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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第4章 一旦戻りました
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試食してください

ミューリィが真面目です。

「そろそろダンジョンに潜るから、お酒はしばらくお預けなの。お酒飲んでると精霊魔法が上手く使えないのよ」


 俺達はミューリィの走り込みが終わるのを待って、一緒に「銀の羽亭」に向かった。勿論、タリアへの土産も忘れてはいない。


「それじゃ、解禁なの?」

「ええ、その為に男爵家に根回ししてたんだから」

「私、解禁に立ち会うの初めてなんです」


 歩きながら、俺以外の3人が盛り上がってる。「解禁」ってなんだ? 鮎釣りの解禁みたいなものか?


「なぁ、解禁って何のことだ?」

「解禁っていうのは、新しいダンジョンを初めて攻略することを言うのよ。この街の周辺のダンジョンはリスタ男爵家の管理なんだけど、しばらく前から、新たなダンジョンの噂が出ていたの。それで、私がそのダンジョンの調査をしてたんだけど、ついに内部調査をすることになったの。それでね…その調査を、メルディアうちが任されることになったのよ!」


 新しいダンジョンだと? それはすごいことなのか? 俺にはよくわからんが…


「ロック、新しいダンジョンに入れるってことは、そこにある宝箱も手付かずの状態なのよ。誰も見たことないお宝があるかもしれないのよ?」


 アイラが耳をぴーんと立てて、俺に力説してくる。


「そうですよ、それに、ダンジョンのモンスター素材も、新種が期待できますから、冒険者達の垂涎の的なんです」


 セラフィナもいつもより興奮してるみたいだな。


「でも、どうしてウチなんだ? ウチは盗賊ギルドだろう?」

「ロックさん、メルディアは盗賊ギルドですけど、ダンジョン攻略ができるメンバーが揃っています。自前でメンバーを揃えられるギルドは貴重なので、お母様も重宝しているんだと思います」


 成る程、通常は戦闘職は外注してる盗賊ギルドが多いってことか。確かにウチはロニーやガーラントもいるし、他では出来ない仕事が出来るってことだな。


「それじゃ、鍵開けも必要になるってことだな?」

「そうよ、期待してるからね、一緒に潜るんだから。ロックのお手並み拝見ね」

「「 ちょっと待って(ください)!」」


 アイラとセラフィナが同時に声を上げる。


「どうしてロックだけなの? 私だって斥候で役に立つよ!」

「私は魔法でのサポートが出来ます。それに、男爵家の一員として、ダンジョンを管理する責任がありますから」


 そんな2人に対し、ミューリィは軽く笑って返す。


「斥候ならロニーにも出来るし、ロニーなら危険なモンスターも先制攻撃できる。魔法ならサーシャがいればいいわ、確かにサーシャはセラフィナに比べたら魔力は少ないけど、ダンジョンに上級魔法なんて必要ないのよ。小さな魔法をいかに効率よくぶつけられるかが重要なの。大魔法で仲間を巻き添えなんて洒落にならないわ」


 2人は何も言えずに項垂れている。ミューリィの言うことがどれだけ正論か、解ってるからだろう。多分、2人はダンジョンの経験が多くないから、連れていけないんだな。


「それなら、俺はどうなるんだ? 俺はダンジョンなんて1回しか入ってないぞ?」

「ロックは私達がガードするわ。鍵開けに専念してほしいのよ。どんな罠があるか解らないからこそ、きちんと攻略しないといけないからね。正しい攻略ルートを確立するのも、私達の大事な仕事だから」


 そう言えば、以前ディノ爺さんが言ってたな、正式な手順で鍵を開けないとダンジョンマスターが怒るって。正規のルートから外れるのも、その対象になるのかもしれない。


「鍵開けなら任せて欲しいところだが、どんな鍵が多いのかがわからない…その辺りの情報はあるのか?」


 クランコの迷宮では、扉の鍵開けだったからな。あれはちょっと特殊な動きをしていたけど、どのくらいの難易度で考えていればいいんだろうか?


「そうね…それは知っておくべきポイントね。それじゃ、解禁前にどこかのダンジョンに潜ってみない? そこで色々と覚えてもらえばいいし、アイテムやら素材やらで稼げるかもしれないから」

「それはありがたい、是非お願いするよ。…でも、その時のメンバーはどうするんだ?」

「それはフランに相談ね…流石に私とロックだけじゃ戦力不足だから」


 そうか…ダンジョン攻略か…昔やってたRPGみたいな感じなんだろうか? 少しワクワクしてきた。


 そんなことを話しているうちに、銀の羽亭についた。当然の如く、ロニーとガーラントがいた。ま、ギルドの隣だし、メルディアのメンバーなら食事はタダだしな。確かに味はいいから、態々他で金出して食うのが馬鹿らしく思えてくる。


