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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第1章 スカウトされました!
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話が違います!

ピッキングって、ほんとに凄い人は一瞬なんですよね…

実際に見て驚きました


「別にそんなに難しいことをやるつもりはない。こいつをどれだけ短時間で開けられるか、それだけだ」


 俺は作業場の在庫から2個の南京錠を持ってきた。もちろん新品だから、卑怯だのずるいだのということは無いはずだ。念のためにディノ爺さんに封を開けてもらい、新品であることを確認してもらう。


「お前、道具はあるのか?」

「勿論だ! ゲンから貰った!」


 見れば、懐かしい道具袋だ。師匠がずっと使ってたやつだ。結構古い物のはずだが、綺麗に使ってるようだ。道具の手入れはしてるかどうがわからんが、いかんせん古い道具が多い。後で新しいものを見繕ってやるか、一応兄弟子に当たるんだからな。


「それじゃ、合図でこの机から取り、開ける。早く開けた方が勝ち。いいな?」

「ああ、早くしろ」

「それじゃ、わしが合図をだそう。心配せんでも不正などせんよ。本当の実力勝負でなければ意味がないからの」


 俺は狐耳娘と作業台を挟んで相対する。南京錠は台の中央に2個置かれており、それぞれ何とか手を伸ばして届く位置だ。ディノ爺さんめ、良い仕事してやがる。さて…やりますか。


「始め!」


 ディノ爺さんの声に弾かれたように動きだす狐耳娘。南京錠を手に取ると、台に固定してピッキングを始める。澱みのないいい動きだと思う。そして十数秒後…


「終わった!」


 狐耳娘が宣言する。しかし、その目は大きく見開かれる。何故なら、その時既に俺は作業を終えて、腕組みして彼女の作業を見ていたのだから。


「どうして? 何で?」


 不思議そうに俺と自分の手を見比べる狐耳娘。別にどうってことはないんだが、妹弟子ってことで種明かししてやろう。


「おい、何で負けたか教えてやる。よく見てろ」


 俺は彼女の開けた南京錠を再び閉めると、左手に持った。右手には2本の針金。そう、俺は片手でピッキングしただけだ。だが、こういう技術は実際の作業で非常に役立つ。

 何故かというと、鍵のある場所が、常に作業しやすい場所だなんて有り得ないからだ。

 右手の針金を軽く弄ると、南京錠はすぐに開いた。ほんの数秒だ。


「お前のやり方は間違ってない。だが、それは鍵が固定できることを前提にしてる。実際には固定できない状態の鍵なんてざらにある。イレギュラーを如何にしてクリアするかが重要なんだよ。

ただ、基本はきちんと出来てるようだし、反復練習も欠かしてない。悪かったな、変に試すような真似して」


 俺はそう言うと、ディノ爺さんに向き合う。


「俺は別にそっちに永住したい訳じゃない。むしろ、こっちでの仕事もあるからな。お客の信頼が大事なのはそっちも同じだと思う。そのあたりが解消出来なければ、俺の方の話は無しだ。それが条件だな」

「つまり、二つの世界を自由に動けるようになれば、考えてもいいと?」

「まあな」


 俺もこの手の小説や漫画は見たことがある。向こうに行ったら帰れないとか、帰れても時間がかかるっていうのが定番だ。俺の要望は却下されるだろう。

 

 この狐耳娘もそこそこ腕はあるようだし、そう遠くないうちに一人前になるだろう。ディノ爺さんには悪いがな。


「大丈夫じゃ」

「はい?」


 思わず変な声で訊き返してしまった。おいおい、そんなこと勝手に約束して大丈夫なのか? 後で「やっぱり駄目」ってのは無しにしてくれよ。


「こちらと向こうなら繋ぐのはそう難しくない。わしらだっておぬしに会うまで十数回はこちらに来ておる。おぬし、いつの時代の話をしとるんじゃ?」

「そうだ! ゲンも時々里帰りしてた! 嫁を貰ったから墓がこっちにあるだけだ!」

「はあ?」


 何だよ師匠、嫁って。いきなり消えて、天涯孤独で死んだのかと思えば嫁だと? 心配してた俺が馬鹿らしくなってきた。


「嫁って、師匠結婚したのか?」

「おお、嫁が二人いるぞ」

「二人って…師匠、どうなってんだよ」

「まああちらでは一夫多妻は忌避されておらんしの。むしろ実力のある男には複数の嫁がいるのが普通じゃな」


師匠、アンタ何はっちゃけちゃってんの? いくら一夫多妻が認められてるとはいえ…まあずっと男手ひとつで俺を育ててくれてたんだ。色々溜まってたんだろうな。


「ところで、世界を行き来する方法って、どうするんだ?」

「簡単じゃよ。こちらに魔法陣を描いておいて、そこに居る者をあちらから転移させるんじゃ。送る時も然り…じゃな」

「何か拍子抜けだな」

「まあすぐに決めてくれとは言わんが、是非とも検討してくれんか。わしらはそこまで切羽詰まってるんじゃ」

「うう…頼む」


 狐耳娘がやけにおとなしくなった。何でだよ。意味がわからん。


「ずいぶん大人しくなったな。やりすぎたか」

「お前、ゲンみたい。すごい」

「自分の腕前を理解したようじゃな。どうじゃ、この者に弟子入りしては」

「なる! 弟子になる! 私、もっと上手くなりたい!」

「おいおい、まだ行くかどうか決めてないんだぞ」


 師匠が骨を埋めると決断した世界。確かに魅力的だ。しかもこっちと行き来できるなら特に問題はない。自分の腕前がどのくらいなのか試してみたい気もする。それに異世界の鍵ってのもすごく興味がある。かなり悩むな…。


「道具、見てもいい?」

「ああ、好きに見ろ…ええと、名前は?」

「アイラ」

「そうか…そう言えばお前の道具、手入れしてるのか?」

「手入れ? 何それ?」


 おいおい、頼むよ師匠。せめて手入れの方法くらいは教えてやれよ。


「道具はな、手入れしなきゃすぐに駄目になるんだ。教えてやるから覚えとけ。それから、工具は新しいのを使うようにしろ」

「でも…これはゲンの…」

「師匠の手とアイラの手では大きさが全然違う。道具についた癖も然りだ。古い道具は馴染みにくいから、新品を使って自分に馴染ませてやれ」


 俺はアイラを連れて工具の保管場所に向かった。アイラは新しい道具が貰えると判ったのか、とても嬉しそうだった。

読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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