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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第7章 通常営業開始
47/150

偽物です

マイナーな道具が…

でも、便利なんですよ?

 結局、俺達が野営している間、モンスターが襲ってくることは無かった。アルスとビルがずっと不寝番をすると言ってきたが、俺、ミューリィ、ダレスの3人で却下した。アイラは不服そうだったが…


「どうして? あいつら酷いことしようとしてたのに!」

「しようとしてたんだろ? まだ何も起こってないのなら、それは何もしてないってことだろう? それに、あいつらに任せるのも正直なところ不安だし、任せたせいで体調を崩して凶悪なトラップにかかられても困る」

「お、あんたは解ってるな。今回の件は完全にこっちが悪いんだが、現実を見ればここにはこれだけしかいねぇんだ。ダンジョンを出るまでは何とか一緒にやっていくしかねえ」

「そうよ、ここは割り切って考えないとダメよ? 初級だからいいかもしれないけど、これから難易度を上げていくにはそういう考え方も必要なのよ」


 アイラは渋々頷いた。当の2人は、自分達のことを言われていると知ったのか、申し訳なさそうな顔でこちらを見ている。


 あいつらがこれまでどういうことをしてきたのかは知らないが、俺としては、俺に被害が及ばなければ、一度目は許すことにしてる。反省してくれて、その後はきちんとしてくれれば問題ない。勿論、2度目は容赦しないが。


「でも、本音を言えば、まだあいつらに任せるだけの信頼がないだけなんだがな」

「う…痛いところを突くな、お前…でも事実だから何もいえねぇ」


 項垂れるダレスを尻目に、俺とアイラで先に不寝番をした。その後、ダレスとミューリィに交代したが、新人3人組はぐっすり寝ていた。









「前方にゴブリン5! 後ろにも2!」


 アイラの索敵でモンスターの内容が伝えられる。ダレス、アルスの2人が前方に、ビルが後方に突っ込む。ミューリィは前方の、コーリンは後方の支援に動き、俺とアイラはコーリンの護衛につく。


 攻撃担当の動きが昨日より段違いで良くなってるのが素人目でもはっきりと見てとれる。戦闘は全く危なげなく終了した。今回もモンスターが消えて宝箱が出てきたが…


「鍵がかかっています…ロックさん、お願いします」

「頼む…ロックさん」


 アルスとビルは開けられないと判断すると、即座に俺に頼んできた。その顔も昨日より表情が穏やかになってるのは気のせいじゃないだろう。


「任せろ、取りこぼしなんざさせねえよ」


 俺は2人にそう言って宝箱に近づく。大きさで言えば、これまで見た宝箱よりも大きい。それこそ大人でも無理すれば入れるくらいのサイズだ。木製だが、外枠の金属の磨き上げられた銅の輝きが綺麗だ。


 そこで、俺は違和感を感じた。これまでクランコここで見てきた宝箱は全て木製の質素なものだった。当然、中身もそこそこのものだったようだが…


「なあ、ミューリィ? この場所であの宝箱はおかしくないか? やけに豪華すぎると思うんだが…」

「そうね、クランコは大した強さのモンスターもいないし、大概はもっと安っぽいものしか出ないはずよ。…それも鍵師の直感?」

「ああ、どこか嫌な感じがするんだ。ちょっと時間かけるぞ」


 ミューリィもこの宝箱には違和感を抱いているようだ。ただ、他の連中はそうでもない。


「これ、綺麗ですね」

「おお! レア品が入っているかもしれん!」


 ダレスまで興奮してる。こんないかにもな・・・・・宝箱を見せられたら仕方ないのかもしれないが…


 宝箱に近づき、ライトで鍵穴を調べると、そこには俺が想像すらしていなかったものが見えた。それは日本での鍵開けでは絶対に見ることのできないもの、そして、この世界でも見えてはいけないものだと即座に判断して慌てて距離を取った。


「どうしたの? 何か見えたの?」


 俺の様子を不審に思ったのか、ミューリィが傍に寄ってくる。遅れてアイラも来た。


「あれはヤバイものだ。鍵穴の奥に『目』があった」


 そう、俺が覗き込んだ時、鍵穴の奥に目玉があった。ライトで照らしたおかげで見つけることができた。


「それは…偽宝箱ミミックでしょうね…でも、今ここでそれを言っても、誰も納得しないと思うわ。そもそも、ミミックはそこそこレベルの高いモンスターだから、クランコここに出現するなんて誰も思わないから」

「それじゃ、開けるしかないのか?」

「ダメだよ! 食べられちゃうよ!」

「そうね、アイラの言うとおりよ。鍵開けなんてしたら、開いた瞬間に食べられてお終いだから」


 確かにそれは怖い…というか、もう触りたくはないんだが、どうしても開けなければいけないのなら方法はある。


「あれがモンスターなら、開けるだけなら方法はあるぞ」

「「 え? 」」


 驚きの表情を見せる2人に、俺は丁寧に説明する。


「さっき鍵穴を見た時、内部構造は大体把握した。あの鍵穴は本当の鍵じゃないと思う。恐らく、至近距離まで獲物が近づいているかを確認する手段だろう。だから、鍵開けしてると認識してモンスターが自発的に蓋…というか口を開けるはずだ。それなら、離れた場所から鍵を弄ることができればいい」