「やあ、ロック、昨日は体調悪そうだったけど…大丈夫みたいだね」

「あんまり無理するなよ? お前さんの腕は安くはないんだからな」


 2人が心配してくれるのはありがたいんだが…昨日は俺が大人気なかっただけなんだよ…あまり持ち上げないでくれ…。 そうだ、2人にも酒を買ってきたんだった。


「2人とも、昨日は申し訳ない。お詫びという訳ではないが、向こうの酒を仕入れてきたから、味の感想を聞かせてくれ」


 俺は2人に、「七宝」のおやっさんから買った酒粕焼酎を渡す。2人は興味深そうに眺めていたが、やはりというかなんと言うか、早速開けて飲み始めた。


「これは…結構きつい酒だね」

「だが…意外に口当たりはまろやかだ。こんな酒は初めてだ」


 ロニーにはちょっときついみたいだが、ガーラントは気に入ったようだ。


「ねーねー、アタシには無いの?」


 タリアがカウンター越しに声をかけてくる。俺は樽酒をカウンターに置いた。


「これは俺からの迷惑料だと思ってくれ、これから色々と我侭言うから」

「我侭って?」


 怪訝そうな顔をするタリアの目の前に、各種香辛料と調味料を置く。


「香辛料と調味料だ。これがあれば色々と料理のリクエストが出来るだろ?」


 タリアは驚いた表情でそれを眺めてる。香辛料は高価だって言ってたな、向こうではそうでもないんだが…


「これ…胡椒だよね? 黒いのに白いのに赤いのまである。こっちは…ドライハーブ? それにこれ…塩じゃない! しかもこんなにたくさん! こっちは…ま、まさか…この真っ白なのは…砂糖? 何てもの持ってきたのよ! こんなに高価なものもらえないわ!」

「向こうじゃ酒より安いんだから、遠慮なくもらってくれ。また向こうで買ってくればいいだけだから。それと…これを預けておくよ」


 俺は「焼肉のたれ」の業務用サイズを渡す。もちろん、俺が封を開けてやる。


「これは肉を焼くときの調味料だ。これを絡めて肉を焼いてくれないか? それから、干した麺もあるから、料理に役立ててくれ」

「干した? 麺を?」


 これもこっちで気付いたことなんだが、パスタみたいな料理はあるが、どうも麺にコシがない。パスタというより、中国料理の刀削麺みたいな感じだ。それはそれで不味くはないが、やはりパスタはプツッとした歯応えを愉しみたい。


「ああ、向こうでよく食べられているんだ。お湯で茹でるんだよ。厨房を貸してもらえるか?」

「え? いいけど…どうするの?」

「まずは食べてもらおうと思ってね、そのほうが解りやすいだろう?」


 タリアに案内されて調理場に立つと、早速パスタを茹でる準備を始めた。水がめから大鍋に水を移し、かまどに乗せると、タリアが魔法で火をつけてくれる。沸騰した頃合いを見て、塩とパスタを鍋に投入すると、腕時計で時間を計る。だが、ここで終わりじゃないんだ。買ってきたパスタソースを使ってもいいんだが、今日は俺のアレンジパスタを作ってみよう。


「ガーリックの香りが強い料理だが、この後デートの予定があるやつは遠慮しておけよ!」


 俺の忠告を、皆が苦笑いしながら聞いている。あとで振られても知らないからな!


 作るのはぺペロンチーノだ。実は、こっちの油は結構香りが強い油で、弱い香辛料だと負けちまうみたいだ。だから、ニンニクを入れて、油のクセに負けないようにする。

 油を多めに入れたフライパンに、刻んだニンニクを入れて、焦げないようにして香りを出す。アクセントは、ベーコンじゃなくてツマミ用に買ったサラミだ。刻んだサラミをフライパンに投入すると、ここでキャベツらしき野菜をザク切りにしてフライパンに突っ込む。


「すごくいい香りね、ロックってまさか料理人なの?」

「向こうじゃ一人暮らしで、メシを作ってくれる相手もいない。となれば、必然的に料理の腕もそれなりにはなるさ」


 感心しているタリアを余所目に、仕上げに入る。時間を合わせて茹で上げたパスタをフライパンに投入すると、茹で汁を少々入れて混ぜ合わせる。本来ならぺペロンチーノは唐辛子だけど、ここには俺が買ってきた胡椒がある。ブラックペッパーの入ったペッパーミルを掴むと、これでもかという位、粗挽き状態の胡椒をまぶしていく。最後に軽く全体を馴染ませれば…完成だ!」


 どれどれ、少し味見して…と、うん、塩加減もちょうどいい。サラミから塩味が出る分、茹で汁の塩を控えめにしておいたのが良かったな。


「美味しい! それにこの歯応えも楽しいわ」


 試食をしてくれたタリアも合格点を出してくれたようだ。俺は残りのパスタを大皿に入れて、ロニー達のテーブルに持って行く。


「すごいな、ロックの手料理じゃないか」


 ロニーの呟きに、アイラとセラフィナが敏感に反応する。


「私も食べる!」

「私もいただきます!」


 早速小皿に取り分けて、食べ始める2人。一瞬だけ顔を綻ばせるが、すぐに落ち込んだ表情になった。


「美味しい…けど、これより美味しい料理…作れるかな…」

「こんなことなら、コックにもっと習っておくべきでした…」


 …つまり、2人は料理が苦手…と。


 気が付くと、パスタは殆ど無くなっていた。その大部分を食べたのはミューリィのようだったが、とにかく意外だったのは、ガーラントが思いのほか小食だったことだ。小皿に盛ったパスタだけで腹いっぱいらしい。


「それだけの量で足りるのか?」

「ああ、俺は少しの量を何回も食べるんだ。そうした方が筋肉がつきやすいらしいからな」


 ガーラントはこれ見よがしに両腕に力瘤を作って見せてくる。お前はどこのボディビルダーだよ。


 でも、そろそろ本気でダンジョンに潜る準備をしておくべきだな。それに魔法だ! 俺に魔法が使えるのか、あとでディノ爺さんに聞いてみよう。

 

作中の我流ぺペロンは好みが分かれますので、注意してください。サラミのかわりにコンビーフなんかもいいと思います。ロックの料理の腕前は結構ありますが、面倒臭がりなので、手の込んだものはほとんど作りません。


次回は15日くらいになりそうです。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
― 新着の感想 ―
[一言] 個人的にはベーコンの塩味で味わう野菜炒めが好きです 練り製品の塩味も好き
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