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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第5章 本格的にダンジョンです
35/150

生還しました

 俺の時計で夜10時を回った頃、漸くギルドに着いた。まだ灯りが点いているので、皆が揃っているのかもしれない。倉庫に四駆を仕舞うと、俺達は疲れた体を引き摺って受付の扉を開いた。


「みんな! 無事で良かった!」


 フランが赤い目で出迎えてくれる。確かにこちらの世界ではこの時間は深夜に入るから、普段なら眠っている時間だ。なのに起きててくれるとは…流石にセラとジーナはソファで寝ていたが、俺達の声を聞いて起きてきた。


「ロックさん! 無事でよかったです…」


 そう言って泣きついてきた。アイラとも抱き合って喜んでいる。やはり相当心配かけたらしい。


「心配かけたみたいだな…申し訳ない」

「そんな…ロックが謝ることじゃないから」

「そうよ…悪いのは別にいるわ…ね、ミューリィ?」


 リルの感情が全く籠っていない氷の如き声が、そーっと外に出ようとしていたミューリィの動きを止める。まるでからくり人形のような動きで振り向くミューリィ。その表情は青褪めている。


「どうして先週・・の情報で動いてたの? 出発の前日に情報を確認するのは当然でしょう?」

「いや…あんなタイミングで難易度上がるなんて…考えてなかったから」


 ミューリィの事はリルに任せて…ってデリックとディノ爺さんが物凄く険しい表情を向けてくる。とは言っても俺にじゃない、俺の後ろから入ってくる少女に向けてだ。


「…ロック、その娘は何者だ?」

「…計り知れん力を感じる、巧妙に隠しておるようじゃが…」


 やっぱりこの娘のことは判るんだな、といっても黒竜ってことまでは判らないようだな。


「彼女はウィクルのダンジョンマスターの黒竜から預かった娘だよ。暫く結界に籠るから、その間に外の世界を見せてやりたいんだと」

「「「「「 黒竜! 」」」」」


 皆の顔が引き攣ってるな…無理もないか…竜だものな…


「心配しなくていいぞ? 俺達に敵意を持っていないから」

『ロックは私のお母様を救ってくれたわ。私はその恩を返すために来たの。皆と仲良くすればロックは嬉しい?』

「ああ、勿論だ」

『では皆と仲良くするわ。宜しくね』


 そう言ってぺこりと頭を下げる。そう言えば…


「ねえ、名前は何て言うの?」


 ジーナが聞いている。恐れを知らない猫耳娘だな…


『特にないから、好きに呼んでいいわ』

「それじゃ、ロックが付けてあげなさいよ。あなたに恩を感じてるみたいだし」


 フランがニヤニヤしながら話しかけてくる。その笑みは気持ち悪いぞ…


「そうだな…クロ子って言うのは…」

「「「「「 却下! 」」」」」


 女性陣の声がハモる。そんなに駄目か? クロ子…可愛いのに…。でもこれが駄目となると…黒…ブラック…ノワール…


「それじゃ、ノワールっていうのはどうだ? 俺の世界にある国の言葉で『黒』を表す言葉なんだが…」

『ノワール…うん! 私はノワール! いい名前をつけてくれてありがとう!』

「なかなかいい名前じゃない、黒竜に『名付け』できるなんて羨ましいわ!」


 興奮するミューリィ。そんなにすごいことなのか? 


「たかが名前つけただけだろう? そんなに大騒ぎすることじゃ…」

「「「「「 大騒ぎするわよ! 」」」」」


 いきなり怒鳴られた…何でだよ…


「まあまあ、ロックは詳しいことを知らんから無理もないじゃろうて。黒竜というのはこの世界では上位の存在なんじゃよ。それこそ神に近しい存在といっても過言ではないんじゃ。そんな存在に『名付け』するなど、王族でも出来んことじゃ。…ロック、このことは絶対に内密にしておくんじゃぞ?」

「あ、ああ、わかった。そういうことらしいから、ノワールも黙っていてくれよ?」

『わかったわ、内緒にしておくから』


 確かにそんな存在の子供がここにいるなんて判ったら、狙われるのは確実だな。それに…いきなり現れた「勇者」ってのも気になるな…。ま、気になるってだけで、どうこうするつもりは無いけどな。だって俺は鍵屋だし、そんな大層な奴とつながりなんて持つわけない。むこうも興味ないだろうから…。










「なるほど…ダンジョンの防衛機構か…興味深いのう。これまでダンジョンマスターの怒りと思われていたのはそういうことじゃったのか」

「ええ、母竜が言ってたから、間違いないと思うわ。確かにダンジョンマスターのさじ加減でどうにも出来るんでしょうけど」


 俺達は母竜の言っていたことを皆に伝える。いまいち半信半疑のようだが、ここに娘のノワールがいる以上、信じざるを得ないって感じだな。それに…


「勇者か…厄介な奴が出てきたのう。どこぞの王族が持ち上げてるんじゃろうが…わし等もいい印象は無いのう。転移でダンジョン最深部に侵入なぞ、常人の考えることじゃないわい」

「そうよ、もし私達みたいに初級の装備で潜ってる時にそんなことされたら…」

「初級の冒険者では上級のモンスターには勝てんじゃろう。一歩間違えれば大勢の冒険者が犠牲になるところじゃ。まあ、大体どんな方法でマーカーを仕込んだかも想像はつくがの」


 そんなこと出来るのか? もし出来るなら、一度は最深部に到達してるってことだよな?


