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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第5章 本格的にダンジョンです
34/150

預かります

作者お気に入りの鍵が登場!

「勇者だって? 何でそんなものがいるんだ?」


 珍しく声を上げたのはロニーだ。その顔は少々強張ってるようにも見えるが…何か関係があるのか?


『詳しいことはわかりませんが、先代のダンジョンマスターを討伐したのも勇者のようです。私達母娘は、先代に代わってここを治めるために来たんです。ただ…その勇者は、いきなり・・・・この部屋に現れたんです』


「「「「 何だって! 」」」」


 俺とアイラ以外が表情を変えるほど驚いてる。…たしかそういう反則技はまずいんじゃなかったっけ?


「それは…本当だとしたら大変よ! 下手すれば大規模遭難に発展してしまうわ!」

「もしかして、いきなりレベルが上がったのは…そのせいですか?」

『ええ、ルートを外れたので、ダンジョンの防衛機構が働きました。勇者は私に手傷を負わせると、消えてしまいました』

『あんな不意打ちじゃなきゃ、お母様が負けるはずない!』


 別に勇者がどうこう言うつもりは無いけどさ…もし同時に他のパーティが潜ってたら、そいつは責任取れんのか? 初級だと思って潜ったパーティがあの連戦を切り抜けられるとは思えない。


『勇者は先代の残した宝箱を漁りにきたようでした。私は何とかこの宝箱に自分を封じて、命を護るしか手段が無かったんです。娘を隠し部屋に隠して…』


 結局、今回の件は勇者がふざけた真似をしたからじゃねーか! しかし、勇者ってそんなに凄いのか? ロニー達は嫌そうな顔をしてたが…


「おい、ロニー。勇者だとよ」

「僕は関わりあいたくない」

「私も同感ですね」

「たぶん声がかかるかも知れないけど、お断りね」


 皆の評価がストップ安だな、まあこんな状態なら当然か。おかげでこっちは死ぬかもしれなかったんだから。


『勇者にはもう入ってきて欲しくありません。ですが、先代を倒した時にマーカーを置かれたようで…結界を張っても駄目みたいです』

「マーカーを置かれちゃうとね…相当な転移術の使い手がいるのかもしれないわ」


 こういう話になると俄然ミューリィが活き活きするな、ディノの話だと、ミューリィは次期族長候補だとか。あんな酒好きに任せて大丈夫なのか? あいつ一生酒飲めないんじゃないのか? ま、こっちにとっては酒が入らないほうが助かるが…。


「成程、これが『マーカー』ね。どうしたものかしら…」

「封印では駄目でしょうか?」

「そうなると、ダンジョン全体を封印ってことになるんだけど、それは避けたいわ。この母娘まで封印することになるから」


 ルークとミューリィが床に浮き出た魔法陣の前で色々と考えてる中、ガーラントとロニーは…寝てるよ! 昼寝タイムなのか? シエスタなのか? お前達はスペイン人か?


 俺は…とりあえず何もやることが無いな…アイラに鍵のレクチャーでもするかと思ったが、アイラも寝てる…起こすのも忍びないので、無属性魔法の訓練でもするか。魔力操作をしてると、黒竜の娘が声をかけてくる。


『それは…無属性魔法? あなたは無属性使いなの?』

「俺は属性に適合できないらしいからな。仕方なく…な」

『それなら、私が教えてあげる。魔力操作は出来るの?』


 俺は魔力操作を見せる。ほぼ独学だから、正しいかどうかわからないのが辛い。


「…こんな感じだな…」

『それなら、もう少しかしら…もっと自分の身体の中にあるものを意識して…』


 こんな感じで黒竜の娘からレクチャーを受けると、手から何か靄のようなものが出ているのが解った。あとは具現化するには…想像力か…俺が一番理解出来てる物と言えば…

 俺が細かく想像していると、靄のようなものは次第に塊になり、少しずつ形を変えていく。そして…一つの物体が生まれた。


「出来た! こんなのはどうだ?」


 俺の掌には、1個の南京錠があった。次いで鍵も具現化させる。おお!すげー! しかもちゃんと鍵も回る…って当然だろ! 回らない鍵作ってどうする。


『これは…鍵? あなたじゃなきゃ開かない鍵ね』

「何これ! 凄いじゃない、いつの間にこんなに上達したのよ」


 いつの間にかミューリィが覗きこんでいた。


「彼女に教えてもらったんだ。すごく解り易かったぞ」

「そうか、竜の使う術は無属性のものもあるからね」


 成程、そういうことか。無属性を教えるには無属性を使える者…当然といえば当然だ。もっと色々と試してみたいが、流石にこの場じゃ不謹慎かな。


「そうだ! ロック、今のでこのマーカーを『鍵』かけちゃえば? ここまで精密な『鍵』を作れる無属性使いなんて絶対いないから、もう使えないも同然よ!」

「それはいい考えですね、ロックの魔法の訓練にもなりますし」

『何か策があるのですか?』

『鍵をかけるの?』


 駄目だ…ここまで期待されたら…駄目もとでやるしかない。でも、考え方を変えれば、ここで実地訓練が出来るんだ。黒竜の娘は無属性の教え方が上手いし、こんなチャンスは無い。そうと決まれば、早速試してみよう。


「このマーカーってのはどういうものなんだ?」

「これはね、転移するための目印かしら。…扉と言った方が解りやすいわね。ここの『扉』を認識して、転移術で扉を開けるのよ。それなら、この『扉』に『鍵』をかけてしまえば…」

