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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第3章 急ぎのお仕事をしました
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冤罪です!

 静かな部屋に少女のくぐもった声が聞こえる。他の皆は息を呑んで俺の行為・・を見守っている。ミューリィバカは酒が回ったのか、部屋の隅で床に転がって寝ている。最初は部屋の真ん中の絨毯で大の字になって寝ていたが、すごく邪魔だったし、これ以上メルディアうちの恥部を見せるわけにもいかないので、部屋の隅に転がして少女の毛布を被せてある。時折聞こえる鼾がかなり神経を逆撫でする。


「んっ…あの…もう少し…優しく…」

「あ、ああ、すまない。あともう少しだから我慢してくれ」


 俺は彼女の声に急かされるように、その手の動きを早くする。彼女の肌は上気してうっすら桜色を帯びており、やや汗ばんでいた。反応のある部分を確認すると、そこを狙って手を動かす。


「ねえ、ロック? 大丈夫? うまくいきそう?」


 心配そうに聞いてくるフラン。あの大馬鹿ミューリィが酔っ払って請けた仕事とはいえ、町の有力者からの仕事だ、「駄目でした」と簡単に済む問題ではないことは理解しているようだ。


 錠の構造自体は問題ない、単純なものだからもしかしたら酔ったアイラでも大丈夫だったかもしれない。だが、錠の数が多い、とにかく多い。彼女の着けてる貞操帯はワンピースの水着のような形をした変わったタイプで、局部から胸の辺りまでまるでボタンのように錠がついていた。その数は全部で20、よくこんなの着けるの了承したな。


 俺は上から順に開錠していく。俺はかなりやばい状態だ。錠の下には少女の素肌があり、俺の作業による振動に反応して出かける声を必死に抑えている。俺はそんな状況で仕事したことは一度も無い。そりゃ俺だってもう27だし、それなりに女の経験もあるけど…。


 それにこの少女、すげー可愛い。おれの中ではアイラと並んでランキング同率1位になるほどだ。そんな少女が声を抑えて身を捩る…俺は只管、色々なものを頭の中で唱えながら作業を続ける。九九、平方根、般若心経、山手線の駅、等等とにかく数のあるものを…。


「あ、あの…んっ…ま、まだ…ですか…」

「あと2つだ…もう少し…」


 少女は羞恥で顔を真っ赤にしながらも気丈に聞いてくる。俺は何とか理性を保ちながら、出来る限りの笑顔で返してやる。こんな時にしかめっ面をするような奴は鍵屋失格だと思う。俺達はプロなんだから、請けたからにはお客に安心してもらわなきゃいけない。なのに鍵屋が心配そうな顔してたらお客は凄く不安になるだろう? だから俺は仕事中はお客に対しては出来るだけ笑顔でいる。


「あのっ…強い…です…んんっ…もう少し…」

「ああ、すまん、つい力が入っていたようだ。あと一つだからな…」


 つい終わりが見えて動きが雑になってしまった。このあたりはもうちょっと修行が必要だな。…でも、こんな状況になることを想定した修行ってどんなのだ? 


 漸く最後の一つが終わりそうになると、俺は皆に聞こえるように言う。


「よし、最後の一つが開くぞ」


 俺の手により、最後の錠が回る、そして……


――― カチャ ―――


 小さな金属音を残して、全ての錠が開いた。そして……


「きゃーーーーーーーーーーー!」


 絹を裂くような少女の悲鳴。



 彼女は貞操帯の下は当然ながら何も身に着けていなかった。ボディスーツのような形状が彼女の女性らしい部分を隠していたために羞恥心が薄かったのか、それとも半ば麻痺していたのかは分からないが、男の俺を拒絶したような素振りはなかった。だからという訳ではないが、俺も完全に安心しきっていた。


