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5話

第伍話

 

 「了解。」

 無愛想な機械のような声が静かな夜に響き渡る。

 獣のような瞳をした影憑と、怯える人間。

 その前に立ち影を落とすのは可憐な動きやすそうなドレスのような軍服のような服を纏う紅梅色の髪の毛を無造作に三つ編みに結った少女。

 髪の毛と同じ色の瞳にハイライトは無い。

 まるで機械のように感情の無い顔で、見たことの無い銃にも似た兵器を持ち上げる。

 『影憑と疑われる者は全て抹消しろ、だそう』

 何やら通信機越しに青年の声が聞こえる。

 「はい王様。影憑及び影憑になると思われる人物を抹消します。」

 王様、と呼ばれている通信相手はアウィスの国王では無い。

 そもそもアウィスの国王はこんなに若い青年のような声をしていない。

 少女は目の前の複数名に兵器を向けた。

 

 

 

 

 「終わりました。帰還します。」

 風化して消えていく影憑。

 そこら中に飛び散る血液。

 そしてその先に広がる死体。

 返り血を拭うことなく少女が兵器を横に振る。

 兵器はまるでアオギの能力と同じように空中で消えた……かと思いきや少女の細い腕に飾り物のように形を変えまとわりついた。

 「零弌、仕事だ。」

 後ろから現れたのは髪の毛をひとつに結んだ、鋭い視線で少女——零弌を捉える女、宵闇部隊の夕見鈴音だ。

 『私は騎士です。順従している王の命令以外には従いません』

 しかし少女はまた機械的にそう言い残しその場を去っていった。

 夕見はちっとひとつ舌打ちをしたあと少女とは反対方向へと歩いて行った。

 

 

 

 「結局、ウェンディさんのこと、何も掴めなかったね……」

 センタボルタへ向かう列車の中、錆びれた箱を持つセトの方を見てネフィが呟く。

 「結局またゼロからやり直しか……」

 アオギが唸る。

 「そういえば中央軍とか、隊の人間は知ってるのか?リンラードのこと。」

 セトが問う。

 「どうなんだろう……」

 ネフィがうーんと考え込む。

 「多分知っている人もいれば知らない人もいると思う。」

 アオギが本を閉じ答える。

 「少しずつ信用できる人を集めるしかないよね。」

 ネフィが窓の外を見ながら言う。

 海が広がり段々とセンタボルタが見えてきた。

 「それぞれ軍や隊を偵察だな」

 セトが髪の毛を結び直す。

 アオギは再び本を開く。

 「セトのそれ、切ってあげようか?」

 ネフィがはてなと指をさし問う。

 「別に切らなくていい」

 「どうして?」

 「……——ら。」

 「え?」

 セトが目を逸らしながら小さな声で喋るが、聞こえないとネフィが問い返す。

 「……あぁぁあもう!こっちのほうが大人っぽく見えるだろ」

 セトが投げやりにそっぽを向きながら恥ずかしそうに答えた。

 「っ……」

 「何が面白い!」

 アオギが本を読みながら笑いをこらえる。

 ネフィも少しふっと笑う。

 「あ!ネフィまで!お前らぁぁあ」

 セトがそんな二人を見て立ち上がりガミガミと叫んだ。

 「……」

 「……て、あれ?」

 笑いをこらえるアオギと笑うネフィを他所にふとセトがふと目線の端にうつる奥の席に目を向ける。

 「どうした?」

 アオギが座りながら目線を上げてセトに問う。

 「いや、なんか視線を感じたけど……気のせいか。」

 奥の席に見えた少女は特にこちらを見ることなく座って窓の外を眺めていた。

 そんなこんなで気がつけば海は遠くなり街に出た。

 「そういえばこの後。帰ったあとどうする?」

 セトが椅子に腰かける。

 「オレはセンタボルタを調べて回る。」

 アオギが質問に答えた。

 「うーん、軍のみの所属だし、軍にいることが生かされている条件みたいなものだから私は軍に戻るかな。」

 ネフィも少し考えながらそう答えた。

 「セトは?」

 ネフィがどうする?と首を傾げる。

 「……俺も兄さんを探したいし、とりあえず旅して回ろうかと思う。でも、ネフィを軍に置いていって大丈夫なのか……?」

 セトが椅子に浅く腰かけ背もたれによりかかり寝そべるように頬杖をつく。

 「軍に居る限り今のところは平気なはず。そういう条件だから。」

 アオギが答えネフィもうなずく。

 「残していくとはいえいつでも会える距離だしな。」

 付け足しながらあくびをするアオギ。

 「そうだね!いつでもご飯作るよ!」

 にこりとネフィが笑い提案する。

 「じゃあ取り敢えず腹が減ったらネフィの所にいくか」

 セトが腕をのばし伸びをしながら椅子に正しく座り直した。

 

 

 「やあ。」

 「げ……」

 「げ、とはなんだ。上の人間に向かって」

 駅に着くとそこには知った顔が立っていた。

 軍服姿のフィルトを見るなりセトが嫌そうな顔をした。

 「そんな大佐が迎えに来るとはなんかあるのか」

 アオギが大佐の横を通り過ぎながら問う。

 「部下の無事を確認来ただけさ。君は今頃泣いてるかと思ってね」

 セトの方を見てふっと嫌味に笑いながらフィルトが言う。

 「ないてねえよ。そりゃどうも」

 セトも負けるまいと怒りを表しながら嫌味に返す。

 「あっ!中佐さんだ」

 そんなセトとフィルトを他所にネフィがこちらに向かってきた天芽に手を振る。

 「おはよう」

 欠伸をしながら言う天芽の元へと向かうネフィ。

 「今昼です」

 ネフィがそれを訂正した。

 「おっ、可愛い姉ちゃん発見」

 アオギはそう言い人混みの中に消えていった。

 「彼女は監視対処だから自由には行動させられないが君らはどうする」

 フィルトがネフィを横目にセトに問う。

 「……俺とアオギはこの辺を適当に散策する」

 セトが素っ気なく返す。

 フィルトはその意図を見抜いたかのようにまたふっ、と笑った。

 「まあいい。放し飼いって所か。」

 そう言い放ちではまたと歩いて駅を出て行った。

 「じゃあセト、アオギ、また!……てアオギいない……」

 ネフィも手を振りあれ、とアオギを探しつつも天芽とフィルトに続いて駅を出て行った。

 「……あの大佐……ぜってぇ蹴落としてやる……」

 セトはそう吐き捨てアオギはいいかと駅を出た。

 

