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その元勇者、暗躍につき  作者: シシオドシ


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10/10

●曲者の集い

「どういうことだ!? ジジイ!」


 男が怒声を上げた。


 赤みを帯びた髪は長く両サイドだけは刈り上げ、ワイルドを通り越して粗暴と呼ぶべき顔付きをした男。まるで猛禽類を思わせるような目は鋭くつり上がる。

 男は体もまた大きく、そして全身がこれでもかと『岩』だ、そう思えるほどの筋張り血管が浮き出た筋肉は隆起しゴツゴツとしている。またそれが分かるような服装をしている。

 所謂『作務衣』と呼ばれる種類の服なのだが、袖や裾は某格闘ゲームの修行に出た武道家のようにスレ破れかなり着崩している。


 そんな野人のような男『板倉樂泉(いたくらがくせん)』は陰陽師である。更に陰陽五家には含まれていないが、同じくらいに歴史ある由緒ただしき陰陽師の当主だ。


 この場にいるものは全部で15名。

 その誰もがそういった者たちばかりである。



 退魔師協会会長室。

 ここは春日大社地下3階にある一室。

 今この場では日本の退魔師、その名だたる重鎮たちが集まっていた。



 巨大な円卓、それを囲むは一癖も二癖もありそうな面々。

 天元が定義に衝撃の事実を明かしたのち時間とともに集まってきた各派のトップ。

 それは緊急召喚という形で集められ、ここで離されているのは文字通りの《《日本の危機》》に関してだ。

 そして今まさに天元に聞かせた内容を定義が告げ、その驚愕の内容に樂泉の怒号が飛んだ。



「板倉殿、言葉が過ぎるのではないか」

「あぁん? こんなとんでもねぇ話をされて気ぃ使えってか? ざけんなそんな話じゃねぇだろ!」


 樂泉の態度に天元が苦言を呈するが樂泉は逆に気炎を荒くする。

 更に増す不躾な態度にピクリと眉を持ち上げた天元だったが、それ以上の追求をすることはなく口を閉ざしてしまう。

 樂泉の言い分に少なくとも天元以外の当主たちが賛同している様子だったからだ。

 それくらい定義から聞かされた内容は衝撃的だ。


「《《位階『紫』》》だと? ふざけんな、なんでそんなもんがいきなり現れる!?」


 そう《《過去現れた最強の妖魔》》と同クラスの脅威、それが《《現れた可能性》》があるという話。

 参加者の誰もが表情を険しくしている。何かを口にすれば樂泉ではないが罵詈雑言を吐き出してしまいそうになる。


「事実じゃよ。これは『《《巫女》》』が確認をしておる」

「っ!?」


 定義の言に樂泉がぐっと身を引く。

 定義が口にした『巫女』という名は《《この場では非常に重い》》。


「『巫女様』が《《視た》》のであれば間違いは無いのであろう。だがならば逆に疑問に思うのだが、その割にはあまりに悠長ではないか?」


 樂泉と交代するように声を上げたのは樂泉から丁度逆側に座っていた男だ。

 男は確りとスーツを着込み黙考するように腕を組んで瞼を閉じながら定義の話を聞いていたのだが、組んでいた腕をほぐすと目を開け定義をまっすぐに見据える。その瞳には

憤りと挑戦的な光が宿っている。


「『安倍(あべの)』、おんしの言う事はまっこと正しい。じゃがな、事今回に至ってはそうでもない」


 定義は男の目を真正面から受け止めると否定を口にした。


