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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第13章 過去と対峙するとき
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白亜の城⑤

新年最初の更新です。

「どうしてお前がここんいいるんだ?」

『私がここにいてはいけないの?』


 ディノと共に拠点に現れた人物は予想の斜め上を行っていた。何でここにいるんだ?


『新しいダンジョンが出来たのならお母様のかわりに確認する必要があるからよ』


 ちょこんと椅子に座り、紅茶を飲みながらクッキーを頬張るノワール。今日の恰好はいつものラフなTシャツ姿ではなく、初めて会った時のようなゆったりとした黒のワンピースを着ている。これが彼女の活動スタイルのようなので敢えて口出しするつもりはないが、他のダンジョンのマスターだったモンスターが別のダンジョンに入っても大丈夫なんだろうか?


「ノワールがウィクル以外のダンジョンに入っても大丈夫なのか?」

『その心配は不要よ、もうマスターの資格はお母様に戻っているわ。今の私はただの黒竜よ』

「いや、ただの黒竜なんて過剰戦力が参加するのはどうかと言ってるんだが」


 ノワールが戦うところを見たことはないが、少なくとも一時期はダンジョンマスターを代理で務めていたほどだからその力は推して知るべしだろう。それはもう反則じゃないか?


『私はあなたたちと一緒に行くだけで戦闘には参加しないわ。私は見極めをさせてもらうだけよ』

「見極め?」

『ええ、王城がダンジョン化なんて前例が無いもの。その要因を調べる必要があるわ。もしそれが何らかの企みがあって人為的になされたものだとしたら……捨て置くことはできないわ』

「今回は特殊じゃ、これまでダンジョンの気配すら無かったユーフェリアでのダンジョンの誕生じゃからのう」

「それにユーフェリアはこれまでに裏で色々と非合法なことをしてる。そのせいで溜まりに溜まった負の力が悪い影響を与えるかもしれない。ノワールはそういうことも懸念してるんでしょ?」

『ええ、ダンジョンとこの世界のバランスを崩すことになりかねないのが今回のダンジョン化なの。人間にとっても危険だけど、私たちモンスターにとっても看過できないのよ』


 探りを入れるって感じよね……なんて言いながら紅茶のおかわりをするノワール。つまりは戦力として頭数に入れるなということか。もし参加したらノワールだけで全て終わってしまうかもしれないからな。

 それにリルがどこに囚われているのかもわからない状態では派手な攻撃をぶっ放すという乱暴な方法はできない。やはり地道に探索していくしかない。

 ノワールを当てにできないということはわかった。それはディノも知っているんだろうか、ディノはもう二人の助っ人を連れてきていた。


「桜花ちゃんは相変わらず可愛いわね」

「このお菓子も食べる?」

『はい、ありがとうございます』


 頭を撫でられながら渡されたクッキーを食べる桜花。そんな桜花を愛でているのはソフィアとサフィールさんだ。ソフィアは神官としての仕事はいいのか? まだ拠点の準備も整っていないらしいからいいのかもしれないが、問題はサフィールさんだろう。

 魔導士協会のツートップがここに来ていて協会の運営は大丈夫なのか?特にディノがほとんど仕事していない状況だと書類仕事が溜まっているんじゃないのか?


「仕事はモリアに任せてきたから大丈夫ですよ。……それに私だってたまには暴れてみたいし」

「もしかしてそれが本音か?」

「……それは少しあるけど、別にやることもあるんですよ。むしろこっちのほうが重要なんです」

「うむ、タニアに聞いた話だとかつて処刑された第三王女がモンスター化してダンジョンマスターになったということじゃが、もしそれが本当ならば近隣諸国を巻き込んだ大事件に発展する可能性があるんじゃ」


 サフィールさんとディノはいつにも増して真剣な表情で言葉を続ける。


「第三王女の処刑に関しては不可解なことが多かったんです。本来ならばしっかりと真実を調査したうえで裁かれるべきだったんですが、処刑は速やかに執行されてしまいました。まるで口封じでもするかのように」

「今回の探索では当時第一王女だったリルもいるとなれば、闇に葬られた真実が明らかになるかもしれん。となれば事と次第によっては近隣諸国に対しての調整もせねばならん。サフィールはその為にも呼んだんじゃよ」


 いきなり国際問題に発展するとは……となればこの二人が出張ってくるのは当然か。各国政府に多大な影響を持つ魔道士協会のトップとナンバーツーが対処に当たっているとなれば無碍にすることもできないだろう。