 

 

 

 

 「標的を発見しました。」

 街中を歩いていると、突然少女の機械的な声が耳に入りセトは立ち止まる。

 「はい。了解、王様。」

 空耳では無い。

 確かに聞こえる。

 どこから聞こえるのかと声の主を探す。

 「王様……」

 ふと耳に入ったその単語をセトは呟く。

 ぐるりと見回すと声の主らしき少女を見つけた。

 紅梅色の綺麗な髪の毛と可憐な服はどこか軍服を少し感じさせた気がした。

 少女はこちらには気がついていないようでセトとは反対方向に向かって歩き続けている。

 その少女をセトは見たことがある。

 リンラードからの帰りの列車で視界の端に見た少女だ。

 ふと気になり少女の後をつけることにした。

 見失わぬように気をつけながら人混みをぬけていく。

 少女は正面を向いたままこちらには気づかない様子。

 そして橋に入る手前で橋には足を踏み入れることなくそのまま橋の下へと向かう。

 少女の先を見ると、裕福そうな服装の男が歩いているのが見えた。

 どうやら少女はその男を追っていたらしい。

 そのまま男が橋の下でひと休みするようにベンチに座り川を眺めた。

 少女はゆっくりと男に近づく。

 橋の上とは違い、人が少なく昼間ながら大きな影が広がり不気味な場所だった。

 セトは少女に気づかれないよう、ゆっくりと影に隠れながら様子を伺う。

 「!?」

 気づいて手を伸ばした時にはもう遅かった。

 赤い血が飛び散り男はその場で椅子から倒れ落ちた。

 一瞬で人形のように息をしなくなった血の溢れる男。

 いつの間にか現れた機械のような見たことの無い兵器を横に振り返り血を振り落とす少女。

 そして武器は形を変え飾りのように少女の腕にまとわりつく。

 セトは目を見開いたあと怒り任せに少女の方へと走り出す。

 しかし少女はこちらを見ていない。

 手を伸ばしあと少しというところでふとセトの手が止まる。

 「——ッ!」

 少女と目が合った。

 少女がふと少しだけ首を動かし目をセトの方に向けた。

 綺麗な紅梅色の瞳がセトを確かに捉えた気がした。

 しかしそれも一瞬で、少女は気がつけばその場から居なくなっていた。

 「!」

 セトは慌てて少女はどこかとぐるりと一周探す。

 見つからずに橋の上まで走っり辺りを見回すが少女はどこにもいなかった。

 息を切らしながらようやくセトは口を開く。

 「出てこいよ!どこだよ!」

 息を切らしながら叫ぶ声に返答はなかった。

 しばらくセトはその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 「ここだ!」

 突然、元気のいい声が橋の下から聞こえてきた。

 通報を受け軍がきたのか?

 それにしては早すぎる。

 セトははっと我に返り橋の下へ向かう。

 橋の影にある無惨な遺体は橋の上を通る人達からは死角にありまだ誰も気がついていないようだ。

 橋をおりると二人の人影がみえた。

 「誰だ……?」

 そう呟きセトはその人影へと歩み寄る。

 スーツを着こなす優雅な雰囲気をまとう男と、探偵の模倣のような格好をした……

 「子供?」

 「子供だからなんだ!ボクはお前なんかよりずっと賢い!天才だぞ!」

 セトの呟きにその子供がこちらの方を見もせずに言う。

 ボク、と言ってはいるが少女だろう。

 「何をしてるんだ、こんな所で……」

 セトが少女に近づき話しかける。

 「それはこちらが伺いたいです。と言いたいところですが貴方は私達と同じ側の人間で、この悲惨な現場を見かけ消えた犯人を探しに行ったが見つからず……と言った所でしょうか。」

 すると少女ではなく隣にいた男が落ち着いた冷静な口調で告げた。

 先程までの全ての行動過程を当てられた。

 「同じ側?というか全部見ていたのか……?」

 殺害現場を直接見た事にまだ動揺を隠せないセト。

 「いいえ。今来たばかりです。このくらいの推理など推理にすらなりませんけどね。」

 はは、と男が穏やかに笑みを浮かべる。

 「あんたらは……?」

 「失敬。申し遅れました。私共はヒルガオ社探偵部社員。私の名は南央なお。彼女は明智(あけち) 奏歩(かほ)さん。」

 セトの質問にナオと名乗った男が答えた。

 「ヒルガオ社……」

 「おや?あなたもヒルガオ社のようですね」

 「!?どこかで……?」

 「いえいえ。聞いたことも見た事も。ちょっとした反応から推理したまでです。」

 また当てられた。

 え?え?と混乱するセトを横目にまたナオが微笑する。

 そういえば探偵部はちらりと紹介で聞いた程度だ。

 たしか天芽が事件を任せると言っていた先。

 「いいかボクは天才でナオは良い奴だ!覚えとけセト!」

 奏歩と紹介された探偵帽を被った少女がセトを見上げ腰に手を当てて声を張る。

 「なるほどセトさんと言うのですねよろしくお願いします。」

 ナオが手を差し伸べる。

 「あ、ああ……?は?俺の事知らなかったんじゃ——」

 名前を当てられたことにぎょっとし奏歩の方を見る。

 名乗っていない。

 それに知らないと先程ナオが言っていた。

 「だから言っただろう!ボクは天才だ!」

 ふふんと自慢げにまた声を張る奏歩。

 名乗っていないのに当てられる……。

 なんだこの既視感……。

 同じことが前にあった気がする。

 「あ!お前も死神とか名乗るんじゃねえだろうな?全知全能だとか——」

 思い出したのは以前出会ってそうそうナイフを振り回したかと思えば手伝ってくれた自称死神の青年、シュド。

 こいつもそれと同じ系の……。

 嫌悪感むき出しの顔でセトが奏歩を睨む。

 シュドとか言うやつ、あいつはどうにも好きになれない。

 「は?あんな放浪者と一緒にされちゃ困るね。ボクは所謂天才。自称死神ヤローとは関係ないね。」

 奏歩がけっ、とそう言い捨てた。

 「やっぱり自称死神で定着してるのか……」

 どうやら共通認識なようでセトがうなずく。

 じゃあなんで名前を知っているんだ?

