トモのイト
『秋の文芸展2025』参加作品です。
テーマは友情。
友情といえば熱い展開(意味深)。
それに文芸要素をほんのひと回し……。
どうぞお楽しみください。
「よっ! 太。元気か?」
「……何しに来た通」
「何だよつれないなー。大親友が酒持って遊びに来たっていうのによー」
「……お前テレビ観てないのか……?」
「あー、その暗さ、やっぱあの報道で凹んでんのかー」
「……当たり前だろ! あのせいで俺は全てを失ったんだ! 信頼も! 地位も! 彼女も! 何もかもをだ!」
「すごかったよなー。世間の手のひら返し」
「……お前もどうせ俺を嘲笑いに来たんだろ……。もう帰れよ……」
「まぁ笑いには来たけどなー」
「な、何で上がってくるんだ! ちょっ、缶ビールの蓋を開けるな!」
「缶ビールじゃねーよ。発泡酒。この世知辛いご時世じゃ、今はこれが精一杯……。その代わり量は買ってきたからよ。ほれ、お前の分」
「……く……。んぐ、んぐ、んぐ……」
「お! いいじゃん、いい飲みっぷりー。じゃー俺も……」
「……お前、何のために来たんだよ……」
「んぐ、んぐ、ふー……! 何って太と飲むためだよ。お前がしょうもない事でうじうじしてたら、そりゃそれを肴にして飲むだろ」
「お前……!」
「んだよ。怒るなって。お前だって俺が生まれて初めてできた彼女が結詐欺師だった時、飲み屋で散々いじったろ?」
「それとこれとはレベルが……」
「関係ないね。一回は一回。だろ?」
「……ふん。……んぐ、んぐ……、ふー」
「いいペースじゃん。それでこそ太だなー。ほれおかわり」
「……ん……。ぷはっ。……お前は何も思わないのかよ……」
「んぐ、んぐ、ぷはーっ……。ん? 何を?」
「俺が報道されてる事だよ……!」
「……まー、驚きはしたかな」
「……で……?」
「そんだけ」
「は!? お前、そんだけって……!」
「まーお前とは大学で知り合った同級生ってだけの関係だけどさー」
「……」
「サークルの先輩がラストオーダーで頼んで飲みきれなかったビールのピッチャーを、俺とお前で一つずつ必死こいて飲んだりさ」
「……」
「お前の面白エピソードを俺が替え歌で歌ってダダ滑りしたら、巻き添えでお前も寒いキャラ扱いされたりさ」
「……」
「学園祭で死ぬほどたこ焼きやかされて、全然他回れなかった事とかさ」
「……」
「就職の時にお前が理不尽な理由で内定取消しになった時、一緒に朝までブチギレたりさ」
「……」
「あの四年間のお前は、テレビの中にはいなかったよ」
「……そう、か」
「ま、あの報道のお陰でお前が住んでるところわかったから、それだけは感謝だけどな」
「ははっ……。それは、そうかもな……」
「しかしあの報道、気に入らなかったなー! 全部お前が悪者扱いでよー! 偏向報道だろあんなの!」
「ま、まぁそうかもな……」
「おーい! お前就職の時の勢いはどうしたー! 『俺を落とすような奴は全員豆腐の角に小指ぶつけて◯ね!』って言ってたお前はよー!」
「いや、それは……。いや、そうだな……。テレビのバカヤロー!」
「お! いいぞ!」
「何も事情を知らないくせに好き勝手言いやがってよー!」
「そうだそうだー!」
「俺だって必死に頑張ってただけなんだバカヤロー!」
「バカヤロー!」
「よーし! 今日はとことん飲むぞ通!」
「それでこそ太だ! ほら飲め飲め!」
「……なぁ」
「……んぁ? なんだひろしぃ……」
「おまえ、『くものいと』ってしってるか……?」
「あー、あくたがわのぉ……?」
「あぁ、それ……。おれはさ、おまえがそうかとおもったんだ……。たすかるきぼうをもたせて、たちあがらせて、もういちどじごくにって……」
「……それ、おれが『くもい』だからかぁ……?」
「いや、そうというか、ちがうというか、んー……? おれなにいってんだ……?」
「……おれはくもじゃねーしぃ、くもだとしてもぉ、おまえをたちあがらせるようなぁ、いともぉ、ちからもねーんだぁ……」
「……うん……」
「だからぁ、おまえがぁ、じごくにいるならぁ、そこにおりてってぇ、いっしょにさけをのむんだぁ……。わかったかぁ……」
「……ぉぅ……」
「おらぁ、のみがたんねーぞぉ……。つぎはチューハイだぁ……」
「お、おう、のむぞぉ……!」
『馬鹿ナ……。我等ガ乗ッ取ッタ情報媒体ニヨリ信用ハ地ニ落チ、貴様ニハ立チ上ガル力モ理由ハ無イ筈……!』
「……悪いが最後の酒が、野郎との安酒なんてのは御免でね……!」
構えた太の身体が光に包まれる!
「世界は返してもらうぜ! デマーズゴーミ! 変身!」
読了ありがとうございます。
はい勝ち確です。
オープニング曲流れるやつです。
そして全て解決した後、手のひら返しの世間を潜り抜け、太と通の二人だけでひっそり良い酒を飲むやつです。
ちなみに神田太と雲井通は、作中で語られたあの超有名作から。
原作とは異なり、天上から救いの糸を伸ばすのではなく、共に地獄に降りる選択。
安易に救わないから、いいんじゃあないか……。
お楽しみいただけたなら幸いです。




