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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第4章 一旦戻りました
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戻って早々に…

 光が収まると、そこはギルドの倉庫だった。


「これで大丈夫です。魔法陣も安定してますから、これからは気軽に転移できますよ!」


 セラフィナが輝くような笑顔を見せる。アイラはどことなく機嫌が悪い…俺、何かやらかしたのか? しくじったのか?


「どうしたんだ? 何かあったのか?」

「…知らない!」


 車を降りるなり、走っていくアイラ。一体何があったんだ? 


 倉庫を出てギルドに向かうと、中ではロニーとガーラントが待っていた。


「おかえり、ロック。一旦向こうに戻るって聞いてたから、お土産もらいに来たよ」

「結構な量の荷物があるんだろ? 力仕事なら任せろ!」


 これはありがたい、早速手伝ってもらおう。…とその前に、とりあえずの置き場所を聞かないとまずいな。聞くのはデリックか?


「デリック、俺の道具なんだが、何処に置いたらいいんだ?」

「そうだな、今は倉庫なんだよな? なら倉庫の空いてるところを使って構わない。倉庫の奥にはゲンが使っていた作業場もあるからな、良ければそこも使ってくれ」

「わかった、ありがとう」


 師匠の使っていた作業場か…まさか俺が使うことになるなんて思っていなかっただろう。

感慨深いものがあるな。 とりあえず俺、ロニー、ガーラントの3人は倉庫に向かう。確かに倉庫の奥に扉があるが…俺はそこにあるものを見て、そこが師匠の作業場であることを確信した。


「この南京錠…やっぱり師匠のだ」


 師匠がよく使っていた南京錠だ。よくこのタイプで練習させられてたな…でも、施錠されてるってことは、誰か使ったのか?


「ここは誰か使ってるのか? 鍵掛けられてるが…」

「どうだ、場所は分かるか…って何やってるんだ?」


 様子を見に来たデリックが覗き込んできた。俺は扉に鍵が掛けられてることを説明する。


「いや、今は誰も使ってないはずだ。ゲンの道具を欲しがる同業者が多かったんで、ここだけ鍵を掛けたんだ。アイラがゲンの持ってた錠前を使ったらしいが…」


 俺はデリックの後ろから覗く視線に気付いた。アイラの妹のエイラだったよな、確か。何でこんなところにいるんだ?


「ロックお兄ちゃん、お姉ちゃんと一緒じゃないの? 向こうの世界に行くって言ってたから、お土産貰おうと思って来たんだけど、見当たらないんだよね」


 ふさふさの尻尾を振って話す姿が何とも言えない。でも、アイラは走って出て行ったからなぁ。


「俺も知らないんだよ、さっき走って出て行ったところまでは知ってるんだが…それにちょっと機嫌が悪いような気がする。セラフィナとも張り合ってるような感じだったし」

「…セラフィナって誰? お兄ちゃんの恋人?」


 エイラが怪訝そうな表情で聞いてくる。何でそうなるんだよ。


「そんなわけないだろう? フランが預かった貴族の娘の面倒を見てるだけだ、一応は弟子ってことになってるからな」

「…もしかして、お姉ちゃんロックさんに説明してないの?」

「説明って何の?」


 エイラが頭を抱えて蹲る。


「お姉ちゃんって本当に馬鹿! いつもいつも馬鹿だとは思ってたけど、やっぱり本当に馬鹿!」


 突然立ち上がると、大声で叫ぶエイラ。俺達は呆気に取られてる。


「どうせその辺の陰に隠れてるんでしょ? 私達のこと説明しないでロックお兄ちゃんが解るわけないでしょう? 本当に馬鹿なんだから!」

「誰が馬鹿よ! 適当なこと言わないで!」


 アイラが中に入ってきた。顔を真っ赤にしてるな。


「馬鹿でしょ? ロックお兄ちゃんに何の説明もしないで解るわけないでしょ? こっちの世界でも、狐人族の習性を知ってる人なんて、ほとんどいないんだから! それで1人で腹立ててさ、それが馬鹿じゃなくて何なのよ!」

「う…だって…」


…俺の知らないところで一体何が起こってるんだ?