 セトが考え込んでいるとナオがふふっと堪えていた笑いを零した。

 「ラズライトの能力ですよ。奏歩さん、当てずっぽう全て当たるんです。」

 「は!?当てずっぽう!?」

 ナオの言葉にセトが叫ぶ。

 そして怪しいものを見るかのような目で二人を見た。

 「そうさ!神の賜物であるボクは所謂天才なのさ!」

 えっへん、とまた奏歩が誇る。

 「ちなみに私の方は推理が超人波、処理速度が早いだけです。」

 ニコッと微笑みナオが続ける。

 「奏歩さんの結論からその結論へと紐付けるのが私の仕事です。」

 「は、はぁ……」

 「ちなみにこれは所謂連続殺人と言うやつですね」

 ナオは遺体の元まで歩み寄りそう言う。

 セトはそういえばと遺体を見るも目を背ける。

 「犯人は恐らく宵闇。ですよね?奏歩さん」

 セトの方を気にすることも無くナオが奏歩に向かって問う。

 「ああ!宵闇!それも実行犯は人じゃない!」

 「人じゃ……ない?いやでも俺が見たのは少女で……」

 確かに人だった。

 セトは奏歩の方をまた疑うように見る。

 「やっぱお前所詮は当てずっぽうだな」

 へっと嫌味にセトが言った。

 すると奏歩がむっと方を膨らませセトの方を睨む。

 「ボクは正しい。天才だ!」

 「操っている人がいるかもしれません。セトさんが目撃したその方、誰かと会話している様子は見受けられましたか?」

 二人の争いを他所にナオが聞いた。

 「そういえばなんか王様だとか言って——」

 「奏歩さんその王様とやらはどこに?」

 「宵闇!ちなみに今夜またくるね、人ならざる殺人犯は。それも複数。」

 ナオと奏歩が着々と会話を進めていく。

 「なるほど……来るところを日が沈むまでに割り出します。ヒルガオ戦闘部はもちろん、軍の協力も求めてみましょうか。」

 「え!?は?今夜?え?」

 何故かすらすらと進んでいく会話にセトが困惑しながら二人を見る。

 「宵闇が狙っているのは影憑になる可能性のある人間。そしてこのご遺体も所々風化しかけているところから見て恐らく影憑になる可能性があった人間。」

 「風化しかけている——」

 よく見てみるがそんな箇所は見当たらない。

 するとナオがそれを見兼ねほら、ここと遺体の服の袖を少しめくる。

 見るとそれは確かに誰もが見落とすくらいに、言われてもよく見ないと分からないくらいに風化しかけていた。

 「すげえ洞察力……」

 「ありがとうございます。」

 「さすがナオなのだ!」

 「奏歩さんには劣ります。」

 クスッとナオがまた微笑んだ。

 本当に穏やかだ。

 「それでは私はヒルガオに戻り場所を割り出してきます。今夜となると今すぐにでも準備をする必要がありますからね。」

 「割り出すってどうやって……」

 「こちらには奏歩さんが居ますから。奏歩さん、影憑になりそうな人間の今夜の居場所を教えてくださいね。」

 「任せなさい!」

 ナオが説明をし奏歩がうなずき歩き出した。

 「セトさん、軍への報告お願いしますね。そちらのご遺体は隊の方が回収に来るそうです。」

 「うっす……」

 ナオはそう言い残し奏歩に続き去っていってしまった。

 するとちょうど入れ替えで隊服を着た人が数名やってきた。

 「ここで何をしている!」

 そしてセトに気がつくとそう声を張った。

 「えっとー……」

 「おお!君はもしかして噂の!」

 突然その後ろから元気のいい声が聞こえた。

 すると突然セトに声をかけた隊員たちがばっと敬礼する。

 そしてそのうちの一人が声の主に向かって声をかけた。

 「ヒガノ大隊長、いらしてたんですか!」

 「うむ。少し気になってな!何せ暇だったから」

 ヒガノと呼ばれた元気のいい若めの男は興味津々な瞳でセトを見つめ歩み寄ってきた。

 「君が噂の影憑を庇ったとか言う度胸のあるやつか!人目見てみたかったんだ。そうだ、是非うちの隊へどうだい?あと、名前は?」

 素直で純粋な瞳で真っ直ぐにこちらへ話しかけてくる。

 「え?いや今所属なんか掛け持ちになってるし……。名前はイザナミ セトです」

 セトはその勢いに押されながらも誘いを断る。

 「うむ……そうかそれは残念だ。」

 残念そうにヒガノが言う。

 しかし直ぐにまた目を合わせセトの肩に手を置き掴む。

 「ではこれからよろしく頼む!セト!僕は影特隊第一部隊大隊長のヒガノ レイだ。ぜひ仲良くしてくれ!」

 「えっ?あ、ああ……。」

 勢いあるヒガノの言葉にセトが困惑しつつもうなずく。

 影特隊……。

 ヒルガオで進藤と辻村から聞いたくらいで、実際に会うのは初めてだ。

 それも、大隊長ってかなり偉いのでは?

