ヘルプ引き受けました
作者は使ったことなどありません!…念のため…
「どうしてこうなった…」
俺はそう呟かずにいられない。今、俺が直面している状況がうまく説明出来ない。
何故俺の前に『ほぼ全裸』の若い女が居るのか? 何故俺は仕事道具を持って女の前に居るのか?
「さあ、遠慮なくやっちゃって!」
隣で酒臭い息を吐く馬鹿エルフが適当なことをほざく。後ろではアイラがおろおろしており、フランとサーシャが興味深そうに眺めている。
やがて女が纏っていた毛布をするりと取り去ると、恥ずかしげに語る。
「私、このようなことをするのは初めてです。…あの、出来るだけ優しくして貰えると助かります」
「心配するな、俺もこんなのは初めてだから。優しく出来るかどうかは約束出来ないが、善処する」
俺の言葉に女は少し安心したようで、瞳を閉じて身体を預けてきた。
俺はやや酒の残る頭をフル回転させてこの状況に陥った原因を探るが、どう考えても隣の馬鹿エルフにたどり着く。俺の恨みのたっぷり篭った視線に気付いて小さく手を振ってくる。
「ほら、さっさとやっちゃってよ、こういうの好きなんでしょ?」
本当に…どうしてこうなった…
エルフのミューリィが乱入してきた為、歓迎会は唯の飲み会になりさがった。
「へぇ、ゲンの弟子だって?それじゃ鍵開けもばっちりよね?」
「まあな、って俺の酒がばがば飲むなよ、結構高かったんだから」
「小さいことにこだわるなんて器が小さいわね」
いきなり失礼な奴だな、フランを見ると「お手上げ」の様子で首を横に振っている。ロニーが呼ぶのを嫌がった理由がよくわかる。
「あ、そう言えば、緊急の仕事を受けたんだけど、手に負えなくてヘルプ頼みに来たんだった。美味しそうなお酒があったから忘れてた」
フランの表情が青くなる。そういうことは先に言え!
「ねぇミューリィ、どんな仕事受けたの?」
「ちょっとした鍵開けよ。魔法の鍵かと思ったんだけど、どうも魔法じゃないみたいだから。アイラを連れて行こうと思ったんだけどギルド閉まってるし、美味しそうなお酒の匂いはするし」
「もしかして…まだ仕事中なんじゃ…」
フランは恐る恐る聞くと、ミューリィは至極当然て感じで笑って答える。
「うん、そうだよ。お客さん待たせてる」
この言葉に全員が凍りついた。
俺達が現地に向かう間に詳しい情報を聞き出した。場所はギルドから徒歩で10分程の場所らしい。依頼はこの町の有力貴族の一人、リスタ男爵夫人で、、開けるのはその娘に関わることのようだ。もしかすると命に関わる可能性がある。よくそんな時に酒を優先できたな。
「出来ればアイラに頼みたかったんだけど、その様子じゃ無理か」
アイラはさっきまで酒を飲んでたから手先がおぼつかない、任せるのは無理だ。
「いいよ、俺がやる。俺は幸いにもそんなに飲んでない。それより、魔法の鍵じゃないのは確かなんだな?」
「その子はなかなか優秀な魔道士なの、魔法の鍵なら簡単に開けられるわ」
「なら何でお前に出来ると思ったんだよ! 鍵開け出来るのか?」
「いや、そこはほら、酔った勢いというか…。 ほら、そろそろ着くわよ」
現地に着いて漸く、ミューリィがアイラを指名した理由が分かった。普通ならこんなのを男に頼まない。そこにはほぼ全裸の女の子が毛布を纏っていた。鍵開けが必要なものは彼女が身につけていた。
鍵開けが必要なものとは、彼女の貞操帯だった。
貞操帯ってのは、十字軍の頃に使われ始めたとされる道具で、貞操器具と言われることもある。ぶっちゃけて言うと、性行為をさせない究極の道具と言ってもいい。戦争に出兵する夫が妻の浮気を防ぐために使ったり、強姦されないように自主的に使われることもあったそうだ。
これを装着されると、本人の意思では外せず、専用の鍵じゃないと外せない。当然、鍵といえば鍵屋の仕事なんだが…貞操帯だとはね。ちなみに、現在でも入手可能だが、その使用方法は貞操を守るというよりも、ある種のプレイとして使われることがほとんどらしい。当然、売っているのはアダルトグッズショップだ。
「まさか貞操帯だったとは…俺も実物見るのは初めてだが、これは特注品か?」
貞操帯ってのは、局部だけを覆うタイプだと思ったが、これは胸のほうまで隠してる。
「どうなの? イケる?」
隣で囃したてるミューリィが煩い、誰かこいつを黙らせてくれ。でも、待てよ…貞操帯って…
「なあ、これ勝手に外していいのか? 誰かが彼女の貞操を守ってるなら拙いだろうし」
「全然いいわよ、この子くらいの年なら毎晩違う男としっぽりなんて常識よ」
ミューリィの常識だから怪しいが、ここは異世界だから価値観が違うかもしれない。アイラ達に視線を向けると皆がぶんぶんと首を横に振る。良かった、俺の常識セーフ。
俺が錠前の構造を調べていると、ミューリィが近付いてきて余計な事ばかり言ってくる。
「ちなみにこの子は私のコレね、私はどっちでもイケるから。ちなみにギルドの皆はもう味見したから」
そう言ってドヤ顔で小指を立てる馬鹿エルフ。
聞き捨てならない発言に再度皆を見ると、再び首をぶんぶん振って否定してる。首の筋肉が引き千切れそうだ。
「お前なあ…邪魔してるなら追い出すぞ? さて、内部構造は大体分かったから、もうちょっとだけ我慢してくれると助かる」
「わかりました、我慢します」
こうして俺は生まれて初めて貞操帯の解錠にとりかかった。作業してると彼女の小さな声が漏れる。勘弁して欲しい。だって貞操帯の下は女の子の裸だぞ、こっちだって色々抑えるのに必死なんだから。
本当に…どうしてこうなったんだよ、この大馬鹿エルフ!
読んでいただいた方、誠にありがとうございます。