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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第14章 だいじなもの
142/150

二度目

久しぶりの更新です。

やっと書きあがったので……

「……ミューリィ、お前はこのことを……ってその様子じゃ初耳だったらしいな」

「……当然でしょ? そんな素振りは全然見せなかったし。それよりロックのほうが付き合い長いんでしょ? 生まれた時のことも知ってるっぽかったし」

「そうなんだよな……俺は孤児院育ちのはずだが……」


 俺が生まれた時という表現があるということは、師匠は俺の両親のことを知っていたのだろうか。何故俺が孤児院に預けられたのかも知っていたのかもしれない。


 それ以上に師匠が既に世界を渡っていたというところに受けた衝撃は大きかった。だが俺の修行中にそんな素振りは全く見せなかった。というか異世界に行ったことがあるということを匂わせる素振りというものがどういうものなのかが全く分からないので、当時の俺が分からなくて当然だろう。というか今でさえ分からない。


「他の誰にも言えないことだったのかしら……」

「多分な。相当重要なことだったんだろう」

「でも……二度目って言っても大したことしてなかったわよ? 普通にダンジョン探索してたし」

「一体何がしたかったんだ……まぁ手紙の続きを読めばわかることだろう」

「うん……」


 相変わらずミューリィの表情は暗い。仲間だと思っていた師匠が誰にも離せず抱えていたことが明らかになろうとしているのだ、その心中はとても複雑なことになっているだろう。だがそれでも俺はこの手紙を読まなければならない。師匠が俺に向けて、しかもこの状況を見計らったようなタイミングで届けたこの手紙を。



《当時の俺はようやく一人前になり、独立したばかりで必死になって仕事をしていた。おかげで仕事も名指しで入ってくるようになった頃、それは起こった。


 いつものように相棒と仕事を終えて、渋滞に巻き込まれないように裏道を抜けて作業場に戻ると、車を車庫に入れたところで周囲が閃光に包まれた。そして気付いた時には既に別の世界に行っていた。今思えばそれは本当に偶然だったんだろう。その頃はまだ召喚なんていう魔法技術は開発されていなかったはずだからな》



 師匠の個人的な昔話は正直なところ聞いた記憶がない。そんな暇もないほど仕事詰めで俺に全く余裕が無かったのも原因の一つではあるが。それにあの頃は師匠と和気藹々と昔話をするなど考えることすらしなかっただろう。


 それにしても……師匠の相棒か。弟子入りした頃一度だけちらりとそんな話を聞いた記憶はあるが、師匠はその後一切そんな話をしたことは無かった。色々と深い事情がありそうだったので聞くのを躊躇っているうちに忘れてしまっていた。



《気付けばだだっ広い草原に二人、偶然持っていた道具入れだけを持った状態で放り出された。しかもどういうわけか真昼間に。いきなりの変化にどれほど俺たちが混乱したかはお前にどれほど説明しても理解してもらえないだろう。今思えば懐かしい話だが、夢じゃないかと二人でお互いの顔を殴り合ったものだ。

 その相棒は甚六、お前に深い関わりのある人物だ、というよりあいつがいなければお前は生まれてくることは無かったんだからな。これはほんのわずかに限られた者しか知らない事実だ。

 相棒の名は紀伊仁一キイジンイチ、お前の父親となる男だ。俺と同じころに同じ師に弟子入りした仲間であり、お互い切磋琢磨しあうライバルだとさえ言ってくれた男だ。だが俺はそうは思っていなかったがな。

 仁一は鍵に関する腕前では常に俺の数歩先を進んでいた。腕っぷしも俺より強く、俺が唯一勝っていたのは喋りくらいのもんだった。というよりもあいつが寡黙すぎたってのもあるがな。今のお前がお喋り野郎に見えるくらい、物静かな男だった》



「うぷ……くくく……ロックが……お喋り野郎……」

「……うるさいな」

「だって……ロックってそんなにお喋りじゃないのに……」


 確かに俺はそんなに喋る方ではない。だがそんな俺がお喋りに見えるとは、どれだけ口数が少なかったのだろうか。しかもあの師匠が唯一勝っていたのが喋りだなんて想像もできないんだが……

 父親に関してだが、実際のところあまりピンと来ていない。顔も思い出せない、というか記憶にもない存在のことをいきなり言われても全くと言っていいほど実感できていない。なのでこの件については後回しだ。

 

「……なぁミューリィ、俺は召喚という形で世界を渡ったが、ここに書いてあるようなことは起こりうるのか?」

「……私は聞いたことはないけど……そう簡単に世界を渡れるとは思えないわ。それが偶然によるものだとしたら、数万年、いえ数億年に一度あるかないかの偶然でしょうね。双方に魔力が集まる場所があって、それが偶然魔力の波長が合って、同時に魔力が増大したせいで座標が固定されて……もし偶然に起こった自然現象だとすれば、そんなことは女神でも予想することが出来ないほどの低い確率だと思うわ」

「……師匠の場合は偶然だったのか」


 そんなことが実際に起こりうるのか素人の俺にはわからない。しかし師匠が死してなおこうして俺に託すほどのこと、俺は事実だろうと考えている。そして……師匠がどれほどの苦悩を抱えていたのかもわからない。だが師匠はその苦悩の元凶となる何かを俺に頼むためにこの手紙をしたためたのだろうと考えている。


