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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第6章 同業者にご用心
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決着です

襲撃事件も決着です。

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 深夜に男の絶叫が響き渡る。まさに魂の叫びという表現がぴったりな絶叫だ。


「目、目が、目がぁ!」


 ま、無理もないか。あれは唐辛子成分の入った催涙スプレーだ。熊ですら逃げ出すといううたい文句の超強力な代物で、一度目に入ったら30分は涙が止まらない。目を押さえて転げまわる男に少し同情するな…



 だが、この男の不幸はこれで終わらなかった。



「やーーーっ!」


 可愛らしい気合と共に、転げる男にジーナが何かを押し付ける。男はぴくぴくと体を痙攣させると、そのまま失神してしまった。ジーナがその手に持っているのは…まさか…しかも押し付けた場所は…


「やりました! ロックさん! ジーナと練習してたんです!」

「ロック! この道具すごいね!」


 ジーナが誇らしげに見せてくるのは…俺が持ってきた「スタンガン」だった。それをフル出力で押し付けた…男の股間に…


 可哀そうな黒尽くめの男…でもお前が悪いんだぞ? お前がセラを狙ったりしなければ…

これから男として生きていけるかはわからないけど。










「さて、これでくだらない策は皆潰れたわよ?」


 フランがさっきよりも冷たい声で言う。まさに絶対零度を体現したかのようだ。だが、流石に同情の余地は無い。自分達の不手際を誤魔化すために同業者を罠にかけ、それが失敗すれば実力行使なんてふざけた真似をしてくれたんだ。きっちり落とし前つけてもらわなきゃこっちの気が収まらない。


「た、頼む! 見逃してくれ! そっちは誰も怪我してねえだろ? な? 頼むよ!」


 これまたふざけた言い訳だな? ウィクルじゃこっちは全滅してもおかしくなかったっていうのに…


「どうするんだ、フラン? このまま始末してもいいんだが…」

「こんな連中、邪魔でしかないし…」


 デリックとロニーが不穏な発言してる…何も聞かなかったことにするか…


「その必要はありませんよ」


 聞き覚えのある凛とした声が響く。暗闇から歩み出てきたのは金髪縦ロールの御嬢様だ。


「リーゼロッテさん…」

「その連中は王国騎士団に差し出します。唯の野盗に成り下がった者達を誰が信用しますか? お前達がいる限り、この街の盗賊ギルドの信用は失墜するのよ。そんな害虫を放っておく訳ないでしょう? 」


 遠くから金属のぶつかる音が近づいてくる。漸く姿を見せたのは、全身鎧を着た10人くらいの集団だ。先頭には馬に乗った男がいるが、真っ赤なマントをつけて一際偉そうだ。

 きっとこいつらが王国騎士団なんだろう。


「騎士団の皆様、そこの黒尽くめ共が野盗です。襲撃されたのですが、彼等が撃退してくれました。…多分前科があるはずですから、思う存分尋問してください」

「わかりました。ご協力感謝します」


 …しかし、騎士団ってのも大変だな。やってることは警察官と大差ないみたいだし、深夜勤務があるあたりもそっくりだ。


 そんなこんなしてるうちに、黒尽くめ達は次々に捕縛されていく。モイスの表情はよく見えないな………ん、笑ってる? ………何かやばい感じがする。


 ジーナに追い討ちをかけられた黒尽くめの覆面を剥がす……出てきたのは金髪の男………

ロディは茶髪だったはずだ!


「まずい! 1人いない!」

「どうしたんだい? いきなり叫んで?」

「ロニー! 俺が勝負した鍵師がいない! 茶髪の不健康そうな顔したやつだ!」


 だが俺の焦りにも平然としているロニー。


「となると建物の中かぁ……大丈夫だよ、きっと」

「お前なぁ…何を根拠に…」

『探しているのは…これのことかしら』


 不意に倉庫の方から声がした。慌てて視線を向けると、中からノワールとサーシャが出てきた。ノワールは茶髪? の男を片手で引き摺っている。何故疑問形なのか…それは男の髪の毛がほぼ全て焼け焦げているからだ。

 その髪型は…そう、アフロだ! まさかこの世界でアフロに会えるとは思わなかった!


