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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第7章 通常営業開始
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報酬を貰います

 決して綺麗とは言えないが、それでも石畳で舗装されている街路を四駆で走る。

 当然ながら街中なので、速度は抑えている。時速で言うと20キロくらいだろうか。

 フルチューンしたサスペンションのおかげか、多少の段差でも全く負担にならない。


「本当に快適よね、これ。しかも馬車より速くて魔法の鞄マジックポーチに仕舞えるなんて反則よ」

「でも、ガソリンが無ければ動かない。馬と違って、こっちじゃガソリンなんて存在しないだろ?」

「馬なら草があれば大丈夫ですからね」


 ミューリィもセラも、最近やっと自動車の揺れにも慣れたようで、会話できるまでになった。

 青い顔して横たわっていたのが嘘のようだ。


「でも、速さじゃ馬なんか比べ物にならないんでしょ?」

「はい! ニホンに行った時に体験しました。天空の回廊をたくさんのジドウシャが走っていて、夜空を飛んでいるようでした。夜なのにきらきら輝く街を見下ろして…神々の世界とはあのようなものなんでしょうか…」


 うっとりとした表情で夜のドライブのことを話すセラ。きっとあの光景を思い出しているんだろう。

 確かにあの時のセラは、まるで小さな子供のようにはしゃいでいたからな。

 ちなみにリルも同じようにはしゃいでいたのは内緒だ。

 こっちに帰ってきた後、俺とセラはリルに口止めされた。

 あの時にリルの背後に何かが見えたような気がしたのは、セラも同じだったようだ。


「えー! いいなー! 私も見てみたいー!」

「お前は向こうだと生きていけないんじゃないのか?」

「確かにニホンは精霊の力がほとんど感じられませんでした。エルフが生活するのは難しいですよ」

「ううう…そうなのよね…私もロックの故郷に行きたいのに…」


 明らかにがっかりとした表情を見せるミューリィ。

 しかし、こいつがこんなに落ち込んだ表情を見せるのも珍しいな。


「どうした? 何かあったのか?」

「え? いや、何でもない………みんなは向こうに行けていいなって…」

「そのかわり、精霊魔術が使えるじゃないですか。私達は精霊魔術が使えないので、そちらの方が羨ましいです」


 精霊魔術………正直な所、それがどんなものか全く理解できない。

 ええと…属性魔法があって、属性の加護…だっけ? 

 …駄目だ、元々理解できていないのに、そんな応用ができるわけない。


「なあ、精霊魔術ってのは、誰もが使えるってわけじゃないのか?」

「そっか、ロックは精霊魔術を知らないのか…精霊魔術っていうのは、この世界に遍く存在している『精霊』の力を借りて魔法を使うの。セラみたいな魔道士は精霊の使う力に干渉して魔法を使うの。理解できる?」


 ちょっと上から目線なのが苛付く。

 

 うーん、どう考えればいいんだろう。

 一次産業と二次産業の違いだろうか、いや、ちょっと違うか。


 確かミューリィが昨日使ってたよな…あの時は小さな火のトカゲがいたはずで…


「つまり、精霊魔術ってのは、その精霊の力を自由に使えて、属性魔法ってのは、その精霊が生み出す力を利用する…って考えでいいのか?」

「大体合ってるわ。精霊魔術は精霊との意志疎通ができていないと使えないの」

「エルフは精霊との親和性が非常に高い種族です。特にミューリィさんはその傾向が顕著みたいですけど」

「例えば『火蜥蜴サラマンダー』を使う場合、私がするのは火蜥蜴を顕現させて、自分のイメージ通りに力を使ってもらうの。火の属性魔法の場合、火蜥蜴の生み出した力を魔力で変化させるのよ」


 なるほど…その力の根本たる精霊に働きかけるのが精霊魔術で、精霊の力の一部を使わせてもらうのが属性魔法なんだろうな………

 だとすれば、属性の加護というものがある理由も説明がつく。

 相性みたいなものなんだろう。

 気に入った相手にはすこしだけ贔屓するけど、そうでもない奴には厳しい…ってなところか。


 …三流のキャバクラ嬢みたいだな。

 好みの客にはサービスがすごいが、そうじゃない客には素気ないという…


 どんな例えだ…


「とにかく、精霊魔術が凄いってことは理解できたぞ」

「そうよ、凄いんだから。だからもう少し私に優しく接してもいいんじゃない?」

「酒さえ飲まなけりゃな」

「そうですね」

「何でそこで同意するの?」


 俺達は至極当然な意見を言っただけなのに、ミューリィが怒る。

 どうすればいいんだよ…


「ロックさん、もうすぐです。私は今回はリスタ家の人間という立場ですので…」

「ああ、こっちも昨日の報告に行くだけだから、気兼ねする必要ないぞ」

「そうそう、後は報酬を貰うだけだからね」


 おや、今聞き捨てならないことを言ったな…

 報酬…今回の仕事の完了って、どうやって証明するんだろうか。

 

「昨日の仕事は完遂してないだろう? どうやって証明するんだよ」

「何言ってんの? アラクネのことは言わないわよ。そのために証拠も持ってきたから」


 ミューリィが自信満々で懐から、布で包まれた長い何かを取り出した。


「これは昨日くすねておいた大蜘蛛の足よ。初級ならこのくらいがマスターだってしておいた方がいいと思うから」

「いつの間に…抜け目ない奴だな」

「あのアラクネとは和んじゃったからねー。そんな相手を殺したいとは思わないわよ」

「その…アラクネ…さん?のことはどうするつもりなんですか? いずれバレますよ?」

「その時は仕方ないけど、それまでは友好的な関係でいたいわ。訓練にも使えそうだし、頼めば眷族も手加減してくれそうだから」


 初級のダンジョンで死ぬ可能性も低いとなれば、若手の探索者にとって敷居が低くなる。

そうなれば、俺達にも案内の仕事が回ってくるということか。

 若手からはあまり高額な費用を貰うわけにはいかないが、こっちの出費が抑えられれば、低価格でも数をこなす事でカバーできるはずだ。


「ミューリィ…お前…なかなかやるな?」

「まーね、これでもそれなりに長生きしてるからね。エルフだから」

「ふーん、ババアなのか」

「ババア言うな! 見た目は若いんだからいいでしょ!」

「…はあ、仲が良くていいですね…」


 セラの視線が痛い。

 今のやり取りの何処に仲良しの要素があったんだろう。

 

