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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第7章 通常営業開始
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初仕事です

初めてのダンジョンガイドです。

「それじゃ、予定を説明するわ、まずは2日後にクランコで冒険者ギルド『赤竜の牙』と攻略、5日後はサジカ子爵のパーティとハーベンの迷宮ね。あとは10日後だから、その都度確認するわ」


 フランが機嫌よくスケジュールを確認する。正直なところ、かなりのハードスケジュールだと思う。


「フラン、ちょっと予定詰めすぎじゃないの? 3日後に5日後なんてさ」

「バルボラの分の仕事がこっちに来てるのよ、当然でしょ」


 フランの顔は緩みっぱなしだ。流石にそれを見たら誰も文句が言えなくなってる。両親が残したギルドがこう活気溢れてるとなれば、嬉しいのも当然と言える。






 

 日本での仕入れが終わってから、ダンジョンに慣れるべく、1週間ほどクランコに潜って感覚を覚える作業に没頭した。

 相変わらずというか、モンスター相手には手が出ないけど、宝箱やトラップの解析、それに鍵のかかった部屋の解除と、やることはいっぱいあった。


「どう? ダンジョンは慣れた?」


 ロニーが干し肉を齧りながら声をかけてくる。


「まだまだ…だな。でも、そのあたりは実戦を重ねるしかないだろ。相変わらずモンスター相手は厳しいが」

「ロックはそういう役目じゃないからいいんだよ。そういうのは僕達の役目だし、実際にお客を連れて潜る時はモンスターはお客がメインで倒すから」

「そう言ってくれると気が楽になるな」

「そのかわり、鍵開けは全部成功してるじゃないか。そのほうが凄いことなんだけどな」


 ロニーは言うが、俺から見ればモンスターに立ち向かえる皆のほうが凄いと思うんだが…俺なんて蜘蛛にすらびびってるのに…。


 鍵なんて攻撃してくる訳じゃないし、慎重に対処できれば問題ない。動く敵を相手にすることができない俺にとってはそう思えてしまう。


 事実、俺はアイラより動きが鈍い。戦闘の連携なんてできないし、動きだけで言えばジーナより酷い。セラと同じくらいしか動けないのが辛い。


「それにしても、ロックのおかげで宝箱からのアイテム回収が捗るわね」


 サーシャが獲得したアイテムを吟味してる。サーシャはそういった品物の目利きらしい。


「このナイフなんか、結構いいものみたい。ミスリルほどじゃないけど魔力伝導もいいわ」


 1つだけ、やけに装飾の綺麗なナイフがあったが、やはりいいものだったみたいだな。他にも怪しい薬とか薬草とか入ってたっけ。特に半透明なビンに入った薬は色が蛍光ピンクだった。絶対にトクホ認定などされない色だ。

 

 それが魔力回復薬だったらしく、サーシャとミューリィが取り合いしていたのが微笑ましかった。結局ジャンケンで決めたんだが、グーで鳩尾狙うしチョキは眼つぶし、パーは平手打ちと凄まじい攻防が繰り広げられた。


