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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第7章 通常営業開始
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野営です

メルディアの名物誕生?

「ごめん! ロック! 後ろの蜘蛛を任せるわ! アイラは右のゴブリンを!」

「おい、お前ら! もっとしっかりと動け!」


 ミューリィが俺達に指示を出し、ダレスが新人に指示を出す。…が、新人の動きが目に見えて悪くなっている。


「ミューリィ! 前からゴブリンの加勢! 数は3! ロック! 後ろからもゴブリン! 気をつけて!」


 アイラの索敵にまたしてもゴブリンがかかる。ゴブリンは初級ダンジョンの定番モンスターで、大きさは130センチくらい。ちょっと大きな子供みたいで、醜悪な顔つきと、緑がかった肌が不気味さを演出する。ただ、こいつは結構厄介で、集団で襲い掛かっては探索者を食べたり、女性探索者の場合は巣に連れ帰って子供を産ませる道具にするらしい。


 ちなみにダンジョンだけでなく、森とか洞窟にも棲息していて、稀に村を襲って甚大な被害が出ることもあるので、冒険者ギルドでは常に討伐対象らしい。強さもそこそこなので、駆け出しの冒険者がよくお世話になるそうだ。尤も、返り討ちに遭って食われたり孕まされたりする初級冒険者も多いらしいが。


「どうするんだよ、これ。なかなか先に進めないぞ」


 俺はゴブリンの首を鉈で刎ねながらミューリィに話しかける。正直なところ、人型のモンスターを殺すことには抵抗があったが、それではまずいということで、昨日まで徹底的にゴブリン退治をさせられた。…訓練と称して…


 おかげで何とか割り切ることが出来、今戦えている。殺らなきゃ喰われる…そう何度も自分に言い聞かせて、やっとのことで動けるようになった。ちなみに、俺達が討伐したモンスターは討伐証明の部位を切り取ってダレスに渡してある。

 今回の報酬はダンジョンの探索補助で貰っている。俺達が倒した分はダレスに換金してもらい、決められた比率で分け前を貰う手筈だ。ゴブリンの証明部位は耳だ。ダンジョンのモンスターは森などに出没するものよりは報酬が低いそうだが、小遣い代わりにはなるとのことだ。


 ちなみに、耳を切り取った後のゴブリンの死体は放置しておけばダンジョンが吸収してしまう。もちろん、人間もダンジョンで死ねば同様だ。吸収された死体がどうなるかは未だに謎らしい。


「もうそろそろ『安全部屋』があるから、そこで野営しましょう。みんな、頑張って!」


 ミューリィの指示に皆の顔が明るさを増す。さっきから途切れることなく戦っているから、疲労もピークに達している。


 漸くモンスターの襲撃がひと段落し、俺達は安全部屋に辿り着いた。安全部屋は、ダンジョンの中にある、何故かモンスターが入ってこない空間のことだそうだ。大概は小さな部屋になっていて、扉に鍵がかかっているのがほとんどらしい。そういえば、フランが閉じ込められた場所もそんな感じの部屋だったな…


 ちなみに、この安全部屋の扉も鍵がかかっていたが、状況が状況なので、アイラに任せずに俺が瞬殺した。…俺だって疲れてるんだ…少しは休みたいんだ…しかも腹が減ってきたし…






「それじゃ、食事にしましょう。ロック、準備お願いしていい?」

「ああ、少し待っててくれ」


 魔法の鞄からカセットコンロと鍋を取り出し、ミューリィに水精霊を呼んでもらって鍋に水を入れてもらった。それを火にかけ、沸騰するまで待つ。


「何だ、それ? 魔法具か?」

「ああ、料理をする道具だ」


 鍋の水が沸騰したところで鍋にパスタを入れる。ちなみに鍋はそこそこの大きさだ。何せ7人分+αだから、それなりに量を作らないといけない。


 鞄からもう一つコンロを取り出して、そっちにも鍋をかける。水はペットボトルの水を使って湯を沸かす。こっちはパスタソースを温める為のものだが、その前にちょっとしたサービスを…



