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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第3章 急ぎのお仕事をしました
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何とかなりました

 俺達は『銀の羽亭』で夕食をとっていた。カステラ一切れ二切れくらいじゃ、育ち盛りの胃袋など満足させられるはずも無く、当然の結果だった。


 この店は町でもかなり評判がいいらしく、かなりの客が入ってる。昨夜は貸切だったからわからなかったが。でも、俺にはちょっとだけ不満がある。ほとんどの料理が「塩味」だからだ。もちろん魚料理とかは塩味でもいいんだが、肉料理もほぼ塩味オンリーだ。臭みがあるのも少し気になるんだよな…


「なぁ、フラン? この世界には調味料ってそんなに無いのか?」

「え? まぁ、そう…かな?」


 いきなり挙動不審になるフラン。


「フランにそんなこと聞いちゃ駄目よ? 全然料理なんかしないんだから」


 そう声をかけてきたのは、看板娘のタリアだ。


「それで…調味料だっけ? 王都に行けばそれなりにあるけど、このあたりはそんなに種類はないわ。塩は貴重品だし、スパイスなんてハーブくらいしか無いからね。塩は山まで取りに行けばいいんだけど、さすがに山は危険が多いから、冒険者を雇わないと無理なのよ。だから値段が高くても仕方ないの」


 山…ということは岩塩か、岩塩は味がまろやかなものが多いから、日本の精製塩と比べると薄味に感じるんだろう。


「ロック、ここはギルドが契約してるから、食事だけ・・・・は無料よ。お酒は別料金だから気をつけてね」

「そうそう、家賃を無料にしてもらったかわりにね」


 なるほど、ここは社員食堂のようなものか。そういえばこの建物とギルドの建物はくっついてるな。


 しかし、これはかなりの問題だな、俺的にはだけど。ここは頻繁に使うことになるだろうけど、味付けが単調だとすぐ飽きる。何か調味料を提供してみよう。



 食後のお茶を愉しんでいると、ディノ爺さんが入ってきた。


「おお、ロック、サーシャを知らんか?」

「サーシャなら今朝からダンジョンよ、明日の夕方には戻ると思うけど」


 フランの回答に、爺さんの顔が曇る。


「困ったのう、サーシャにあちらでの陣の固定を頼もうと思っていたんじゃが…」

「アイラじゃ駄目なのか? ミューリィだっているだろう?」

「アイラでは駄目なんじゃ、アイラは獣人じゃから、魔力量が少ないんじゃ。陣の固定にはかなりの魔力が必要になるんじゃが、アイラでは全然足りん。ミューリィはエルフじゃからのう、エルフは魔力を周囲から取り込まんと、寿命が短くなってしまうんじゃ。だからおぬしの世界には行けないんじゃよ」


 そういえばそんな事を言っていたな…でも、そうなると今戻ることが出来ないのか…仕方ない、一日延期するか。


「それなら、サーシャが戻ってきてからでいいぞ」

「そうもいかんのじゃ、わしの作った陣は、半日以内に魔力を通さんと無効になってしまう。それに、わしは明日の午後には王都に行かなきゃならん。5日ほどで戻る予定じゃがの」


 それは…かなりまずいかもしれない…ほぼ一週間空けるわけにもいかないし、道具の件もあるからな…


「あの…『あちらの陣』とは…何のことでしょうか?」


 セラフィナがおずおずと聞いてくる。しまった、セラフィナがいること忘れてた。でも、これからうちで働く以上は、知っておくべきか…


「ロックは異世界人なのよ、魔法が存在しない世界出身なの」


 アイラが胸を張る。いや、お前が威張るところじゃないと思うんだが…。フランから詳しい説明を受けてる。


「成る程、粗方の話は分かりました。その話、私に任せてもらえませんか、ディノ様?」


 アイラの方をちらちら見ながら、セラフィナが自信たっぷりに言う。そう言えば、セラフィナは魔法の腕はいいんだっけ…


「おお、セラフィナ嬢がおったか! 確認しておくが、魔力量はどれほどあるんじゃ?」

「はい、上級魔法なら20回ほど撃っても問題ありません。それでだいたい半分くらい消費します」

「それはすごいのう、どうじゃ、わしのところで修行せんか?」

「いえ、私はロックさんから鍵開けを学びたいですし…それに…」


 顔を赤らめて言うセラフィナに、アイラが牙を剥いて睨んでる。怖い、怖いよアイラ!


「おぬしも大変じゃのう…。それはさておき、それだけの魔力量なら、転移を任せてもよさそうじゃの。後で術式の準備をするから手伝ってくれ」

「はい! お任せください!」


 眩しい笑顔のセラフィナとは対照的に、どんより曇った表情のアイラ。俺の作業着の袖を摘んでくる。


「ロック…私は…駄目なの?」

「何いってるんだ? お前は。お前には教えることがたくさんあるんだ。こんなところで燻ぶってる場合じゃないんだからな。俺の使う道具も理解してもらわなきゃいけない。師匠から学んでた分、お前はセラフィナの姉弟子ってことになるんだからな」

「…うん! わかった!」


 ふう、やっとアイラの機嫌が直ったみたいだ。でも、セラフィナのおかげで転移の心配はなさそうだし、これで一安心。


 銀の羽亭を後にした俺は、こっちで仕事するのに必要なものを纏めていた。発電機とか、工具もそうだが、着替えとかもいるよな。あとは…食べ物と酒、錠前もいくつか必要…ディノ爺さんにも必要なものを聞いておくか。


 そんなことを考えてたら眠くなってきた。ベッドに入ろうとして、今朝の光景が蘇る。この部屋にも鍵つけたほうがいいかもしれないな…




 翌朝、倉庫の四駆に乗っているのは俺、アイラ、セラフィナの3人だ。セラフィナは既にこちらでの陣の固定に成功してる。今は日本の転移陣の残滓を探索中だ。


「それじゃ、遅くとも明日の夜までには戻れると思う。土産は買ってくるから心配するな。デリックにも昨日の錠前の代金はもらってるし」

「しかしロック、本当にあんなもの・・・・・でいいのか? 」

「ああ、問題ない。むしろアレ・・の方が都合いいんだ」

「それならいいが…それと、一つ頼まれてほしいんだが…何か美味い酒を頼む、あまり強くなくてもかまわない。妻が先日の会の話で怒ってしまってね…どうして誘わなかった!ってね」

「わかった、何か見繕っておくよ」


 デリック…きっちり尻に敷かれてるな…


「…見つけました! ディノ様の魔力の残滓です!」


 セラフィナが声を上げる。


「それでは行きます………『転移』」



 俺達の視界は目映い光に占領されていった。

読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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