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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第3章 急ぎのお仕事をしました
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錠前を付けました

 柔らかな日差しが心地いい午前の空気を、異質な音が響き渡る。その音の発生源は盗賊ギルド「メルディア」だ…というか厳密に言えば俺なんだが…。


「それって日本あっちの道具なんでしょ? すごいわね…」

「本当だな…あっという間じゃないか…」


 俺は今、ギルドの入口扉を削っている。デリックに頼まれて扉の錠前を交換するために、錠前を組み込む加工をしている。木製の扉なので、電動ドリルとベルトサンダーで穴を開けていく。当然ながら、加工の音がそれなりにする訳で…


「何だか見世物みたいになってるな…」


 木屑を箒で集めながら、アイラに苦笑いする。流石に電動工具はアイラにはまだ早いので、助手をしてもらってる。初めて見る作業に興味深い眼差しを向けてくる。


 この世界では、こうやって後から鍵を取り付けることはほとんど無いらしく、せいぜい南京錠みたいな形の錠前を後付けするくらいだそうだ。しかも錠前は全て鍛冶屋のハンドメイドのようで、錠前一つで1ヶ月生活できるくらいに高価なんだとか。デリックが神妙な顔してたのも頷けるよ、俺が大体の金額を教えたら吃驚してたよ、勿論安いって意味で。


ちなみに俺の頭の中では自動翻訳で勝手に換算されてるようなので、こっちの貨幣価値が未だにわからないんだが…これは大丈夫なのか?


「でも、こんな複雑なもの、王都の鍛冶屋でも無理よね。こんな小さい部品なんて作れないもの。よくこんなの持ってたわ」


 酒の入っていないミューリィが真面目な顔で言う。お前はこのままでいてくれ、頼むから。


「突然作業になることもあるんで、いくつかはストックしてるんだ。ここで使ったから、後で補充に戻らないと。ディノ爺さんには手間かけるが、何か土産のリクエストでも聞いておいてくれ」

「いいな~、ゲンのいた世界か~、魔力が凄く薄いのよね? 私には無理だからな~、私にも何か買ってきてね?美味しいおさ…」

「酒以外な!」


 酒を欲しがったので、みなまで言わせなかった。リルもデリックも大きく頷いている。当然の結果だ。


 電動工具のバッテリーを替えながら、アイラに指示を出す。削って出来たスペースに錠前が納まるかどうかを確認してもらう。


「すごい、ぴったりだよ!」

「よし、あとは仕上げだな。細かいバリを落とすから、見るならこれ付けとけ」


 自分のゴーグルを着けながら、予備をアイラに手渡す。アイラは俺に倣ってゴーグルを装着すると、俺の横で見ている。細かい破片が目に入ると危険だからな。治癒魔法があるとはいえ、ケガしないようにするのは作業の基本だ。


 ベルトサンダーがささくれを綺麗にしていく。それを見て皆が驚嘆の声を上げる…なんか恥ずかしい。…ふと思ったが、電動工具をこっちで使うのは厳しいかもしれない。今はバッテリーの予備があるが、充電できる道具がない。だって電気というものが存在しないんだからな。雷魔法があるというディノ爺さんの話だが、そんなの変圧器で対応できるかどうかすら解らんから、あまり期待するべきじゃないんだろう。いっそ発電機を持ちこむのもありかもしれないな。ガソリンなら携行缶で持ってこれるし。


「よし、これで完了だ! 扉を閉めてみてくれ!」


 アイラが頷いて扉を閉める。加工が下手だと、ここで扉が閉まらないなんて事態が発生する。実は駈け出しのころ、何度かそれをやって師匠に蹴り飛ばされた苦い経験がある。


「ちゃんと閉まったわ!」

「それじゃ、中からそのツマミを回して鍵をかけてくれ!」


――― カチャ ―――


「よし! 強度もあるな」


 施錠したのを確認すると、思い切り扉をがたがたと揺らしてみた。こうして強度を確認しないと、後で錠前が外れたりするから、確認は慎重に行う。さらに外からキーを差し込んで回すと、無事鍵は開いた。


「これで完了だ。この鍵は後で何本か複製しておくよ。こっちの鍵屋じゃ無理だろうから」

「ありがとう、ロック。でも変な形の鍵ね…こんなの初めて見るわ」


 リルに鍵を渡す。鍵のタイプはディンプルタイプだ。こっちでは存在しないし、ピッキングではまず対応不可能だろう。


「これはディンプルキーって言うんだ。はっきり言うが、こいつは俺でも鍵穴からの解錠は無理だ。となると他の方法で開けるしかないんだが、そっちは魔法で対処できると思うからディノ爺さんに相談してみるよ」

「でも、何でこんな下に付けたの?」


 リルもデリックも不思議そうな顔をしている。


「こんなに下だと、剣やら斧やらで壊すのは難しいだろ? 振り下ろすにも扉が邪魔になるから」

「成程、理に叶ってるな。そんなことまで考えているとは恐れ入った」


 デリックが剣を振る動作をして感心してる。この位置なら扉が邪魔で振り下ろせないし、相当な腕前じゃないと無理だろう。そんな腕利きは侵入盗なんてしないだろうし、残る手段は扉の破壊なんだが、これについてはディノ爺さんが引き受けてくれたから問題ない。


「いや、ありがとう。後で正確な費用を教えてくれ、経費で落としておくから」



 道具を片づけて、修練場の井戸で顔を洗う。まさか異世界で鍵の取付けをするとは思わなかったが、これから世話になるんだし、思いっきりサービス価格にしておこう。



 実は不良在庫を使っただけだというのは内緒だ、勿論技術料はもらうけどな!

読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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