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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第3章 急ぎのお仕事をしました
18/150

増えました

更新できずに申し訳ありませんでした。

 俺が町から戻ると、アイラは素晴らしい膨れっ面で出迎えてくれた。


「リルとのデートは楽しかった?」


お前…デートって…小一時間ほど出かけただけだろうが…


でもこんな時のために、懐柔策は立ててある。リルと別れる前に車に戻ってある物を持ってきておいた。俺はアイラとジーナの目の前にそれを置いた。


「何、これ? レンガ?」


おおぅ、まさかの反応…確かにレンガに見えなくもないか…。まだ外箱しか見えてないから、仕方ないかもしれない。


「レンガじゃねーよ、これは俺の大好きなお菓子だ!」

「「 お菓子? 」」


二人の声が見事にハモる。俺が外箱を開けて包装を破ると、ほんのりと甘い香りが漂う。二人は目の前の長方形の物体に釘付けだ。

「これは俺のお気に入りの店で買ったカステラだ」

「「  カステラ? 」」


二人は初めて聞く言葉にに興味を持っている。よし、思った通りだ。


町を歩いて気になったんだけど、甘味を出す店が全く無かった。アイラも初めて会った時に、コーヒーシュガーに感激してたし、きっと甘味料がすごく高価なのかもしれない。


涎を我慢する二人に苦笑しつつも、一切れずつ渡す。


「一番下の紙は食えないから注意しろよ?」


二人は頷くと、恐る恐る小さく口に含んだ。その瞬間、あからさまに表情が一変した。


「「 はうぅぅ… 」」


うっとりとした表情でため息を吐くと、もう止まらなかった。渡された一切れを瞬く間にに食べ尽くすと、俺に視線を向けてくる。


それは獲物を前にした肉食獣の如き鋭さで俺を貫く。思わずすくむ身体を何とか誤魔化したが、あの可愛かった二人は何処に行ったんだ。


獣の如き二人( まぁ獣人だけど )を何とか抑えてると、外に馬車の音がした。入り口付近で停まったから、此処に用事があるのは間違い無いと思うが、外は結構暗い。依頼人って訳じゃないだろう。


――― コンコン ―――


随分控え目なノックの後に、小さな声がした。


「あの、すみません。リスタ男爵家の者ですが、開けていただけませんか?」


俺とアイラはこの声に聞き覚えがあった。急いで扉を開けると、そこには想像通りの人物が、恥ずかしそうに立っていた。


「立ち話も何ですから中へどうぞ、セラフィナ嬢」


 そこには、俺が貞操帯を開錠した男爵令嬢、セラフィナが立っていた…大荷物を持って。






「つまり、家出してきたってことだな?」

「はい…すみません」

「お嬢様、辛いようならば私が説明いたしますが…」

「それは恥ずかしいからやめて!」


 セラフィナと一緒にいるのは、男爵家のメイドでセラフィナ付きのイネスさんというらしい。20代後半くらいの群青色の髪をした長身の女性で、すらりと引き締まった体はまるでアスリートのようにも見える。おそらく護衛も兼ねてるんだと思う。


 どうやらここに来た理由を話すつもりらしいが、この様子を見ると、相当恥ずかしいことみたいだ。


「あの…昨日はありがとうございました。あのような恥ずかしいものを外していただいて」

「いや、特に礼を言われる程ではないよ、うちの代表も何か礼を貰っていたらしいから」


 実は、リスタ男爵の企みを暴いたということで、フランが何か礼を貰っていたらしい。中身は知らんが。


「実は、今回のことはそれが原因でして…あの、実は私…あのような者を着用した記憶が無いんです。それで、お母様がお父様を問い詰めたんです」


 あの夫人の尋問…目の前でシャドーするだけでも十分効果ありそうだが…


「それで、お父様が白状したのですが…私を眠り薬で眠らせて、そ、その、私をは、裸にして、あ、あれを着けたんだそうです」


 実の父親が娘を薬で眠らせて貞操帯をつける…うん、まともじゃない。


「それで…お母様がお父様に愛想を尽かしてしまいまして…お父様は隠居という形になりました。ただ、私に関しては醜聞が広まるのを防ぐため、病気療養のために、保養地で暮らしているということになりました」

「でも、ここにいるよ?」


 アイラの質問は当然だろう。療養中の娘がこんなところにいるんだから。


「それでですね、お母様は私に、もっと己磨きの修行をしなさいと仰いまして…それでメルディアこちらにお世話になるように…と」

「俺には何とも言えんが、勝手に押しかけちゃ拙いだろう?」

「いえ、お母様からは『代表とは話がついてるから』とのことでしたから…」


 フラン! そういうことは皆にきちんと伝えておけよ! 情報の引継ぎは重要なんだぞ!