 「相変わらず大隊長ってフレンドリーだよな。」

 「ね、たまに大隊長だって忘れるわ……」

 後ろの方で隊員同士がそんな会話をしていた。

 「いつでも連絡してくれ!これはうちの隊の番号だ!」

 そう言いヒガノが名刺のような紙を渡した。

 セトが受け取り見るとそこには番号が書いてあった。

 どうやら勧誘は終わっていないらしい。

 それにしてもこの界隈でこんな純粋な人間がいたことに驚いたセト。

 振り返ってみるとひねくれ者や変人が多い。

 「あとは任せておくといい!ここは第一が片付けておくさ」

 「ありがとうございます、じゃあ俺はここで——」

 遺体の回収のことを言っているのかと思った。

 セトが言葉を言い切る前に突然に何かが湧き出てきた。

 影憑だ。

 それもまたこの間のように大量に。

 そして地面の影から現れた影憑たちはその周辺の人間に向かって飛びかかる。

 まずい、とセトが戦闘態勢に入ろうとしたその時。

 「うむ!」

 それは一瞬だった。

 影憑が出てきてから十秒も経たないうちに。

 ヒガノが落ちていた木の棒を拾うとそれは突然大きな槍に変形しヒガノがそれを振り全ての影憑をあっという間に抹殺したのだ。

 「全員怪我は無いか?」

 「「はい!」」

 ヒガノが振り向き隊員たちに問うと隊員は一斉に敬礼しうなずいた。

 「油断はしないでくれよ!多すぎて致命傷を与えきれなかったのもいるからな」

 制帽のつばを上げてヒガノが呼びかける。

 それにうなずき隊員たちは足元でもがく弱った影憑達をそれぞれの武器や能力で倒していく。

 セトは唖然とした様子でその一瞬の出来事を見た後ヒガノの方をじっと見つめる。

 「お?どうしたんだセト少年。」

 ん?とヒガノがセトの方へ振り返る。

 純粋で真っ直ぐな正義感に場の指揮能力……そして圧倒的な強さ……。

 これこそ……これこそ、セトの求めていたものだ。

 今まで出会ってきたラズライトたちは変人やよく分からない人ばかりだった。

 しかし彼こそが、彼こそが。

 「ヒーロー!」

 今度はセトが目を輝かせながらヒガノの方へ駆け寄る。

 「ヒーロー?」

 はてなとヒガノが首をかしげる。

 「こう、ばーんってかっこよすぎるすげえっすヒガノ大隊長!」

 セトが興奮気味にヒガノに言う。

 するとヒガノは目をぱあっと輝かせうなずく。

 「うむ。そうかそうか!それはありがたい!」

 「憧れです。俺もいつかヒガノ大隊長みたいになれるよう頑張ります!尊敬してます!」

 「うむうむ!君ならなれるさ!応援しているぞ!」

 誇らしげにヒガノがセトの肩を叩く。

 「はい!」

 セトもそれにうなずいた。

 「大隊長、影憑掃討完了しました!」

 隊員のひとりが代表して掃討の完了を報告しに来た。

 「お疲れ様だ!ではセト、片付けがまだ残っているから僕はこれで失礼するよ。また会おう」

 「はい!!失礼します!」

 うむ、とうなずきヒガノは隊員を引連れ先程の遺体の方へと歩いていった。

 あの量の影憑をたった一瞬で……。

 ヒガノのラズライトとしての能力はなんだろうか……。

 今度会った時にぜひ聞きたい。

 そうだ。

 俺はヒーローになるんだ。

 そう改めてセトは決心した。

 そして軍への報告を任されていたことを思い出し軍の方へ向かい歩き出した。

 

 

 

 「……そうだった」

 軍へと着いたはいいもののセトは扉の前で立ち止まる。

 忘れていた。

 あのひねくれ大佐のことを。

 「っあぁぁー、会いたくねぇ……」

 一旦ドアから離れ片手で目を覆い上を向いた。

 そしてまたドアの前へ。

 「……もしかしたらいない可能性も……」

 わんちゃんをねらいセトはドアにぴったりと張り付き耳を傾ける。

 これで会話を探り大佐が居なければ、と思ったのもつかの間。

 「っってぇぇえ!」

 会話を聞く前に扉が向こう側から思いっきり開きセトへと直撃した。

 「ふっ。情けない。」

 ドアノブを握ったままこちらを見て嘲笑していたのはやはり大佐だ。

 「っこのやろー!覚えとけよクソ大佐!」

 「なるほど君は罰を受けたいと。」

 セトの怒りに負けることなく冷静を装いつつ悪意のある笑みでこちらを見下している。

 「ちょっと大佐。さっさと仕事に戻ってください。」

 いつの間にかフィルトの後ろに立っていたウィリが冷静にそう一言落とす。

 「げっ……」

 「なにがげっだよそもそも本当にあんた大佐なのかよ」

 セトがへっと嫌味をこぼす。

 「黙りたまえ私は大佐だ。」

 「じゃあさっさと席についてください。」

 すっとまたウィリが告げる。

 「はいはい、分かったって」

 渋々とフィルトは自分の机へと戻っていった。

 「それで、早々に帰ってきて何の用だ?」

 フィルトが机に頬杖をつきながらペンをカタカタと鳴らし問う。

 影特隊第一部隊の大隊長はあんなにもきらきら輝いて見えるのにうちの大佐ときたらとセトは苛立ちを覚えるもフィルトの前まで歩む。

 「今夜宵闇の連中が動き出すらしい。」

 ソファに座り肘を足の上に置き頬杖をつくとセトはフィルトとは反対側を向いて答えた。

 「何?」

 「それでヒルガオの探偵部のやつらが軍にも協力を求めるってさ。」

 「なるほど。隊でなく我々を……。」

 「隊の協力を得るには色々手続き面倒臭いですもんね」

 ウィリが扉を締めながら言った。

 「そもそも我々軍も同じような王室直近組織だってのにこんな簡単に呼ばれるようじゃ困る。だからこの私が軍をこの国の頂点にしてやろうというのだ。」

 「はいはい。」

 「中尉今流したな?」

 「ナイスウィリ中尉!」

 セトがウィリに向かってグッドサインをした。

 ウィリが珍しくニコッと微笑んだ。

 「では私はヒルガオへ作戦を聞きに行ってくる。あとは頼んだ。」

 ふっ、と上着を羽織りながら扉の方へ向かうフィルト。

 それを聞いたウィリが冷徹な視線をフィルトへ向けた。

 「仕事から逃れられると思いましたね。帰ってきたらきっちりやってもらいますからね大佐。」

 「中尉、君ってやつは——」

 「いいからさっさと行ってきてください。」

 ウィリにトドメを刺されうっ、と肩を落としながらフィルトが部屋を出ていった。

 「それじゃ、私も同行するから留守番お願いね。」

 ウィリがそう言い残しフィルトの後に続いて出ていった。

 

 ソファの上で寝っ転がり視点状を眺める。

 「——♪」

 「!?」

 突然綺麗な歌声が微かに聞こえセトは目を覚ます。

 「外からか……?」

 そして歌声の聞こえる窓の方へと歩き窓を開ける。

 すると歌声はより鮮明に聞こえてきた。

 歌詞はなく鼻歌のような歌だが美しい旋律と声だ。

 窓の向こうをきょろきょろとながめ声の主を探す。

 「あいつは……!」

 少し離れた家の屋根の上にその声の主は立っていた。

 こちらに背を向けてはいるが確かに見たことがある人影だ。

 先程橋の下で人を斬り殺した少女だ。

 直ぐに部屋を出てそこに向かおうとしたが少女がこちらに気がついたのか振り返って大きな瞳でセトを捉えた。

 「……」

 そしてまた先程のようにすぐにどこかへ消えてしまった。

 セトはただ、窓の前に立ち尽くしていた。

 あんなに美しく可憐な少女が、あんなに美しいメロディを歌う少女がなぜあんなに残酷なことをしたのか。

 決して許せない。

 決して許されないことをしていた。

 でも影憑になってしまったネフィのように誰かに操られているのだとしたら?

