表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第3章 急ぎのお仕事をしました
14/150

追加の仕事を請けました

 俺達は男爵家の応接間で正座させられていた。だが、攻撃は俺の左隣に新たに加わった被告人に集中していた…セラフィナに貞操帯を取り付けた張本人、リスタ男爵に。


「あなた、一体これはどういうことですか? セラにこんなものを取り付けるなんて」

「セラがどこの誰かもわからないような奴に傷物にされるのを防ぐためだ! セラのことを考えてやってるんだぞ!」

「こんな恥ずかしいものを付けさせておいて、どこが考えてるんですか?」


 思わず拳を握りこむ夫人に冷や汗をかきながらも、男爵は自分の主張を曲げない。


「結婚前に傷物になるなど、男爵家の恥でしかない! 我がリスタ家の顔に泥を塗ることになるんだぞ!」


 うーん、何て言うか…この男爵、さっきから聞いてると、やけに結婚にこだわってないか? もしかしたら結婚相手でもいるんじゃ…


「あら、そちらの…ロックさんでしたか? 何か言いたいことでも? もしあるなら遠慮なくどうぞ、この馬鹿夫は黙らせますから」


 うわ、こっちに飛び火してきた。この人、読心術でも使えるのか? でもこれは…本当に話していいものなのかな…でも、この膠着状態はどうにかしたいし…


「ねえロック、話しちゃいなさいよ、彼女がここまで言ってくれてるんだから、その後のことは何とかしてくれるわよ」


 馬鹿エルフが話しかけてくる。さっきのやり取りでも知り合いみたいだったし、ここは勝負してみるか!


「あの、さっきからやけに結婚に拘ってますけど、誰か婚約者でもいるんですか?」

「いいえ、セラには自由に恋愛してほしいので、貴族の慣習には一切関わらせないようにしています。だからそのような者はおりません」


 隣を見ると、男爵が滝のような汗を流してる…解り易すぎるぞ、おっさん


「あなた、まさか勝手に縁談を進めているんじゃないでしょうね? 私があなたと結婚する際に交わした約束、忘れているんですか?」


 軽く拳を振る動作をしながら、笑顔で問う夫人。だけど振る音が聞いたことないような音してる。夫人、怖すぎる。


「い、いや、そんな事、ある訳ないじゃないか…」

「怪しいですね、あなたの書斎を調べさせていただきます。やましいことが無ければ入られても平気なはずですよ?」


 有無を言わさぬ圧力で了解を得た夫人は俺と向き合う。


「ロックさん、あなたは鍵師と聞きました。この馬鹿に男の我侭だと思って鍵付きの書斎を作ってしまったんです。どうせ鍵を失くしたことにでもして、ほとぼりが冷めるのを待つつもりなんでしょう。そこであなたに依頼します、この馬鹿の部屋の鍵を開けてください。もし引き受けていただければ、先ほどのセラへの一件、見なかったことにいたします」


 隣を見れば男爵が勝ち誇ったような顔をしてるのが癇に障る。セラフィナは魔道士だって言うから、付いてるのは間違いなく物理的な鍵だろうな、でもそれなら俺の仕事領域だ。夫人は随分話のわかる人みたいだし、ここは請けておくか。


「わかった、その依頼、請けるよ。鍵の場所に案内してくれ」


 俺達は夫人に連れられて男爵の書斎に向かった。後ろで足が痺れた馬鹿エルフと男爵がのた打ち回っていたが、俺は相手にしなかった。何故なら、俺の足も痺れていたからだ!




 男爵の書斎の扉の前に佇む一同。俺はライトで鍵穴を照らして覗き込むが、見た目はごく単純なものだった。


「何だよ、ただのピンタンブラーじゃねーか。偉く勿体ぶった割にはたいしたことないな」


 俺がそう呟くと、男爵は得意げに話す。


「その錠前はな、正式な鍵を使わずに開けようとすると、1分以内に開けるか正式な鍵を差し込まない限り爆発するのだ! もちろん屋敷が壊れるほどではないが、鍵師はそうもいくまい! 」

「つまり、動かさなきゃ反応しないんだな?」


 面倒なことするなぁ、おい。錠前自体は大したことないが、こうやって魔法を組み合わせると途端に難易度が上がるのがこっちの世界の特徴かもしれない。ちなみに付いていたピンタンブラー錠とは、鍵のギザギザの高さに合わせて作られた、内部のピンを押し上げることでピンの高さが一定になり、鍵を回すことができるという仕組みの錠だ。歴史は相当古く、古代エジプトでも同様の仕組みの錠前を使っていた記録があるらしい。このタイプの錠はピッキングには非常に弱いのも特徴のひとつでもある。


 でも、今回は時間制限ありときた。アイラにやらせて指導しようかとも思ったが、さっきの男爵の言っていた時間が本当に1分かどうかがわからない。ならば時間を短縮させる必要がある、だからこその、さっきの確認だった。


 俺はピッキング用の針金の先を軽く曲げて、鍵穴に挿入する。だけど、今は鍵を回す動作はしないでピンを探る作業に専念する。ゆっくりと探りながら、ピンの数と位置を確認していく。