 最終的には、2人がバランス崩して縺れ合ったままそのビンに突っ込んで、ビンが砕け散るという事態になった。当然ながらビンが砕け散れば中身は…


「「 あーっ! 中身がーっ! 」」


 という状態になるわけで…


「醜い争いしてるからそんなことになるんだよ」

「「 ごめんなさい 」」


 結構素直に謝ったから、それなりに反省してるんだろう。


 ちなみに、魔力回復薬はあのサイズのビン1本で日本円でおよそ5万くらいの価値があるらしい。そりゃ取り合いにもなるっての。







「いよいよ明日からね、緊張してる?」


 夕刻になり、ギルドに戻った俺達がそれぞれ準備してると、ミューリィが声をかけてきた。そりゃ本格的なギルドとしての仕事は初めてだから、緊張してないはずがないだろう。


「ああ、正直なところ、今夜眠れるかどうかわからん」

「それじゃ、今夜は添い寝してあげようか」

「慎んでお断りいたします」

「何で即答なのよ! 少しは悩みなさいよ!」

「悩む必要ないだろう? お前は馬鹿なのか?」

「どうしてよ! この妖艶な魅力がわからないなんて…」


 ミューリィは起伏の少ない棒のような身体をくねくねさせている。新種の虫のような動きでちょっと面白い。


「魅力云々じゃないんだよ、緊張してるんだから、一人でのびのび眠りたいんだよ」

「そ、そこはほら、『実はお前が欲しい』とか言って燃え上がるのがお約束でしょう?」

「どんなお約束だよ!」


 とまあこんな感じでふざけてきたので早々に部屋に籠った。肩の力が上手い具合に抜けたので、とりあえず役には立ったようだ。







翌朝、ギルドの受付に見慣れない4人の男女がいた。俺が準備を終えて受付に下りた時、リルから色々と注意事項を聞いてるところだった。


 そいつらは全員赤の装備を着けている。成る程、それで『赤竜の牙』ね…

 リルが俺に気付いて紹介してくれた。


「ロック、こちらは今日のパーティ『赤竜の牙』のメンバーよ。彼はロック、うちの専属鍵師よ。あのゲン=ミナヅキの弟子だから、腕は確かよ」

「おお! あの伝説の鍵師の弟子か! それなら心強い。俺はダレス、剣士でこのギルドのリーダーをしてる。今日は新人を連れての探索だから、難易度の低いクランコにしたんだ。

おい、こっちこい!」


 いかにも生意気そうな少年2人と、少々気の弱そうな少女という、計4人のパーティだ。


「ほら、今日明日と世話になるんだから、しっかり挨拶しろ!」


 ダレスが生意気そうな少年の頭を引っ叩く。少年は頭をさすりながら、しぶしぶ挨拶をする。


「アルスだ…剣士だよ」

「ビルです…同じく剣士です」

「コーリンです、魔法使いです。火と土の攻撃魔法と治癒魔法ができます」


 剣士3人かよ! 随分偏った編成だな…


 ダレスは赤みがかった茶髪で、装備の色と相まって炎のイメージだ。得物は大きな両手剣だな。

 アルス少年は金髪で髪は短め、飾りのない両手剣を持っている。

 ビル少年は片手剣に小さな盾を持ってる。

 コーリンは身の丈くらいの杖だ、いかにも魔法使いって感じだ。


「ダレス以外は初めまして…よね。私は今回の探索の補助をする、メルディアのミューリィよ。見ての通りエルフだから、精霊魔法に通常の魔法も使うわ。属性は全属性オールマイティね」


 全属性と聞いてコーリンが目を輝かせている。ダレスは…驚いた表情だな。


「ミューリィって…あの・・ミューリィ=ミューレルかよ!」


 おや? どうやら有名人っぽいな。


「あの『酔いどれエルフ』で有名なエルフだろう? 腕はいいが酒好きで酔うと手に負えないっていう…」


 やっぱりそうだったか…こいつの酒癖の悪さはそんなに有名だったか…


「ま、まあそれは置いといて…ダンジョンに潜る時は酒断ちしてるから安心してね。それから、こっちがアイラ、斥候よ」


 アイラがぺこりと頭を下げる。狐人族が珍しいのか、皆がしげしげと眺めている…主にその尻尾に…


「…尻尾はダンジョンでは出さないから…」


 その視線に気付いたのか、そんなことを言う。若造3人は明らかにがっかりしてる。コーリンなんか涙目だぞ。


「それから、こっちはアルバート。ガード専門よ」

「よろしく、怪我がないようにいこう」


 そう言えば、俺はアルバートとはまだダンジョン潜ってなかったな。アルバートは大盾を背負ってるが、得物は両手剣だ。極端な気もするが、今日は新人に怪我させるとまずいので、防御メインで行くとのことだ。


「それから、彼がロック。鍵開けと物理トラップの解除も担当するわ」


 そう、俺の役割に物理トラップの解除が加わった。物理セキュリティの解除みたいなものだと考えれば、出来ないことはないだろう。ペトローザの屋敷でも出来たし、これまでの練習でも簡単なものは解除できたし。

