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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第6章 同業者にご用心
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呼び出されました

「痛ててて…流石に昨日は飲みすぎたか…」


 俺は部屋のベッドから何とか体を起こす。久々に味わう二日酔いの頭痛に顔を顰めながらも窓を開けると、もう既に陽は昇りきっていた。何故二日酔いなのか…それは、昨夜ギルドに戻ってから、皆で朝まで飲んでしまったからだ。


 昨夜俺達が戻ってきたのは、日本で言うと夜10時くらい。それから色々と話してたら当然遅くなるわけで…流石にその時間から外出するのは危険ってことで、ギルドで一夜を明かすことになった。それに、タニアが俺達のために、店を閉めた後も残ってくれてたらしい。


「だって、みんなお腹空かせて戻ってくると思ったから」


 何て素晴らしい心遣い! おいちゃん嬉しくて涙が出てくるってーの! そんなわけで銀の羽亭に移動してのどんちゃん騒ぎになったって訳だ。おかげで樽酒は空になって、作業場から何本か酒を追加する羽目になった。驚いたのは、帰りが遅いのを心配したデリックの嫁さんが来てたことだ。しかも娘連れて。しかし、一番驚いたのは、デリックの嫁さんが若い! 聞いたら22歳だって! デリックは40代後半だってのに、しかも子供は5歳…ってことは、17歳の時の子供だよ。となると仕込みは16歳…おまわりさんを呼ぶ必要があるかもしれん。


 ちなみに、リルの説教を喰らってぐったりしていたミューリィは、リルから禁酒を言い渡されて不貞寝していた。説教の途中、俺に助けを求める視線を送ってきたが、俺にどうしろと言うんだ…


「ロック、まさかミューリィのこと庇うつもり? まさかそんなこと無いわよね? だってロックが居なかったら全滅の可能性もあったんだから」


 そう言って微笑むが、その目は一切笑っていなかった。俺は膝の震えが止まらなかったよ。だから、ミューリィには申し訳なかったが諦めてもらった。俺の判断は間違ってなかったはずだ。



「しかし…二日酔いなんて久しぶりだな。日本じゃ飲んでもそうそう酔わなかったのに、やっぱり慣れない環境で疲れてるのかもしれないな…」


 日本にいる時は、いくら深酒しても二日酔いなんてしなかったのに…まさかもう肝臓が? いや、そんなことはないはずだ…多分…


 俺が恐ろしい想像に震えながらも何とかベッドから出ようとすると、複数の気配がある。

うん、まあ大体想像はつくんだけど、一応確認しておこうか…。


 そーっと上掛けを捲ると…右にはアイラ…左にはセラ…まあ予想通りだ…面倒臭いことにならないように、起こさないようにベッドから抜け出る。何故こんなことをしなきゃいけないのか…それは、ベッドの脇に、昨日アイラとセラが着ていた服が脱ぎ散らかしてあるからだ。こんなところを誰かに見られたら、変な噂を立てられてしまう。


(よし、うまく抜けられた! あとは部屋を出てしまえば…)


 俺がそんなことを考えた途端、俺の足元にあった塊が動きだす。これはやばい予感がする。きっとここにいるのは馬鹿エルフだ! と思ったその時、ドアが開いた。


「おはよう、ロック、起きてる? …って何してるの?」


 ミューリィがジーナと一緒に顔を見せる。…ということは、ここにいるのは誰だ? 俺の疑問は、上掛けの中から出てきた人物が両断してくれた。


『ロック、もう起きた?』


 そこにいたのはノワールだった。だが………何故全裸なんだ! 見た目は小学校低学年の少女だし、そんな女の子の裸なんて見たところで興奮する訳でもない。ただ、そんな姿で一緒に寝てたなんてことが知られたことが…しかも見られたのが馬鹿エルフミューリィだっていうのが最悪だ。…しかし、俺の予感は意外な方向に裏切られる。


「良かった! 無事だった!」

「え? え? どうした?」


 無事って…俺はただ寝てただけだ! 何も手を出してない! そう、事故だ。これは不慮の事故なんだ! 


「ロック! 何ともない? 大丈夫?」


 え? 俺? 俺なの? 俺が心配されてるの?


「いや、特に何ともないが…一体何があった?」

「ほら、ノワールは服を着なさい。えっと、実は昨日の夜のことなんだけど…」


 ミューリィが話してくれたのは、昨夜…というか今朝、俺が眠った後のことだった。


 俺が部屋で眠った後、ノワールも眠ると言い出した。竜が夜眠るかどうかはわからないが、俺の部屋で眠ると言い張って譲らないノワールに、これだけ懐いているなら問題は無かろうと許可した。ところが、問題は起こってしまった。


 大丈夫かどうかを確認しようとアイラとセラが部屋を覗いたところ、そこにはベッドに横たわる俺の姿と、俺の傍で口を開けている黒竜の姿があった。


「ロックが食べられる!」


 そう思った2人は急いで部屋に入って確認すると、黒竜は眠っていた。どうやらノワールが寝惚けて人化を解いてしまったようだが、もしうっかり俺が噛まれでもしたら、命が無くなる。そう思って皆に相談した。何とかノワールを起こし、人化を解かないで眠るように説得し、それを了承したノワールがベッドに潜り込んだ。


「…ということなのよ。だから、心配してたのよ? また寝惚けてぱっくりいかれちゃったらどうしようかと思って。一応アイラとセラにはそのあたりを警戒して貰ってたんだけど」

「2人は俺の隣で寝てたぞ? それも皆の指示なのか?」

「…それは知らないわ」

「ソウデスカ…」

「…何でそんな話し方なのよ…」


 なるほど、そういうことか…俺はノワールが寝惚けたせいで喰われる可能性があったということか…うん、この部屋に大至急錠前をつけよう。それもかなり頑丈な奴を。寝惚けてぱっくりなんて死に方は勘弁願いたい。