『向こうからは開けない…ということですね』


 そうか…扉か…それなら解りやすい。俺はマーカーとなっている魔法陣を凝視しながら、扉をイメージする。扉の種類は…鉄製の玄関扉だな…取り付ける錠前はいいとして、問題はシリンダーだ。ここは一つ、俺の知る限り最高級のシリンダーにしよう。それは「トライデントシリンダー」だ。


 トライデントシリンダーは、老舗錠前メーカーの「堀商店」の誇るディンプルキーだ。一見、ただの棒のような鍵に、小さな穴が3方向から空けてある。ピッキングはほぼ不可能だし、シリンダー自体の強度もあるため、ドリルでの破壊も難しい。そのかわり、他の国内メーカーのものよりもはるかに高価だ。高価故になかなか出回らず、これを見た空き巣は瞬時にピッキングを諦めるとも言われている。


 内部の構造なんて、死ぬほど覚えた。何も見ずに絵に描くこともできるくらいに理解してるから、内部を具現化するなんて楽勝だ。マーカーを扉とイメージして、その扉にトライデントシリンダーを組み込む。


 慎重に扉のイメージを維持しながら、扉を閉めるイメージを作る。しっかりとデッドボルトが噛合うのを確認してから合鍵を具現化する。ゆっくりと合鍵を差し込んで、静かに回転させるイメージを作り上げると、魔法陣が黒ずんだ色に変わった。合鍵を抜いて…施錠完了だ。


「…すごい…本当に『鍵』かけちゃったわ…」

「ここまで複雑な『鍵』ならもう大丈夫でしょう」

『魔力の流れを感じません、完全に閉ざされています』


 何とかうまくいって良かった…多分『鍵』が一番理解できているものだからだろう。やはり知識は必要だな。常時魔力を使う…みたいなことを言っていたが、全然疲れた感じがしない。本当に大丈夫なんだろうか?


「俺は全然疲れてないんだが、本当に大丈夫なのか?」

「あー、ロックは魔力だけは馬鹿みたいにあるから平気よ。むしろそれだけの魔力を使いきる方法を教えて欲しいわ」


 馬鹿みたい…それは褒め言葉じゃないぞ、きっと。


「それじゃ、あとは入口を封印して終わりね。入口は私が各属性の精霊にお願いして封印するわ。これでエルフか、相当高位の精霊使いにしか解除できなくなるわ」


 黒竜に説明するミューリィ。それにしても、ここは最深部だろう? どうやって外に向かうんだ? 上まで上るにしても、地下何階だ、ここは?


『ここから1階層まで、娘が転移で送ります。…そこで一つお願いがあるのですが、そこの人族の方、娘を預かってもらえませんか? 私はこれから封印の中で傷を癒します。どのくらい時間がかかるかわかりませんので、その間に外の世界を見せてあげたいんです』


 いきなりのお願いだな…気持ちは解らんでもないが…ずっと地下深くで一人でいるのは辛いだろうし…。もし彼女が望むならそれでも…


「大丈夫よ! 任せて! 面倒見るわ!」

「何勝手に決めてるんだよ! 俺の都合は関係ないのかよ!」

「別にロックに面倒見て貰うって訳じゃないでしょ? ギルドの皆で面倒見ればいいんだし。それに、幼体でも黒竜なのよ? ギルドの戦力アップになるわ!」

「ていうか、本人の意思を確認してからにしろよ!」


 黒竜の少女を見ると、満更でもない表情でにこにこ笑ってる。まさか…


『お母様を救ってくれて、ありがとう。この恩は絶対に返す。黒竜の命に懸けて』


 重い! 重すぎるよ! もっと軽く考えようよ! そんなに大事にならなかったんだし!


『ロックはお母様の命の恩人、命の恩人を蔑ろにする者など、生きる資格はない。でも、お母様は動けない。ならば娘の私が代わりに返すのは当然』

「彼女も乗り気みたいよ? これからよろしくね」


 はあ…もういいよ。これも異世界ということで諦めるよ。…何かどっと疲れた…とりあえず早く帰りたい…。色々とうるさくなりそうだけど…全てを擲って眠りたい…


 俺達は黒竜の娘と一緒に1階層まで戻った。外に出ると、陽が沈みかけてる。結構長く潜ってたような気がするが、そうでもなかったんだな。俺は鞄から四駆を出すと、安全運転で帰った。ちなみに、行きがけに見かけた野盗はどこにもいなかった。後で聞いたら、国の軍隊と鉢合わせしたらしく、全員捕まったらしい。ま、悪い事考える奴がどうなろうと関係ない。そんなことより、ゆったりと風呂に入りたい…こっちに風呂はあるんだろうか…







 ウィクルの最下層にて、母黒竜はその巨体を横たわらせていた。ほんの僅かずつではあるが、力が戻っていることを実感している。


 彼女はまどろみながら、自分を解放した人族の男を思い出す。彼女が自分を封じた宝箱は、これまで誰も開けることができなかった。だからこそ、避難場所にしたのだが、その男はいとも簡単に開けて見せた。いったいどれほどの知識と技術を持っているのか、全く想像できない上に、無属性魔法による「封印」…。


『それにしても、無属性しか使えない人族の成人を見たのは初めてですね…属性不適合者は例外なく・・・・、子供の頃に死んでしまうはずなのに…』

ロックの無属性魔法はチートっぽいですが、重大な欠点があります。


次回更新は1日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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