「・・・・と言うと?」


 スーツの男、『安倍道晴(あべのみちはる)』は僅かに目を細め聞き返した。


 道晴は陰陽五家の当主である。しかもかの有名な『安倍晴明』の直系の流れを組んだ由緒ある血筋の持ち主だ。それ故か非常に自尊心が高く他者を見下すきらいがある。

 「言ってみろ」と言わんばかりにしゃくりあげる顎。その不遜な態度に天元の眉は先程からピクピクとひくついている。


「何簡単な話じゃ。急ぐ必要が無い。いや正しくは急ぐことができん、ということじゃ」


 定義の答えに道晴は不満そうに口をへの字に曲げた。

 簡単と言いながらもまるで謎掛けのような答え。道晴は再び貞能に対して声を上げ・・・


「言うてることが分かりまへんなぁ。具体的にどういうことでっしゃろか?」


 ようとした時に別なものが割り込んだ。

 道晴の2つ隣に座る細めの青年だ。


 道晴は射殺しそうなほど青年を睨むが、青年は気にした様子もなく言葉を続ける。


「もう少し分かりやすぅしてくれませんと、こちらも対応できへんわ」


 特徴的な関西訛りで語るのは『服部陀迅(はっとりだじん)』。彼は『御庭番衆』と呼ばれる集団に属する服部家の頭領だ。


 御庭番衆も陰陽師や斬の一族同様妖魔と戦う退魔師である。その特徴は霊力を使い超常的な様々な現象事象を引き起こす陰陽師や、気力を人体や物質に流し込むことで圧倒的な戦闘力を誇る斬の一族とはまた違い、独自の術を使うことで諜報活動や《《暗殺》》などに特化している。

 純粋な戦闘力は臨機応変さや広範囲に術を作用させる陰陽師や、超人的な膂力と剣技をもって近接戦闘で無類の強さを誇る斬の一族には遠く及ばない。

 だがこの中で誰が一番脅威かと言えば、それは『御庭番衆』となるだろう。

 彼らの隠密力や情報収集能力はまさに忍者、陰に潜み気づいたときには全てが終わっている。

 その能力故に彼ら御庭番衆は妖魔と戦う退魔師でありながら《《人に対しての仕事》》のほうが多かったりもする。


 開いているのか分からない糸目を弧に曲げてどこか薄気味悪い笑みを浮かべる陀迅。

 周囲の参加者の多くがその陀迅に警戒の色を強めている。

 それはこの退魔師協会が一枚岩でない何よりの現れだ。


「《《分からん》》、だから動けん」

「ん?」


 簡素な定義の言葉に陀迅は首を捻る。


「それが何であったのか。どこにいるのか。そもそもそれが妖魔なのか。何も分かっておらん」

「・・・・巫女様が視たのではあらへんのか?」


 陀迅の尋ねに定義は首を横に振る。


「《《確認はしたが視えてはおらん》》」

「それは《《視えなかった》》と」

「違う、《《視ることが出来なかった》》。どうやら《《弾かれた》》らしい」


 室内がざわついた。だが定義は気に留めず続きを話す。


「『巫女の目』は強力な霊力によって近づくことが出来なかった。それは過去の『紫』でもなかったことだ。更に追跡しようにもそいつは何の痕跡も残すこと無くその場から瞬く間に消えてしまった。ハッキリ言おう。おんしらに集まってもらったのは何も分からないからだ。あれだけの霊力を放った相手、いやそもそもそれが個の存在であるのかすら分かっておらん。だからこれから何が起こるのかも想像できないし何かが起こるのかも分からんじょうたいだ。だから情報が欲しい、少しでも《《あれ》》を追う手がかりが欲しい、でなければ・・・・《《日本が終わる》》かもしれん」


