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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第5章 本格的にダンジョンです
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 その日は特にトラブルもなく、俺はアイラとセラに技術指導しながら、何気ない一日を過ごしていた。ここんところ、アイラの上達ぶりがめざましく、普通の宝箱程度なら問題なく開錠できるようになった。

 もっとも、ギルドの修練場の一角での練習なので、実戦での経験を積ませる必要がある。


 セラについては、どうも魔力を使って開けようとする傾向が強いようで、ピッキングツールに魔力を纏わせてるようだが、その弊害が出ている。ツールに魔力を纏う分、ツールが太くなり、違うピンを押し込むミスが目立つ。むしろ魔力を完全に遮断するほうが細かい感触は掴めると思うんだが…。


「ツールに魔力を通さないようにしてやってみろ、多分魔力が邪魔してる。それから、いきなり開けようとするんじゃなくて、ツールでピンをなぞるようにして探るんだ」


 構造は理解できているようだが、そこに至るまでの過程プロセスに問題ありだな。いきなり核心を突くんではなく、外濠から埋めていく慎重さが大事だ。


 ちなみに、俺はセラフィナのことをセラと呼ぶようにした。これはセラから言い出したことなんだが、セラという愛称で呼んでくれたほうが嬉しいらしい。ギルドのほかのメンバーにも頼んでいたから、俺だけ特別ってわけじゃない。


「…こうやって慣らしていけば、いずれ夫婦になったときに違和感が無いですね…」


 セラが何か呟いていたが、よく聞き取れなかった。まぁ、大したことではないんだろう。

と、そこにミューリィとフランが入ってきた。


「ロック、ここにいたのね、丁度良かったわ。今度正式にダンジョンに潜るんでしょう?その打ち合わせをしたいんだけど」

「フランに相談したんだけど、やっぱりパーティをしっかり組んで、連携の確認とかしないと許可出せないって」


 ミューリィがぽりぽりと頭を掻いている。こいつの適当さは了承済みだ。


「それでね、ロック。あなたからの希望メンバーはいるのかしら?」

「ていうか、そもそもどういう基準でパーティを組むのかも良く解らん。その辺から教えてくれると助かるんだが…」


 流石にゲームじゃないんだし、適当に決めるわけにはいかない。やはりここは経験者の意見を尊重しておきたい。


「そうよね、ロックの世界にはダンジョンなんて無いものね。まず、普通は4人から6人くらいのパーティが多いわ、人数はダンジョンの大きさにもよるから、特に決まりはないの。小さいダンジョンだと通路も狭いから、大人数で入ると却って動きがとれなくなるわ」


 成る程、当然だな。田舎の農道と片側三車線の大通りじゃ捌ける交通量も違う。ダンジョンで動きが取れなくなったところで強いモンスターに遭遇なんて洒落にならん。


「あなたの経験のために潜るのなら、あなたを護る護衛は必要ね。私の見立てだと、斥候、剣士、護衛、術師にロックってところかしら。あと1人くらい増やしても大丈夫だとは思うけど」

「ロックが慣れるまでだからね、安全のために6人か7人で行こうと思ってるけど…」


 ミューリィがフランに予定人数を言ってる。まとめ役も大変だな。


「ロックの技術優先だとすると、トラップ類は技術系が多いほうがいいわよね? それでいて近場となると…クランコはちょっと通路が狭いし…、ウィクルなんかどう? 最近の情報は出回ってないけど、その分荒らされてもいないと思う」

「そうね、ウィクルならそんなに強力なモンスターもいないと思うから大丈夫ね! あとはメンバー決めだけど、私とロックは確定として…」

「「 待って! 」」


 ミューリィの言葉に敏感に反応する弟子2人。


「どうしてミューリィが確定なのよ!」

「そうですよ、魔法なら私だって使えますよ!」


 まさに噛み付きそうな勢い…というか、アイラが牙を剥き出しにして怒ってる。ちょっと怖い…。


「どうしてって…精霊魔法の使い手がいたほうが有利なのは知ってるでしょ? 特にダンジョンではね。戦力的に考えて、私がロックの護衛についた方が確実だから言ってるの」


 ミューリィの言う事は正しい。情けない話だが、今の俺には戦う術がない。ということは必然的に誰かに護ってもらわなきゃならないんだ。


「ねえ、2人とも、ミューリィの言う事は間違ってないのよ。もちろん、ただ戻ってくるだけならあなた達でもいいかもしれないけど、ロックの場合は、その両手を傷つけることも出来ないの。鍵開け師にとって、その両手は絶対に守るべきものなんだから」


 2人はそう言われて黙ってしまった。でも、フランがそこまで理解してくれてるとは思わなかった。緊急事態でパニックになったときは危なっかしいが、普段はきちんと考えられるんだな…


「何? ロック、今変なこと考えなかった?」

「…いや、別に…」

「今の間が少し気になるけど…まあいいわ。とにかく、今回のは訓練だけど、何があるか分からないし、初心者のロックの安全を最優先に考えてメンバーを決めるから。これはギルドマスターからの命令・・と考えて」