 漫才と言った方がしっくりくるやり取りだったのに…







 ペトローザの屋敷に着くと、四駆を鞄にしまい、家令に来訪の旨を告げる。

 一礼して屋敷に入っていく背中を見ながら、どんな話になるのかを想定する。


「ま、当たり障りのない話で落ち着いてくれればいいんだけど」

「こういう時に限って、厄介な話が出てくるのよね」

「そういうこと言うな。現実になるだろうが」

「…多分、現実になるんじゃないですか? |リスタ家(実家)への報告もありますから」


 厄介事前提かよ…参ったな…フランでも連れてくるべきだったな。


 戻ってきた家令に促されて、以前にも入ったことのある応接室に通された。

 前回と違うのは、既にリーゼロッテがソファに座って待っていたことだ。


「お待ちしておりました。メルディアの方々と…今日はセラフィナ様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」

「いえ、お気になさらずに。私はリスタ家の代理人を引き受けただけです。メルディアのセラとして扱ってください」

「ご配慮いただき、ありがとうございます」


 セラに対して、恭しく一礼するリーゼロッテ。

 対するセラの格好は、俺とお揃いの紺の作業着に濃紺のローブを纏っている。

 聞くところによると、セラは魔道士協会にも登録してあるらしく、そこの正装ということだ。

 メルディアと掛け持ちして大丈夫かと思ったが、本人曰く、そんなに厳しいものではないらしい。

 尤も、協会のトップがディノ爺さんだそうで、そのせいでかなり自由度が高いそうだ。


「それじゃ、これが『赤竜の牙』が討伐した『大王蜘蛛キングスパイダー』の爪よ」

「検分いたします」


 ミューリィが取り出した包みを開けて中身を確認するリーゼロッテ。

 しばらく色々な方向から眺めてから、それを包みに戻して静かに口を開く。


「確かに『大蜘蛛ジャイアントスパイダー』の上位種のようですね。これはマスターでしたか?」

「いいえ、そこまで成長してなかったわ。まだ初級ダンジョンとしての扱いでいいと思う」

トラップはいかがでした?」

「罠は注意を怠らなければ問題ないと思う。鍵に関しても、特に目立ったものは無かった。焦らずかかれば余程のことがない限り大丈夫だろう」


 俺達の報告を一通り聞くと、リーゼロッテは傍らに立つ家令から布袋を受け取った。


「貴方達も『赤竜の牙』にも負傷者なし、マスターではないといえ、ボスの撃破、初心者3人を連れてのパーティとしては十分な結果でしょう。この依頼、完遂といたします」


 そう言って、布袋をテーブルの上に置いた。


「中身を確認してください」

「それじゃ、遠慮なく」


 ミューリィが袋から中身を出す。金貨に銀貨…それなりの量が入っている。


「ダレス氏より、今回の探索でギルドとしてもレベルアップできたと感謝の言葉を頂いております。その分を上乗せしておきました」

「わかったわ、ありがたく受け取ります」


 ミューリィがほくほく顔で布袋をしまう。

 その様子を生温い目で見ていたリーゼロッテだが、表情を引き締めて改めて俺達に向き合う。

 

「それでは、ここからはダンジョン管理についての話になります。バルボラの件もありますので、ミューリィさん、ロックさん、お2人も同席願います」


 リーゼロッテの真剣な表情に、俺達は不安を隠せないまま、話を聞くことになった。





 

「まずは、バルボラの処分についてお話します。バルボラのギルドマスター、モイスとその幹部は犯罪奴隷として王国直轄の鉱山での無期強制労働となりました。それ以外のメンバーは犯罪奴隷としての一定期間の隷属契約、今回は20年となっています。それ以外の関係者は国外追放処分です」


 こちらの世界…というよりもこの国には死刑制度は余程の重犯罪でなければ適用しないらしい。

 と言っても、強制労働中は劣悪環境での生かさず殺さずの状態で、自殺しようにも奴隷となってはそれも出来ないそうだ。


「また、彼等の捕縛に協力していただいたとのことで、王国より謝礼があります。こちらは追ってご連絡いたします」


 …こういうのは、厄介な予感しかしない。

 ま、後で皆に相談してみよう。


「それから、以前にお話を頂いていた『勇者』についてなんですが…」


 露骨に険しい表情になるリーゼロッテ。

 見ればミューリィも渋い顔をしている。

 俺とセラだけが蚊帳の外だ。


「王国にて『勇者』の存在を確認いたしました。現在は王城にて生活しているそうです」


 黒竜の言ってた件だな。

 確か転移魔法を使える奴がいるとか…


「そこで、リスタ家にお願いしたいことがあります」


 リーゼロッテがセラに対して、強い意志を持った眼差しを向ける。


「リスタ家が管理しているダンジョンを、全て封鎖してほしいのです」


「「「 は? 」」」



 俺達3人は、馬鹿みたいに大口を開けて呆けてしまった。

果たしてこの世界の『勇者』とは如何なるものなのか?


次回は19日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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