婚約破棄、ですか? 支援は打ち切りになりますけれど、もちろんそれは覚悟のうえ……ですよね?
その日は突然やって来た。
「お前とはここまでだ! 婚約は破棄とする!」
――婚約者ラヴィンから関係の終わりを告げられる日。
「え……」
「何を馬鹿みたいな顔をしている? ああ、まぁ、驚いているのだろうな。そのくらいは想定内だ」
「それは……本気で仰っているのですか?」
「もちろん」
ラヴィンの実家に金銭的な支援をしているのは私の実家だ。それなのに二人の関係が切れるとなれば。状況は明確に変わるだろう。当然、我が家からの金銭的支援は打ち切りとなる。ラヴィンはそこを理解しているのだろうか。
「支援は打ち切りとなりますよ」
「はは! 何を言っているんだ! それとこれとは話が別だろう!」
「いいえ、そうなります」
「は? 何を言い出すんだ。もしかしてお前、ちょっと馬鹿なのか?」
馬鹿はどっちよ、とでも言ってやりたかったけれど、さすがにそれは言わないでおいた。
「婚約する時に作った書類、ラヴィンさんもサインなさりましたよね」
「ああ、それはした」
「そこに書いていたはずです。婚約破棄となった場合は支援はそこで終了とする、と。また、明らかに私に非がある場合以外は、その時点までにこちらが出した支援金は返済していただく、と」
すると彼は急に青ざめ「何だと!?」と叫んだ。
「もしかして、きちんと読んでいなかったのですか?」
「ま、まま、まさか! そんな馬鹿じゃない! そんな馬鹿なミス、俺がするはずないだろうっ」
「ではご存知だったはずですよね」
「う……」
「ですが、ラヴィンさんがどうしてもそうしたいと仰るのであれば、婚約破棄、受け入れましょう」
今になって焦り出すラヴィン。
面には無数の汗の粒が浮かんでいる。
「ま、待て! 待て待て待て! 支援金を返済!? そんなこと、聞いていない! しかもおかしいだろう、そんな話! 一方的過ぎる!」
「それは……まぁそういうもの、ですよね。基本的には支援する側の方が上の立場ですから」
「なっ……馬鹿な、お前ごときが威張っているんじゃない。くだらない女のくせに。よくそんな偉そうな言葉を発せるな……!」
――と、こんな感じで、私たちの婚約は解消となったのだった。
◆
あの後ラヴィンの両親が謝罪に来た。
彼らは「今までの分の返済はできない」と伝えてきたけれど、こちらとしてはそんなやり方を許すわけにはいかないので、はっきり「返済していただきます」とだけ返した。
謝れば済む問題じゃない。
謝れば思い通りになるわけじゃない。
そもそもこの支援は私と彼の結婚という土台があってこそのもの――ゆえに、それが消えたとなれば、話は百八十度変わってくるのだ。
ラヴィンの両親は土下座までしたけれど、それでも、私の親は許しはしなかった。
今までの分は返してもらう。
そこは譲れないところ。
なので徹底的にそう主張して。
話し合いの結果、向こうが折れた。
一応支援金は返してもらえることとなりそうだ。
……時間はかかるかもしれないけれど。
◆
あの後少ししてラヴィンはこの世を去った。
きっかけは彼は父に怒られたこと。実の父から叱られても、それでもなお彼は己の罪を認めず。その結果父息子の殴り合いの喧嘩に発展してしまったようで。そんな中で父の拳が数回彼の顔面に命中。それによって彼は若くして命を落とすこととなってしまったようである。
◆
ラヴィンによる突然の婚約破棄から数年、私は今、艶やかな赤い髪が印象的な穏やかな青年と夫婦になりのんびりとした日々を楽しんでいる。
過去の出来事は過去の出来事でしかない。
それゆえ今はそれに縛られることはなく。
良き理解者である夫と共に幸せに暮らせている。
ちなみに、ラヴィンの両親はというと、一応私の親へお金を返してくれたようだ。
だがうちへの返済によって生活費すら無くなってしまい。
それを苦にラヴィンの父は自ら命を絶ち。
その事件に酷くショックを受け心を病んでしまったラヴィンの母も夫を追うかのように自身の意思で命を散らせた。
◆終わり◆