 こういう時の勘は鋭いものがあるな…でも、ここまで気を回してもらうと少々申し訳ない気がする。俺も何か戦う術を持っておいたほうがいいのかもしれない。


「それで、誰が一緒に行くことになるんだ?」


 俺の問いかけに、フランが思案顔で返してくる。


「ロニーとルーク、アルバートかしら。あとアイラ、あなたも斥候として参加よ。それにミューリィとロックで6人ね」


 その言葉に反応したのが弟子2人だ。


「やった! ロックと一緒だ!」

「うう、私だって…役に立てるのに…」


 弾けるような笑顔で喜ぶアイラと、この世の終わりのような悲愴な顔のセラ。


「セラには悪いけど、まだあなたはダンジョンには連れていけないわ。そのかわり、地上での待機要員をお願い。何かあったときには突入してもらうことになるから」

「はい…わかりました…」


 あまり落ち込まれても困るからな…ここはフォローを入れておくか。


「もし俺達に何かあったら、頼りになるのはお前なんだ。安心して潜れるように待機しておいてくれ」


「 !!  はい! わかりました!」


 満面の笑みを見せるセラと俺を、フランとミューリィが生温い目で見ている。何だよ、あんな雰囲気のまま色々教える身にもなってくれよ。


「何だかんだ言っても…ねぇ、ミューリィさん?」

「本当よ、あそこまで軽くあしらうなんて…ねぇ、フランさん?」


 フランとミューリィが井戸端会議のおばさんみたいになってる。別に変なことは言ってないはずだけど…待機要員っていうのも大事な役割なんだし。あまり変な噂をたてないでいただきたい。


 と、ここで俺は重要なことに気がついてしまった。俺、どんな格好すればいいんだ? クランコの時は急ぎだったから、作業着に安全靴だった。鎧みたいのを着なきゃいけないのか? どうなんだ?


「なあ、俺はダンジョンに潜るとき、どんな格好でいればいいんだ?」

「え? 装備持ってないの?」


 ミューリィ…俺の世界にはダンジョンなんて無いんだよ。こっちの世界の装備品なんて、コスプレか映画くらいしか見当たらないよ。…でもまあ、一応それらしいものは持ってきてるんだけど、使えるかどうかだな。


「一応、向こうで準備したものがあるんだが…使えるかどうか見てくれないか?」


 俺は作業場に放り込んでおいた荷物の中から、目的のものを持ってきた。


「これなんだが…どうだろう?」


 俺が持ってきたのは防刃ベストに特殊警棒とスタンガンだ。


「これは鎧?それにしては軽いような…」

「これって棍棒かしら?」


 俺も使ったことないからわからないが、どうなんだろう? 物理攻撃なら防げるとは思うが…


「これは駄目ね、魔力が全然通らないじゃない。装備品は魔力が籠って真価が出るのよ」

 

 フランに思いっきり駄目出しされた。何で駄目なんだろう?


「あのね、ロック、ダンジョンのモンスターは殆どが魔力を持ったものなの。ということは、必然的に攻撃にも魔力が籠められているの。魔力が籠らない装備品では何の役にも立たないのよ」


 ミューリィがフォローしてくれる。成る程、そういうことなら納得できる。


「それじゃ、これはギルドに置いといてくれ、対人ならそれなりに意味があるだろう」


 今更返品なんて出来ないし、使ってもらえればそれでいい。あとはスタンガンだけど…


「これはどういうものなの?」

「こうやって使うんだ。このスイッチを押すと…」


 バチバチっという音とともに、放電させると、2人は驚いた表情を見せる。


「それって…雷?」

「雷魔法なんて、精霊魔法でも上位の魔法よ?」


 いや、そんなすごいもんじゃないから…でも、至近距離じゃなきゃ使えないから却下だな。


「これはこの部分を相手にくっつけなきゃ意味がないから、これも駄目だな」

「そうね、そんなに密接できるモンスターなんていないからね、リルかジーナの護身用にしたほうがいいかもね」

「フラン、ロックの装備は新調したほうがいいんじゃない? デリックに聞いたけど、男性用の斥候職装備は残ってないって言うから。ロック、時間があるなら装備買いに行きましょ?」


 おお! 「ぶきとぼうぐ」を買いにいくのか!


「「 私達も行きます 」」

「あなたたちは…まあいいわ、セラも装備が必要だし。アイラもショートソードが寿命っぽいから、新調しておきなさい」


 弟子2人の反応に、フランも呆れてる。でも、装備が重要なのは本当だからだろう、あっさりと同行の許可が下りた。…やっぱり最初の装備は「かわのふく」と「こんぼう」か?


「それじゃ、行ってくるわ。さあみんな、行くわよ」


 俺達はミューリィに連れられて、街へと繰り出した。何故かミューリィが腕に絡み付いてくる。それを見た弟子2人がすごい殺気の籠った目で見てくるよ。俺が悪いんじゃない、俺は無実だ。これは不可抗力なんだ!


「ロック、これからよろしくね。たぶん、私が相棒パートナーになるから」


 何か恐ろしいことを言われたような気がする。これが「しのせんこく」だろうか。


「まあ、ダンジョンに関しては任せて。私は精霊の声が聞けるから斥候もできるし、精霊魔法で護衛もできるから、色々と面倒みちゃうわよ。ロックがよければ夜のほうもね」


 弟子2人の顔が…鬼が…鬼がいる…頼むからそんな煽りはやめてくれ、この馬鹿エルフ!



 

パーティ選びは大切です。

次回更新は19日の予定です。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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