「倉庫内を物色してたから捕まえたんだけど、抵抗したから軽く焼いておいたわ」


 まるで酒の肴でも作るかのような口ぶりで言うサーシャ。


『ロックの作業場を漁ろうとしていたのよ? 私達の巣を荒らそうなんて、許せないわ』


 巣………いつから俺の作業場は巣になったんだろうか…


「ううう…鍵穴が…無いなんて…魔法が…」


 ぼろぼろの男がうわ言のように呟く。俺の作業場を狙うなんてやってくれるじゃねーか! でもあの部屋は…こっちの世界の常識からかけ離れた鍵だから、こいつにはどうにも出来ない。


「ロックの作業場の扉の前で何かやってたみたい。多分入ろうとしてたんだけど、何をやっても開かなかったみたいね」

「あー、あれは普通の鍵じゃないんだ。あれ専用の特殊な鍵が必要なんだよ。魔法みたいだけど魔法じゃない鍵…ってところだな」


 事前に鍵を付け替えておいて良かった…作業場には部外者に見られたらまずいモノが山積みだ。だってこの世界には存在しない物だらけだから。


「…ねぇフラン? あの窓のところにある物は一体何かしら?」


 余計なことを考えたら、案の定リーゼロッテが食いついてきた。


「そ、それは…その…ロックが…」


 …おい、何故そこでうろたえながら俺の名前を出す…そりゃ俺が付けたけど、この場はせめてフランが纏めてほしかった。いつの間に移動したのか、俺の後ろにいたディノが俺の足を杖で小突く。なるほど…うまくリーゼロッテを丸めこめってことなんだろう…。


「ロックさん…説明していただけますか?」


 さて…どんな理由を作ろうか…四駆も見られてるし、下手な説明をして喰い下がられても困るし…ここはひとつ、師匠の名前を借りるとするか。


「あー、俺がゲン=ミナヅキの弟子ってことは理解してくれてると思うが、俺も師匠もここからはるか遠く離れた場所の出身だ。もうそこは原因不明の災害によって跡形も無いが、そこには古代の遺跡があったんだ。これはその遺跡から発見された道具なんだよ」

「…古代遺跡の…道具ですか…」


 いまいち納得していない顔だな…俺もこの設定にはかなり無理があると思うが、ここで馬鹿正直に『異世界の道具です』なんて言ったらどうなることか…ましてやある程度自由に行き来出来るなんて知れたら…。


「ああ、でもその災害で遺跡の入口はおろか、俺の故郷の場所すら分からなくなってしまったんだ。これは俺と師匠が何とか持ち出せた道具なんだよ」


 師匠が異世界人だってことは、メルディアの者と孤児院の関係者しか知らないってことは聞いていた。しかも、そのことは勝手に口外できないように魔法で制約をかけられているそうだ。それを判断したのはディノらしいが、それを知られることの大きさを考えたら、皆反対しなかったとか。


 ちなみに、俺に関しても同様に制約をかけている。俺の場合はもっと立場が微妙らしく、やっぱり日本に戻ることが出来るってのが危険すぎると判断したらしい。先日、セラが魔法で制約を掛けられたって教えてくれた。そのせいで、母親にすら俺の出自を話すことはできないとのことだ。


制約をかけられると、俺が異世界人だと認識できる言葉が出てこないそうだ。普通の魔法使いがかけたものなら解除して聞き出すことも出来るらしいが、そこはディノがかけた制約らしく、これを解除するにはディノと同等の魔道士が数日がかりで解除しないと無理らしい。

 それほどの高位の魔道士をそこまで拘束することもなかなか出来ないし、そもそも高位の魔道士は国に一人いるかいないかなので、集めること自体が現実的ではないとのことだ。


「…それでは、これを供給することは出来ないんですか…」

「ああ、いくつかはあるが…それに、これは魔法が使えない人間のための道具だ。魔法でいくらでも実現できるから、大して凄いものでもないぞ」


 これは事実だ。ディノと色々話したが、基本動作を理解できれば魔法で同様の動作をさせることは可能らしい。魔法具に魔法陣で魔法を付与すればいいとのことで、色々と研究させてくれってせがまれた。


