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ヤサグレ聖女とエクセル騎士

ヤサグレ聖女は匂わせに気が付かない

作者: 瀬田えいち
掲載日:2026/09/19

わたしの名はメリー。幸運にも神子さまの侍女をしております。

由緒だけはある、名前だけの伯爵家の長女として生まれました。貧乏貴族の、おまけに女子ときたら、大した持参金も用意できず、身分だけが目当てのどこぞのろくでもない成金へ嫁ぐハメになるところではありますが、ありがたいことに両親はそのようなことはせずに育ててくださったことは大変感謝をしております。

ま、うちの家系はそういうことをしないから、いまだに貧乏ともいえるのかもしれません。


何をすべきかもわからず、何もできず鬱々としていたわたしが神子さまの侍女として、王宮に住まい、社交界でもあらゆるご令嬢の憧れの的の氷の貴公子さまと同僚になるとは思いもしませんでした。同僚なんて公爵家の氷の貴公子さまにおこがましいですね。でも、氷の貴公子さまがあんなにおもしろいお方とは想像もしておりませんでした。

まぁ、おもしろくなるのは主に神子さまがいらっしゃる時に限定されるのかもしれませんが。


神子さまは普段はとてもおおらかなお方ですが、「これ!」となるとかなり徹底的に対応なさる方です。おかげで、先日の遠征の際も、意識のない神子さまがエクセルさま(あえてそう呼ばせていただきます)に抱えられてお戻りになった時は心臓が凍りついたものです。


あの時はすぐに熟睡されているだけと伺い、ほっとしたのもつかの間、くうちゃんがお話できるようになったと知り、「奇跡!」と思うあまり、くうちゃんを抱き潰してしまったのはよい思い出です。


おかげでしばらく、くうちゃんからは距離をとられておりました。中身が出るほど抱き潰したわけでもなく、特に減るもんでもないし、なんでそんなに嫌なのか理解に苦しみますが、まぁ、本人のご要望にはお応えしようと、以後、適正な距離を保っております。クマちゃんですが、猫ちゃんみたいな性格なんですかね?

……あ、ちょっとお話がずれてしまいましたわね。


神子さまは違う世界から来られたお方なので、こちらの常識が通じないところがございます。

だが、そこがよい!(神子さまの口調を真似てみました)


そして、いつもお忙しい神子さまですが、たまに運悪く、ご令嬢の突撃に当たる時がございます。神子さまのお休み日の際はガンとしてお気の乗らない面会の申し入れは却下されるのが周知されているせいか、突撃は通常の日の確実にエクセルさまが不在の時を狙っております。

エクセルさまがご不在の時はかなり数少ないチャンスですから、ご令嬢方の情報網と根性には舌を巻きます。もう少し違うことに使う方が有効利用できるのにもったいない、と思ってしまうわたしはかなり神子さまの影響を受けているようです。

ご令嬢方は紳士協定でも結んでいるのか、一回の特攻は一名のみ。それは厳格なルールのようです。


どうも高位貴族のご令嬢方はエクセルさまが神子さまのお近くにいつもいらっしゃることが気に入らないご様子。社交あるいは恋愛相談という形で神子さまにご自身にご都合がよいことを伝え、あわよくば己に利するように神子さまを動かそうとするのですが、現時点ではことごとく思惑が外れていく様子が、とてもおもしろいのです。



「聖女さま、わたくし、お慕いしている方がおりますの」

「はぁ、そうですか」

「小さい頃から存じ上げておりまして、昔からお優しくしていただきましたの」

「はぁ、そうですか」

「どなたか、お知りになりたいですか?」

「いえ、別に。多分、言われてもわかりませんし」

「……」


撃沈しています。どう立て直すのか、興味があります。

神子さまはあなたが勝手に来てるんだから、こっちも思ったことは言わせてもらうねスタイルですね。

わかります。


「ひどいです。聖女さまにご相談しようとしておりますのに」

「あー、そうなんですか。でも、わたし、貴族の方とか社交をちゃんとしているわけではないのでよくわかりませんし。治外法権な存在なんですが」


恋愛相談に治外法権。すてきです。


「いえ!貴女様の護衛の騎士さまのことです!」

「あ〜、エクセル?彼がなにか?」

「お慕いしているのです!」

「ああ、そういうことですね。かっこいいですからね。ファン多そうですよね」

「えっ」

「あ、エクセルに◯◯さんがファンだって言ってたって伝えとけばいいですか?」


ここでわたくしが助け舟を出します。

神子さま、かなり飽きてきていますね。


「神子さま、そろそろ次のお約束が……」

「あ、そうでした。ごめんなさい。次の予定がありまして」

「……はい。……では、失礼いたします。お忙しいところありがとうございました」


ご令嬢は立ち上がり、扉の前で美しい所作でご挨拶なさります。


「あ!多分、エクセルもう少しで戻りますよ!ちょっと待ってたら顔見れますよー」


神子さま、もう飽きているのに、その一言。お優しいです。

ただ、エクセルさまはブリザード発動しますよ。ご令嬢が凍っちゃうから、ダメ!




そうそう、言い忘れておりました。

エクセルさまにこのような件を口頭で伝えると自動的にブリザードが発生するので、リストで渡すことに決めております。

神子さまから「表」の作り方を教わったので、項目に基づいて作成しております。こうすると、傾向などもわかりやすく、とても楽しいのです。エクセルさまにも紙一枚お渡しすれば済みますしね。

毎月の比較や派閥での分類も面白そう。表作り、わたくし、趣味になりそうです。


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