装備を買います
ロックはチート持ちではないので、武器と防具は大事です。
俺は弟子2人の視線に射殺されそうになりながらも、ミューリィと一緒に街を歩いていた。っていうか、この馬鹿エルフがどうやっても離れない。こいつ、寄生生物なんじゃないか?
俺達が向かった場所は、キールの店だ。
「キール、居るんでしょ? 装備品を新調しにきたわ」
ミューリィの声に、奥からキールが出てきた。こいつ、寝起きじゃねーか、いい身分だな、おい。
「ロックの装備とセラの装備、あとはアイラのショートソードをお願い。請求はギルド宛てにね」
「おう、わかった。ロック、何か要望はあるか?」
「そうだな、鍵開けするのに腕が自由に使える形のものがいい。あまり重くないやつを頼む」
「頭はどうする?」
「手持ちのがあるから大丈夫だ。あとは膝当てがあるといいな、ブーツも自前のがあるから大丈夫」
キールは俺の体を目測で採寸すると、奥からいくつか持ってきた。
「この革鎧はどうだ? 軽いし、そこそこ丈夫で腕の動きの邪魔もしない」
俺は一つ一つ試着してみる。確かに軽いし、腕の邪魔をしない。その中で、3つ目に試着した鎧がとても気になった。色も黒っぽいこげ茶色で、華美な装飾もないが、なんだろう…心に訴えかけてくるものがある。今ここで手に入れなければ、2度と会えないような気がする。
「キール、これはどういった品なんだ?」
「おい…それは…どうしてそれを選んだ?」
キールが険しい顔をして聞いてくる。それに気付いたミューリィも、その鎧を見て驚いた表情を見せている。アイラとセラは何が起こったのか分からないといった様子だ。
「どうしてって言われても…何となく気になったとしか言えないが…それがどうかしたか?」
「ロック、その鎧はね、何かが封じ込められているの。何かは解らないけど」
「ミューリィでも解らないのか? 精霊魔法で判別できないのか?」
「悪いものではなさそうってのは解るんだけど、何がいるかってところまではね…実際に装備してみないとわからないと思うわ」
「なあ、ロック、嫌な感じはあるか? 無性に腹が立つとか、すごく悲しいとか」
「そういうのは無い。なんだか子供に裾を引っ張られてるような感じだな。それも、親からはぐれて迷子になった子供みたいな感じだ」
キールとミューリィが何やら小声で話している。何なんだろう? そんないわくつきの品には思えないけど…
「ロック、悪いがそれを貰ってやってくれないか? 金はいらん。それはうちの爺さんの頃からずっと売れ残ってるものなんだが、誰も気味悪がって貰ってくれないんだよ。どうやらそいつはお前が気に入ったみたいだから…頼む」
そこまで言われちゃ断れないな…、しかし、何で気味悪いなんて思ってたんだ、そいつらは。
「わかった、引き受ける。ただし、後で返せなんていうなよ」
「そんなこと言わねえよ! なんだかお前に着けてもらってそいつも嬉しそうだよ」
「それじゃ、次は武器ね、ロックは武器なんて持ってないから、ショートソードがいいと思うわ。試しに振ってみたら?」
俺はキールが用意してくれた小剣を振ってみる。…が、剣なんて使ったことないからよく分からない。そもそも、俺は戦闘職じゃないんだが…
「どうもしっくり来ないな…トンファーみたいなのは無いか?」
「トンファー? 何だそれ?」
流石にトンファーは無いのか…使ったことがある武器といったらそれくらいしかないんだけど…
「それなら、作ってもらえば? どの道、最初から戦闘に参加してもらう訳じゃないし」
「そうだな、それじゃ頼んでみるか」
「おう、どんな武器なんだ?」
「こういう形の武器なんだが…」
俺とキールはトンファーの詳細を詰め始めた。トンファーは昔ヤンチャしてた頃によく使ってた。防犯グッズの通販ショップでも買えるから、喧嘩でよく使ってた。
「なるほど、防具の役割も果たして、打撃棍としても使えるってわけか、面白え、作ってやるよ!」
これで武器の目途もついたな。ふと見ると、セラは杖と、ローブってやつか?魔法使いがよく着てるような服を買ったようだ。アイラは新品の小剣にほお擦りしてる。そんなことしてたら肌が切れるぞ。
「これで皆必要なものは買ったわね? それじゃキール、請求はギルドにお願い」
「ああ、いつも通りにしておくよ。ロック、トンファーは任せておいてくれ」
「悪いな、感謝する」
俺達はキールの店を後にする。すると、ミューリィが話しかけてきた。