 俺の説明にもイマイチ納得できていないようなので、鞄から今回の探索のために色々と持ち込んだ道具類から、明るいオレンジ色の棒を取り出した。


「実際に開けてみればいいんだろ? ミューリィは他の皆に説明しておいてくれ。アイラは俺の補助だ」

「わかったわ、任せて」

「はい、…それは何?」


 俺が取り出したのは『ケーブルキャッチャー』と呼ばれる道具だ。といってもこれは鍵屋だけが持つ道具じゃない。むしろ、電気工事業を営む者なら持っている道具だ。

 蛍光灯やコンセントを設置する場合、または電気を動力とする機器を使う場合、そこまで電源ケーブルを引く必要がある。主にケーブルは天井裏等を使って引かれる。

 しかし、天井裏には人が入るスペースがないことが多い。そこでケーブルキャッチャーの出番だ。こいつは短く収納できるので、伸ばした状態で先端にケーブルを結び、短く収納することでケーブルを通すというわけだ。尤も、今回は違う使い方をするんだが…


 ケーブルキャッチャーの先に針金を取り付け、全体を伸ばす。途中をアイラに持ってもらい、針金を鍵穴に差し込む。


「俺が見た限りだが、あの鍵穴は機能していない。おそらく、何かを奥まで差し込めば反応するはずだ」


 針金を入り口付近で止め、アイラを下がらせてから思い切り差し込む。すると、宝箱が一瞬大きく震えた。次の瞬間、蓋が大きく開くと、宝箱の中から真っ赤な手のようなものが現れ、鍵穴付近を探りだした。勿論ケーブルキャッチャーは収納済みだ。


「…もしあのまま鍵開けしていたら…」


 アイラの顔が青褪める。俺は平気そうな表情を何とか作り上げたが、本当はアイラよりも怯えていた。あれは鍵師殺しだ…あのまま知らずに開けていたら、頭を掴まれて箱の中に引きずり込まれていただろう。


「やっぱり偽宝箱ミミック! 全員下がって! 魔法で攻撃するわ」


 ミューリィの指示が飛ぶ。近接戦闘だと掴まれて喰われる可能性があるからだろう、ダレス達が慌てて飛び退る。


『来たれ、火蜥蜴サラマンダー!』


 ミューリィの呼びかけに火精霊が出現する。それは火を纏ったトカゲだ。大きさはイグアナくらいだろうか、ミューリィの横で宙に浮いている。


「お願い、あいつを焼き尽くして!」


 その声に従うように偽宝箱ミミックに近寄ると、その口を大きく開けて火の玉を吐き出した。火の玉が直撃した偽宝箱ミミックはしばらく暴れていたが、やがて燃え尽きて灰になった。


「あのまま開けてたら…お前も喰われてたな…」

「ああ、事前に気付いて良かったよ」


 新人3人は声も出ないみたいだな、尤も一人は違う意味でだけど…


「うわあ! これが火蜥蜴サラマンダーですか? 初めて見ました!」


 コーリンが目を輝かせている。魔法を使う者にとっては精霊というのは崇拝の対象にもなるほどに大事な存在らしい。


「そんなにすごいのか?」

「当たり前じゃないですか! 精霊に気に入ってもらえれば、その属性の魔法の威力が上がります! それに魔力の消費も減るんです!」

「そうよ、それだけに精霊を使役できる私はすごいんだから! もっと私を崇めなさい!」


 そういって胸を張るが、棒なのは変わらないのが残念極まりない。


「……………」

「ど、どうして何も言わないのよ! せっかくの自虐ネタなのに!」


 俺がスルーしていると、涙目で訴えてきた。何だよ、自虐ネタって…。


「それより、何か落ちてるぞ?」


 偽宝箱ミミックが燃え尽きた場所に、金属らしき光が見えた。ミューリィが注意深く近寄ってそれを手に取る。それは1本の剣だった。


「これが報酬ってわけね…はい、ダレス、これは貴方達のものよ。そういう契約だし」

「おいおい、いいのか? これはそこそこの剣だろう?」

「いいのよ、この場で剣を扱うのは貴方達だけなんだから。遠慮なく貰っておきなさい」

「…わかった、ありがたく貰っておく」


 ダレスは渋々納得して、自分の背に背負った。アルスがその剣を羨ましそうに見ているな…ビルは得物が細剣レイピアなので、興味はありそうだが執着はしていない。


「…そうだな、お前がもう少し腕を上げたらこの剣をやろう。だが、強さだけじゃないからな、それは心に銘じておけよ?」

「ああ、頑張るよ!」


 そんな微笑ましい光景を見ながら、探索は続く。










「そう言えば、ちょっと気になることがあるのよね…」


 俺の隣を歩くミューリィが小声で話す。


「クランコって、蟲系のモンスターが中心なのに、今日はゴブリンばっかり…どうしてかしら?」


 俺は一つだけ心当たりがあった。念のためにミューリィに確認する。


「なあ、ダンジョンって空気の流れはどうなってるんだ?」

「空気? そうね…基本は入り口から最深部に向けて流れるわ…どうしたの? そんなこといきなり聞いて」


 そうか…多分、いや、状況から言って間違いなく、俺の予想通りだろう…


「多分、蟲系モンスターがいないのは、俺のせいかもしれない…」

「え? どうしてよ? ロックは魔法使えないのに?」

「いや、昨夜使ったあの香な、それなりに強力な虫殺しなんだよ…」

「…その香が流れたかもしれないってこと?」

「ああ、たぶんな…」


 小さい頃、よくカブト虫を死なせた記憶が蘇ってきた。あいつらって意外と殺虫剤に弱いんだよ…


 でも、まさか蚊取り線香が有効だとは思わなかった…これって俺が倒したことになるんだろうか…




鍵師の直感!

何かのスキルっぽい!

次回は29日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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