 「どうして……」

 残酷な世の中だ。

 でもだからこそ救わなくてはと思った。

 救って救って救い通して兄に会って、全てを叶えるために家を出たのだから。

 全てを知るために今ここにいるのだから。

 

 「あれ?セト、さっきぶりくらいだよね?」

 窓の外を眺めていると後ろからネフィの声がした。

 後ろを振り返るとネフィが扉を開けたまま驚いてこちらを見ていた。

 「あ、ああ。」

 そしてセトはヒルガオからの軍への協力要請についてネフィに話した。

 「なるほど……そういうことね!」

 納得したようにネフィが言う。

 「ネフィこそ何してたんだ?」

 セトがネフィに向かって問う。

 時刻は三時。

 そろそろ召集がかかるだろう。

 「えっとねぇ、普通に街をぐるぐるーって警備して、天芽中佐さんと食材の買い出し行ってーって感じかな。それで、戻ってきた。」

 ところどころ思い出すように首を傾けたりしながらネフィがふんわりと説明する。

 「あ!二人とも居ました。」

 ドアを開け入ってきたのは漆間。

 二人を見るなり漆間が口を開く。

 「配置が決まったそうです!ネフィさんが自分と同じ西、セトさんが大佐と同じ中央部だそうです!」

 漆間が二人に資料を渡しながら言う。

 資料を見ると配置や作戦が書かれていた。

 「とにかく配置につき、宵闇に勘づかれないように普通を装います。一般人を守りつつ事が起きたら避難させるそうです!」

 「そっか……避難させてたらバレちゃうから——」

 ネフィが資料に目を通しながら呟く。

 「はい。勘づかれて暴れられてはまずいということらしいです!」

 「なんともやる気の出ない……」

 セトが資料に目を通し終え適当な机にそれを置く。

 「どうしたの?セト」

 はぁと盛大なため息をつくセトにネフィが首を傾げる。

 「よりによって大佐と一緒かよ……」

 「いいじゃないですか心強い!」

 漆間がそう言ったあとに、さあ早くと二人を急かす。

 「もう皆さん配置場所へと向かっています!さあ急いで!」

 そうして三人は拠点を出それぞれの場所へと向かった。

 

 

 

 「ねえアヤ、アオギくん見つけた?」

 センタボルタの街中、二人の学生がきょろきょろと当たりを見回しながら歩いたいた。

 「ぜんっぜん居ないんだけど!進藤早く見つけなさいよ……」

 ふたりはアオギを探し始め早一時間。

 手がかりはなし。

 「自由人だよね。」

 「少なくともあんたには言われたくないと思うよ」

 ぼーっとしている進藤に辻村が淡々と言う。

 「しかしまあ、今回の作戦、ただの人攫いじゃない」

 辻村がポケットから飴を取り出し包装を解き口へ放り込む。

 「言い方よ……」

 あはは、と進藤が笑う。

 「あんたそういうの得意じゃない」

 眠そうな顔でサラッと辻村が告げる。

 「やめて!なんか俺がヤバいやつみたいじゃん。得意じゃないから!やったことないから人攫いなんて」

 慌てる進藤を横目で見、辻村がぷっと笑った。

 そして辺りを見渡すとある一点で辻村の目が止まる。

 「あれ、ねえあれ!」

 「だから何!?」

 またなにか言い出すのかと進藤が辻村の方を勢いよく振り返る。

 「ん?」

 しかしその視線の先を見、進藤が止まる。

 二人の視線の先には今まで探していたアオギがいた。

 しかしその隣にいた人物を見、二人は行くか戸惑っていたのである。

 アオギの隣にいたのは影特隊第三部隊副隊長のカムイという男だった。

 齢十八という若さで副隊長を務めているその男は和服と隊服を融合させたような衣装を身にまとい、散切りの黒髪と淡麗な、中性的な容姿。

 「第三の副隊長……」

 恐る恐る辻村が口を開いた。

 「ねえ、どうする?俺嫌だよ。彼ああ見えて結構凶暴で残酷で有名じゃん……」

 「私だって嫌だよ関わりたくない!」

 「ちょ、聞こえてたらどうするの」

 むっと言う辻村に慌てて進藤がしーっと宥める。

 「ていうか、なんで第三の副隊長がアオギなんかと……」

 しばらく観察する。

 アオギとカムイは目も合わせずに何か話をしている。

 しかし少し経つとまるで他人のように別れを告げる様子もなくそれぞれ反対方向へと歩き出した。

 「なんだったの……」

 辻村が不気味そうに呟く。

 「見なかったことにしよう。何事も無かったかのように行こう。」

 進藤はうん。とひとりで頷きアオギを呼び止めに行った。

 辻村もちょっとと言いながらついて行く。

 「アオギくん、ようやく見つけたよ……」

 そしてしっかり見なかったことにした。

 「あ、フミヤさんにアヤさん。なんかありました?」

 アオギがん?と振り返る。

 二人は作戦について説明を始めた。

 「なるほど……」

 一通り説明を終えるとアオギは何かを深く聞くこともなく納得をしたようだ。

 そして三人はそれぞれ自分の持ち場へと向かった。

 

 

 

 

 

