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幸せな令嬢の話(通称:さすクラ)

無敵のお嬢様

作者: ぺいた
掲載日:2026/08/06

幸せな令嬢の話

https://ncode.syosetu.com/s6462k/


シリーズの4作目です。侍女のマチルダ視点です。


どこから読んでも大丈夫だと思いますが、1作目から順に読んだほうが、わかりやすい気がします。

「お義姉様、お庭のバラが綺麗に咲いてます」エリー様がクラウディア様に声をかけた。


「まあそうなの? すぐ見に行くわ」クラウディア様がいそいそとお庭に向かう。

エリー様はそれを確認してから、二階に向かって歩いて行った。


(また何かたくらんでるな…)


私はメイドにそっと目くばせをして、エリー様を見張ってもらいつつ、クラウディア様の後を追った。


庭に出てみたら、明らかに不自然な場所にバラが植えられている。

綺麗に咲いているどころか、しおれかかっている。たぶんこんな時期に無理やり植え替えたからだ。

そして植え替えられた場所はといえば…バルコニーの真下。


なるほど、バラを見ているお嬢様の真上から、重い物でも落とすんだろうな。そのためにここにバラを植えたんだろうな。わかりやすすぎて頭痛がする。


そして当のお嬢様はというと、「あらこんなとこにバラがある、でもなんかしおれてるような…」と首をかしげている。そして「でもエリーがわざわざ言うくらいだもの、きっとすんごく綺麗なバラが、どこかに隠れてるのね!」と言ってあちこち探し始めた。


(探すためにきょろきょろうろうろしてるから、狙いにくいだろうなあ)と思ってバルコニーを見たら、やっぱりエリー様が植木鉢を持って必死で狙いを定めていた。


「まあクラウディア様、私も一緒にバラを見てもいいかしら」奥様が現れた。


「もちろんですわ、お義母様と一緒にお庭を散策できるなんて嬉しいです」と笑顔で答えるお嬢様。


そのお嬢様の腕にそっと手を添えて、狙いやすい場所に誘導する奥様。連携プレーか。


ここぞという場所で、お嬢様が突然「あっ、この花!?」と座り込んだ。その勢いにつられて奥様も身をかがめ、腰をやられたらしい。「ぐがっ…」と言ったきり悶絶していた。

ガシャーンという音がして植木鉢が足元に落ちた。上を見るとエリー様が「あ ぁ ぁ」と言いながらバルコニーから身を乗り出し過ぎて落ちそうになっており、足をバタバタしていた。


「えっ? お義母様? えっなに? エリーも、そんなとこで何してるの? ちょっとやだ、誰か来てちょうだいー!」


使用人たちがそれぞれ助けに行ったので、ふたりとも無事だった。奥様はぎっくり腰でしばらく安静にしなければならないが。


そしてもちろんクラウディア様も無事である。植木鉢も、割れた時のかけらも当たってないし、バラに触っていたのに棘の傷ひとつない。さすがはクラウディア様。略してさすクラ。今日もお嬢様の雄姿に大満足である。



私はクラウディア様の側付きの侍女のマチルダ。もともとは、アラン第三王子の秘書だった。

クラウディア様はアラン殿下の婚約者であり、私は殿下の命でここにいる。


というのも、殿下がクラウディア様の身辺を心配したからである。


エリー様は、アーノルド伯爵家の先妻が亡くなられた後に、後妻として入った奥様の連れ子。

新しく伯爵夫人におさまった奥様が、昔からの伯爵の愛人であったことは公然の秘密で、エリー様は明らかに伯爵の血をひいている。だから、先妻の子であるクラウディア様を邪魔に思って、虐げるのではないかと危惧したのだ。


そして、その危惧は正しかった。


このエリー様と新しい奥様は、表面上は優しいのだが、とにかくお嬢様を殺しにかかってくる。虐めるとかじゃなく、いきなりの殺意。


愛人と、その娘として暮らしていた長い間に、鬱憤がたまっていたのかもしれない。だからやっと復讐の機会が来て、はっちゃけたのかもしれない。だとしても、お嬢様を狙う手口があまりにも無計画なので、もともと軽率というか浅はかというか、思慮が足りないというかノータリンというか、なんかそういう人たちなんじゃないかと思う。


そして、このお屋敷に来て驚いたことは、このうすらバカ母娘が、こんなにわかりやすく殺害をしかけてくるのに、使用人たちが、お嬢様を守ろうとしないことだ。


さっきだって、植木鉢を持ってうろうろするエリー様の後ろには、メイドがいた。でも止めないで見ていたのである。エリー様が落ちそうになった時はさすがに助けていたが。


私が最初に見たのは、異物混入の現場だ。給仕係がワゴンで料理を運んでいる時に、エリー様が現れて、「あらっあれは何かしら?」と窓の外を指さし、何か入れたのだ。そして「このスープはお義姉様が好きだから、一番たっぷり入ってるこのお皿を、ぜひお義姉様に供してあげてね」と言ったのだ。