「…魔法が…」

「ああ、その遺跡には魔力を使うという概念自体が無いんだ。だから、俺は魔法が使えない。その分技術を磨くしか無かったんだが…」

「い、いえ、決してあなたを蔑んでいる訳では…」


 俺は俯いて言葉を濁した。この世界では魔法が使えない人間はかなり扱いが酷いと聞いていたので、それをトラウマにしているといったていで話してみたんだが…うまくいったようだ。


「だから、俺が魔法が使えないということは口外しないで欲しい…」

「ロックさん…」


 リーゼロッテは困惑気味だ。何故なら、騎士達が俺を見る目が、明らかに侮蔑を含んだものに変わったからだ。…まさかここまで明確に嫌悪されるとは思わなかったが…


『 忘却アムネシア! 』


 その時、俺の後ろにいたディノから魔法が放たれる。狙いは…リーゼロッテと俺の話を聞いていたいた騎士達だ。すると、リーゼロッテ達は呆けたように立ち尽くしている。その目は全く焦点が合っていない。


「すまんのう、ロック。時間稼ぎなぞさせてしまって」

「構わない…上手くいったのか?」

「ああ、あとは細かい仕上げをするだけじゃ」


 ディノはリーゼロッテ達に近づくと、何かぶつぶつと呟いている。あとはディノに任せるか…。


 今のディノの行動は事前に打ち合わせていたことだ。ギルドメンバーには制約をかければ俺のことが外に漏れることは無いが、それ以外の人間には制約をかけること自体が難しい。


 商魂逞しいリーゼロッテや、身分や素性に厳しい騎士や貴族は、俺が異世界人だと分かればどんな行動に出るか分からないから、もしそういう流れになりそうな場合は、魔法で記憶操作するということになっていた。その為の時間稼ぎがさっきの作り話だ。


「ほれ、これで終いじゃ。もう安心じゃろうて」

「すまない…余計な手間かけさせて…」

「構わんよ…わし等はそれを覚悟でお主をスカウトしたんじゃからの。それに、お主はわし等の期待以上のことをしてくれておるんじゃから、安いもんじゃよ」

「…しかし、聞いていたよりも酷い反応だったな…」


 リーゼロッテには屋敷で俺の魔法については話してあるし、彼女は仕事上色々な奴との付き合いがあるから、魔法に疎い人間とも付き合いがあるだろう。明確な嫌悪は無かった。


 だが、騎士達は明らかに俺を蔑んでいた。高名で顔も知られているディノがいたからスル―されたが、あの場に俺しかいなかったら、何かしら言いがかりをつけられて連行されたかもしれない。そんなことを考えさせる目だった。


「…私は一体…そうです! この者達を早く連行してください!」

「…は、はい! わかりました!」


 我に返ったリーゼロッテ達がバルボラの連中を連れていく。しきりに首を傾げているが、騎士達と共に行ってしまった。


「ところでディノ、どんな操作をしたんだ?」

「ほぼさっきの話に沿った感じじゃな。ただし、お主が魔法の才が無いというところは変えてある。お主は古代遺跡で受けた呪いによって魔法が使えんようになったと思いこませた。…これからは厄介な相手が出てくるとも限らんから、注意せんといかん」

「ああ、俺も極力自分の情報を出さないようにするよ」


 こうして、バルボラの襲撃は退けることが出来た。でも、これからが大変になることは一目瞭然だな。一番大きいギルドのバルボラがあんな状態では、その分の仕事を誰が担うかということで…その辺をフランが理解してるかどうかは分からないけど…。


 ま、俺は俺に出来ることをするだけだ。

リーゼロッテの困惑と騎士達のロックに対する視線は理由があります。

それは後々の展開に大きく関係します。

次回は17日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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