表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第13章 過去と対峙するとき
125/150

望んだこと

間隔が開いてしまって申し訳ありません。

 見ての通りと言われても、何がどうなってるのか理解が及ばない。そもそも偽宝箱ミミックってのは宝箱そのものに擬態したモンスターじゃなかったのか? 


「どう見ても人間と同じにしか見えないんだが?」

『彼女はミミックの中でも上位種よ、敢えて表現するならミミッククイーンとでも呼ぶべきかしら』

「上位種ってあれはどう見ても人間そのものだろう?」


 ノワールが平然と解説してくれるが、こちらとしてはそのまま鵜呑みにはできない。確かに大きな宝箱に腰かけているが、だからといってそれだけで偽宝箱と判断していいものか。するとミシェルと呼ばれた少女はおもむろに宝箱から降りるとゆっくりとこちらへと歩みを進めてきた。彼女が降りたとたん、これまで彼女が腰かけていた宝箱がすうっと消えていった。まるで先ほどの南京錠を見ているように、音もなく幻のように消えたのだ。


『私は自在に宝箱を出現させることができるの。もちろん鍵もかけられるわ』

「ということはさっきの宝箱も?」

『ええ、私は自分で設置した宝箱を使って移動できるの』


 なるほど、それでさっきの宝箱からこちらを覗いてたのか。見つかりそうになったから逃げたのか? それならもう少し早く出てきても良かったんじゃないかと思うんだが。


「どうして最初の宝箱の時に出てこなかったんだ?」

『無茶言わないでよ、ディノ=ロンバルドがいるなんて思わなかったんだから。それに兄弟子の実力も確認したかったし』

「兄弟子?」

『ええ、私はゲン=ミナヅキの教えを受けたわ。とすればロックは私の兄弟子でしょう? でも流石ね、私程度の知識じゃ全然敵わないや』

「そうでもないぞ、あのレベルの錠を再現できるのはきちんと師匠から学んでいた証拠だろう。となれば鍵開けの腕もある程度予想がつく」

『それは生きてるうちに言ってほしかったな。今の私には意味がないことだし』

「どうしてだ? モンスターだからといってもこうして話が通じるじゃないか」

「もしかして……あなたダンジョンから出られないんじゃないの?」


 これまでディノと二人で遠巻きに彼女を観察していたミューリィが突然割り込んできた。その口ぶりから察するにこいつも彼女のことを知っているっぽいな。


『ミューリィさん……ごめんなさい、こんな姿で。あれほど注意しろって言われてたのに……』

「あなたがバルボラの仕事を請けてることについては何も言うつっもりはなかったわ。流れで仕事をしていたあなただから引き際は弁えてると思ってたし。だからあんなつまらないことで命を落としてほしくなかったわ」

『…………』


 そういえばこいつも師匠と一緒に探索してたんだな。ということはミシェルのことも十分知っているということで……女性探索者であり斥候、そして鍵師となれば色々と余計な危険を呼び込む可能性が高いってことをもっと深く考えてほしかったのかもしれない。


「女だから色々と危険な状況に陥るかもしれないってのはゲンも心配してたわ。それが現実のものになったのは悲しいことだと思うわよ」

『はい……わかってます……』

「ましてやあなたは見た目もいいし、体目当てで近づいてくる連中だって少なくなかった。それをきちんと理解してたらこんな結末になってなかったかもね。今更言ってもどうしようもないんだけど」


 彼女の危機認識の甘さがこういう結末になってしまったのかもしれないということか。まぁ甘さについては俺も他人のことを言える立場にないな。先日も死にかけた……というよりほとんど死んだも同然だったからな。とはいえ一時的だが仲間だと思った奴らに悪戯されてミスるなんて想像してなかっただろう。仲間は信頼するものだし、そうでなければ周りが皆敵だらけということになる。そうなったら精神的に追い詰められそうだ。


「ま、それは置いとくとして、今皆が知りたいのはどうして死んだはずのミシェルがここで偽宝箱になんてなってるのかということなんだけど……」

『それが……私にもよくわからなくて……死んだと思ったら……気が付いたらこの姿になってた。ただ……声を聞いたような気がする』

「声? どんな声?」

『それが……ただ【望むか?】って聞かれて、それで【はい】って思ったら……』

「それでここに?」

『それでこの姿になったら無性にロックのことが気になって……そんなときにここに入ってきたから……ちょっと試してみようかなって……』


 首から提げたミニチュアの宝箱を大事そうに触りながらゆっくりと答えるミシェル。ミニチュアだがその精巧な作りは遠目から見てもはっきりとわかる。ペンダントにするにはちょっと大きくないか、それ?


