少女
僕が彼らを見たのはしばらくたってからのことであった。
室内が突然騒がしくなったと思ったら、老人と少女がはいってきたところだった。老人の方は至って変なところはないが、少女の方は歪だった。―――何処がか。その少女は床を這うようにして歩いている。洋服を着てこそいるものの、その行為は人間ではないものを連想させる。何かがおかしいと思った。心臓の音が耳の近くで聞こえる気がする。だが、僕は彼らから目を離すことができなかった。
老人は秦の前まで来ると優雅に腰を折った。
「ようこそいらっしゃいました、駒野様。先日はどうも。本日はどうぞごゆっくりお寛ぎください」
「やぁ、ご隠居殿。今日はいつもに増して豪華だね。そんなにして見せたいものというのはソレのことかな?」
「ええ、そうです。作るのに苦労しました」
何の話をしているんだと思う。だが同時にこれ以上この話を聞いてはいけないような気もした。
「ああ、原田君。紹介しよう。こちらはご隠居殿だ。確かちゃんとした名前もあったような気がするけどこっちの方がよく言われているねぇ」
「初めまして、原田和也です」
すると、ご隠居殿は眉をしかめて秦の方を見た。
「駒野様、こちらのお方はもしや…」
「ん? 言われなくてもわかっているよ。この人はね、表の人間さ」
「では何故?」
「退屈だからに決まっているだろう。それにね、彼は俺の数少ない友人だよ。口も堅いし、物事を客観的に見れる人間だ。なかなかにいい人材だよ」
おい、なかなかにいい人材とはお前何様のつもりか…
「ああそうでした。紹介しましょう、これが私の最高傑作です」
そう言ってご隠居殿は傍らでうずくまっている少女を見た。少女は僕らをちらりと見る。
「にゃお」
少女は突然鳴いた。
「え?」
「ああ、言い忘れていたけれども、ご隠居殿は人買いから買った人間をペットとして手なずけることが趣味でね。ソレはご隠居殿のペットさ。人型の。だからそれと接するときは人間として接しないようにね」
人間が人間に飼われることが本当にあるのだろうか?
だがそれは、人間でないようなふいんきをかもしだしている。人であると認めることの方が難しいように感じる。
「さわってごらん」
そう言われて恐る恐る手を伸ばす。少女の頭に触れるとごろごろと喉を鳴らして答えてくれる。それは、ある意味不気味であった。




