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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第4章 一旦戻りました
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仕入れです①

 光が収まると、そこはいつもの作業場だった。アイラは落ち着いていたが、セラフィナは緊張の面持ちで辺りを見回していた。時間は向こうとほぼ同じらしく、作業場の時計は朝6時を回ったところだった。


「とりあえず降りてくれ、部屋に案内するから」


 俺は2人を促して、作業場の奥にある俺の部屋に向かった。6畳くらいの部屋だが、ほとんど生活感がない。まぁほとんど作業場のソファで寝てたからなんだけど、変に汚れた部屋じゃなくて良かった。


「すごいですね…これ全部、ロックさんの使う道具ですか?」


 作業場の棚いっぱいに置いてある道具類を見て、セラフィナは感嘆の声を上げてる。アイラもここはまだ2回目だし、色々と珍しいんだろう。電動工具に興味があるみたいで、繁々と眺めている。


「魔法道具とは違いますが、とても興味深いです」

「私も早くこういう道具を使えるようになりたい!」


 そんな声を聞きながら、俺はバッテリーを充電器に突っ込んで、必要な物を書き出していく。


「まずは発電機…これは新品を買ったほうがいいな、あとは錠前をいくつかと工具類、それから…」


 仕入れるものが多いな、これは資金を調達しておかないと拙いかもしれない。デリックに貰ったモノを換金しなきゃいけないんだけど、出所がはっきりしないのは買取してもらえないかもしれないな。気乗りしないが、その筋・・・に持っていくとするか…。


「俺はこれから買い出しにいくけど、どうする? 留守番してるか?

「「 絶対に行く! 」」


 …ですよねー、聞いた俺が馬鹿でした。当然ながら、セラフィナは初めての日本だし、アイラだって爺さんと一緒だったから、スカウトで忙しかっただろうし…。


 そうとなれば、まずは格好からだな。アイラにはまず尻尾を隠して貰うとして、2人とも向こうの標準的な服装なんだが、やはり日本では浮いてる感が凄い。どこぞの衣料品店に行くのはいいとして、そこまで行くのにどうするか…


 そこでふと思い出した。昔付き合ってた子が、ジャージっぽいのを残していったままだったな。よし、そこまではそれで行こう。俺はタンスの一番奥に保管してあったジャージを何枚か取り出して渡した。


「その格好はこっちじゃ目立つから、買いに行こう。とりあえず店に行くまではそれを着ておいてくれ」


 2人はジャージを物珍しそうに見てるが、アイラが鋭い目つきでにらむ。


「知らないメスの匂いがする!」


 いや、メスはないだろ、メスは…。でも仕方ないじゃないか、それしか無いんだから。べ、別に捨てられなかった訳じゃないんだからね! 捨てる機会が無かっただけなんだからね!


「それは昔、知り合いにもらった古着だ。店で新品を買ったらそこで着替えればいいから」


 新品という言葉に機嫌を直したアイラ。何故かセラフィナまで機嫌が悪かったんだけど…やっぱり貴族のお嬢様だから、古着を渡されて怒ったんだな。俺の配慮が足らなくてすまん。


 上機嫌になった2人はそのままにしておいて、買わなきゃいけない品物をメールで送っておく。在庫があるものは明日にも届くし、無ければ入荷日を確認しておいて、またこっちに来ればいい。


「どう? 似合う?」


 ジャージに着替えた2人が俺の傍に来た。流石に2人とも素材がいいせいか、古着のジャージでもその容姿に陰りはみられない。アイラはその胸が主張しまくってるし、セラフィナはバランスのとれた可愛さがある。っていうか、アイラは耳をどうにかしないと…。たしか俺が使ってたニット帽があったな…


「アイラ、こっちじゃその耳はまずい。これを被っておけ。俺のお古で悪いが」


 俺が黒のニット帽を投げ渡すと、すごく嬉しそうな顔で受け取った。そんなにニット帽好きか?


「あ、あの…私にも帽子を…」


 え、セラフィナは必要ないだろ? それともそんなにニット帽がいいのか? 


「いや、セラフィナはそのままで大丈夫だから」


 その言葉に、愕然とするセラフィナ。そんな彼女を見て、アイラが自慢げに帽子を被ってみせる。


「えへへへ…ロックの匂い…」


 満足そうなアイラと、呆然としてるセラフィナを放置して、俺はとある相手に電話する。


「あー、もしもし、紀伊です。ご無沙汰してます」

『おー、ロックか! 久しぶりだな、どうした? お前からかけてくるなんて珍しいな』

「それが…ちょっと視てもらいたい出物があるんで…これから伺ってもいいですか?」

『まぁお前の頼みなら無碍に断れんな。わかった、それでモノは何だ?』

「…宝石です。カットしてないヤツです」

『…よし、腕のいい鑑定士を用意しておく』

「すみません、お手数かけます」


 俺は電話を切ると、デリックから渡された袋を開けた。そこにはたくさんの宝石が入ってる。ルビーやサファイア、エメラルドにトパーズ…ダイヤはないけど、親指より大きなサイズのものが十数個。