「おい、お前ら、茶は飲むか?」

「おいおい、こんな場所で茶が飲めるのか?」


 不思議そうな顔をしているダレスを無視して、紅茶の茶葉をポットに入れて湯を注ぐ。熱湯で茶葉をしっかりジャンピングさせて香りを出して、頃合いを見てカップに注ぐ。


「ほら、食事が出来るまでの繋ぎだ。砂糖は1個だけな」

「何! 砂糖だと! そんなものまであるのか!」


 紅茶のカップを皆に渡し、氷砂糖の入った袋を中央に置く。俺は角砂糖ではなく氷砂糖派だ。


「これは…美味いな…」

「…甘くて美味しいです…」


 なかなか好評のようだ。俺は隅のほうで小さくなっているアルスとビルにカップを差し出す。


「ほら、これでも飲んで少し落ち着け。そんな状態じゃ、初級でも命を落とすぞ」

「…あんたは怒ってないのかよ?」

「…は? 何をだ?」

「…僕たちがやろうとしたことですよ。それに、あなたのことも馬鹿にしてましたし…」


 なるほど…一応、反省できるくらいには成長してたってことか…ダレスがここに連れてきたのも頷ける…

 今回の件は、こいつらに現実を見せてやるつもりだったんだろうし、少なくともダレスとミューリィ相手に馬鹿やろうなんて2度と考えないだろう。

 

「そんなこと気にしてないから、深く考えるな。そう思うなら、これからの行動で示してくれ。それに、同業者から馬鹿にされれば腹も立つが、お前らは俺の仕事をほとんど知らないだろう? 知らない奴に何を言われても相手にしなけりゃいいんだ」

「ロックさんはどうして鍵開けをしようと思ったんですか?」


 いつの間にかコーリンが傍に寄ってきていた。他の皆も興味深そうにこちらを見ている。


「大したことじゃない、俺は師匠に拾われて、一番近くで師匠の技術を見てきた。そのうちに自然と自分も鍵の仕事をするようになったんだよ。今は何とか師匠に追いつこうと頑張ってるところだな」

「どうしてあんなに冷静に鍵開けできるんですか?」

「鍵ってのは凄くデリケートだ。髪の毛1本分位置がずれても駄目な鍵だってある。冷静にならなきゃ作業できないんだよ。

 それに、俺は10年以上、鍵だけを相手にしてきたんだ。戦闘技術とかじゃ素人同然だが、鍵の経験ならそうそう負けるつもりはない。

 …さて、そろそろだな、食事の仕上げをするから待っててくれ」


 2つ目の鍋にレトルトのパスタソースを入れて、湯煎で温める。パスタが茹であがると、湯切りして皿に盛ってから、温めたソースをかける。


「ほら、出来たぞ。それぞれ小皿に取り分けて食べてくれ」


 ちなみに今回使ったのはごく普通のミートソースだ。


「こりゃ美味ぇ! こんなのダンジョンの食事じゃねぇぞ!」

「本当です! いつもは干し肉なのに!」


 かなり好評だ。日本では業務用の一番安いやつなんだが…ダンジョンで温かい食事というのがいいのかもしれない。アルスもビルも一心不乱に食べてるから、少し安心した。食事も摂れないほど弱ってるようなら、ここで切り上げることも考えてたんだが、杞憂に終わったようだ。