「何々、どうしたの?」


 何故こんな時に限って馬鹿エルフミューリィが来るんだよ! 悪い方向の結末しか思い浮かばない! 馬鹿エルフは俺とアイラを見比べると、納得したような顔でアイラに諭す。


「アイラ、ロックに説明してないでしょ? ロックは狐人族のことなんて解らないのよ、そんなのもわからない女が「嫁」を名乗ることなんて、出来るわけないでしょ? 」


 …待て…今、聞き捨てならない発言があったな…「嫁」って一体何のことだ?


「おい、嫁ってどういうことなんだ? 誰か結婚するのか?」

「何言ってんの? あなたの嫁のことよ」


 はあ? いきなりすぎて全然ついていけないんですけど…


「俺の嫁ってどういうことだ? いつ俺が嫁をもらったんだ?」

「やっぱり何も聞かされてないわね…アイラ、あなたこんなやり方で満足なの? ロックが納得できなかったらどうするの? まさか幻術で幻覚でも見せるつもりなの?」

「違う! そんなつもりじゃない! ただ…」

ただ・・何なの?」

「その…最初の…印象が悪かったから…好きになって貰えないと思ったから…」


 …つまり、アイラは俺に気がある…と、でも最初があんなだったから、俺に嫌われるかもしれない…でも、きちんと話をするのも出来なかったということか。


 でも、何でそんなことになったんだ? 好かれる要素は無いはずだが…


「ロック、あなたアイラと勝負しなかった?」

「そう言えば、最初に会ったときに『鍵開け勝負』したな。俺が勝ったらお前を鍛えなおす…とか言ってた記憶がある」

「成る程ね、これが原因か…。あのね、ロック、狐人族には昔から、勝負に『結婚』を賭けることが多かったのよ。最近では珍しい慣習だけど、女性が男性を選ぶ時にはまだ行われてるって聞いたわ」

「だって…私より腕も立つし、それに、色々教えてくれるって言うから…こんな人の嫁になれたらって…」

「ちょっと待ってください!」


 突然の少女の声に全員の動きが止まる。その声は入り口のほうから聞こえた。その声の主は…セラフィナだった。


「アイラさん、どういうことですか? あなたの様子から、てっきり私はロックさんがあなたの婚約者だとばかり思ってました。でも、何も話していないのに、私が居るのを拒むなんておかしくありませんか? そういうことなら私も遠慮しませんよ、私はきちんと話します。ロックさん、私はあなたと結婚したいと思っています。私をあの恥辱から解放していただいたこともありますが、何よりその腕前は素晴らしいものです。私もその技術を教えていただいて、ゆくゆくはロックさんの妻として支えていけたらと思っています」


 えーと、セラフィナはあの件が切欠で、俺に気がある…と。だけど、セラフィナのはちょっと違うような気もするんだよな。所謂、つり橋効果みたいなものだと思うんだが…でも、技術を覚えたい気持ちは2人ともしっかりとあるんだから…


「とりあえず、2人の言い分はわかった。でも、これだけは言っておく。俺はまだ嫁を貰うつもりは無い。それは、まだ俺が一人前と自信を持てないところだ。はっきり言って、10年くらいの経験なんざ、素人に毛が生えた程度のものなんだよ。そんな状態で嫁なんて貰うわけにはいかないんだよ」


「「 ロック(さん)」」


 2人の悲しそうな声が俺の名を呼ぶ。だけど、こういうことはしっかりとケジメをつけておかないと拙い。


「別に一生独りというつもりもない。それに、俺はお前達を一人前にするために、弟子にしたんだ。お前達がまだひよっ子なのに、そんなこと考えてられないんだよ。俺の嫁の心配するなら、せめて一人前になって俺を安心させてから言ってくれ」


 項垂れる2人に、鈴花の店で買った袋を押し付ける。…急に疲労感が…


「悪いが、荷物は明日降ろすよ。ちょっと疲れたんで、部屋で休ませてもらう」


 俺は倉庫を後にした。確かにこっちじゃ結婚とか早いんだろうなって思ったよ。だけど、まだ俺にはそんな気持ちが無いのは本当だ。そりゃ好きって言われれば嬉しい、結婚してくれとか言われて嫌な奴は少ないだろう。しかも、アイラもセラフィナもかなりの美少女だ。