 判断を間違えれば戦争という最悪の結果を招きかねないからこそこの二人か……


「前衛は私が務めるから安心して」


 ソフィアが腰に提げた剣に手をかけながら胸を張る。彼女の強さは前回の探索で証明されている。あの時は彼女にも迷惑をかけてしまったな。


「あの時は迷惑かけたな」

「何を水臭いこと言ってるの、ロックは仲間なんだから。仲間を手助けするのは当然よ。探索者の中にはピンチに陥った時に仲間を見捨てていくって奴もいるけど、私はそんなの認めないわ。最後の最後まで皆で生還することを諦めない」


 おもむろに腰の剣を抜くと、その刀身が炎を宿す。ソフィアが剣に魔力を通したようだ。さすがに室内なので炎はすぐに消して剣を鞘に収めるが、決して軽くはないと思われるその剣を軽々と扱うあたりにもその実力の片鱗がうかがえる。


「見事な剣の扱いだな、俺なんかじゃ太刀打ちできない」

「……」


 と、いきなりソフィアがずいっと顔を近づけてきた。ハーフエルフの彼女はエルフ特有のまるで人形のように整った顔立ちと、人族の持つ愛嬌のある顔立ちの良いとこ取りをしているせいか、とても親しみやすい美しさを持っている。そんな綺麗な顔が目の前に急に近づいてきたとなればこちらとしても対処に困る。


「ねぇロック、ロックは戦闘力が低いことを気にしてるけど、それは意味のないことよ。誰にだって適材適所ってものがある。私たちみたいな力任せの役職にはどうしても出来ないことがある。それは鍵開けのような細かい作業よ。どんなに頑張ってもこの力が邪魔をしてまともに解除することもままならないの。私たちにはどうにもできない細かい作業を平然とこなすロックのことは皆尊敬してる。だからもっと自分に自信を持つべきよ」

「……ああ、ありがとう」


 まるで自分の心の奥底を見透かされたような感じがした。

 瀕死の大怪我から奇跡的に回復した俺は少々自己嫌悪に陥っていた。理由はもちろん、何の抵抗もできずに攻撃を食らってしまった俺自身の弱さに対してだ。

 あの時、他のメンバーの半分でもいいから周囲の感知能力や敏捷性、耐久力なんてものがあれば無防備に攻撃を食らうなんて無かったはずだ。仲間達だってこんな足手まといみたいな奴を守りきるなんて相当な負担になっているのかもしれない。

 そんな考えが心の奥底にへばりついて拭い去ることができない。ふとした時にその考えがじわじわと侵食してくる。心に刺さった棘のように、気づくと俺の思考をマイナス方向へと向けようとしてくる。

 出来るだけ表情に出さないように気をつけていたんだが、どうしてばれたんだろうか?


「神官になるには信者の悩みを聞いてあげることも重要な修行の一つなの。ロックが悩みを抱えているなんてすぐにわかったわよ」


 自分よりも一回り以上年下の子供に殺されかけた……その事実は予想以上に俺の精神を傷つけていたようだ。理不尽すぎる力を与えられていたせいか、あいつらは完全に自分を見失っていた。

 あの力が羨ましくないかと聞かれれば、そんな気持ちは毛頭ないと言ったらウソになる。自分にあんな力があればと思った時もある。だがあいつらの得た力は罪もない人たちの犠牲の上に成り立つ力だ。自分で積み重ねたものならまだしも、他人から無理やり奪った力なんて欲しいとは思わない。

 これまで日本で仕事をしてきて、大事なものを理不尽に盗まれて嘆き悲しむ人たちを何人も見てきた。そんな俺が他人から奪った力なんて使えるはずがない。

 それは理解しているんだが……あまりに無力な自分自身に対する嫌悪感と、簡単に力を手に入れた連中に対しての羨望を完全に払拭できなかったのをソフィアに見抜かれていたようだ。


「あれ以来、知らないうちに弱気になっていたようだ。できるだけ気にしないようにしていたんだがな……」

「そういう気持ちは誰にだってあるわ。でもそれを完全に否定してはだめよ、そういう気持ちもロックの本当の気持ちの一つなんだから。無理に押さえつけようとすれば必ずその反動でいびつに歪むわ、あの子供たちのように」


