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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第5章 本格的にダンジョンです
32/150

非常事態です!

 俺達はウィクルの地下3層にいた。時刻は午後4時を回ったところで、正直なところ、探索のペースはかなり遅いとのことだった。何故遅いのか、その理由は簡単だ。


「みんな! 前方に大型2、小型3! 小型はたぶん蜘蛛! 大型はサソリとカマキリ!」


 アイラの感知能力が再びモンスターの気配を捉えた。一同は再び戦闘態勢になる。実はモンスターとの接敵が余りにも多くて、ほとんど先に進めていない。しかも、休憩できそうな部屋のほとんどが罠部屋というから困ったもんだ。俺は何してるかって? 俺はモンスターから逃げながら、扉の鍵を開けまくってる。罠部屋の場合、鍵開けはするが、そこに入るかどうかはミューリィの精霊魔法による感知で判断してる。今までは全部ハズレだったが。


「ミューリィ、これ、本当に、初級?」


 ロニーがサソリの尾を斬りおとしながら聞いてくる。これで初級だとしたら、上級なんて俺がいたら足手まといにしかならないぞ。本当に初級か?


「間違いないわよ! 先週のランク掲示でも初級のままだったんだから!」

「先週ですか? 今週は見なかったんですか?」


ミューリィが水の精霊魔法で蜘蛛を溺死させると、ロニーの質問に怒鳴り返す。ルークは俺の周りに防御結界を張ってくれる。俺はその間に、横にある扉の鍵開けをするが…


「ロック…またハズレ…」


 本当にアタリはあるのか? しかもモンスターの攻撃はすごいし、アイラもかなりへばっているらしい。斥候役を務めた後は、俺の傍で休んでる。結界の中だから安全だしな。


「兎に角、こんなところでエサになる訳にはいかねえだろう? さくさく倒して先に進むぞ!」


 ガーラントが気合を入れ直す。ロニーがカマキリの首を落として戻ってくると、ようやくモンスターが来なくなった。


「気配なし…たぶんしばらくは大丈夫…」


 アイラの気配感知にもかからない…ようやく一息つけるな。みんなも肩で息をしてる…少し休んだ方がいいんじゃないか?


「それじゃ、ここで休憩しましょう。結界を張るわ」


 ミューリィが何か呟くと、俺達のまわりを光が覆う。さらに何かを呟いてから、光の中心に座り込んだ。


「風精霊を飛ばしたから、近づいてくるモンスターがいたら反応するはずよ。とにかく…少し休みましょう、何か軽く食べておいたほうがいいわね」


 そう言うと、皆が鞄から干し肉を取り出して齧っている。でも…さっきの連戦がまたあるかもしれない時に、干し肉だけじゃ駄目だろう。


「栄養補給ならこれを食べてくれ」


 俺が鞄から取り出したのは…所謂カロリー○イトだ。俺はこの味があまり好きじゃないが、背に腹は代えられない。皆、不思議なものを見る様子で眺めているが、経験者のミューリィとアイラが躊躇いなく食べるのを見て、ようやく食べ始めた。


「なかなか美味しいじゃない」

「こんな場所で食べる物じゃないような気がしますけど…美味しいですね」

「俺は甘いの苦手なんだが…疲れてる時はありがたいな」


 なかなか評判がいいな、俺も食べるか…と封を開けようとしたところで、アイラが首から提げていた宝珠が光り出した。


「通信用の宝珠が…何かあったのかな?」


 アイラがそれを手に取ると、フランの焦った声が聞こえてくる。


『アイラ、みんな無事? ミューリィはいる?』

「どうしたの、フラン? こっちはモンスターのエンカウントが凄くて、中々進めないわ」

『ミューリィ、よく聞いて! ウィクルは最近、ダンジョンマスターが変わって難易度が上がったらしいわ! しかも上級扱いだって!』


 その言葉に一同唖然となる。


「そんな話、聞いてないわよ! 詰所の掲示板にもそんなこと貼り出してなかったし!」

『誰かが剥がしたんじゃないの? そんなことより、早く戻ってきて! ランクアップしてからは、誰も入ってないのよ! 調査もしてない上級ダンジョンなんて、命がいくつあっても足りないわ!』

「…わかったわ、今は皆疲れきってるから、休憩したら引き返すわ」


 どうやら、難易度が変わってるらしい。あれで初級なんて、何かの間違いだと思ったよ。蜘蛛だってクランコと比べたらチワワとグレートデンくらいの差があったし。


「やっぱり上級だったみたいだね? 久しぶりにモンスターに手応えあったからね」


 ロニーがさらっと凄いことを言う。ガーラントもそれに同調するかのように頷いている…お前ら、凄すぎるだろう…


『それじゃ、帰り道も気をつけてね』


 フランとの通信が切れた。皆は戻り支度を始めている。こういう決断の速さこそが生き永らえる秘訣なんだろう。


「それじゃ、戻りましょう。アイラ、斥候をお願い」

「うん、わかった」

『それは…困ります…』


 今、変な声が聞こえたような…


「ミューリィ、何か言ったか?」

「何も言ってないわよ? それよりも、まだ未調査のダンジョンになってたなんて…」

「未調査だと何がまずいんだ?」


 調査って一体何を調べるんだろう? モンスターの傾向と対策…みたいなものを調べるのかな?