エリー様はとっとと自分の席に戻ったので、私は給仕係に今の出来事を伝えに行った。

すると「うん、でも大丈夫だと思いますよ」と言うのである。


「何言ってるの、このお皿は下げて、鑑識に回すべきよ」と訴えたが、「試しにこのまま出してみましょう。マチルダさんも、見ればわかりますよ」と言う。


あまりにも自信満々でそう言うので、疑問に思いつつも、そのままお皿をお嬢様の前に置くのを見ていた。斜め後ろに控えているので、もしもお嬢様が毒スープに手をつけようとしたら止めよう。でも止めるのが遅れたら危険だから、絶対見過ごさないように気をつけなければ!


そう思って緊張していたが、お嬢様は「あら? このスープみんなのより多いわね?」と自分で気づき、「エリーのお皿と交換してあげて」と給仕係に言いつけた。


え! 


給仕係はそっと私にウインクして「かしこまりました」とエリー様の皿と交換していた。


エリー様は「なんでそんな! そのお皿はお義姉様のためにシェフが用意してくださったものですわ! お義姉様にたくさん召し上がっていただきたいです!」と抵抗していたが、お嬢様も「だってこのスープはおいしいから、かわいいエリーにたくさん食べてほしいのよ!」と決して譲らない。


根負けしたエリー様は「お義姉様のお気持ちが嬉しすぎて、おなかいっぱいになってしまいました。お先に失礼しますね」と言って、口をつけずに部屋に戻って行った。


お嬢様は「ええ~~、ほんとにおいしいのに…。エリーったら遠慮しすぎ」と残念がっていた。

今の…善意だったんですか? 不穏な気配を察知したとかじゃなく?


あらためて給仕係に詳しく話を聞いた。そうしたら、この屋敷の使用人にとって、お嬢様が無敵であることは、常識だった。


乳母が言う。

「子供を育てたことがある人はわかると思うんですけど、子供は本当に、自分から危険なことをするんですよ。なんでも口に入れるし、火でも毒虫でも触ろうとする、硬い床の上で転ぶ、安定性のない場所に登りたがる、階段の手すりをすり抜けて落ちる。本当に目が離せません」


マチルダは子を持ったことがないが、そんな話を聞いたことがあるので、そういうものなのだろう、と思った。


「でもクラウディア様には、そういう危険な場面が、一度としてなかったんです。ハイハイしている時に、口に入りそうなものが落ちていても、見向きもしない。危ないものには近づかない。よちよち歩きの時も、なぜかくまのぬいぐるみを背負いたがるので、おんぶひもで結んでいました。だから、どれだけ後ろに倒れようと、ぬいぐるみがクッションになっていたので安心でした」


「前に倒れた時は?」と聞くと

「前に倒れる時にはいつも、タオルや布団など、柔らかい物がある場所だったので、ぼよんぼよんしてましたね」と言った。


料理長が言う。

「食べる物にも驚くほど敏感なのです。お嬢様には好き嫌いがなく、なんでも残さず召し上がって下さるのですが、たまにまったく口をつけない時があって、そういう時は絶対に、『まちがって毒草が交じっていた』とか『仕入れ業者のミスで異物が混入していた』とか、問題がある時だったんです。毒草も異物も、私どもは、まったく気づいていないものだったのでびっくりしました。食糧庫に来て、保存していたジャガイモをすべて『ていっ』と投げたこともあります。調べたら、殺虫成分のある魔力薬の魔力量が、規定範囲を大きく超えていました」


アラン殿下によると、お嬢様は「規格外の強運の持ち主」らしいけど、ここまで??


「今では、定期的にお嬢様に食糧庫や冷蔵庫を確認に来てもらっています」


いやそれは使用人としてどうなの。


家庭教師は言う。

「交友でもどこか違うのです。子供の時は、言葉を選べずに不敬なことを言ったり、失礼をしたり、大人を怒らせたりするものですが、お嬢様は、ふだんは何も考えてないようにうろちょろ歩き回ったり好きなことを喋ったりするのに、ここぞという時は絶対に礼儀を守るのです。初めての謁見の場では、ずっとおじぎしたまま身動きもしませんでした。後で聞いたら足元にアリがいて、それを観察するのに夢中だったそうです」