 でも、2人を鍛えると言った以上、それは守らなきゃならない。俺に何かあっても、その技術で生きていけるくらいにはしてやるのが、俺の役目なんだ。甲斐性なしとか言われるかもしれないが、こっちでは、俺は誰かを守りながら生きていけるほど強くない。ただ、鍵開けの技術が他よりちょっとだけ勝ってるだけだ。だから、今はそんなこと・・・・・にかまけている場合じゃないんだ。


「2人には悪いことしたな…もうちょっと言い方ってものがあるだろうが! …本当に成長してないな、俺は」


 俺はベッドに寝転がると、自己嫌悪に陥りながらも、眠りに落ちていった。






 ロックが居なくなった倉庫には、アイラとセラフィナの泣く声が響く。ロニーもガーラントもデリックも、どう声をかけていいか分からないといった顔をしている。


「どうしたの? ロックが具合悪そうな顔で部屋に戻ったんだけど…」


 リルが様子を見に来たのだが、場の状況を理解できていない。


「2人がね、ロックにきちんと話もせずに恋人気取り、嫁気取りしてるから、ロックが怒っちゃったのよ。まぁ若いから突っ走りたくなるのも解るけど」


 ミューリィの説明に、漸く合点がいったリルは、泣き続ける2人を諭す。


「ロックはすごく真面目な人よ、あれだけの腕があっても向上心を忘れない。だからこその腕前なんだろうけどね。だからこそ、今、色恋に惑わされたくないんだと思うの。そのあたりを解ってる?」


 泣きながらも首を横に振る2人に、溜息をつきながらも続けるリル。


「それにね、ロックはギルドうちのことも理解してくれてるわ。ロックは異世界人だから、魔法は使えないと思う。剣も弓も使えないし、敵と戦ったこともないはずよ。そんな人がこっちで生活する、ましてやダンジョンに潜るとなると、いつ命を落としてもおかしくない。

でも、自分の技術をあなた達に残しておけば、ギルドもあなた達も何とか生き残れる…そういう覚悟を持っているのよ。ゲンという鍵師が死んで、私達が苦しんだことを重く受け止めているの。あなた達にそれが出来るの?」


「「 無理です」」


 2人の返事に、少し表情を柔らかくしたリルは、2人の手に持っている袋を見て、優しく諭す。


「2人とも、その袋の中身を見てみたら?」


 袋を開けて中身を取り出すと、思わず声を上げた。


「「 うわぁ 」」


 そこにあったのは、ロックと同じデザインの作業着。背中にはロックの作業着と同じマークがついている。そして…


「これ…私の名前が入ってる…」

「私のも…あります…」


 2人専用の、「名入り作業着」だった。作業手袋に安全靴まである。


「あなた達がどんな思惑で弟子になったのかは知らないし、知りたくもないわ。でもね、ロックはあなた達を、弟子としてしっかり教え込むつもりなのよ。もし、自分に何かあっても、自分の代わりが出来るようにってね。彼が紋章しるしを背負わせるということは、そういうことなのよ」


 2人は作業着を抱きしめ、さらに涙を流す。


「もし、あなた達が本気・・で彼に認めて欲しいのなら、まずは考え方を変えなきゃ駄目よ? そういう気持ちを持つのは悪いことじゃないわ。でも、彼が自分の仕事にどれだけ誇りを持っているかは理解しなさい。誇りを踏みにじるような女を、好きになる男はいないんだから」


「「 はい 」」


 リルは2人を促すと、皆と一緒にギルドに戻った。


(とりあえずロックが真面目なおかげで助かったわ、男爵令嬢を狙ってる貴族連中は多いし、下手に手出しされてたら、ギルドの息の根を止められかねないわ)


 実は、かなり危険な状況だったことを理解しているのは、リルを含めた数人だけだった。勿論、フランは除外されていた。


ロックは女性に対して、なし崩しにどうこうするということを嫌います。

彼女たちもきちんと言葉にしていれば…

次回更新は11日の23時になると思います。

読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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