俺、勇者だったわ
「あ、俺・・・・《《勇者だったわ》》!?」
「なに言ってるの、いっくんはパパだよ」
そうだ京都に行こうみたいな感覚で宣うと、一緒に《《おままごと遊び》》をしていた『のんちゃん』が可愛らしく首をかしげ因めた。
「え、あ、うんそうだね、ごめんごめん。残業が多かったからちょっと疲れてるんだと思う」
おっといけないと現代社会のお父さん役を続行する。
「もうパパははたらきすぎなの。もっとかぞくを大じにしないと、体だけでなくてかていもこわれちゃうの」
「そ、そうだね。うん、そうする」
どこで覚えたのか《《8歳》》の女の子に嗜められてしまった。
そんな俺も8歳の子供、バリバリの小学3年生。
だが今思い出してしまった。
実は俺、《《異世界に召喚されて勇者をして、そのまま異世界で75年の人生を終えている》》のだと。
そう、つまり俺は《《転生者》》と言う事だ。いやこの場合は転々生者か?
あれは確か25歳の時、仕事が終わり恋人とのデートの待ち合わせ場所へ向かっている途中、謎の発光に飲み込まれて気がついたら不思議な空間にいた。
実態があるような無いような、色がついているようないないような、そんな何もかもが不確かな空間。
そこにはやたらと光る人物がいた。
なんとそれは女神だという。
で、その女神が言うことには異世界が魔神のせいで大変だから助けてほしいとのこと。
俺は嫌だと言ったのだが、もう魔神を倒すまで戻れないとひどい強制によりあえなく了承。ただ魔神を倒せば現世に戻すとの確約はもらった。
そんで異世界で何度も死にそうになりながら『魔神ディモガイア』を斃したのだが、それ以降も女神からはうんともすんとも連絡が来ない。
そして気がつけば75歳という天寿を異世界で全うし死んだ。
まさか死後転生するタイプだったとは!?
女神に対してどうしようもない怒りが募る。
元通りの生活に戻すのではなく、新たな人生を送らされるとは思ってもみなかった。
しかも今の俺って・・・・・・。
「パパ、はなしきいてるの?」
「はい、聞いてます!」
のんちゃんに怒られた。
色々考えるのは後にしよう。とりあえず今はのんちゃんとのおままごとに集中だ。
のんちゃんが帰った夕方。
「光一、ごはんにしましょ」
「はーい」
母上殿の呼びかけに元気に答える。
「どうしたの光一。そんなにお母さんを見て・・・・え、もしかしてご飯粒ついている?」
大好物の母上殿お手製ハンバーグをモグモグしながら母上殿を見ていたら、母上殿が慌てて自分の顔をさすった。
「ううん、ついていないよ」
「そ、そう。じゃあどうしたの? 今日は何か変よ」
そりゃそうだ、《《あんなもの》》を思い出してしまったせいで大変混乱中なのだから。
「お母さん、《《僕》》の名前ってお父さんの名前から取ったんだよね」
「ん? えぇそうよ。あなたの名前はお父さんからもらったの」
この話題を出すのは心苦しい。
なぜなら我が家は父親がいない母子家庭だからだ。だから父親の話は今まで極力出さないようにしていた。記憶を取り戻す前の唯の子供だった時からそこは空気を読んでいた。
だが思い出してしまった以上ちゃんと確認はしておかねばならない。
「お父さんの名前って」
「光輝・・・・宮本光輝よ」
・・・・・・・・やっぱり、そうかぁ。
俺はグルグルと胸の中に渦巻くやんごとなき感情に顔を顰める。
だってそれ・・・・。
《《前世の俺》》の名前だからだ。
今の俺の名前は佐藤光一、そして母上殿の名前は佐藤美弥。
佐藤美弥は前世で俺が付き合っていた女性の名前。
あの転移に巻き込まれた時、待ち合わせをしていた恋人。
顔も声もあの美弥だよな。
50年間ずっと忘れることの無かった彼女が目の前にいる。
少しだけ歳をとったが以前とほとんど変わらない美人だ。
そうか・・・・《《俺は俺と美弥の子供》》かぁ。
まじかよあのクソ女神!!




