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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第6章 同業者にご用心
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説明しました

ギミック説明です。最近の鍵屋はこういうシステムも扱ったりするんです。

「お見事です。その扉を初見で解除したのは、あなたが初めてです」


 リーゼロッテが拍手しながら近づいてくる。自分で言うのも恥ずかしいが、これだけのシステムを把握できる奴はそういないと言い切れる。日本でも研究施設などで見られる高度なセキュリティシステムに近いからかもしれない。


「実は、私達もこの扉については詳しい事は把握できていないんです。鍵開けに失敗すれば矢が射られるとしか…」


おい、自分達でも把握できてないものをぶつけるってどうなんだよ。何かあったらどうするんだ。


「それはあまりにも無責任じゃないのか? 把握できてない仕掛けをぶつけるなんて、何かあってからじゃ遅いだろう! 」

「その点はご安心ください、治癒魔法を使える者を用意しておりますので」

「…あの矢だって、当たり所が悪ければ即死だぞ? そうなったらどうするんだ?」

「…あの程度で死ぬような者がダンジョンで生き延びられるとお思いですか? 先ほどの鍵師も、あまりにも無防備に鍵を開けようとしました。ダンジョンではそれが命取りになることはロックさんも御存知でしょう?」


 悔しいが、リーゼロッテの言う事には一理ある。鍵開けに失敗すればパーティが全滅する可能性もあるんだから、一瞬でも気を抜くことはできない。ペトローザとしても、そんな温い覚悟の奴には仕事を回したくないんだろう。


「ああ、でも理解はするが納得はしてないぞ」

「それで十分です。理解すら出来ない方には当商会の仕事をしてほしくありません。モイスさん? あの鍵師の失態、ダンジョンならばパーティ全滅の可能性すらあります。そんなギルドに仕事を任せられるとお思いで? これで貴方達に仕事を任せない理由がお分かりいただけると思います。それではお引取り願います。…お客様がお帰りになられますよ!」

「ちょっと待ってくれ! 今あんたの所に切られたらウチはどうすれば…」

「それは貴方達の努力が足りないからでしょう? 故意に危険情報を隠して他のギルドの主力を亡き者にしようと考えるような恥知らずを、ただで済ますと思っているのですか?」


 やっぱりこいつらが原因だったのか…でなければ、ダンジョンに詳しいミューリィが見落とすはずがない。でも、ペトローザの仕事が無くなって干されたとなれば、この業界ではやっていけないと思う。破門状を回されたようなものだな…


「それではロックさん、先ほどの解除方法と、あの仕掛けの秘密を教えて貰えませんか?」

『それは私も知りたいわ』

「「 私達も知りたい! 」」


 そうだな、きちんと説明するのも解除した者の責任だ。


「まず、リーゼロッテさん。あんたはあの床が『重さ』で反応するっていうことは知ってたな?」

「はい、私の祖父から聞いていましたが、どうしてそうなるのかまでは…」


 やっぱりな、リーゼロッテを持ち上げた時、あまり騒がなかったから、何か知ってると思ったよ。でも、それがどういう原理かは解らないみたいだな。


「あの床は体重によって下がると正しい鍵穴が出てくるんだ。もちろん、シリンダー内部のトラップも曲者だったが、そっちは対処できた」

「成る程…それではあの矢の仕掛けは?」

「あれは鍵穴のトラップに引っかかると放たれるんだが、どうやって位置を認識してるかが解らなかった。でも、位置を把握できるものがあったんだよ」

「それは…何ですか?」


 ここまでは知らなかったみたいだな。ここからはそうそう解るものじゃない。


「それは―――影だよ。妙にあの床だけ明るいと思ったんだが、床の下のほうに魔力の流れがあった。おそらくトラップにかかった時点の影の位置に向かって矢を射るようにプログラムされていたんだと思う」

「それで…あんな格好をして調べていたんですね」

「ああ、できるだけ情報が欲しいからな。別にどうってことない」

「ロックさん、凄いです」

「さすがロック!」


 そんなに持ち上げられるほどのことでもないんだが…こういうシステムを考えたりするのも鍵屋…というかセキュリティを扱う人間にとっては凄く楽しい仕事だったりする。


 ちなみに、重量センサーを使ったセキュリティシステムは薬品会社によく使われている。特定の部屋への出入り口に設置して、入室時と退室時の重量が一致しないと部屋から出られない。試薬の盗難を防ぐためだ。試薬をカプセルに入れて飲み込んだり、肛門に隠すこともある。女性器に隠して持ち出す奴だっている。体内に隠しても、重さで判別すれば一目瞭然だ。


「それにしても、貴方は面白い方ですね。魔法ではなく、あくまで技術で解決するなんて、私は見たことありません」

「俺にとっては技術は武器なんだよ。俺が磨き上げてきた、最も信頼できる武器だ」


 俺の技術は俺の血と汗と涙の上に成り立ってる。研鑽を重ねた年月がそれを磨き上げた。俺にとっては唯一無二の、心の拠所だ。だからこそ、俺はこいつを裏切るようなことは絶対にできない。


 魔法ってのも確かに心に来るものがあるが、俺は素人だ。ウィクルでは偶々うまくいっただけであって、俺の武器じゃない。その辺りは弁えてるつもりだ。でも、そんなことは匂わす必要はないな…。


