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星の記憶 ー 十二幻想記 ー  作者: ぶれ
第2章:黎明の子

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第1節:地上の息吹



朝霧がまだ村を包むころ、山間のリューネ村は目を覚ます。

屋根の苔が露を滴らせ、遠くの丘には白い羊の群れ。

鳥の声が重なり合い、木々の隙間から差し込む光が細い金糸のように地面を縫っていた。


ライルは小川のそばにしゃがみ込み、石を拾っては投げていた。

水面に映る自分の姿を、彼はほんの少しだけ嫌いだった。


――左側にしか生えていない角。

それは、彼が他の誰とも違うことを日々思い出させる印だった。


「また見てるの?」


後ろから声がして振り返ると、妹のミラエルが立っていた。

白金の髪を編み込み、腰まで流した長い髪の先を指でくるくるといじりながら、

少し呆れたように兄を見つめている。


「朝ごはん冷めちゃうよ。お母さん怒る」

「すぐ行く」

「どうせまた、角のこと考えてたんでしょ」


ミラエルは軽くため息をつくと、兄の横に腰を下ろした。

彼女の目は深い湖のような青。

兄妹といえど、その穏やかさは正反対だった。


「ねぇ、兄さま」

「ん?」

「村の人たち、兄さまの角のこと、そんなに気にしてないよ。もう慣れてる」

「……そうかな」

「うん。少なくとも、私は好きだよ。その形」


その言葉に、ライルはうっすらと笑った。

だが、その笑顔は長く続かない。


丘の向こうから、角笛の音が響いた。

春祭りの準備を告げる合図だ。



リューネ村の春祭りは、

“星の門の加護”を祈る古い祭礼に由来している。


もっとも、今となっては誰もその「星の門」を本気で信じてはいない。

年に一度、収穫を感謝し、天に杯を掲げる――それが村にとってのすべてだった。


ただ、祭りの最中に「雷」が鳴ることだけは、

古い言い伝えとして不吉の兆しとされていた。


“雷の音は、封印の亀裂を呼ぶ。

 その光に触れた者は、星の怒りを受けるだろう。”


子どもたちはその話を怖がり、

大人たちは、笑って否定しながらも、心のどこかでそれを恐れていた。



「ライル、木材の運び出し、お願いできる?」


父の声が家の裏手から聞こえた。

彼は村の寄り役のひとりで、

頑固だが人望が厚い男だ。


「うん、すぐ行く!」


ライルは立ち上がり、

妹に手を振ると、作業場へと駆けだした。


道の途中で、村の子供たちが集まっていた。

同年代の少年、トゥレンがこちらを見てにやりと笑う。


「おい、ライル。お前も手伝いか?」

「ああ。お前たちは?」

「俺たちは飾りつけ。角があるんだから、てっぺんの紐結び、得意だろ?」


笑い声が弾ける。

からかい半分の冗談でも、胸の奥に小さな棘が刺さる。


「……やめとけよ、トゥレン」

「冗談だって!」


だがそのとき、

空を横切った白い光が一瞬、地面を照らした。


雷――ではなかった。

ただの陽光の反射。

それでもライルは思わず胸を押さえた。


どくん。

心臓の奥が熱を持つ。


(なに、だ……?)


彼の中で、微かに“何か”が目を覚まそうとしていた。

だが、その意味を知る者は、まだこの村にはいなかった。

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