 「遅いぞイザナミ。」

 「げ……」

 「だからげ、とはなんだ!大佐に向かって。」

 渋々現場へ向かうと停車している車の中から軍服が見えるようコートを羽織ったフィルトが顔をのぞかせた。

 「いいから乗れ、説明する。」

 フィルトはそう言うと車の窓を閉めた。

 セトは言われた通り車の後部座席の戸を開き乗り込む。

 前を見ると運転席には先程の大佐。

 そしてその隣にウィリが座っていた。

 ミラー越しにフィルトと目が合う。

 「では説明を始める。」

 一通り説明を終えたあと、フィルトが車の窓の方へ視線を移す。

 「あともう二人、ヒルガオからヒルガオに派遣されている第一の二人がこの管轄に加わる。」

 「第一……」

 ヒガノのところの隊だ。

 セトもフィルトの視線の先に視線を向ける。

 が、人混みの中、どの人を差しているのかは分からなかった。

 「救命要因でセンタボルタ地域内をリュウカちゃんとシュドさんが回ってくれるらしいわ。」

 ウィリが説明に付け足しそう言う。

 「センタボルタを二人で——」

 広いこのセンタボルタの街。

 奏歩の当てずっぽうで地域のあちこちにばらまかれた敵の出現場所をたった二人で周り切るということか。

 「隊も動かせれば苦労しないのだが。」

 ハンドルに手を置いたままフィルトが窓の縁に頬杖をつく。

 「そろそろ時間ですね。」

 ウィリがそんなフィルトを他所に腕時計を見て告げる。

 いつの間にか街を照らしていた日は沈んでいて月明かりと街灯が当たりを照らしていた。

 「じゃあ俺は待機すればいいんだな。」

 「ああ。顔を見た事があるのはイザナミだけだからな。頼んだぞ。」

 「気をつけてね。」

 セトはうなずき車の戸を開けて外に出た。

 「寒っ……」

 すこし冷える夜だ。

 あたりをきょろきょろと見回すとまたあの知っている人影を見た。

 歌を歌っていた少女。

 そしてその隣にいるのは細めの体型のセトより少しばかり歳が上くらいの顔立ちのいい青年がいた。

 一見普通の人に見えるが警戒を怠ってはならない。

 少女の方は実際に殺人を犯している。

 そしてその隣にいる青年の方も仲間かもしれない。

 気づかれないよう少しづつ会話の聞こえそうなところまで近づく。

 『そこら辺にいるのか?』

 無線から大佐の声が聞こえた。

 「ああ。あの紅梅色の髪の毛の少女だ。」

 セトも無線に向かって小さな声で報告する。

 ちらりと車の方を見るとフィルトは言われた少女の方を見ていてウィリは何やら戦闘に使う道具の準備をしていた。

 もう少し近づき近くの柱に身を隠しながら少女と青年との会話に耳を傾ける。

 「ターゲットを発見。他のメンバーもターゲットへと標準を合わせ終えたようです。」

 やはり今夜も人を殺そうとしている。

 影憑になる可能性と言うだけでなるという確信は無いのに。

 これが宵闇の悪い手口だ。

 そして少女がまた口を開く。

 「目標を確認。抹殺を始めますか?——王様。」

 「!?」

 いま少女は確かに青年に向けて王様と言った。

 と、いうことはあの青年が少女に指示を出していたであろう王様という存在——。

 「あー!これだから外に出たくなかったんだ!時々どこからともなく聞こえる音楽やメロディが頭に響く!うるさい!」

 しかし青年は少女の言葉が耳に届いていないよう。

 耳を両手で塞ぎ目を瞑り嫌そうにそう叫んでいた。

 勘違い、か——?

 ただその光景は異様だ。

 妙に音楽を嫌う青年。

 だがその口から出る言葉は何故か芸術的で演技じみた歌詞のようだ。

 「王様?」

 少女がそんな青年の前に顔をかたむけ無表情に感情のない声を出す。

 「勝手にしろ!さっさと終わらせて帰る!」

 王様と呼ばれた青年はそう少女に叫んだ。

 「はい。命令承りました。」

 (動いた——!)

 セトは少女のその言葉に車へ向かって合図を送る。

 フィルトがうなずきエンジンをかける。

 少女がゆっくりとメトロノームのように怖いくらいに正しく機械的な一定のリズムを刻みながら歩き出す。

 そして歩いていた子供の前まで来ると手を振り下ろし武器を構えようとする。

 「あの子だ!」

 セトがそう叫びその子供の方へ向かって走り出す。

 フィルトも車を急発進させた。

 

 

 

 

 「うーん怪しい人……怪しい人……」

 ネフィは街の中、言われた通り怪しそうな人物を探していた。

 きょろきょろと辺りを見回す。

 『ネフィさん……』

 無線越しに車に乗って待機している漆間の声が聞こえる。

 「どうしたんですか?」

 ネフィが立ち止まり無線に向かって静かに問う。

 『あの……ネフィさんがいちばん怪しいです……』

 「えっ!?」

 思わず大きな声が出てしまい周りの視線がネフィへと移る。

 「あ、あはは……」

 ネフィが苦笑いすると周りを歩いていた人も何事も無かったかのようにまた歩き出した。

 「嬢ちゃん元気やなぁ……」

 「!?」

 突然後ろから声をかけられネフィが驚き振り向く。

 「あだだ、髪の毛当たるて。」

 「ご、ごめんなさい!」

 そこに居たのは赤い髪を結った男。

 「えっと……。」

 『その方はヒルガオの戦闘部の柴田 シュウさんです!』

 無線越しに漆間が教えてくれた。

 「よろしゅうな!」

 柴田がネフィの方を見て言った。

 「はい!よろしくお願いしますー!」

 ネフィも柴田に挨拶を返す。

 「暗くなってきましたね……。」

 「せやな……。」

 ネフィは相変わらずきょろきょろしながら、柴田はそれを見守る。

 「どうかしましたか?」

 こちらを見ていることに気がついたネフィが柴田にハテナと問う。

 「いや、噂には聞いていたけど本当に全く影憑の面影ないんやってな。」

 「そりゃあもう!人間ですから。」

 にへっとネフィが笑う。

 せやな!と柴田も笑った。

 『もー二人とも雑談ばっかしていないで真剣に探してくださいよー。』

 無線越しに漆間から注意されやべっと二人はまた怪しい人物が居ないか探し出す。

 「怪しい言うてもなぁ……」

 買い物している人、道を急ぐ人、など色々な人が行き交う道路。

 ごくごくふつうの景色だ。

 「柴田さんあの子たち……」

 「ん?なんや居たか怪しいの。」

 ネフィが指さした先にいたのは綺麗な水色の髪をした二人の少し幼い少年少女だ。

 綺麗な衣装を着ていてお揃いのアクセサリーを身につけている。

 じゃんけんをしたりして遊んでいる。

 「かーわいいー!双子さんかなー??」

 ネフィがきゃーと微笑ましい瞳でその二人を見て言った。

 「なんやねん!」

 ずこーっと柴田が肩を落とす。

 「似ているお洋服着てて……おかあさんを待っているのかな?」

 「ネフィの嬢ちゃん探すのは可愛い双子じゃなくて、怪しいヤツ、やで?」

 やれやれ、と柴田がネフィに言う。

 「あ!そうでしたすみませんつい!!」

 ネフィがはっとそういえば、とまた辺りを見回す。

 「やっぱり怪しい人なんて……」

 「なあ嬢ちゃん、見つかったで……」

 突然柴田がそう告げた。

 「え……?見つかったって、どこ……に……——?」

 次の瞬間、突然柴田が叫んだ。

 「少尉!車!!」

 「えっ!?」

 『は!はい!!!』

 漆間がそう無線越しに叫び車を急発進させた。

 二人の視線の先を見ると先程の双子が武器を出し買い物をしている男の後ろから襲いかかろうとしていた。

 