「ロック、その革鎧はかなりの掘り出しものだと思うわ。何か封じられているみたいだけど、元々の拵えもいいし、何か悪いものが入っているならルークに浄化してもらえばいいのよ。キールの話だとタダでいいみたいだし、ラッキーだったわ」
そういうつもりじゃ無かったんだが…まあいいか、いいものが手に入ったことには違いないんだし。でも武器が無いのはちょっと…。
「ロックさん、武器はいいんですか?」
「そう言えば、あのクルマっていう道具の中に、斧みたいな剣があったけど…」
アイラが四駆に積んであった物を話題に出した。そうだ、アレがあった。アレなら急場しのぎの武器になるかもしれない。
「アイラ、よく覚えてたな、偉いぞ。アレは武器のかわりになるかもしれない」
思わずアイラの頭をわしわしと撫で回す。それを見ていたセラが頭を擦り付けてきたので、ついでに撫で回してやる。2人とも顔を赤らめながら微笑んでる。
ギルドに戻るなり、俺は四駆から、アイラが気付いたものを出した。それは、片刃で肉厚の、斧のような刀…つまり「鉈」だ。何で四駆に鉈があるのかというと、防犯カメラとかを取り付ける時、植栽の枝が邪魔になることがある。そんな時は依頼者に了承を貰って枝を落とすこともある。その時に使うのがこの鉈だ。普通の鉈より肉厚な特注品で、刃毀れも滅多にしない逸品だ。結構高価だったが、後悔はしていない。
「こんなのは武器にならないか?」
俺が鉈を鞘から出して見せると、皆が息を呑んだ。そりゃそうだろう、この鉈は日本刀の刀匠が打った名品だからな。意外なことに、物静かなデリックが食いついてきた。
「ロック、その剣を見せてくれないか」
「ああ、いいよ」
鉈を手渡すと、その刃紋の美しさに魅入っている。俺だって数時間眺めていても飽きないんだ、剣の使い手のデリックが魅了されない訳がない。その目はまるで子供のようだ。
「これだけ肉厚でありながら、刃先の鋭利さはしっかりと保たれている…それに刃に浮き出ているこの紋様の美しさ…これは既に芸術品の域に達している…」
そこまで言ってもらえるとこっちも嬉しいな、俺の見立ても間違ってないってことだ。すると、そこにフランが参加してきた。
「本当にいい剣ね、これなら当面の武器代わりになるわ。そうだ、ディノに頼んで付与魔法をかけて貰うといいわ。この剣なら耐えられるはずだから」
「付与魔法? 普通の剣じゃだめなのか?」
俺の疑問に、セラが答えてくれた。
「ロックさん、この剣は魔法に対する抵抗値がありません。これでは魔力を持ったモンスターには通用しないのはおわかりだと思います。そこで、この剣に魔法でコーティングするんです。そうすれば、斬れ味はそのままでモンスターにも対抗できます」
「それにね、普通の剣ではあまり強い付与魔法を使えないの、剣が耐えられなくて、却って脆くなるのよ。でも、この剣は違うわ。この剣、恐らくものすごい手間をかけて作られているんでしょうね、剣自体が持ってる力が凄いもの。これだけの力を持つ剣なら、相当強い付与魔法にも耐えられるはずよ」
ミューリィが補足してくれた。確かにこの鉈は丁寧に鍛造された逸品だからな、一打ち一打ち刀匠の想いが籠められた鉈だ。力があっても不思議じゃない。特に、この鉈は俺が頼み込んで作ってもらった。日本刀の打ち方で作ってもらった鉈だから、彼らも気合が入っていた。今の日本では、芸術品としての刀は打てるが、実用できるものは法律で作ってはいけないことになってる。だが、鉈という形ならば逃げ道にできる。彼らの技術を思い切りつぎ込めるんだ。彼らの想いが力となって宿っているんだろう。
「でも、俺が戦うようなことにならないのが一番いいんだけどな」
「そうね、ロックの戦いは『鍵』が相手だものね。その戦いには、私達は踏み込めないから、頼りにしてるわよ」
そう言ってミューリィが俺の背中をばんばん叩いてくる。お前、意外と力あるな…。
「フラン、そのメンバーでウィクルに潜るから、スケジュール調整をお願いね」
「はあ…わかったわよ。そのかわり、一泊だけよ? あまり長期間潜るとなると、他の仕事との兼ね合いがあるから。リルが激怒しちゃうわよ?」
「う…それは勘弁して欲しい…リルが怒ると怖いから…」
どうやらメルディアの最恐はリルらしい。…俺も怒らせないようにしよう。
トンファー…外国の警察官が警棒の代わりにつかったりしてますね。案外、日本でも手に入ります。
ちなみに、刀匠が実用目的の刀を打てないのは本当です。一応、武道の道具としての製作も許可されてます。
次回更新は21日の予定です。
読んでいただいてありがとうございます。