 一応、細工道具一式も持ち込むつもりだ。ここには秘密道具もあるから、あまり見せたくないんだけど…


「よろしく頼む。最初に言っておくが、戦闘ではあまり期待しないでくれ。鍵師は手を怪我するわけにはいかないんだ」

「ああ、それは承知してる。モンスターは俺達が片づけるから安心してくれ」


 ダレスがそう言って破顔する。それとは対照的に少年2人は訝しげな表情を向けてくる。


「…何だよ、役立たずじゃねえかよ」


 アルス少年がぽつりと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。一言言ってやろうと思ったが、ミューリィに止められた。


「あの年頃は攻撃こそダンジョン攻略の全てと勘違いしてるのよ。気にしないで」

「ま、わからなくもない。あの年頃は強さに憧れるものだ」

「ロックにも経験あるんだ?」

「まあな…」




 俺も中学の頃、強さに憧れてキックボクシングのジムに通ったりしたもんだ。でも、師匠に蹴り飛ばされて、しこたま叱られて辞めた。


『鍵師が両腕を大事にしないでどうするんだ』


 そう言われて、当時は反発したが、独立して初めてその言葉の意味がわかった。

 腕を怪我すれば仕事に支障が出る。ということは、収入が無くなるってことだ。死活問題だ。だから、腕を護らなきゃいけない。


 だから師匠は俺を叱る時、腹とか尻に蹴りを入れてたんだ。腕を傷つけちゃまずいって思ってくれたんだ。




「俺は気にしてないから、心配すんな」

「そう、それじゃ出発するわ。今日はクランコまで馬車で移動するから、早く乗って!」


 俺達は馬車に乗り込み、クランコに向けて出発した。







 馬車は順調にクランコまでの道を進む。御者はいるので、俺は御者の隣に陣取って風景を楽しんでいた。いつもは四駆での移動だったから、こういうのんびりした移動も趣があっていい。


 すると、ダレスが俺の隣に座った。


「ちょっといいか?」

「ああ」


 ダレスは俺に確認すると、いきなり詫びてきた。


「さっきはすまなかった、いきなり険悪になっちまって…」

「さっき? どういうことだ?」

「アルスがお前を馬鹿にしたことだ」

「ああ、あれね…」


 どうやらダレスもあの呟きを聞き逃さなかったらしい。


「別に気にしていない。あの年頃はあんなもんだろ?」

「いや、あいつ等は『鍵師』を良く思ってないんだ」


 おいおい、穏やかじゃないな…


「先日、別のダンジョンに潜ってたんだが、雇った鍵師がヘマしたせいで、うちのメンバーも犠牲になってるんだよ。悪いことにその死んじまった奴があいつ等の兄貴分みたいな奴だったんだ」

「ヘマした鍵師って…バルボラか?」

「ああ、おかげでその鍵師も死んだけどな」


 成程、そういうことか…ようやく腑に落ちた。鍵開けで失敗したせいで大事な仲間が死んだとなれば、そりゃ険悪にもなる。


「鍵師の俺がどうこう言ったところで解決するわけじゃないし、俺は俺のやることをやるだけだ」

「だろうな…。俺の直感だが、お前は信頼できると思う。さっきも都合のいいことを言わずに、自分の出来ることと出来ないことをはっきりさせてくれた。そういう姿勢はこちらとしても助かるんだ」


 日本でも、出来ないくせに難しい鍵の仕事を請け負って、余計に酷くする奴が結構いる。自分の実力の見極めができないと、鍵師なんて出来ない。


「ま、鍵に関しては任せろ。宝箱の取りこぼしなんてさせねえよ」

「おう、期待してるぜ」



 そんなやりとりをしているうちに、馬車はクランコに到着した。


 さて、客を案内しての初めてのダンジョンだ。無事に戻れるように気合入れていこう!

 

ミューリィは日常生活では少々お馬鹿ですが、その実力は知れ渡っています。

次回更新は21日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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