 

 

 「うーん、緊張します……。」

 月明かりの下、屋根の上に座って周囲を見下ろし眺めながらリュウカが唸った。

 修道服のような服のスカートの裾と桃色の綺麗な髪の毛が風に靡く。

 「今晩はやけに冷えるな。」

 その隣で腕を組みながら立っているのはシュド。

 長く、結った真っ黒な髪の毛が夜に溶けるように風に乗ってなびいている。

 青い瞳が月を捉えた。

 「本当に、皆さん無事でいてくれるといいんですけど……。」

 リュウカが街を眺めながら呟く。

 「今夜は患者がたくさんいるな。」

 目を細めながらシュドが言う。

 そしてリュウカの方を見る。

 「無理はするなよ。」

 「分かってますよ。大丈夫です!」

 そう言いリュウカは小さな輝く宝石の着いたネックレスを両手で握りしめ目を瞑った。

 

 「しじまは空の涙。

  哀しみは花となり。

  別れゆくは月。

  この魂に癒しのカノンを。

  永遠の祈りに。」

  

 祈りの詩を一通り透き通ったその声で呟き目を開く。

 「シュドさん?」

 そしてシュドの方を見て首を傾げる。

 シュドがリュウカの方を見てぼうっとしていた。

 「どうしたんですか?そんなにぼうっとして……珍しい……。」

 しばらくなんの反応もなかったと思えば少ししてシュドは首を動かし視線を街に向けた。

 「いいや。」

 シュドが呟いた。

 「シュドさんでもぼうっとすることあるんですね……。もしかして過去を振り返ったりしてました?」

 冗談半分でリュウカがクスッと微笑んだ。

 「ああ……。」

 「えっ?」

 「いや。」

 曖昧な返答にリュウカが驚く。

                             

 

 

             

 

 

 

          

 

 「しじまは空の涙。

  哀しみは花となり。

  別れゆくは月。

  この魂に癒しのカノンを。

  永遠の祈りに。」

             

 紐をリボン結びしたワイシャツに紺色の制服のスカート。修道服のようなフードのついた膝下丈までの羽織物のようなものを上に着、フードを被った少女、リュウカ。

 月明かりの差す誰も居ない屋上で祈りを捧げる。

 月光に照らされフードの下から覗く薄い桃色がかった花色の髪の毛と空のような水色の瞳、そして首からさげた教会のネックレスがキラリと輝く。

         

 「…ッ!」

 

 後ろに人の気配を感じたリュウカがハっとネックレスを握りしめる。

 どこかでふくろうの鳴き声がした。

 

 「あぁ、祈りの邪魔だったか?」

 

 疑問文、というよりは肯定文に近い煽るようなイントネーションでそう言ったのは突如後ろに現れた、黒い羽織物フードを被った、細い体格の、都会の星のない夜空のように黒い髪の毛、ハイライトの少ない青い瞳の若い男。シュド。

 実際その笑み自体に不気味さは微塵も無いのに何故か不気味と感じさせる笑み。

 

 「…いいえ。もう終わったので大丈夫です。」

 

 普段、その優しい瞳からはありえない様なキリッとした視線で男を睨み、そう告げるリュウカ。

 

 「随分生意気な修道女様。」

 

 「そう言う貴方こそ、なんて皮肉な死神様なのでしょう。」

 

 口角を下げぬまま嫌味な声でそう言う死神にリュウカも負けずとあまり感情の乗らない声で言う。

 

 「俺は邪魔かい?」

 

 「はい。邪魔です。罪の無い人間を死に追いやることは決して許されることでは無い。」

 

 「…ッははは。ぁはははははは。」

 

 狂った笑いでは無い。だからといって面白いからと笑っている笑いでも無い。

 掴めないその笑いをしたあと、死神は告げた。

 

 「いいよ。君はそのままで。

 

 

 

  ——。」

  

  

  夜を支配するようなしじまに、梟の声が鳴り響いた。

  

  

  

  

  

  

  

  「懐かしいなぁ……」

  「?」

  月を見ながらリュウカが呟きシュドがはてなとリュウカの方を見る。

  「わたしも、昔のこと、ちょっと思い出してました。」

  へへっとリュウカが笑う。

  「別に俺は思い出してない」

  「またまた〜。さっきうなずきましたよシュドさん。」

  

  

  

 

 ——数刻前。

 

 「ああ……暇で暇でしょうがない。何か骨の織れる面白い事件とか無いのォ〜?」

 ヒルガオの社ビル、三階の戦闘部署。

 辻村は自分の椅子に座り、机に突っ伏していた。

 「ここ数日、実践しごとなさすぎるしねぇ……」

 文の隣で同じく自分の机に突っ伏している進藤が気怠そうにペットボトルのキャップを開けながら言う。

 進藤と文は付き合っているらしいが周りの社員から見たら文が王で進藤が奴隷の王強く怖し主従関係にしか見えないのだとか。

 そしてこれまた気怠そうにソファに座り、“重力には抗えない!”とでも言いそうなくらいにダラッとしている月宮。

 「辻村、そんなに暇なら盗難事件の依頼がある。」

 「えぇ〜…………パス。つまんない。」

 「そうか。進藤、飲む時くらい顔を上げろ。」

 「はいはい、分かりましたよ。」

 「そして月宮に天芽!お前等癪に障るから俺の前でグデンとするのは辞めろ!」

 「だらぁ〜ん。」

 「効果音を変えればいい訳では無い!グデンもだらぁ〜んも変わらん!さっさと終わっていない分の報告書を書き上げろ。三週間もたっているんだぞ!三週間も!天芽も寝ている暇があるならさっさと仕事をしろ!仕事を!」