「ロック、本当にこんなので大丈夫なの? 魔石・・じゃなくていいの?」

「そうですよ、こんなもの、子供のおもちゃ代わりですよ?」


 アイラとセラフィナが不思議そうに聞いてくる。向こうでは魔力の宿っていない宝石は、タダ同然らしい。ダイヤモンドは防具に使えるそうだが、魔力のない宝石は道具にもできないから安いらしい。時には道端に落ちてることもあるそうだ。


「こっちでは魔力は意味がないからな、これで十分なんだよ。それじゃ出かけるから車に乗ってくれ」

「「 はーい 」」


 俺は2人を乗せて、街へと走り出した。





「うわー! すごいすごい! こんな世界があるなんて信じられない!」


 セラフィナが驚嘆の声を上げる。見る物すべてが新鮮なんだろう。確かにこれだけの人を向こうで見ることなんて無かったし、建物も、乗り物も、全部が予想をはるかに超えてるようだ。


「どう? すごいでしょ?」 


 何故アイラが得意げなんだよ。ま、アイラは爺さんと一緒に何回か来てたみたいだし。


「もうすぐ着くぞ、2人はどうするか…まあいいか、一緒に来い。でも、絶対に喋るなよ?言葉に敏感な連中もいるからな」


 俺が真剣な表情で釘を刺すと、その意味をきちんと理解したらしく、真面目な表情で頷く2人。よし、行くか。


 繁華街の裏手にある雑居ビル、エレベータも無いビルの階段を上がって3階に向かう。飾り気のない扉をノックすると、低い声が返ってきた。


「誰だ?」

「俺です、紀伊です。電話した件で来ました」

「おお、ロックか! 待ってろ、今開ける」


 鉄の扉がゆっくり開くと、そこには剃刀のような雰囲気を持った40代の男がいた。


若頭カシラ、ご無沙汰してます。鍵の調子はどうですか?」

「ああ、問題ないぞ。ま、入ってくれ」


 俺達は促されるままに中に入ると、いかつい奴等が5人ほどいた。そいつらはアイラとセラフィナをいやらしそうな目で見ていた。


「随分綺麗所を連れてるな、お前のスケか?」

「師匠の知り合いですよ、日本人じゃないですけど。弟子として預かってるんです。それはそうと、電話の件ですが…」

「ああ、ちょっと待ってろ。クニさん、視てやってくれ。クニさんは宝石の鑑定じゃ、そのへんの宝石商よりも確実だぞ」

「すみません、若頭。視てもらいたいのはこれなんですよ」


 クニさんと呼ばれた初老の男が俺の前に座る。なかなかやばい雰囲気の爺さんだ。俺は袋の中身をテーブルに出す。色とりどりの宝石を見て、思わず室内の強面連中も感嘆の声を漏らす。クニさんは一瞬その目が険しくなったが、すぐに表情を戻すと、鑑定を始めた。やがて、若頭に何か耳打ちする。


「なあ、ロック、こいつの出所は…ま、俺みたいなヤツに持ち込んでくるんだから、正規のルートじゃないんだろ? お前には何度も世話になってるから、聞かないでおくよ。クニさんの見立てだと、全部で二千万はくだらないらしい」

「お前さん、こんな高純度の品物、どこで手に入れた? 定期的に手に入るなら、私のところに持って来い。決してそこらの店に持ち込むなよ? これだけのモノは奴等でもそうそう仕入れられん。場合によっちゃ、厄介な連中が介入してくるからな」


 クニさんがアイラとセラフィナを優しそうな目で見る。


「私も孫が生きてればその2人くらいの年だった。こんなヤクザな仕事のとばっちりで…」


 どこか遠い目をするクニさん。しかし、すぐに仕事の顔に戻る。


「ルビーにサファイア、エメラルドにトパーズ…これだけの種類でこの大きさと純度、買い手はいくらでもいるぞ。とりあえずこんなもんでどうだ?」


 叩かれた電卓の金額は、俺の予想のはるか上だった。おれは即OKを出すと、クニさんが鞄から札束を出してきた。俺、こんな大金見たことねえ。即座に懐にしまいこむ。


「ロック、これからどうするんだ?」

「いや、実は頻繁に海外に行くことになって…、師匠のやりかけの仕事を引き継ぐことになったんです。この2人はその関係者です」

「成る程、もし暇してるならウチの専属はどうかと思ったんだが…」

「すみません、もう決めたんで…でも時々戻ってきますし、また買取をお願いしなきゃいけないんで…あっちは現物支給なんですよ」


 俺はそう言って笑顔で返した。俺の頭はもう、懐の札束のことしかなかった。


「それじゃ、こいつらの買い物を済ませないといけないんで、これで失礼します」

「おお、体に気をつけろよ」


 俺達はその建物を後にした。しかし、向こうではタダ同然のものがこんな値段になるとは…とりあえず服を買いに行って、昼は美味いものを喰おう!


「さて、資金も調達できたし、お前達の服を買いにいくぞ!」

「「 はい! 」」


 やっぱり女の子だな、服を買ってもらうのが嬉しいらしい。でもどこに行けば女の子向けの服が買えるんだ? 俺はいつも適当に買ってるからよくわからん。とりあえず「しま○ら」とか「ユ○クロ」あたりでいいか…




 しかし、この時の俺はとんでもないミスを犯していたのだった。

フリーなので、こういう人たちとの付き合いもあるんです。


読んでいただいてありがとうございます。


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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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