だから話すの嫌だったんだよ!」


 俺が不快感を露わにして部屋を出ようとする。

 すると、袖を引かれて止められてしまう。

 ミューリィの細腕でも十分に止められてしまうのは傷付くな…


「ごめんごめん、そんなつもりじゃなかったのよ。ただ…ね、ちょっと衝撃的だったから」


 そんなことを言いつつも、目元は笑ってる。

 

「で、他に何かあるのか? 俺は色々と知らなきゃいけないことがあるんだから、お前に付き合ってる暇はないんだよ」

「そんな大事なこと、どうやって覚えるの?」

「本でも読んで覚えるさ、こう見えても読書家なんだぞ?」


 日本で鍵開けしてる時は、仕事をドタキャンされるなんてよくある話だ。

 当然、空いた時間を潰さなきゃいけない時、読書で時間つぶしなんてのは常道だ。


「本なんて高価なものは滅多にないわよ? 誰かに教えてもらうのが普通だから」

「じゃあどうやって覚えればいいんだよ!」


 思い切り笑われて、少々苛ついているようだ。

 つい声が荒くなる。

 それを見て、ミューリィも態度を改めてきた。


「だから、私が教えてあげるわ。色々と…ね」

「余計な事を教えようとしたら、速攻で逃げるからな」

「私の腕も振り解けないくせに」

「その時は催涙スプレーでも使うよ」


 ポケットから小型のスプレーをちらつかせると、ミューリィの表情が変わる。


「わ、わかったわよ。ちゃんと教えるから…ね? ね?」

「とにかく、基本情報から頼む。とりあえず生活するのに最低限必要なものでいい」

「了解、それじゃ最初は…」



 こんな感じで、俺はミューリィからこの世界の情報を漸く・・教えてもらえることになった。

 






「まずは世界情勢から行きましょうか。この世界には、大小様々な国があるの。今私達がいるのはラムター公国という国よ。比較的に政情も安定しているし、何より保有しているダンジョンの数、質ともにダントツよ。

 次に多いのがシドン帝国、ダンジョンの質はそこそこだけど、数が少ないの。武力主義なところもあって、過去には侵略戦争なんかも仕掛けたことがあるわ。

 次はペシュカ共和国、ダンジョンの数は多いけど、初級から中級にかけてがほとんど。農業が盛んで、ダンジョンに頼ることがない国。国内事情も平和そのもので、引退した冒険者や探索者が老後に移住することも多いわね。

 あとは…ユーフェリア王国。勇者を召喚したと言われてる国よ。ここにはダンジョンは存在しないの。おまけに貴族連中が好き勝手なことをしてるから、政情は最悪。王族がやりたい放題ってのも一因ね」


 一応、この4カ国がメインで、あとは中小規模の国が無数にあるらしい。

 この中で要注意なのはシドン帝国とユーフェリア王国とのことだ。


「それから、この街はプルカ。それよりも『迷宮都市』という名前のほうが有名よ」


 ちなみに、どこにあるのか定かではないが、ドワーフの国やエルフの国、魔族の国なんてのもあるそうだ。

 そもそも、魔族はかなり人口が激減していて、国として成り立っていない可能性もあるらしい。

 何故激減したかは…まぁ想像できるが、胸糞悪くなる内容なんだろう。

 ミューリィは各国の場所を知ってるらしいが、侵略される可能性があるので詳しいことは話さない。


「ちなみに、貴族の性質が悪いのもシドンとユーフェリアね。ラムターにもあまりよろしくない奴等がいるけど、それはごく一部。一番貴族の質がいいのはペシュカ」


 帝国や王国の貴族は、選民思想の激しい思想家が多く、家柄に胡坐をかくような人間が多いらしい。

 

「私達はラムターの迷宮もまだ全部探索していないから、ここを離れるつもりは無いわ。でも、いつ何処で何が起こるかわからないから、各国の情報はもっておくべき」


 帝国、王国では貴族の腐敗が酷いそうだ。

 どこの世界でも、中央に無能が多いんだな…


「とりあえずは主要国はこんなところね。小さな国はたくさんあるけど、ほぼどこかの属国になってるわ。一番属国が多いのはペシュカ、次がラムター。シドンとユーフェリアにはほとんど属国はないの。理由は………大体想像つくでしょ?」


 ペシュカは農業で恩恵を受けられるし、ラムターはダンジョンという恩恵がある。

 それに比べて、シドンは常に侵略に怯える可能性があるし、いざ戦時となれば尖兵として使い捨てられるかもしれない。

 ユーフェリアは………そんな腐った国の下につきたいとは思わないだろ、普通。


「ああ、俺達のいる国がどれだけいい環境かってことは理解したよ」


 満足そうな顔で頷くミューリィ。

 いちいちドヤ顔を決めてくるのにはちょっとイラっとした。


「それから、これが大事なんだけど、各国共通の組織があるの。これだけは絶対に覚えておいて。もしも不測の事態で他国で単独行動をすることになっても、最低限の身分保障されるから」

「それは………冒険者の集まりみたいなもんか?」

「冒険者は危険よ! 人にもよるけど、高ランクの冒険者はほとんどが国のお抱えよ。国からの依頼で暗殺とか誘拐なんて荒事をする奴等もいるから安易に頼っちゃだめ!」

「お、おう、わかった。気をつける」


 それは聞いておいて良かった。

 ファンタジーならお約束とも思ったが、傭兵組織に近いかもな。

 となると、どんな組織を頼ればいいんだろう。




「そんな時に頼るのは『魔道士協会』よ」



「は?」



 思わず情けない声が出てしまった。

 何故に魔道士協会? 

 確かディノがそこのお偉いさんだってのは聞いたことがあるが…


 

 気付けばミューリィがニヤニヤしている。

 多分、何か自慢したいことがあるんだろう。

 そしてまた、あの鬱陶しいドヤ顔を決めるタイミングを見計らっているんだろう。



 だが、俺は色々と教えてもらわなければいけないのも事実。


 面倒だけど、もう少し付き合ってやるか…

いや、決して作者が忘れてたわけではないですよ?

ただ、展開上入れ込む機会が無くて…


次回は27日の予定です。

年末はかなり忙しいので…

ごめんなさい…

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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