「その小さな宝箱、ずいぶん精巧だな」

『これは私の本体なの。これが無ければ今のこの姿になることもできないのよ』

「本体?」

『ええ、今のこの身体は分体……ダンジョンを自由に動けるように作り出した仮初の身体なの。でもちゃんと感覚もあるから人間だったころと同じように動けるわ。もちろん……ほかのイロイロなこともね』


 含みを持たせるような言い方をしながら妖艶な笑みを見せるミシェル。身体にフィットした露出の高い衣服は彼女のメリハリのある肢体がさらに強調させている。そこいらのグラビアアイドル顔負けの見事なスタイルだ。


「ロック、どこ見てるの?」

「やっぱりそういうスタイルのほうが……」

「ふーん、そういうのがいいんだ……」


 どこか侮蔑を含んだような声が聞こえる。凝視していた訳じゃないのに酷い言われようだ。そもそもダンジョン内部でそんなやましい感情で動くなんてしない。ただ……彼女が師匠とどれだけ深くかかわっているのかが知りたいだけだ。


「ん?」

『どうかした?』

「妙な視線を感じるんだが……ああ、中に誰かいたんだったな。これはお前がやったのか?」

『こいつらは私がここに来る前から中にいたわよ。そもそも私にこいつらを出してやる義理は無いし、ここのマスターもそれを望んでいないようだし』


 ミシェルの背後にある牢の中からいくつもの視線を感じる。それを目で追うと、中には華美な装飾の施された男女数人がいた。金銀があしらわれたドレスやガウン、派手な首飾りや王冠、指輪……身分の高さを誇示しているんだろうが、正直言って直視し続けるのが辛くなるほどに成金趣味だ。だがずいぶん他人事のように感じるが。


「こいつらとは本当に何の関係もないのか?」

『だから言ってるじゃない、利害関係が一致しただけだって。私はただ協力してるだけ。そもそも私は自分の力ではダンジョンから出ることも出来ないんだから。これといってすることも無かったからここを施錠してただけ』

「ちょ、ちょっと待って! あなたここにいる人たちが誰か知ってるの?」

『知らない。誰、こいつら?』


 至極当然といった感じであっさりと返事するミシェル。問いかけたタニアはその答えを聞いて口がふさがらない。まるで魚のように口をぱくぱくさせている。


「この者たちは……この国の王族達じゃよ。まさかこんなところで再会するとはのう、国王よ。あの時の約束はやはり単なる口約束じゃったとは、呆れて物も言えんわい。ましてやあの時と同じ過ちを再び繰り返しておるとは、本当に救いようのない奴じゃ」

「…………」


 ディノが蔑むような目で牢の中、ひときわ豪華なガウンを着た装飾品たっぷりの初老の男を見る。あれがユーフェリア国王か、となるとその脇にいるのは第三王女か? いや、上の二人がいないのであれば事実上の第一王女か。国王は何か言いたげな表情だが、何らかの制約をかけられているせいか一言も発することができないようだ。


『ちょっと待って、ここにいる連中を外に出すのは勘弁してよね。この連中は絶対に逃がさないでって言われてるんだから』

「安心せい、頼まれても願い下げじゃ。それにわしらはリルを迎えにきたんじゃ、余計なことに関わって時間を無駄にするつもりはない」


 仮にも一国の王族相手に時間の無駄って……でもディノの様子からするとこれまでにも何か因縁があったようだし、そんな連中をここで野放しにするという道理はないから仕方ないか。それにディノの言う通り、今はリルを救い出すのが最優先だ。国王には悪いが、あんたらとリルを天秤にかければ当然だがリルのほうがはるかに大事だ。


『本当にこの連中の救出が目的じゃないのね?』

「うむ、こんな連中どうとでもするが良い。もう面倒みきれんわい」

『そう、それなら大丈夫そうね。ここの【主人】のところへと案内するわ』

「案内? こちらで勝手に探すつもりだったんじゃが……もしや何かの手段を用いなければ辿り着けんのか?」

『ええ、あの場所は隔離された場所。でも貴方たちなら案内しても大丈夫だと思うから』


 含みのある言い方をしたミシェルが俺達から距離をとる。敵意はないようだが、突然の行動に皆が臨戦態勢をとる。だがミシェルはこちらをじっと見据えたまま動かない。そして『案内する』という気になる言葉……そのままの意味でとらえれば、彼女が俺達をダンジョンマスターの所に連れて行ってくれるということか?


