紹介されました その2
俺達がギルドに戻る頃には、すっかり日が暮れて町は夜の顔を見せていた。
どうやら俺の歓迎会は隣の建物のようで、そこは一階が酒場で上階が宿屋らしい。ギルドに戻るとリルに半ば拉致に近い状態で連れて行かれた。
「主役が来ないと始まらないよ!」
半ば出来上がったロニーがカップ片手に話しかけてくる。早すぎるだろ、お前。
見渡せば昼間には見なかった顔もある。昼にダンジョンに行ってた連中だな。とは言うものの、初めて会うのは四人か、とりあえず挨拶しとこう。
「これから世話になるロックだ、鍵屋をやってる。こっちの世界は分からないことだらけだから、色々と教えて欲しい」
俺が頭を下げると、ロニーと話してた四人がカップを掲げて挨拶してくる。ロニーが一人ずつ紹介してくれた。
「ロック、この熊みたいなおっさんはガーラント、重戦士だよ。比較的にトラップの少ないダンジョンで君達鍵師やお客の護衛をしてる。破壊力ではトップクラスだ」
「よろしくな、ロック。ゲンの弟子だってな、期待してるぞ」
ガーラントはボサボサの茶髪に熊ヒゲのおっさんだ。凄まじくマッチョで筋肉がはち切れそうだ。後ろに立掛けた馬鹿でかい斧が得物だろう。
「そっちの細いのは神官のルーク、本職は町外れの教会の神官だけど、ギルドも掛け持ちしてる。治癒や解呪がメインだね」
「よろしくお願いします。ゲンに挨拶してきたそうですね。子供達にお菓子をくださったそうで、ありがとうございます」
ルークは銀髪の細めの兄ちゃんだけど、やっぱり締まった身体つきだ。ダンジョンに入るからにはこのくらい鍛えないと駄目なんだろう。最低限自分の身は自分で守れないと拙いだろうし。俺も何か考えないといけないのかもしれない。
「そっちの彼女はサーシャ、魔道士でディノ様の弟子だよ」
「よろしくね、ロック。それよりも貴方、ディノ様のこと爺さん呼ばわりしてるんですって? いくら老い先短いからって随分失礼なんじゃない?」
「おぬしの方が失礼じゃ! 年寄りは労らんかい」
サーシャは二十歳そこそこくらいの女性だが、なんと髪がピンクだ。どこぞの夫婦漫才師に会わせてみたらどうなるんだろう。多分写真撮られまくるな。
「それからそっちの彼はアルバート、ガード専門だ。ガードっていうのは大きな盾で味方を守る護衛だね。防御魔法も得意な腕ききで、騎士団からスカウトされるほどさ」
「よろしく、ロック。君の仕事中は確実に守るから安心してくれ。腕前はロニーから聞いてる、心強いな」
アルバートは白と言うより水色っぽい髪だ。短髪が似合ってる。結構細身なのに防御専門って、こっちの世界は見た目で判断出来ないな。
「本当はあともう一人いるんだけど、こういう場に呼びたくないから呼んでないんだ。そいつは改めて紹介するから、まずは始めよう。フラン、挨拶してよ、代表なんだから」
やっと乗り物酔いから復帰したフランが立ち上がり、カップを片手に挨拶を始めた。
「えー、我々メルディアにやっと腕利きの鍵師が来てくれました。彼はゲンの弟子だそうです。私も見たけど、ゲンにも負けない凄腕よ。アイラたちの指導もしてくれるそうだし、これからのメルディアを支えてくれる心強い仲間になってくれるでしょう。これで『バルボラ』なんかにでかい顔させないわ! ロックもこっちに来たばかりだから、みんなも支えてあげてね。それじゃ、今日のこの出会いに…乾杯!」
『『『 乾杯! 』』』
俺はかなりの量の酒を飲んでいた。この酒場、「銀の羽亭」の看板娘のタリアと日本の酒の話になり、とても興味を持っていた。確かにこっちの酒は美味い、何ていうか素朴な味だが、日本で洗練された酒を飲んでた身としてはやっぱり物足りない。