そういった経緯を経て、使用人たちは「お嬢様には、神の安全保障がある」という認識を持っていた。


だから、もしものことがあれば助けられるように、見守ってはいるが、必ずお嬢様は自力で窮地を逃れるので、「さすクラ」と心の中で拍手喝采する日々を送っていたのだ。


ある日、殺意母娘が馬車に仕掛けをした時、お嬢様は大きいほうの馬車で出かけたので、仕掛けた馬車は壊れかけのままだった。なんとかしてお嬢様に壊れかけのほうを使わせようと、「お義姉様、今日はお出かけにもってこいの日では?」とか「クラウディア様、若いお嬢さんに人気の店ができたそうですよ」とか言って出かけさせようとするのだが、そのたびに「まあ、じゃあエリーも一緒に行きましょうよ」「お義母様もまだまだお若いじゃないですか! 一緒に見に行きましょう」とひとりでは出かけようとしないので、いつも玉砕していた。


そのうち「私は大きいほうの馬車で行くので、エリーとお義母様は小さいほうの馬車を使ってください」と、自分たちが壊れかけを使わないといけない状況になった。母娘は泣きながら夜中に馬車を直していた。


エリー様が階段から突き落とそうとした時も、池に落とそうとした時も、見事に躱していたので、私もすっかり「さすクラ」信者になっていた。


私たちがお嬢様の雄姿に拍手を送るたびに、父親の顔色はどす黒くなっていったが、こんな母娘を連れ込んだ元凶なので気にしないことにした。


そしてとうとう、あの、馬車での飛び出し事件が起きた。階段から落ちても池に落ちてもピンピンしてたので、「この子は丈夫さが取り柄なのか」と思っていたが、さすがに、走る馬車から勢いよく転がり落ちたら、無事ではいられなかったようだ。


エリー様はなんとか命は助かったものの、顔にひどい傷を負った。

口からつっこんだせいで、口の周りに泥棒ヒゲのような傷ができたのだ。

その顔を見た母親は「天罰」という言葉が浮かんだに違いない。

クラウディア様の、伯爵令嬢という立場を、盗もうとした罪人だと。神はすべて見ていたのだと。


ちなみに、なぜ「泥棒ヒゲ」という言葉を知っていたかというと、お嬢様がらくがきで「カールおじさん」なる謎のものをよく描いていて「このヒゲ、泥棒ヒゲっていうんだよ~」とみんなに教えていたからである。


母娘は改心し、修道院で罪を悔い改めながら暮らすことになった。


父親も反省して、僻地で隠居することになった。


「そんな…お父様まで…みんないなくなってしまうなんて…」

お嬢様にとっては3人とも「優しい家族」だったらしいので、本気で寂しがっていた。しかしお嬢様以外は「自業自得」としか思ってないので、お嬢様の気持ちには寄り添えない。申し訳ない気もするが、これはしょうがないことだと思う。


母娘が修道院に向けて発つ日、乗合馬車の乗り口まで見送りに行った。

「うちの馬車を使えばいいのに」というお嬢様に対して、「私たちは罪人です。路銀をいただいただけでも、もったいないことでございます」と答えていた。改心したのはまちがいないようだ。


「その上、お見送りにまで来ていただいて、こんなお気遣いまで…!」母親が涙する。


エリー様は、口の周りの傷を隠すために、四角い布を三角に折って鼻と口を覆い、いわゆるバンディット・スタイル(盗賊巻き)にしていた。それを知っていたお嬢様は、「ひとりだけ巻いていたら目立つけど、こうやってみんなでやっていたら流行みたいでかっこいいわ!」と言って、見送りに来ていた全員、お嬢様はもちろん、侍女にも従者にも、布を巻かせていたのである。


「こんな優しいお嬢様に、私たちはなんてことを…! 本当に、申し訳ありませんでした」泣いてぺこぺこする母娘に対して、


「だから気にしないでー。なんで謝られてるかわかんないのに。どうか、元気でね。辛くなったら戻ってきてね」と声をかけていた。


もちろん、「いや戻ってきちゃだめだろ」とその場にいた全員が心の中でツッコミを入れていた。


そして、その頃、市中では鼻や口から感染する病気が流行っていた。

布を巻いていたおかげで私たちは感染を免れ、お嬢様の伝説がまたひとつ追加されたのであった。

はあ緊張します。蛇足だったらどうしよう~! ひー!


と思ってたのに8月7日、[日間]総合 - 短編で2位、[日間]ハイファンタジー〔ファンタジー〕でも[日間]異世界転生/転移〔ファンタジー〕でも1位いただきました。とてもとてもとても嬉しいです。ありがとうございます( ;∀;)

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― 新着の感想 ―
面白すぎる。神の安全保障、殺意母娘、最高。 笑った。ありがとうございました。
母娘が途中で「殺意母娘」と書かれているのが面白過ぎる(笑)。 改心した後はちゃんと「母娘」表記なところも含めて好きです。
さすクラシリーズ、好きです(^^) お嬢さまに付いていたら、全員危機回避出来るんじゃないでしょうか。さすクラ教の信者が増えそうですね。
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