 あいつらは与えられた力によって麻痺してしまい、精神状態がいびつな形に抑圧されてしまったんだろう。そのせいであんなに攻撃的になっていたのかもしれない。その証拠に、あの後会った時には年相応の子供にしか見えなかった。


「ロックの持つ技術という力は誰のものでもないあなただけのもの。積み重ねて磨き上げた、誰にも真似できない素晴らしいものよ。だからこそ、そんなあなたを私たちは尊敬する。何があっても守っていきたいと思うのよ」

「……ありがとう、だいぶ気が楽になった」


 リルを救出に向かうというのに、無意識のうちに不安要素を抱え込んでいたとは……ソフィアでなければこうはいかなかっただろう。結果オーライとはいえ、連れてきてくれたディノに感謝だ。


「うん、きちんと自分の状態を把握しようとするし、忠告もしっかりと受け止めようとする。それだけでもロックが積み重ねてきたものの尊さがわかるってものよ。基本がなっていない人ほど忠告というものを蔑ろにしやすいから」

「でしょ! ロックはそういうところもしっかりしてるんだから。ソフィアちゃんにはあげないよ!」

「ミュー姉! まさかもう唾付きなの?」

「そんなわけあるか!」


 ミューリイが参加してきたところで話が怪しい方向へ行きそうになったの早々に距離をとった。その様子に気づいた桜花がすぐに寄ってくる。


『大丈夫ですか?』

「ああ、心配するな」

『あなたがロックを護る最後の砦よ、先日のような失態は許されないわ』

『はい! この身に替えても!』


 甘えようとしてくる桜花に向かってノワールから厳しい声がかかる。途端に表情を変えてノワールへと言葉を返す桜花。このあたりはモンスターとしての格の違いが出てきているようだ。

 そう言えば、あの時桜花の召喚に使った光札は残り四枚。残りは松、薄、柳、桐だが、それぞれに一体ずつモンスターを召喚できるとするとあと四体は可能なのか。意思疎通できるモンスターが前提ということらしいが、どんなモンスターと出会うんだろうか。


「おい、そのへんでやめておいてやれ」

『……わかったわ、ここで疲弊して本来の仕事ができないのは本末転倒だものね』


 桜花はノワールが発した威圧に当てられて動けなくなっている。いくらアラクネとはいえ未だ幼体、まだノワールには遠く及ばないんだろう。ノワールから発せられるプレッシャーが霧消するとほっとした表情ですり寄ってきた。


「まだまだ成長途中なんだ、一緒に頑張っていこうな」

『はい!』


 いつものように背中によじ登ると、俺の頭を抱え込むようにしてしがみついてくる桜花。重さはほとんど感じないので動きを阻害するようなことはしない。アイラたちも含めて茶を飲んでいるところでようやくディノとサフィールさんが戻ってきた。タニアも一緒に戻ってきたことから内部構造を考慮した探索計画を立てていたようだ。


「探索計画が決まったぞい、決行は明日の夜明けと同時にタニアの使っていた秘密通路から侵入する。ここにいる全員で向かうから皆準備をしておくんじゃぞ」

「タニアさんの話では即座にリルさんの身に危険が及ぶとは思えませんが、いつどうなるか予想できないのがダンジョンというものです。それは私たちにも言えることです。くれぐれも油断などしないようにしてください」


 決行は明日か、フルメンバーで行きたいところだったが仕方ない。今集められるだけの最大の戦力でかかるのが本筋だろうが、全員集中して一網打尽となっては意味がない。ディノの様子だとこの場にいないサーシャとルークが別動隊となっているようだ。何かあった時のことを考慮して時間差で王城へと侵入する手筈らしい。


「明日か……何事もなくリルを救い出せればいいんだがな……」


 唯一の心配はこちらの行動が後手に回ってしまっていることだ。情報がほとんどない状況での手探りの行動になることは必至であり、細心の注意をはらい続けるのが鉄則だ。だがそれは非常に消耗してしまうのが難点だ。そのためにも解錠に余計な時間をかけられない。いつも以上に速攻でかかる必要があるが、集中力を切らさないでどこまでいけるか……

 ここで悩んでいても仕方ない、今夜はゆっくり休んで明日に備えるくらいしかできないんだから……

 

少々間が空きましたが、年明け最初の更新です。

色々と忙しくて滞りがちですが、もう少しで色々報告できそうなこともありますので……


本年も鍵屋さんともどもよろしくお願いします。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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