「ねぇ、そんなに無造作に突っ込んで大丈夫なの? トラップにかからないの?」


 フランがおっかなびっくりといった感じで聞いてくる。夫人とセラが興味深そうにこちらを見ているが、馬鹿エルフが見当たらない…と思ったら、きっと邪魔するだろうと読んだサーシャが足止めしてくれてるらしい、ナイスプレーだ、サーシャ。


「間違って違う鍵を差し込む可能性だってあるんだ、その度にトラップが発動してたら大変だろ? だからこいつは鍵を挿して回す動作までに至った時にトラップが動くんだと思う。今、俺は内部を触って確かめてるだけだ、回してるわけじゃない」


 納得する一同に反して、男爵の顔色が変だ。さっきまで真っ赤だったのが、今は真っ青だよ。その青もだんだん土色になってるぞ、おい。


 俺は鍵穴の寸法と、内部のピンの数と位置を割り出すと、道具入れから鍵束を取り出した。100本くらいある鍵の中から、さっき調べたデータに合う一本を選び出すと、鍵穴に差し込む。が、まだ回さない。この鍵は合鍵じゃないからだ。


「アイラ、見てろよ、面白いものを見せてやる」


 俺はそう言うと、片手で鍵を押さえながら、ハンマーで鍵の頭を数回叩く。すると、合鍵でもないのに鍵が回り、扉が開いた。愕然とする男爵とは対照的に、アイラはきらきらした瞳で俺を見てくる。


「すごい、魔法みたいだけど…今のも技術なのよね?」

「そうだ、バンプっていう裏技だけどな」


 バンプはピッキングの中でも特殊な技術で、バンプキーなるものが必要になる。ピンの配置と数に合わせて小さな突起を付けたキーなのだが、このキーを差し込んで振動を与えると、ピンが一斉に上下する。そしてほんの一瞬、正解の位置に達した時に鍵が開く。鍵穴の内部を把握するための技術は必要で、バンプキーを作る為の手間もかかるが、開錠までの時間は圧倒的に短い。ちなみに、この動作をさせるための「バンプガン」なるものもあったりする。


「成る程、メルディアの鍵師は病で亡くなったと聞きましたが、いい腕の人材を見つけたようですね」


 夫人の感心したような呟きが聞こえる、やはり師匠の名前は知れ渡ってるんだな…これは弟子としてしっかりしないとな…


「さて、それでは中に入りましょう、あなた、早く来なさい」


 まだどこかに余裕の見える男爵を伴って中に入る…が、期待に反して中は整理整頓されており、特にこれといったものが無かった。


「おかしいわね、どこかの貴族あての書簡でもあるかと思ったのですが…」

「ほら見ろ! 私は何もしていない!」


 その喋り方、俺は日本でよく見たことがあるぞ。あれは確か…麻薬関連の捜査協力があった時だったな、たしかあの時は入り口の鍵を開けた後…


 俺はアイラに小声で指示を出す


「アイラ、何も知らない顔で壁際・・を歩き回ってみてくれ、俺は男爵の反応を見る」


 アイラは無言で頷くと、珍しいものを見る子供のような表情で部屋を歩き回る。主に壁際を。


 すると、ある場所に近づくと男爵の動きが少しぎこちなくなる。アイラに手で指示を出してもう一度同じように歩かせると、やはり同じ場所で動きが変わる。これは…やっぱり当たりだな。夫人に近づき、そっと耳打ちする。


(あの右側の絵が怪しい感じがします。調べてみては?)

( !  ええ、そうするわ)


 夫人が何食わぬ顔で額縁に手をかけると、男爵の表情が一変する。これは確定だな、すごく初歩的な隠し方だけど…


 結局、その額縁の裏の石を外すと、そこにあった箱の中に目的の書簡があった。それは隣国のボナール伯爵の次男の嫁にセラフィナをという推薦状だったらしい。


「あなた、これが事実ならどのようなことになるか…お分かりですね?」


 満面の笑みでそう宣告する夫人と、もはや生ける屍のような男爵が対照的でちょっと面白かったのは内緒だ。





「デルフィナは昔、凄腕の冒険者でね、その拳でモンスターをボッコボコにしちゃうから有名だったのよ? 『暁の拳神』とか言われてたんだけど、勿論暁ってのは返り血の赤色から来てるわ。それで一緒にパーティ組んでたんだけど、あの男爵に見初められて結婚したの。でもあの旦那がとにかく無能だから、やりたくもない貴族の仕事をしてるのよ。彼女が家を出たら男爵領が成り立たないから、誰も彼女には逆らわないわ。セラフィナの件も大丈夫でしょうね」


 ミューリィが説明してくれた。すっごく違和感があると思ったら、こいつ酒が抜けてる。フラン曰く、酒さえなければとても実力のあるエルフなんだとか。だったら一生飲むな、って呟いたら皆が激しく同意してくれたよ。


 ギルドに戻ると、今日のことを説明して解散になった。もう遅いので仮眠室で一泊させてもらうことにすると、部屋に入ってベッドに寝転んだ。


「しかし、今日は色々なことがあったな…異世界に来て、ダンジョンに入って、それに師匠の墓参りもした。たくさんありすぎてちょっと疲れたけど、嫌な疲れじゃない。こんなのがずっと続けばいいな…」


 そんなことを考えつつ、俺は眠りに落ちていった。


バンプ…ここまで書いて大丈夫だろうか…


読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