「そういえば、酒好きな奴に振舞おうと思って、少し持ってきたんだ。ちょっと待ってろ、今持ってくる」
「どうしたの、ロック? どこか行くの?」
アイラが声をかけてくる。ちょっと酔ってるな、ほんのり上気した顔がなんとも言えん。
「タリアが日本の酒が飲みたいらしいんで、車から持ってくる。すぐに戻るよ」
「やだ、私も一緒に行く!」
ここまで慕われると悪い気はしないな。師匠として恥ずかしくない行動しないと…。一人で持つには少々多いから手伝ってもらうのもいいか。
「よし、それじゃ一緒に取りに行こう」
嬉しそうに鼻歌を歌いながら歩くアイラに案内してもらい、車から酒を取り出す。日本酒に焼酎、洋酒を持ってきた。日本酒は吟醸酒で焼酎は芋がメインに米と麦を、洋酒はバーボンを数本にラムを持ってきたが、みんなの口に合うかどうかだな。
「お待たせ、タリア。色々持ってきたから、飲み比べしてみな」
カウンターに酒瓶を並べる。種類もそうだが、瓶に興味を持ってるみたいだな。空き瓶は持って帰るつもりだけど、欲しい人がいるならあげてもいいか。ほかの連中も興味深いのかカウンターに集まってくる。
俺は一緒に持ってきたショットグラスに少しずつ注ぐと、タリアに勧める。
「美味しい! すっきりしてて凄く飲みやすい!」
「それは吟醸酒だな、米を米麹で発酵させた酒だ。少し甘口だから女性の口にも合うんじゃないかな」
「これは蒸留酒かのう? ほんのり甘い香りがする美味い酒じゃ」
いつの間にか爺さんが米焼酎を飲んでいる。ほかの連中にも好評のようで一安心だ。
「この琥珀色した酒は不思議な香りがするな、なかなか強くて美味い酒だ」
ガーラントはバーボンが気に入ったみたいだな。サーシャとルークは麦焼酎をがんがん行ってる。
「神官職だとなかなかお酒を飲むことが出来ませんからね、いくら神官でも人間ですから、多少の嗜好品は認めてほしいです」
「魔道士なんて言っても、独自の魔法を編み出して買い取ってもらわなきゃただの貧乏人よ。ダンジョンも高難易度のじゃなきゃ儲けも少ないし、こういう機会でも無けりゃ美味しいお酒なんて飲めないからね」
…結構大変なんだな、でもその気持ちはわかるぞ! 職人も腕の立つ有名人は高い金もらえるが、駆け出しの新人は経費を抜いたら雀の涙ほどしか残らない。俺も独立したばかりの頃は貧乏生活してたよ…あれ、思い出したら涙が…
そんな宴の熱気を急速に冷めさせる事態が起こった。
「あれ? 貸切? 何で開いてないの? お酒の匂いがしたから来たのに! 開けろ! あーけーろーっ!」
そんな怒鳴り声とともに扉をドンドンと叩く音がする。声は若い女みたいだ。
「すごい楽しそうな声もする! 何この美味しそうなお酒の匂い! あけろー! 私にお酒を飲ませろー! 飲ませないと魔法でぶっ飛ばしちゃうよ!」
「まずいよ、タリア! さっさと開けなさい、あいつ本気で魔法撃つ気よ!」
外から聞こえる、ぶつぶつと何かを呟く声にサーシャが慌ててタリアを促す。タリアが急いで扉の閂を外すと同時に、勢いよくその扉が開かれた。
「この私に美味しいお酒を飲ませないなんてどういうつもり? 喧嘩売ってんの?」
入り口で腰に手をあてて仁王立ちしてる小柄な女性を見て、俺は思わず呟いていた。
「あれは…エルフか?」
「そうよ! メルディアの誇る精霊術師、ミューリイ=ミューレルとは私のことよ! そこにある美味しそうなお酒は全部私のものよ! 大人しく飲ませなさい!」
「いや、それは俺のなんだが…」
俺はこの時、今までに感じたことのない胸騒ぎを感じた…絶対トラブルメーカーだぞ、こいつは。
馬鹿っぽい人登場!
読んでいただいた方、誠にありがとうございます。