第3節:賢者
森の奥、月明かりに照らされる茂みの中で、ライルは恐る恐る声を出した。
「……君は、だれ?」
沈黙の中、かすかに光を帯びた影が微かに揺れる。
そして落ち着いた、しかし温かみのある声が返ってきた。
「……私は、エルシュ。君と同じ、この森の夜に居る者」
ライルは眉をひそめ、角の熱を手で押さえる。
「……君、ほんとうに人……?」
「人の姿をしているけれど、私の正体は少し、君の知っている世界とは違うかもしれない」
その言葉に、胸のざわめきが強くなる。
(違うって……どういうことだ……?)
ライルは小さくうなずき、少しだけ声を落とした。
「……俺、変なことになっちゃったのかな……角が光った……」
「そうか……それは君の中の力が目を覚ましたのね」
「力……?」
「ええ。君の角に宿るのは、雷素。昔、この世界にあった力の名残り」
ライルは目を丸くした。
「雷素……? それって……俺のせいで、あの村の人たちも……」
「いや、責める必要はないわ。ただ、力が初めて現れた時は、誰でも驚くものだから」
エルシュは近くの倒木に腰を下ろし、柔らかく手を差し伸べる。
「まずは落ち着いて。力を恐れる必要はない。君の内にあるものを、少しずつ理解すればいい」
ライルは手を差し出されてもすぐには近づけず、角を触る手を握りしめたまま言う。
「……どうすれば……この光、止められるのかな」
「止める必要はないわ。制御することが大事なの。光は力の一部、君の意思で導けるようになればいい」
月光が森を照らし、二人の間に静かな時間が流れる。
遠くから聞こえる祭りの喧騒は、もうずっと遠い。
ライルの胸の中の恐怖と好奇心が混ざり合い、角の熱はまだ消えずに残る。
「……制御、か」
ライルは小さくつぶやき、夜空の星を見上げる。
(あの光……俺の一部なんだ……)
エルシュは微笑む。
「そう。君の力は、君自身のもの。ゆっくりでいい。まずは理解することから始めましょう」
ライルは頷き、角をそっと握りしめた。
森の夜風が木々の葉を揺らし、二人を静かに包み込む。
この夜、ライルは初めて、自分の中に眠る雷素の存在を受け入れ、
そして、この不思議な賢者――エルシュと出会ったのだった。