「大方、奴隷を大勢つぎ込んで、物量で何とかしたんでしょ? その奴隷が死んだら、そこにマーカーが焼き付けられるように術をかけて」


 奴隷…そんな制度があるのは聞いていたが…要は使い捨てにしてるってことだろう?それでマーカー置かせて自分は安全なところから直接最下層へ…って真面目に攻略してる連中が馬鹿みたいじゃねーか!


「おい…そんなのが許されるのか?」


 俺はディノ爺さんとミューリィに聞いてみた。


「許されるわけないでしょ? そんな反則技、余程の金持ちしか出来ないわよ! それに、奴隷だって安い訳ないし。ダンジョンの最下層まで辿り着ける奴隷なんて、普通じゃ有り得ないから。…もしかすると、高レベルの冒険者を攫って隷属魔法でもかけたんじゃない?」



 相当怒ってるな…勇者ってのは魔王を倒すために旅をする奴のことを言うんじゃないのか? はした金もらって裸同然で魔王倒せって、何の罰ゲームだよ。でも…俺は鍵開けするだけだし、特に絡むことはないな…


「ロック、何安心してんのよ? 話を聞いてると、あなたが一番狙われやすいんだから」

「俺? 何で俺が?」


 何で鍵屋と勇者に接点があるんだよ! それに狙われるって物騒だな! でもどうして俺が…


「どうもその勇者は宝箱漁りが好きみたいだから、宝箱とかアイテム部屋の鍵とか、鍵開けの必要性は高いのよ。下手すれば隷属させられて、死ぬまで・・・・こき使われるわ」

「そんなに脅すなよ、ミューリィ…」

「脅しじゃないわ、相手には王族がバックについてるかもしれないとなると、そのくらい平然とやってくる。勇者ってのは他国への牽制になるほどの戦力なんだから」

 

 そういうことか…確かにいくらファンタジーの世界っていっても、そうあちこちに魔王がいるわけじゃない。未曾有の危機には各国が団結するけど、平和になれば団結した相手が一番警戒が必要になる。昨日の友は今日の敵ってやつだな。


 でも、戦力って言われ方してるってことは、相当強いんだろう。母黒竜にあれだけダメージを与えるなんて、そうそう出来る奴はいないと思う。


「勇者ってのは強いんだろうな…」


 俺の呟きに、ロニーが答えてくれた。


「勇者っていうのは、大抵、何かしらの『加護』を貰ってるっていうのが多いね。『加護』っていうのは、飛びぬけて高い能力のことを言うんだ。例えば、剣術が凄かったり、魔法が凄かったり。…でも、僕が聞いたことのある勇者は皆、品行方正で礼儀正しい人だったはずなんだよね。少なくとも、ダンジョン最下層にいきなり転移なんて狼藉は働かなかったはずだよ」

「その『加護』っていうのは、誰でも手に入るのか? 俺でもいけるのか?」

「無理よ。『加護』は属性が重要になってくるの。属性魔力が周りの精霊に反応して、強い効果のある『加護』を展開できるの。でも、ロックは無属性だから、精霊は一切反応しない。だから無理なのよ」

 

 ばっさりと斬捨ててくれました。ミューリィ、もうちょっと言葉を濁そう…な?


 落ち込む俺をスル―して、フランが纏めようとする。


「ともかく、今日は皆無事だったんだから良かったとして、今後のことを考えないといけないわね。今日はペトローザの会頭が来てたんだけど、ペトローザは今回のウィクルの立ち入り禁止の件は把握してたようよ?」


 それを聞いたミューリィが声を荒げる。


「ちょっと待って! 私はペトローザの詰所に確認しに行ったのよ? ペトローザがウィクルの状況を掴んでるのなら、その時に話があっても良さそうなものじゃない?」

「…それもそうね、今週に掲示があったとしても、その内容は先週くらいには把握してるはずだし…何か嫌な予感がするわね」


 確かに何か違和感を感じるな…まるで俺達がダンジョンに潜ることを知ってたみたいだ。でも、斡旋屋なら把握してて当然といえば当然か。何か大事にならなければいいんだが、こういう時の嫌な予感って、かなりの高確率で当たるからなぁ…。

非常識な勇者はしばらく登場予定はありません。

次回更新は3日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。感想・評価お待ちしています。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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