「それこそ俺にはわからん話だな。おそらくもう少しで戻ると思うから、このお菓子でも食べながら待っててくれ」


 俺がカステラを勧めると、アイラとジーナが泣きそうな顔になる。とりあえず俺の分は諦めるとしますか。


「これは…美味しいです! こんなふわふわなお菓子、食べたことありません!」

「これは…小麦粉とタマゴと…あとは砂糖でしょうか…。こんなに贅沢に砂糖を使った菓子なんて、お屋敷でも見たことありませんよ」


 セラフィナとイネスも気に入ってくれたようだ。俺の分は…また買ってくればいいか。2人がカステラに目を輝かせていると、フランが戻ってきた。


「あれ? 鍵が入らない…どうして? 何で?」


 そう言えば、リルにまとめて鍵を渡したけど、フランには渡ってなかったような…


「ちょっと! 誰かいるんでしょ! 開けてよ!」


 扉をドンドンと叩く音がギルド内に響く。慌てて開けるとそこには泣きそうな顔のフランが…。


「すまん、デリックに頼まれて、入り口の鍵を変えたんだ。リルから貰ったんだとばかり思ってた」


 フランにカステラの最後の一切れを渡して宥める。最初は不貞腐れていたが、カステラの美味しさには敵わなかったようだ。すごいぞカステラ。






「それでね、男爵夫人から彼女を預かったのよ。彼女は魔法に詳しいから、即戦力になれるはずだし」


 フランの話によると、夫人はセラフィナを冒険者にしたいらしい。当人もそのつもりだが、実戦経験が全く無い。といっても、難易度の高い討伐やダンジョンでは命の危険がある…ということで、比較的初心者向けのダンジョンの案内役であるメルディアに入って、実戦経験を積ませようってことらしい。どうやら、何処のギルドでも腕のいい魔法使いはかなり人材不足で、この近隣の町も含めてもそれぞれ1人か2人いればいいほうらしいから、うちにとってもかなりメリットのある話だ。

 そこでセラフィナがおずおずと口を開く。


「それでですね…私としては…是非ともロックさんに鍵開けを教えていただきたいと思っておりまして…」


 顔を赤らめながら、身体をくねらせて言うセラフィナに、アイラが噛み付く。


「駄目! ロックの弟子は先着1名! もう私で締め切り!」

「そ、それはひどいと思います! それに、私なら魔法でのサポートもしっかりこなせます!」


 俺抜きでそういう話をしないで欲しい…でも、うちにとってはセラフィナが入るほうがありがたいんだし、ここは丸投げするか。


「待て、二人とも。俺達だけで決められることじゃないだろ? フランの指示に従おう」


 2人を宥めて、フランの回答を待つ…が、フランは即答した。


「ロックが2人とも弟子にしちゃえばいいじゃない。あ、ジーナを入れると3人か、でも、2人も3人も大して変わらないでしょ? セラフィナ、2階の仮眠室のうちの1室をあなた専用にするから、荷物を置いてきて。アイラ、拗ねてないで案内してあげて」

「はい! ありがとうございます!」

「…わかった」


 あからさまに対照的な2人とイネスが2階に上がっていくと、フランが顔を寄せてくる。お前、俺の都合も考えずに言うなよ…


「ねえ、ロック? これからあなた目当ての人が寄ってくるかもしれないから、気をつけてよ? ロックみたいに技術に長けた人材ってほとんどいないの、もしロックくらいのレベルの腕を探すと、もうほとんどどこかに専属してるの。うちみたいな小さなギルド所属だと、色仕掛けや脅迫めいた手段で引き抜こうとする連中も多いのよ」


 なるほど、技術職は人材不足か…


「それに、技術を持った人って、女性から見れば優良物件だから。特に鍵開けなんて、どこの国に行っても引く手数多だから、将来も安心だし」


 …そういう目的で来られるのは勘弁願いたい。まぁその辺のところとしては、まだ身を固めてる余裕もないからいいけど。



 別に、相手がいないとかそういう理由じゃないんだからね! たぶん…

ここしばらくは更新が不定期になります。

でも、短期間での更新を目指します。


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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