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異世界でも鍵屋さん  作者: 黒六
第2章 盗賊ギルドに就職しました
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 俺はディノ爺さんとアイラに連れられて、町の外れを歩いていた。町の外に近くなると畑や牧場もある。牛らしい動物は角が4本あるし、羊らしい動物はほぼ毛玉だ。畑の作物はどこか見たようなものばかりだ。


「もうそろそろじゃ、吃驚せんでくれよ?」


 爺さんが俺に話しかける。吃驚ってどういうことだろう? まさかすごい大きな墓なのか? 


 やがて見えてきたのは小さな神殿のような建物。外では十人くらいの子供が楽しそうに遊んでる。年配の女性が子供の相手をしてるけど、あの人がシスターかな?


「邪魔するぞい、ハンナ、マリーンは奥かの?」

「これはロンバルド様、お久しぶりです。マリーン義姉さんは聖堂の掃除中です…あら、おかえり、アイラ。エイラはさっき帰ってきたところだけど、ギルドで大変だったみたいね」

「ええ、でも大丈夫だったわ」

「ハンナ、マリーンを呼んでくれるか? お客さんじゃ」


 ハンナと呼ばれた女性は初老のややふくよかな女性だ。優しそうな笑顔が特徴的だな。オレンジ色の髪を一纏めにしてる。


「あら大変、お茶の支度しないと! マリーン義姉さん! お客さんよ!」


 やがて、修道服に身を包んだ老女が入ってくる。灰色の髪を後ろに流してる。修道服と同じ濃紺のカチューシャが似合ってる。


「あら、ロンバルド、久しぶり。そろそろ耄碌する頃だからさっさと隠居したほうがいいわよ。皿洗いくらいならうちで雇ってもいいけど」

「相変わらずきつい言い方じゃのう…」


 ディノ爺さんが少々凹んでる、この人見かけによらず言い方きついな…


「今日はお客を連れてきたんじゃ、ゲンの弟子のロックじゃ。ロック、この2人はゲンの嫁じゃ、修道服の婆あがマリーン、優しいのがハンナじゃ」



 婆あって…そんな紹介の仕方あるか! この後の言葉選びが難しくなるだろうが!



「ゲン=ミナヅキの弟子のロックです。師匠がお世話になったそうで…」

「あら、ゲンのお弟子さん? そういえばどこか雰囲気が似てるかしら」

「その髪の色、あんた異世界人だね? この死に損ないに騙されたんじゃないのかい? 戻るなら今のうちだよ」

「何いうか! ちゃんとスカウトしたわい! そんなことよりゲンの墓に案内してやりたいんじゃ、案内たのめるかの?」

「忙しいところを突然すみません。こちらに来たことをどうしても師匠に報告したくて…」



 俺は頭を下げて頼む。



「まあ、礼儀正しいのね、アイラも見習いなさいな」

「そういうことなら大歓迎さね、あの馬鹿も喜ぶだろうよ」

「それじゃ、私が案内するわ」


 アイラは話が自分に向き始めたのを察知して、案内役を買って出てくれた。俺と爺さんはその後を付いていく。そこは教会の裏手の墓地だった。よく見ると、少し離れたところにある大樹の傍に、ひっそりと墓標があった。


 俺は直感した、あれが師匠の墓だと。師匠は生前、日本の霊園みたいな場所は嫌だって言ってたしな。まるで大樹に寄り添うように立つ墓標は、とても安らかな雰囲気があった。


「ここにゲンが眠ってるわ…ゲン、ロックが来てくれたわ。ゲンのかわりに私に色々教えてくれるって」


 その墓標にはこう彫ってあった、「稀代の鍵師 ゲン=ミナヅキ此処に眠る」と…

俺は背負ってきたリュックの中から紙コップを数個取り出す。続いて出すのは師匠がよく飲んでいた芋焼酎だ。コップに注ぐと墓標の前に置く。なかなかいい焼酎だから、しっかりと味わってくれよ? ついでに俺と爺さんの分も注ぐと、2人で呑む。


「これは…きついがいい味の酒じゃのう、ほんのりと甘い風味が堪らん」

「爺さん、この味がわかるのか? あんたもいける口だな」


 アイラも飲みたそうな顔をしていたが、酒を飲んでいい年かどうかが分からなかったからお預けだ。あとで代わりにアレをやるか…



 改めて師匠の墓標に手を合わせる。


 


師匠、俺も師匠と同じ世界に来ちまった。ただ、すごく遣り甲斐のある仕事だと思う。何せ、こうわくわくする仕事ってのはそうそう無いからな、それにアイラの師匠にもなっちまった。アイラは俺が引き継ぐから安心して寝てろ、ここなら2人の嫁さんに面倒みてもらえるんだから…一人身の俺としてはうらやましい限りだよ!



