魔法です…
新章開始です。ダンジョンです。でもその前に…
異世界ファンタジーの王道、魔法!
期待に胸躍らせるロックにまさかの…
「なあ、爺さん。俺にも魔法って使えるのか?」
「多分、無理じゃろ」
ディノ爺さんは、土産のコーヒーを早速淹れて味わうのに夢中らしいが、いきなり即答されて、多少なりとも期待してた俺は少々凹んだよ、おい。
「それには理由があるんじゃ、そんなに気落ちするでない。此処では魔法を使うには、この世界に溢れる魔力に身体を馴染ませる必要があるんじゃ」
それは理解できる。俺は魔法の無い世界の人間だから、正直なところ、どうすれば魔法が使えるかが解らない。馴染ませるってのは、このあたりのことを言うんだろう。
「当然ながら、生まれたばかりの子供には魔法は使えん、魔力があってもじゃ。魔法を使うには、この世界の魔力と己の魔力を同調させる必要があるんじゃが、これは魔力が不安定な幼少期にしなければならないんじゃ。不安定な状態じゃからこそ、自分の魔力を同調させやすいんじゃ。そうすれば、自己の魔力を具現化させやすくなる。大人になってからじゃと、魔力が安定してしまい、同調が出来ないから、具現化の効率が非常に悪いんじゃ」
そう言いながら、掌に小さな炎を生み出す。
「この程度の炎ならば、ワシにとっては微々たるものじゃが、同調出来ない者にとっては全魔力を使っても出来ないんじゃ」
そうか、こればかりは仕方ない。この道の長い爺さんがこう言うんだから、俺には無理って考えるべきだろうな。…ちょっと悲しい。
「そう落ち込むでない、いくら魔法が出来んでも、魔法具なら使えるじゃろうて。魔法具なら魔力を流すだけで使えるからの。まずはおぬしの魔力の質を見てみるとするか。この水晶に手を翳してみてくれ」
俺は爺さんの言うとおりに手を翳すと、水晶がいきなり曇った。やばい、爺さんが渋い顔してる。もしかして壊したか?
「おぬし…なんて残念な奴じゃ…」
「残念…やっぱり駄目だったか…」
「いや、その逆じゃ。これだけ魔力量も多くて、魔力質も上等なのに、魔法が使えないとは本当に無駄遣いじゃ」
おおう…そっちの方でしたか…でも、それは仕方ないことだから、大して気にしてませんよ、本当に。
「じゃが、これだけの魔力量ならば、無属性が使えるかもしれん」
「無属性? それってどんな魔法なんだ?」
使える魔法があるって? それは嬉しい話だけど、どんな魔法かにもよるな」
「無属性の代表格は倉庫じゃな、亜空間に自分だけのスペースを作って品物を入れておけるんじゃ。重さも感じずに持ち運びできるから、道具の多いおぬしには丁度いいじゃろ。あとは完全固有魔法じゃろうて。完全固有魔法はおぬしの想像力が全てじゃ。倉庫は亜空間に干渉する魔法じゃから、この世界と同調する必要が無いんじゃ。完全固有魔法はその魔力を直接具現化させるものじゃ。どちらも魔力量が多いほど、力は強くなるから、色々と試してみるといいじゃろう」
そう言って、爺さんは俺に魔法を使うコツを教えてくれた。
「身体の中にある力を感じるところが重要じゃ。わしが操作してみせるから、それを感じとってみるがいい」
爺さんが俺の背中に手を翳すと、俺のへその辺り…東洋医学でいう丹田のあたりに、何か変な感じがした。でも悪い感じじゃなくて、それが全身を巡ってる感じがする。
「それを感じ取れれば第一段階はクリアじゃな、次はそれを思うように操ることが大事じゃ。こればかりはすぐにどうこうなるものではない、練習あるのみじゃ」
「それは理解してるよ。いきなり使えたら、爺さん達の立場が無いだろう? 俺だって、今日道具持った奴が高度な鍵開けをしたら、かなり落ち込むぞ」
こういうのは地道な反復練習が大事だ。基本を教えてもらったから、それを繰り返し練習していけばいい。応用は基礎をしっかり出来るようになってからだ。
「でも、基礎を教えて貰えただけでもありがたい。少しずつでも練習して、基礎を固めてからが勝負だな」
「そうそう、その意気じゃ。おぬしほどの魔力量があれば、完全固有魔法もいいのが出来るかもしれんぞ?」
「ああ、愉しみにしてる」
俺はディノ爺さんの部屋から出ると、修練場の片隅で魔力操作の訓練を始めた。
アイラが教えてくれようとしたが、
「ここはこうやって、ばーっとやって、ぐっとやればいいのよ」
それを理解できる人間はそうそういないと思うが…。すると、ミューリィまで寄ってきた。
「そんなの、すいっとやって、くるくるっとやれば誰でも出来るわよ」
難易度高ぇ…、魔力を「すいっと」とか「くるくるっと」ていう形容詞で表す操作方法を教えてほしい…
「あ、ああ、教えてくれてありがとう。助かったよ」
正直なところ、返って混乱してきたんだが、2人の満足げな表情に何も言えなかったよ。後でサーシャに聞いたら、
「こんな教え方で解る人がいたら、その人は天才でしょうね」
と、遠い目で言われた。その点は激しく同意できたので、何かあとであげておこう。
「ロックさん、こんなところにいたんですか?」
セラフィナが修練場にやってきた。俺が魔力操作を練習してるのを見て、途端に顔が明るくなる。
「ロックさん! わからないことがあれば私が教えます!」
それはありがたい。ディノ爺さんも忙しいからあまり見てもらえないし、自分でやるのは限界があるからな。
「それじゃよろしく頼む。俺は無属性なら何とかなりそうだって聞いたんだが、セラフィナは無属性って使うのか?」
「いえ…私は…あまり…」
いきなり声のトーンが落ちた…どうした?