「俺は魔法が苦手…というか素養が無いらしい。だから、技術を磨く以外に生きる術がない。だから、ダンジョンには魔法の鍵を解除できる者と2人1組で潜るのが前提だな」

「…そうですか…技術だけでここまで…」


 リーゼロッテの訝しげな視線が俺に刺さる。でも、俺の一存で俺の情報を垂れ流すことはできない。核心部分はぼかしておくにこしたことはない。あまりこの話を続けていてもいい事は無いだろうし、話を変えるか…


「それで、俺を指名したのはこんな勝負に付き合わせるためか? それなら目的は果たしたから帰るぞ」

「…実は、あなたに非常に興味がありまして…ゆくゆくは当商会の専属になっていただければと…」

「「 引き抜き!? 」」


 弟子2人の表情が凍りつく。そりゃそうだろう、俺だって驚いてる。でも、俺としては評価してもらって嬉しい面もあるのは確かだ。魔法という存在が大きいこの世界で俺の技術が通用するってことだから。


「どうでしょうか? 悪い話ではないと思いますが」

「悪いが、その話は受けられない。他の奴を見つけてくれ」


 即答する俺。リーゼロッテは微笑みを絶やさないが、こめかみがぴくぴくと痙攣してる。これは断られるなんて考えてもいなかった顔だ。


「どうしてですか? 当商会の後ろ盾があれば鍵開けも安心してできますよ? 当商会が厳選したパーティならば、危険も少ないはずです」

「確かにそうだ。だが、俺はこいつらの師匠なんだ。こいつらを一人前の鍵師にするまではメルディアを離れるつもりはない。それに、他人のものを横取りするっていう考えが気に入らない」

「そのくらい、何処でも行われていることです!」


 声を荒げ始めたリーゼロッテ。


「悪いが、俺はそういう考え方は嫌いだ。フラン達がどれだけ苦労して俺に辿り着いたかをあんたは理解しているのか? 」

「そ、それは…」


 こういう所が俺の古臭いところだって同業者からよく言われてた。知り合いには、高い金で雇ってくれるところを転々としてる鍵師もかなりいる。でも、俺は金よりも仕事のしやすさで選ぶんだよ。

 

「俺はメルディアを気に入ってる。迷信とか信じる性質じゃないが、師匠が俺達を引き合わせてくれたんだと思う。それなら、俺がやらなきゃいけないことはメルディアで鍵師として働くことだ」


 リーゼロッテは一つ大きな溜息をつくと、これまでの表情を一変させて、射殺すような視線をぶつけてくる。きっとこっちがだな。


「…後悔しても知りませんよ? 私のところに来ればいい暮らしも出来ますのに…」

「そっちの顔のほうが活き活きしてるじゃないか。無理してすました顔をしてるのも辛いんじゃないのか? 」

「…余計なお世話です。これ以上は平行線ですね、今日の所は諦めますが、ダンジョンで油断して早死にしないでくださいね?」


 そんな油断はしない…って言いきれないところは辛いところだが、こっちの想定外のことが起こる可能性はあるんだ。『勇者』みたいに。


「そうだ、ちょっとした情報なんだが、『勇者』が転移術でダンジョンの最深部に突然現れてるそうだぞ」

「何ですって!」


 流石にこの情報には顔色を変えるか。ダンジョンの斡旋をメインの商売にしてる以上、これは聞き捨てならない話のはずだ。


「そのおかげで、ウィクルの難易度が上がったそうだ。情報の出所は理由わけあって言えないが」

「何で『勇者』が…そんなことをするような人達じゃないはずなのに…」


 勇者というのはいい人なのか? メルディアの主要メンバーからは毛嫌いされてたんだが。


「いい勇者と悪い勇者がいるんじゃないか? ウィクルに現れたのは勿論後者だと思うが」


 リーゼロッテはぶつぶつと何かを呟いていたが、すぐに営業用の顔に戻った。


「貴重な情報をありがとうございます。この話はダンジョン管理の責任者まで上げなければならないでしょう。最深部に転移で侵入するなど、前代未聞です。もしかするとその影響で被害者が出ているかもしれません」


 情報の提供者がダンジョンマスターの黒竜だってことは絶対に秘密だな。どんな事態になるか想像も出来ない。


「それじゃ、伝えることは伝えたから、帰るぞ」

「はい、お手数をおかけしました」

「本当だよ、まさかあんなシステムを解除させられるなんて思わなかった」


 俺の直球のイヤミにも全く動じないリーゼロッテ。だが、『勇者』の話を聞いた時にちょっとおかしかった。何か因縁でもあるんだろうか。


 まあそれは俺達には関係ない話だな。どう考えても嫌な予感しかしない。アイラとセラはさっきの引き抜きの話をまだ引き摺ってるようで、表情が暗い。


「心配すんな、俺はお前達を鍛え上げるんだぞ? それにメルディアの皆はいい奴ばかりだ。他に行きたいとは思わない」


 そう諭して2人の頭を乱暴に撫でる。2人は為すがままにされているが、その表情に漸く明るさが見え始めた。きっとペトローザに行ったら、こんなこと出来る相手もいないんだろうな…


「さて、それじゃ失礼させて貰う」

「それでは、解禁の日程については改めて伺います。それまでにお怪我などなさらぬようにしてください」

「…できるだけ気をつけるよ」


 リーゼロッテに見送られて玄関を出る。少し離れたところで四駆を出すと、漸く帰路につくことができた。結局はヘッドハンティングのスカウトを受けただけのような気もするが…この話はしないでおいたほうがいいかもな。

ちなみにロディの腕前はアイラと同等です。ロックの敵じゃありません。

次回は11日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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