 ちょっと考えれば誰にもわかることだ、錠を全て開ければ貞操帯が外れるくらいは。外れれば全裸になることくらいは。


 そう、彼女は貞操帯が外れた瞬間、俺の前でその裸体を露わにしてしまった。そして俺は、かぶりつきで見てしまったのだ…。






 そして俺は、男爵の屋敷の応接間にて、正座をさせられていた。となりには馬鹿エルフミューリィも正座している。こいつが正座するのは当然として、何で俺まで…。


「ねえ、ミューリィ? あれほど勝手に仕事請けないでって言ったのに、何でわからないの?」


 真っ赤な顔で怒るフラン。しかし馬鹿は全く悪びれない。。


「だって、メルディアうちの経営状況を考えると、小さな仕事でも請けたほうがいいでしょ?」

「う…それはそうなんだけど…」

「それに酒場のツケも溜まってきてるし…」

「そっちが本命でしょ! 」


 フランに言われて小さく舌を出す馬鹿。それは兎も角…


「何で俺まで正座させられてるんだ?」


 ちなみに夫人と令嬢は別の部屋にいる。令嬢がなかなか泣き止まなかったので、一旦別の部屋に退避してもらったらしい。俺の不機嫌な表情に、今度はアイラが俺の前に立つ。


「ロック! あなた自分が何したかわかってるの? 女の子の裸を見るなんて、許されることじゃないのよ? 」

「でも、あれは不可抗力じゃないか」

「それでもよ! もう少し彼女のことを考えてあげてもいいんじゃないの? それをあんな間近でじっくりと堪能しちゃって…」


 これは冤罪だ…「弁護士を呼んでくれ…」なんて小ネタを入れようとしたが、仁王立ちの女性陣の雰囲気に圧されて諦めた。すると、入り口から夫人と令嬢が入ってきた。夫人は何かの対応に追われていたようで、先ほども姿を見せていなかった。令嬢は質素だがいい生地らしい水色のナイトドレス姿、夫人は落ち着いたダークブルーの執務服らしきドレスだ。2人は優雅に一礼すると、夫人が口を開いた。


「ミューリィ、火急な依頼を請けてくれてありがとう。貴女に頼んで良かったわ、まさかこんなこと、他の誰にも頼めないから…。 他の皆さんには自己紹介がまだでしたね。初めまして、私はこのリスタ男爵家当主、ゲオルグ=リスタの妻、デルフィナです。ほら、貴女も御挨拶なさい」

「皆様、初めまして。娘のセラフィナです、先ほどは取り乱してしまい申し訳ありませんでした。我が父が原因とはいえ、あのような事に巻き込んでしまいまして…」


 セラフィナは亜麻色のロングヘアーがよく似合う少女だ。年はアイラより少し下のようだが、改めて見るとすごく可愛い。


「あの…失礼ですが、あれを使ったのは男爵様なのですか?」


 フランはやや呆れ顔で問うと、同じく呆れ顔の夫人が応える。


「ええ、あの馬鹿夫は実務が出来ないくせにこういうふざけた思考は一人前で…こんなことに頭使うなら当家の実務の一つもこなしてくれればいいのに…」


 ふと耳をすますと、玄関先で怒鳴っている男がいる。そいつはだんだんとこちらに近づいてくるようだ。


「あら、諸悪の根源が戻ってきたようですわ…皆様、少々失礼します」


 そう言ってドレスの袖を捲り始める夫人。次の瞬間、ドアが勢いよく開け放たれた。


「セラの貞操帯を外したのは誰だぁ!」


 どうやらあの貞操帯には、誰かが外すと男爵に報せが行くようになっていたらしい。でもさっきの様子からすると、夫人はその機能を知ってたな? 俺達には言わなかったけど。


 夫人は男爵の前に静かに立つ。血気はやる男爵とは対照的に、朝霧に包まれる湖面のような落ち着きが却って不気味だ。


「おお、デルフィナ! セラを辱める輩はどこにいる! この私が成敗してくれる!」

「それはお前だろうが! この穀潰しがぁ!」


 夫人は鋭く踏み込むと、その力を余すところなく伝えられた左拳を男爵の右脇腹に深くめり込ませた。そのたった一発で男爵は床に跪き、胃の中のものを逆流させている。まるで世界ランカーのような卓越した動きを見せた夫人は、メイドの差し出すハンカチでその左拳を綺麗に拭うと、男爵に微笑みかける。


「さて、貴方には色々と聞きたいことがあります。このまま何処にも行かないように」


 そう言われて青い顔で震える男爵を全く意に介さず、メイド達は男爵の吐瀉物を綺麗に掃除していく。ふと隣を見ると、ミューリィも震えていた。


「幻の黄金の左拳…未だ健在だってことね…」


 幻だか黄金だかわからないよ、どっちかに絞ってくれ! 心の中で突っ込みを入れておく。確かにさっきのボディブローはその大層な言われ方にふさわしい破壊力だった。そうこうしてるうちに、床は綺麗になった。


 

 そして男爵は、俺達の横に並ぶような形で正座に参加させられた。



読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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