 定義のあまりな発言に多くの者が息を飲んだ。定義の真に迫る言葉はその重大さをまざまざと感じさせる。現に騒いでいた樂泉も道晴も陀迅すらも息を呑み言葉をつまらせる。

 日本が終わる、その言葉に定義は一切の誇張はなかった。実際定義は《《今回の霊力の原因が妖魔であるならば》》そうなるだろうと確信すらしている。

 以前日本に現れた位階『紫』の妖魔。『海洋の厄災』と後に呼ばれたあの妖魔すら超えるだろう今回の相手、最早その脅威度は異次元の存在と言っていい。


「分かっておるのは先程話した通りの内容だけじゃ。相違は無いな、『宗一郎』、それと『十兵衛』」


 定義は二人の人物へと順番に目を向けた。


 一人は白髪が混ざったグレーの髪をオールバックで纏め、整えられた顎髭を生やす50代くらいの男。

 何かを考えるような厳しい表情をしているが、彼はこの場に姿を表してからずっとその評定は変わらない。

 厳格、威厳、そういった言葉が似合いそうな男だ。


 男の方は『芦屋宗一郎(あしやそういちろう)』と言う。この男もまた陰陽五家である『芦屋家』の当主である。


 もう一人は《《女性》》だった。

 一人目が『宗一郎』であるならば、定義が呼んだもう一人の名は『十兵衛』のはず。だがその人物はこれでもかと言うほど女性であった。


 色気の化身。


 そう呼びたくなるほどその人物は女性というものを前面に押し出してくる。

 濡れ羽のような艷やかさと光沢を持った漆黒の長い髪は、頭頂部の少し後ろで纏めて縛り、天女の羽衣のように緩やかなウェーブを描いて腰まで伸びている。

 切れ長の瞳の下に泣きぼくろがまた女の色気を醸し出し、少し厚めの唇は血色良く、シルクのような白い肌と相まってより一層色合いを際立たせている。

 何よりも女性らしい肢体の曲線が艶めかしい。これでもかと強調する二つの丘は男性であれば思わず目が行ってしまうだろう。


 『二十五代目 柳生十兵衛』。


 彼女は『斬の一族』である『柳生流宗家』の現当主である。

 そして『柳生十兵衛』の名は、代々その時の『最強』が名乗る名である。


「えぇそうよ。うちの門下の『周栄ちゃん』が直に見ているわ。でもうちのより『宗一郎ちゃん』の方が良く知っているんじゃない?」


 十兵衛が耳を擽るような声音で肯定する。

 彼女が名を出した『周栄』とは『歩奴馬周栄』のことであり、先日『芦屋直樹』と一緒に『槍の妖魔』と戦った剣士だ。 


「・・・・愚息から聞いている話とも相違はない。洋上に火山の噴火の如し火柱が上がり、その後目が眩む発光と巨大な霊力の嵐に襲われたと。そしてそれはまるで幻であったかのように一瞬で消失したと言う」


 仏頂面で淡々と語る宗一郎。宗一郎は直樹の実父である。

 

「そう言えば、その時追っていた妖魔をのがしたんだっけぇ」


 そう発言した十兵衛を宗一郎が睨む。


 十兵衛が言う通りあの時追っていた槍の妖魔には結局逃げられ見失っていた。


「まぁそれはうちんとこも一緒なんだけど」


 十兵衛がクスクスと笑う。

 妖艶とも言うべきその笑みは何を考えているのか分からないだけに何処か恐ろしくも見える。

 実際十兵衛の目には一切の笑いは無い。


 ただ小馬鹿にするような態度の十兵衛に怒気を増す宗一郎。

 宗一郎が口を開こうとするのを定義が割って入った。


「聞いてのとおりだ。それは計り知れない霊力を放ち一瞬にして消え失せる相手。正直今のところ手がかりらしい手がかりもない。それとその場で逃がしてしもうた妖魔もなんとかせねばならん。その妖魔は一部が限界化していたと聞く。そこは宗一郎、おんしのところで何とかせい」

「・・・・承った」

「そいつはもしかしたら今回の消えた巨大な霊力とも関係しているのかも知れん。その辺りも含めて頼むぞ。直樹は《《動けるのか》》? あやつの《《魔を感知する能力》》があれば見つけるのも早いのだがな」

「申し訳ないが、《《今は動ける状態では無い》》」

「仕方あるまい。ならば妖魔の捜索協力と件の霊力の発生源を調査を『加茂』のに頼もう。それ以外の全退魔師にも通達し、各々の範囲で情報を集めて欲しい」


 定義の指示により一先ずの決着を見せる。

 その後細々とした調整といざこざを処理し会議はかなりの消化不良で終了となった。

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