「さて、師匠にも挨拶したし、戻るか」

「そうだ、ロック、夕食食べていかない? 皆も紹介したいし」

「何言っとる、アイラ。今日の晩飯はロックの歓迎じゃろうて、皆愉しみにしとるんじゃ」

「あ、そうだった。それじゃエイラだけでも紹介するから待っててね。エイラ! ちょっとこっち来て!」


 そう言うと、エイラを探しに行くアイラ。エイラはさっきの子供達と遊んでるみたいだ。子供達の中ではリーダーみたいだな。


「ほら、こっちよ。ロック、さっきも会ってるけど改めて紹介するわね、私の妹のエイラよ。まだ未熟だから尻尾は隠せてないけどね」

「エイラです、よろしくね、ロック兄ちゃん!」


 兄ちゃん…いい響きだな…俺は一人っ子だったから、ちょっと感動した。それはそうと…エイラの後ろにさっきの子供達が控えてるのはどうしてだ?


「ここは孤児院なんじゃよ。ハンナとマリーンが面倒みておる。アイラもジーナもここの卒業生じゃ、いつも給料の一部を入れてくれとるんじゃよ」


 成る程、これなら師匠があの2人を嫁にした理由がなんとなく分かる。師匠は無類の子供好きだったから、女手だけで孤児院を運営するのを見て心打たれたんだろう。子供達は若干栄養不足な子も見られたが、概ね元気そうだ。そうだ、アイラも含めて、子供にはアレをあげるか…


「すみません、子供達にお菓子をあげてもいいですか?」

「まあ、ありがとう! なかなかお菓子なんて買ってあげられないからねえ」

「余計な気遣いさせて悪いな」

「いえいえ、多分師匠がこの場にいたら、同じことすると思うんで…それじゃ一列に並んで手を出せ」


 俺はリュックから出した円筒状の器の蓋を開ける。中から出てきたのはカラフルなボタンのような形の、甘ーい香りのお菓子だ。未だに俺もよく食べてる「マーブ○チョコ」だ。皆その鮮やかさに目を奪われている。


「甘い! 美味しい!」


 子供達の歓喜の声が広がる。エイラも喜んでいるようで、狐の尻尾をぶんぶんと振っている。一方、アイラは…貰いたいけど恥ずかしいんだろう。さっきからもじもじしてる。


「ほら、アイラ、さっきの酒はあげられなかったから、これは謝罪がわりだ。…少し多いのは内緒だぞ」


 俺はそう言って小さくウィンクすると、その意味を理解したのか、満面の笑みで一粒口に含む。


「甘~い! こんなお菓子初めて食べたわ!」


 気に入ってくれたようだ。尻尾がぶんぶん振れている。この子も苦労してるんだよな…とそんなことを考えてると、アイラが何かに気付く。


「大変! もうそろそろ陽が沈む! 早くしないと遅れちゃう!」

「おお、そうじゃったな。早く戻らんと!」


 どうやら今日は俺の歓迎会らしい。昼に仕事に出ていたメンバーも戻ってくるらしいから、どんな面子が揃うのか、凄く愉しみだ。…ところでアイラ? お前凄く嬉しそうだが、酒飲めるのか? ていうか飲んでいい年齢なのか? そのへんはっきりしてくれないと、来て早々に警察の厄介にはなりたくないぞ。

読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

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新作始めました。現代日本を舞台にしたローファンタジーです。片田舎で細々と農業を営む三十路男の前に現れたのは異界からの女冒険者、でもその姿は……。 よろしければ以下のリンクからどうぞ。 巨人の館へようこそ 小さな小さな来訪者
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