「ダンジョンマスターの性格によって、そのダンジョンの性質が決まるの。未調査のダンジョンは、その性質が分からないから上級扱いになるのよ。様々な方向から調査をして、それから内部調査に移るんだけど、外部調査もしないで入るなんて…死んでてもおかしくないわ」


 それってすごく危険じゃないか! それに、ダンジョンマスターって誰?


「なあ、ダンジョンマスターって誰だ?」

「ダンジョンマスターは特に決まった種族はいないわ。ただ、普通の人族ではなれないわ。ダンジョンマスターになるには、凄く強い魔力の持ち主じゃなきゃ駄目なのよ。まあほとんどがモンスターだけどね。力をつけたモンスターがなるのが一般的で、たまに魔王とかがいたりするわよ」


 魔王! 魅惑の響きだ! やっぱり登場シーンはすごいのかな? 


「なるほど…まあそこまでのダンジョンには潜るつもりは無いけど」

『だから…困るんです!』


 再びさっきの声がする。今度ははっきりと聞こえた…まるですぐ側で話されてるみたいに…


「うお! 吃驚した!」


 いきなり俺の前に、漆黒と言うべき黒のドレスを着た少女が現れた。俺の声にすかさず反応したロニーが、見えないほどの速さで剣を抜くが…


「 !  まさかこれを防ぐなんてね」


 少女を分断するはずの剣を片手で掴んでいる。そこには驚きの表情は見られない。少女は俺に向き直ると、話しかけてくる。


『あなたは…鍵師ね…あなたに帰られては…困ります』

「…まさか…ダンジョンマスター?」


 震える声で問いかけるミューリィに対して、大きく頷くことで肯定の意を表す少女。


『やっと…見つけた…鍵師』

「…ああ、確かに俺は鍵師だが…」


 少女は俺を見つめてくる。その瞳は黒だが、瞳孔には金色の輝きがある。おそらく見た目にだまされたら拙い感じだ。それにしても、一体何事か…


『あなたに…頼みがある』

「駄目よ! その言葉に耳を傾けては駄目!」


 ミューリィが叫ぶが、少女がその手を軽く振るうと、何かに弾かれるように跳ね飛ばされる。そのまま壁に激突する寸前で、ガーラントが受け止める。でも、ダメージはしっかりあるようで、口の端からは血を滲ませてる。


「ミューリィ! 大丈夫か!」

「だ、大丈夫…よ、ロックは…護られてなさい」


 既に膝が笑っているのに、何とか立ち上がろうとする。おそらくまた攻撃を仕掛けるだろう。ロニーもガーラントも、アイラでさえ戦闘態勢だ。…俺は何も出来ないのか?


「…なあ、頼みって…何だ?」

『聞いてくれるの?』

「状況による。俺で出来ることなら引き受けるが、俺でも駄目なら…諦めてくれ。そのかわり、皆には手を出さないでくれ」

「駄目よ! そのまま帰ってこれなくなるわ!」

「あいつはまだまだ本気じゃない…おそらくだが、本気を出されたら全滅じゃないのか?」

「それは…そうだけど…」


 やっぱりな、そんな感じがしたんだよ。勿論、フル装備なら判らないが、今は初級の装備だ。こんなもので勝てるほど甘い相手じゃないはずだ。


「それに、俺達を殺すなら、もっと簡単に出来る筈だろ? それをしないのは、俺達が必要だからだろう? ………俺は納得してないが」

「でも…モンスターの言葉なんて…」

「あいつはそれなりに知性があるし、何か困り事があるようだ。それだけ聞いてからでも何とかなるだろう? 俺に頼みってことは『鍵』絡みだと思う」


 全員の視線が俺に集まる。そんなに見つめないでくれ、恥ずかしい。


「まああれだ、鍵のことなら任せてくれ!」


 俺は皆にそう断言すると、少女に話しかける。


「それで、頼みごとってのは何だ? 鍵のことなんだろ?」

『ええ…一緒に来て…』

「ちょっと待って!」


 ミューリィが呼びとめる。


「私達も一緒に行くわ! 私達は仲間だから!」

『…わかった…全員連れて行く…』


 少女がそう言うと、部屋が黒い何かに包まれる。まるで黒い光とでもいうようなものが少女を起点に発生した。その瞬間、俺の意識が飛んだ…。

次回は28日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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