「無属性というのは…所謂…その…属性魔法を使えない…落ち零れが使うというイメージがあるので…」
落ち零れ…ですか…嫌な響きだな
「でも、ロックさんは異世界人ですし、それは仕方ないですよ!」
「『倉庫』っていうのはどんな魔法なんだ?」
「それは…魔法の鞄という魔法具があるので、今はほとんど使う人はいません。その…収納する物によって魔力量が変わるので、魔力の無駄遣いの代名詞のような魔法なんです…ってどうしたんですか?」
俺はがっくりと地面に膝をついてしまった。なんだよ、無駄遣いって。
「で、でも、魔法具があれば誰でも同じようなことは出来ますから、そんなに落ち込むことはないと思います! それに、ロックさんは技術がありますから!」
うん、慰めありがとう。でも今はそっとしておいて欲しい…。俺が落ち込んでいると、サーシャが入ってきた。
「どうしたの、ロック? ディノ様から魔法の面倒を見てくれって言われたんだけど…」
「ん? ああ、俺には無属性しか適性が無いらしくてな、ちょっとショックなことがあったんだよ」
だって落ち零れとか、無駄遣いとか…異世界人の俺だから何とか耐えられるが、こっちの人間だったら人生辞めちゃうかもしれない。もう少し、言葉をオブラートに包むような、モザイクをかけるような…そんな優しさが欲しい。
「無属性? 何を教えればいいのかしら。無属性は簡単と言えば簡単だし、難しいと言えば難しいのよ」
「どっちなんだよ…よくわからないぞ」
サーシャが掌に小さな蝶を生み出す。
「これが無属性よ。他の属性を利用しないで、魔力のみで作り上げるのが無属性魔法なの。確かに魔力の使用量はすごく多いけど、具現化させることが出来ればかなり強いわよ。セラフィナ、この蝶を魔法で撃ち落としてみなさい」
「はい!」
セラフィナの前にたくさんの火の玉が現れる。これは…凄いのか?
「火の玉!」
火の玉は蝶目がけて飛んでいくと、小さな爆発を起こして蝶を飲み込む。
「やりました…えっ?」
爆発が収まると、そこには無傷の蝶が舞っていた。蝶はしばらく飛んでいると、サーシャの肩に止まり、そのまま消えていった。
「ね? 無属性で作りだしたものは無属性でしか壊せない。それに、無属性で何かを生み出すには、その内部までしっかりと理解してなきゃいけない。当然、それを壊すには、同程度の理解が必要になるの」
「サーシャさん、凄いです。無属性をここまで使いこなす人がいるなんて」
セラフィナが尊敬の眼差しを送ってる。確かにこれは凄い。
「ダンジョンの中には、属性攻撃を一切受け付けないモンスターもいるの。そんな奴には、無属性が有効なのよ。知ってて損ではないわ」
セラフィナが速球主体の本格派なら、サーシャは変化球主体の技巧派みたいなもんだな。
魔力量ではセラフィナの方が上らしいが、正直言ってセラフィナが手数でサーシャに勝てるとは思えない。これが実戦経験の多いサーシャの強さだろう。
「ロック、無属性魔法はあなたの想像力が全てよ。できるだけ細部までイメージできるものほど強く具現化するわ。まだ魔力操作の段階だろうけど、上手く魔力を扱えるようになれば、具現化させられるようになる」
細部までイメージか…銃とかイメージしたいけど、俺はミリオタじゃないから構造とか解らない。鍵の内部構造くらいしか…ん? 待てよ? …鍵?
「なぁサーシャ、こんなことは具現化できるのか?」
俺はサーシャに、思いついたことを話してみる。俺が詳しく知ってるのはこれぐらいだ。サーシャは暫く考え込むと、俺の両肩をがしっと掴み、真剣な顔で言ってくる。
「ロック、それはディノ様とよーく相談してからにしなさい。いいわね?」
「あ、ああ、そうする…」
あまりの真剣さに、思わず引いてしまった。何かまずいこと言ったかな? とりあえず、魔力操作の方法を教えてもらった。まずは体内の魔力の動きに慣れるところからだそうだ。
時間はかかるが、ゆっくりと進めていこう。
ロックがセラフィナに付き添われて魔力操作の練習をしている姿を、少し離れた場所から眺めているサーシャの姿があった。その表情は複雑だった。
「ロックって、本当に異世界人だって実感したわ…あんな魔法、もし具現化出来たらとんでもないことになる。本人にその自覚が無いのが困ったものよね…でも、ディノ様が気に入る理由も、何となく解る気がするわ」
属性魔法については、幼い頃から慣らさなければ使えないということです。
無属性は本人次第というところでしょうか、ただ、漠然とした知識では使えないので、全く人気がありません。サーシャは地味ですが、腕前は確かです。
属性魔法については例外があります。所謂チートと呼ばれる存在ですね…
次回更新は17日の予定です。
読んでいただいてありがとうございます。