あなたの名前は
あなたの名前は
「ねー、辰郎!」
耳に馴染んだ仮名が、汗で濡れた頬を撫でていく。
この世界では絶対に本名を教えることも呼ぶこともしちゃいけない。
それが暗黙の了解になっていた。
なぜかって? 本名は呪いを引き起こすからだよ。
本名で呼ばれるたびに僕らは寿命が1年ずつ減っていくらしい。
だから、名前をつけた親以外が本名を知るのはその人の葬式や遺言なんだ。
まぁたまに、教えられずに親が亡くなって自分の本名がわからなくなる人も多くいるみたいだけど。
僕もまだだから、親が記憶喪失になったりしたら一生を仮名で過ごさなきゃいけなくなっちゃう。
仮名がもう本当の名前みたいに思ってるところもあるけど、やっぱり最期くらい親がつけてくれた本当の名前で認識されてみたいなって思ったりもするから。
あ、そうそう。今日は僕の恋人の誕生日。成人したから僕だけが呼ぶ特別なあざなをつけてほしいって言われたんだ。
羨ましいか? 羨ましいでしょ。
そしてもうすでに僕は彼女のあざなを決めたんだ。××。我ながらいい名前じゃない?
7晩徹夜して考えたんだ。
「ねー、辰郎?」
ふと、意識が浮上する。
「私のあざな、考えてきてくれたー?」
もちろん、そう言ってそれを口にする。
彼女は目を見開き、手で口を覆った。それもすぐに顔を赤らめ、よほど気に入ったのか繰り返し繰り返し何度もそのあざなを呟いていた。
そんなある日。××が突然死したとご両親に聞かされた。
遺言をふらつきながらも部屋に戻って読んでみる。
辰郎くんへ。
今まで、私のことを愛してくれてありがとう。
そしてごめんね。私は君の呪いになりたかったの。
四宮××
遺言に書かれていた名前と、僕が彼女につけたあざなは一緒だった。
何度も彼女の本名を呼び、殺したのは僕だ。
半ば意識を失う形で眠りについた僕は、彼女の名前を忘れていたし、認識できなかった。
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※字……古代中国で成人した人につけられた「本名以外」の呼び名