『貴方たちなら彼女の望んだことに対して何らかの解決策を見いだせそうだから』

「どうしてそこまで? 支配されている訳じゃないんだろ?」


 ミシェルの言葉に思わず疑問を口に出す。単なる利害関係の一致じゃなかったのか?


『確かに利害関係もある。そうなると私だけ望みを叶えるのはフェアじゃないでしょ? 彼女の望みは私には実現不可能だから。それなら可能性のある人たちを案内するのは当然でしょ? さて、滅多にできない経験をさせてあげるわね』

「……いかん! 皆すぐにここを離れるんじゃ!」

「すぐに結界を……」


 ミシェルの様子の変化に何かを感じ取ったディノが皆に指示を出し、ミューリィがとっさに結界で皆を護ろうとする。敵意は感じられないが、その口ぶりから何か大掛かりな仕掛けでも動くのだろうと判断したらしい。だが……


『ここはもう私の領域なのよ、気付かなかった? そちらのお嬢さんはずいぶんと平然としてるみたいだけど』

『その気になれば力押しで破れるから。そのくらい貴女も理解してるんでしょう?』

『やっぱりそうか……彼女が貴方たちに手を出すなと言ってた理由がわかったわ。言ったでしょ、彼女の望みを叶えるには貴方たちが必要だって。大丈夫、ここは私に任せて』


 こんな状況でも平然としているノワールを見てミシェルが声をかける。ノワールが本気になればミシェルどころかこの城すら軽く吹き飛ばしかねない。それを知った上でもなお俺達を連れていきたいということは、やはりダンジョンマスターの元第二王女のところに連れていくつもりだろう。ただ問題はどういう手段でそこまで俺達を連れていくのかということだ。


「一体何を任せろって……なんだ?」

「何よこれ……」


 と、いきなり周囲が暗くなった。それも夜というよりも闇といったほうがいいくらいの暗さだ。まるで窓のない部屋で灯りを消されたような、暗幕を突然下されたような、そんな感じだ。周囲の状況など全くわからない。なのにこの空間が絶対に異常なものだということだけはわかる。


『大丈夫、少しの間だけだから』


 再度、大丈夫ということを強調する真紅の瞳の少女。暗闇のはずなのにその姿ははっきりと視認できるのはどう考えてもおかしい。それどころか真っ暗闇のはずなのにほかの仲間達の姿をも視認できる。


『ここは私の作り出した宝箱の中よ。だからどのような空間にするのも私の思うがまま。何も見えない暗闇にいきなり放り込むと大抵の人間は精神に異常をきたしちゃあうからね』

「とりあえず皆固まるんじゃ、何が起こっても対応できるように!」


 ディノの指示に皆が体を寄せ合う。誰かが近くにいるというだけで不安感が薄れていく。さすがはダンジョン探索を長年続けてきただけのことはある、こんな状況でも冷静だ。

 と、次第に周囲が明るくなっていく。それは最初に遠くのほうに小さな光点が見え、それが時間を経過するにつれ光点を中心に広がっていく。まるで長いトンネルの出口に近づいているような、そんな感覚。

 明るさはなおも強くなり、最後には目を開けていられないほどの眩しさとなって俺達に襲い掛かってきた。そして次にきたのは……かぐわしい花の香りだった。明るさに目を慣らすようにゆっくりと目を開けると、そこは一面に花の咲き乱れる庭園だった。そしてその中心部には白い小さなテーブルセットがあり、そこに座るのは二人の女性。一人は見慣れた女性、もう一人は初めて見る顔だった。


「リル……無事でよかった」

「ロック……」


 どこか安堵したような、それでいて何か心残りがあるような、そんな複雑な表情を見せるリル。そしてリルと向かい合うように座っていた女性が席を立ち、優雅な所作で俺達に向き合うと恭しく一礼した。


『ようこそ、わたくしの庭園へ。わたくしはここの主、シルファリアと申します。よろしくお見知りおきを』




執筆時間をなかなか確保できなくてこんなに開いてしまいました。色々とあったものですから……

諸事情はまだ続いていますが、決してエタらせることはありませんのでご安心ください。


読んでいただいてありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