 パソコンで何やら生真面目に仕事をしながら月宮に向かって怒っているのはイズミ。

 「え?いずみんが書いとくんじゃないの?」

 月宮がえっと驚きを隠せないと言った顔でイズミを見る。

 「その呼び方を辞めろと何度言ったらわかる。」

 「何度言っても分からない。」

 「……ぐぐっ」

 苛立っているイズミを月宮が煽る。

 「皆様お疲れ様です。洋菓子とお茶をお持ちしました。いかがですか?」

 ガチャっと戦闘部署の扉を開けて、ヒルガオの社員制服を着た女性従業員が菓子と茶を手に入る。

 「……!」

 イズミ以外の戦闘部社員かシャキっと目を開く。

 「わぁ〜い、休憩だ。」

 「ありがとうございます」

 そう言い月宮が一番に飛んでゆく。その後に続いて進藤、辻村が行く。

 「すまない、いつも助かる。ありがとう。最も月宮に関しては全く働いていないから休憩ではなくただのおやつ会だがな。」

 「まあまあ、イズミさん。文章が単語集みたいになっていますよ。よかったらイズミさんもどうぞ。」

 そう言い女性従業員が笑みを浮かべ部屋を出ていく。

 天芽が菓子に手を伸ばした時、先程従業員が出ていったばかりの扉が壊れてしまうのではと心配になりそうな音を立てて、勢いよく開け放たれる。

 「ボクを呼ばずにノコノコと御茶会ティータイムなんてずるいぞ!戦闘部!」

 「いい加減、扉壊れますよ、奏歩さん。」

 「嗚呼、それはそれはすまない、此処の扉はおんボロだからね!」

 「それ、奏歩さんの所為ですよ。」

 元気に入ってきた、探偵帽を被り、クリーム色のロングティーシャツ、そしてデニムの半ズボン、ロングティーシャツの上には探偵者の来ていそうなものを羽織っていて、ポケットには愛用の虫眼鏡を携帯している、奏歩。

 その後ろに居るのは冷静に話すナオ。

 そんな探偵部に持ちかけられる依頼を探偵社が解決する。

 時には戦闘になることもある。

 そんな時に戦闘部がでるのである。

 「奏歩さんも食べて食べて!」

 「あ、そうだ、奏歩さん先日の——。」

 「ナオさんも、お茶をどうぞ!」

 「嗚呼、ありがとうございます。」

 「うむ。このお菓子美味しい……。あ、そうだ、作戦の話をしに来たんだ。」

 そう言いながら奏歩が何やら大きな封筒から資料の束を出す。

 「作?」

 お茶を出しながら辻村が言う。

 「うん、宵闇が動き出すからね。今夜。」

 「今夜!?」

 奏歩はかくかくしかじかこれまでの経緯を説明した。

 ちょうど説明を終えたその時、扉が開いた。

 「話は終わったか?」

 若い男の声。

 振り返るとヒルガオ社の社長——夜刀が立っていた。

 その後ろには軍服姿の男女二人——フィルトとウィリがいた。

 「あ!社長!終わったぞ!」

 奏歩がうん!と元気よく答えた。

 「それで、作戦というのは?」

 イズミが本題について問う。

 ナオがでは私が、とセンタボルタの地図を広げる。

 「これから皆さんにはこの印のある箇所に別れて向かって頂きます。」

 

 ナオの説明した作戦はこうだ。

 それぞれ別れて向かった場所で待機する。

 車の中で直ぐに運転できるよう待機する者と外で怪しい人物が居ないか探すもの。

 狙われている影憑になる可能性のある人間が来る場所を奏歩が当てずっぽうで見つけた。

 そしてその人間を敵側が襲う直前で乱暴ながら車を発信させ車に乗り込ませ保護する。

 そういう簡単な作戦だ。

 

 「でもそんなことしたって宵闇が強豪突破するんじゃ……」

 進藤がはてなと疑問をうかべる。

 「その点は大丈夫です。今回軍の協力も得ているので。宵闇は一応影特隊組織ですからこちらに直接戦闘を仕掛けるようなことはしません。」

 ナオがゆっくりと質問に答えた。

 「ただ、今回の件は推測してみると宵闇にはっきりと所属しているものではなかった。宵闇に協力をあおいでいる者の反抗だから、まあ裏ルート使っちゃってますね。」

 やれやれ、と、呆れたような顔をしてナオが紅茶を飲む。

 「じゃあ結局来るやん!?」

 いつの間にかやってきた柴田がつっこむ。

 「それは問題ない!王の命令が無ければ騎士は動くことを知らない!」

 奏歩がふふん、と得意げに述べた。

 天芽は相変わらず眠そうにうとうとしている。

 「王?」

 夜刀が静かに奏歩の言葉に首を傾ける。

 「今夜くる者たちの指示役です。王様と呼ばれる人物。」

 ナオの説明に数名がなるほどと頷く。

 「では軍の方も準備をお願いする。」

 夜刀が後ろを振り返りフィルトに向けて言った。

 説明は先程終えたところらしい。

 「了解。ではまた。」

 そう言ってフィルトは部屋を出ていった。

 ウィリも一礼しそれに続く。

 「この後の展開はその場の状況を見て指示します。」

 ナオが残りの人達に告げる。

 奏歩の能力はあくまで当てずっぽうで未来を予測するものでは無いからその場の状況を見て瞬時にナオが推測し奏歩に結論を質問することで成り立っているのだ。

 

 こうして作戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 ——戻って現在

 

 「よし!上手くいった!」

 狙われていた子供を車に乗せ保護しセトが言った。

 セトは車には乗らず敵の様子を伺う。

 「どうしますか。王様。」

 少女は冷静に一度命令を貰いに戻る。

 どうやら本当に命令なしに動かないらしい。

 『セト、聞こえる?こっちも保護したんだけど、やっぱり命令を待ってるっぽい。』

 『ああ、こっちもだ。』

 無線からネフィとアオギの声がした。

 王様と呼ばれた青年の様子を伺う。

 「何か用か?」

 あちらも通信機越しに何か話しているらしい。

 耳を済ませる。

 『さっさと殺してこいと言っている。やつらを動かせろ——』

 夕見の声だ。

 やはり宵闇が関係している。

 来るか……?

 と思ったが来ることは無かった。

 「!?」

 突然街中に音楽が大音量で鳴り響いた。

 「!ああ!耳障りだ不快だ!!」

 突然青年は耳を塞ぎそのまま地面にしゃがみこむ。

 「王様、撤退しますか?」

 『おい!』

 少女がそれを見兼ね言うと通信機越しにかすかに夕見の声がした。

 しかしそれに構うことなく耳を塞いだまま青年が立ち上がり歩き出す。

 それに続きこちらのことを気にすることなく少女も去っていく。

 本当に二人は殺したくて殺しているのか……?

 なぜ宵闇なんかに協力を……。

 「終わった……?」

 『いや、まだこれからです。』

 無線越しにナオの声が聞こえた。

 『今回全員に出向いて頂いたのは彼らに顔を覚えさせるため。このまま次の行動場所へ向かってください。』

 

 作戦が始まるのは、ここからだった。

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