「なかなか好評ね、これ。流石にダンジョンで温かい食事を提供するギルドなんて無いから」


 ミューリィが口の周りをソースで汚しながら話しかけてきた。実はこの案は、ミューリィの言葉がきっかけだ。

 ミューリィが携帯食料を欲しがった時、フランが気付いた。俺が魔法の鞄を使うと容量が凄く増えることに。

 なら、料理道具くらいは持っていけるだろうから、日本で簡単に料理できる食材を仕入れて、ダンジョンで料理するのはどうかと提案してきたんだ。


 ただ、持っていけるのはカセットコンロ程度なので、必然的に「茹でるだけ」や「温めるだけ」といったものに限定されるが…

 ちなみに、紅茶は俺の提案だ。コーヒーも考えたが、こっちの人間はコーヒーに馴染みが無いということで却下された。


「これならメルディアうちの売りにも出来そうね…本当にロック様様よ。仕事もふえてフランも上機嫌だし」


 本当は呪符を使って魔力でやろうとしたが、ミューリィに却下された。ダンジョンでは何が起こるかわからないので、できるだけ休憩時間には魔力を温存するのが普通らしい。


 ちなみにゴミは袋に纏めて鞄に入れてある。こっちでは処分できないから、日本に持ち帰って処分する。その辺に捨てて下手に騒がれても困る。


「さて、これから寝るのはいいが、ここは本当に安全なのか?」

「勿論、交替で見張りはするわよ? でも、この前のバルボラの時みたいなものがあれば助かるわ。入口さえ押さえれば何とかなるから」


 入口だけか…確か電池式のアラームをいくつか鞄に入れてあったな…その中に信号入力タイプのアラームもあったはずだ。ケーブルは作業道具と一緒に仕舞ってあるから…


「よし、やるぞ、アイラ」

「え? 何するの?」


 山盛りのパスタを食べながらアイラが振り向く。…お前、それ、俺の分だろう…


「入口にセンサーを仕掛ける。簡単だからこの機会に覚えておけ」

「は、はい!」


 慌てて俺の傍に駆け寄るアイラ。そんな彼女の目の前に、魔法の鞄から道具入れを取り出す。


「今回使うのはこのアラームとケーブルだ。アラームは床に置くから、固定するのはケーブルだけだ。とりあえず、俺のやり方をよく見ておけ」


 道具入れからケーブルを取り出すと、ある程度の長さの2本だけ取り出す。ちなみに今使っているケーブルはツイストペアシールド線というケーブルだ。通常の商用電源…即ちコンセントの電気はAC100ボルトだが、こういった防犯機器のほとんどがDC5~24Vだ。そのためのケーブルがツイストペアシールドだ。


 ここで断っておくが、コンセント用にこのケーブルを使うと、漏電したり出火の原因になるので絶対にやめてほしい。


 ケーブルの両端のビニル被覆を剥き、ケーブルを入口に渡すようにして固定する。固定も被覆を破らないように注意しながらだ。

 そして、片方の端をアラームに繋ぎ、もう片方は入口の中央部分でケーブルどうしを軽く捩って止める。あくまで軽くなのは、簡単に外れるようにするためだ。


「よし、これで侵入してくるモンスターはわかるはずだ」

「へー、こんなもんでわかるのか?」


 ダレスの疑問は尤もだ。他の皆も同様の表情だ。


「それじゃ、実演してみるぞ。ここをモンスターが通り過ぎようとすると…」


 俺がケーブルに指をかけて引っ張る。すると、捩った場所が外れて…


『ビーーーーーー!』


「と、まあこんな音がするんだ。これなら見張りが気付くだろ?」

「ああ、これなら安心だ。悪かったな、疑ったりして」


 ダレスが皆の所に戻った。ちなみに、室内は『灯り』の魔法で照らしてる。それから…ちょっと気になることが…

 俺は鞄からあるものを取り出し、ライターを使って火をつけた。すると、独特の芳香とともに煙が出始める。


「何それ、いい香りね。それに変な形」

「これは虫を寄せ付けない道具だ。植物から出来てる『お香』だな」


 ミューリィが不思議なものを見るような目で聞いてくる。『お香』という表現に納得してくれたようだ。


 俺はこの場所が凄く不安だった。それは、結構じめじめしており、俺の大嫌いなあの虫が出てきそうだったからだ。でも、これを使えば多少は違うはずだ。


 俺が使ったのは…そう、『蚊取り線香』だった。

 

こう見ると魔法の鞄ってかなりのチートですね。

カセットコンロで作れるのってこのくらいでしょうか?

次回は26日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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