 正直なところ、俺はこの先を読むことが怖くなってきている。果たして俺程度の者が踏み込んで良い領域なのか疑念に思えてきたからだ。少しばかり関わった程度の俺が……闘う力なんて皆無の俺が……


「……ロック、あなたは自分が思っているほど弱くないわ」


 数瞬読むことを躊躇った俺の胸に頭を預けるようにしてミューリィが言う。翡翠色の瞳が俺の心を見透かすかのように見上げている。


「闘う力だけが強さじゃないわ。事実、ロックのおかげでギルドは活気を取り戻したわ、それは闘う力だけでは絶対に為しえないことなのよ? もし闘う力だけでどうにかなるのなら、ディノやロニーがやりとげているはずよ?」

「……」

「その強さ、しっかりゲンから受け継いでいるじゃない。ずっとゲンの背中を見てきたんでしょ?」

「師匠の……背中……」


 師匠の背中……ずっと追い続けた背中はいつも俺に安心感を与えてくれた。修行中、何度も師匠に助けてもらった時、その背中の力強さにどれほど救われたことか。そしていつしか、師匠のようになりたいという一心で腕を磨くようになっていった。


「ロックが鍵開けをしている時、その背中がどれだけ皆を安心させてくれているか考えたこと無いでしょ。鍵のかかった宝箱はお宝でもあると同時に危険極まりない罠でもあるの。でも知識の乏しい私たちにとっては危険な罠でもロックは平然と開けてしまう、その背中に、いつもと変わらない様子の背中に皆は安心して周囲の警戒に専念できるの。それはロックにしかない強さなのよ」

「……ありがとう、もう大丈夫だ」


 じっと俺の目を見つめてくる翡翠色の瞳、神秘的な光を見せる瞳が俺の恐怖心をゆっくりと、だが確実に溶かしてゆく。すべての恐怖心を溶かしつくした訳ではないが、今ここでこの手紙を読むことが出来るくらいには消えてくれている。


「えへへ……いい女でしょ、私って」

「……いい女は自分の口からそういうことは言わない」

「それだけ言えれば大丈夫よね。……もっと頼っていいんだからね」

「……善処するよ」


 女に頼るのは、なんて古臭い考え方に固執してはいないが、出来るだけ手を煩わせたくはないと思っていた。だが実際は俺よりもずっと長い時を生きている彼女ならではの安心感は俺が師匠の背中に感じていたそれに近いものがあった。事実今こうして落ち着いていられるのだから。彼女の頭を優しく撫でながら、再び手紙へと目を落とした。



《二人で茫然としている時に、偶然出会ったパーティがあった。そいつらがとてもいい奴らで、ちょうど鍵開け役の盗賊が怪我でパーティを離脱したばかりだったらしく、俺たち二人を快く受け入れてくれた。おかげで路頭に迷うことなく暮らすことができたので、あいつらには感謝してもしきれない。

 基本はダンジョン探索がメインだったな、二人で協力して鍵開けや罠解除をこなしていった。幸いにも錠のレベルは高くなく、中世欧州の錠レベルのものばかりだったから俺たち二人にかかれば造作もないものだったがな》



「ずいぶん活躍してたみたいね」

「……」

「どうしたの? どこかおかしいところでもあったの?」


 ミューリィにはわからないことだと思うが、俺には強烈な違和感を感じていた。これはたぶんアイラ達にもわからないと思う、きっと俺だけにしかわからない違和感だ。

 師匠の手紙によると、当時の錠は中世欧州のレベルだと書いてあった。だが俺が向こうの世界で見てきた錠は欧州のものだけではなく、日本特有の和錠のようなものもあった。それに中世欧州とあるが、決して古すぎるような印象もなかった。おそらく当時の師匠は二十代後半か三十台前半あたり、とすればおよそ三十年前の話ということになる。そんなに短時間に錠が進歩するだろうか? 道具が発達したこちらの世界でも数百年かけて進歩していったものが、だ。それについてもこの先読み進めていけば書いてあるのだろうか。考えればキリがないので、とりあえず今は手紙を読み進めることに専念しよう。



《正直なところ、日本に戻るという方法が全く見つからなかった。仲間たちに俺たちのことを説明しても最初は全く信じてもらえなかったしな。だから俺も仁一もようやくこっちの世界に骨を埋める覚悟を決めようとした頃、それは不意に俺たちの手元にやってきた。

 仲間たちによると、それは如何なる願いをも叶えることができるという言い伝えを持ち、こっちの世界の者ならば誰もが手に入れたいと思う物らしかった。そこに至る道は困難を極めるが、その報酬は人知を超越した存在による恩恵。


 俺の予想が正しければ、おそらくお前にも届いているはずのモノが……大迷宮からの招待状が……》



 もうどんな爆弾が投下されようとも驚かないと決めた矢先、またしても破壊力抜群の爆弾が再び投下された。

活動報告にも書きましたが、現在療養中なので長時間の執筆が困難な状況です。

ですが少しずつ書き溜めていますので、気長に待っていただければ幸いです。


読んでいただいてありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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