「そんなことより、俺を起こしに来たってことは、何か用事があるんじゃないのか?」

「そうそう、フランが呼んでるわ。ペトローザの会頭から、あなたに指名依頼が来てるらしいのよ。詳しいことはフランに聞いて」


 それだけ言うと、ミューリィは戻っていった。俺は服を着たノワールを連れて部屋を出ると、階段を上がってフランの執務室に向かった。質素だが重厚な造りの木製扉をノックする。


「ロックだ、何か用か?」

「…開いてるから、入って」


 俺は軋むドアを開けて室内に入る…ってこのドア、扉の大きさの割りに少し重いな。たぶん蝶番が歪んでるんじゃないか? 後で少し調整してやろうかな?


「ちょっと座って待っててくれる? この書類だけ終わらせるから」

「わかった、ほら、ノワールも座れ」

『私はここがいいわ』


 待て、そこは椅子じゃなくて俺の膝だ。何故そこに座ろうとする。


「ノワール、ちゃんと椅子に座ろう。行儀悪いぞ?」

『ここが一番落ち着くと判明したから、ここが私の席。ここは命に代えても守る。最悪、これだけあればいいわ』


 俺が膝だけになったら…間違いなく死んでるな。竜の考えることはよく判らないが、守るのは膝限定かよ…。







「いいじゃない、ロック。お父さんみたいよ?」

「…なんだと…」


 フランが俺の向かいの席に腰掛けながら言う。俺はまだ20代だぞ? こんな大きい子供がいる年じゃない…って言いそうになってよく考えてみると、俺の同級生には子供がいる奴、結構多いことに気付いた。となるとフランの見立ても間違いじゃないってのが少々腑に落ちないが…


「ロックは異世界人だから違うのかもしれないけど、こっちでは15歳で結婚なんてのはよくある話よ? むしろ、20代で結婚相手がいなかったら、周りから変な噂立てられるわ。男だったら不能だとか、女だったら…その…レズ…だとか…」

「あー、そういうことか…」


 戦国武将の結婚のような感じかな? 豊臣秀吉だって、ねねと結婚したのは、ねねが14歳の時らしいし。…と、話が脱線しかけてるな、話を戻さないと。


「それはいいとして、俺に用事って何だ? ミューリィの話だと、俺に指名依頼が来てるらしいが…」

「そうなのよ、それもペトローザの会頭からよ。といっても、内容は顔合わせみたいなものかしらね。ここ最近、バルボラが鍵開けを立て続けに失敗して、死人も出てるの。おまけにその時にバルボラの鍵師が命を落としてる。だから、リーゼロッテとしてはロックの腕前をきちんと見極めておきたいんじゃない?バルボラのおかげで結構な額の違約金を払う羽目になったらしいし」

「でも、見極めって言われても、俺には魔法の鍵の解除は出来ないぞ? そもそも、魔法の鍵というものの原理すら解らないんだ。そんな奴のどこを見極めるんだよ」


 俺は無属性だから、属性魔法を反応させることが出来ないそうだ。だから、属性魔法で鍵を掛けられたら手出しできない。だから俺はアイラやセラと2人一組で行動する必要がある。そんな中途半端な奴をどう見極めるんだ?


「それがね…最近のダンジョンの鍵に変化が出てきてるらしいのよ。バルボラがしくじったのはどれも通常の鍵らしいの。魔法の鍵の解除は、初級の属性魔法が使えれば問題ないんだけど、通常の鍵は技術が要求される。だからというわけじゃないんでしょうけど、技術を要する鍵の比率が増えてきてるってことかしらね」

「それじゃ、今回の件は俺の鍵開けの技術についてってことか…」

「多分そう思っておいたほうがいいと思う。でも、念のためにアイラとセラも連れて行ってね。アイラもセラも魔法の鍵の解除は出来るだろうし、それにセラはリスタ男爵家の御令嬢だし、ペトローザとしても、ダンジョン管理で定評のあるリスタ男爵家に下手な真似は出来ないはずだから」


 ま、その気持ちは判らなくもない。これ以上失態を続けたら、自分達の面子が丸潰れだ。だから、その実力を自分達の目で見極めておきたいんだろう。特に俺は新参者だし。俺だって同じ立場だったら、まずはそいつの実力を見てから判断する。いきなり現れた奴に仕事を任せたりなんかしない。ということは…


「もしかして、新ダンジョンの解禁ってペトローザからの依頼か?」

「そうよ、よく知ってたわね。バルボラがしくじりを連発してるから、安定感のあるメルディアうちに話が来たのよ」


 上機嫌のフランだが、俺にとっては責任重大だ。俺が認められなければ、解禁の話は無かったことにされるかもしれない。藪をつついて蛇を出すわけにはいかないから、今回は辞退させて貰って…


「それじゃ、アイラとセラが起きたらすぐに向かってね。もう先方には話してあるから」

「おい、もしかして…もう返事しちまったのか?」

「ええ、ロックなら特に問題ないかと思って」


 問題大有りだ! そりゃ大概の鍵は開ける自信があるけど…


「出来れば、決める前に一言相談して欲しかった…」


 肩を落とす俺をノワールが見上げてくる。何かを確認するように俺を見てる。


『…今の話、私もついていくわ』

「わかったよ、好きにしてくれ」


 どういうわけか、俺はノワールがついてくることに何の違和感も感じなかった。ま、子供の姿だし、こんな子供がいる手前、向こうも荒事を起こすこともないだろうからな。さて、後は2人が起きてくるのを待つだけだな…。

次回更新は5日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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