第3節:封印の刻(とき)と沈黙の門
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黒い雷が天を裂いた夜、星界と地上は悲鳴を上げた。
光を司る者たちは叫び、炎の座は燃え尽き、
水瓶座の塔は蒼白に砕け散った。
門を繋ぐ導脈はすでに断たれ、
星々を循環していた「素」は暴走を始めた。
――空は焦げ、風は逆巻き、海は空へと流れた。
それは「世界の終わり」のようであり、
同時に、「新しい理の誕生」の始まりでもあった。
幻想種たちは、自らの過ちを知っていた。
彼らの技術と傲慢が、星界と地界の境界を崩壊させたのだ。
ゆえに彼らは、残された同胞を集め、封印の儀を行うことを決意した。
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封印の中心は、
十二星座のうち最後まで生き残った六座――
水瓶・獅子・乙女・蠍・魚・天秤――によって築かれた。
彼らは星界の残響を集め、
世界の中心にある大門「星環」を閉じるための環を描いた。
封印の詠唱は、かつて星々が誓約を交わした言葉そのものだった。
「光よ、還れ。闇を抱き、静寂に眠れ。
星の理を越えし声は、我らが手に余る。
ならば、すべてを閉じ、祈りだけを残そう」
それは、幻想種の時代の終焉を意味した。
封印の儀の最中、雷素の奔流が再び門を震わせた。
すでに虚空の力が深く侵入していたため、
完全な閉鎖は叶わず、門の奥に“ひとつの歪み”が残った。
その歪みは、**雷光の痕**として刻まれた。
後の時代に「雷窟」と呼ばれる洞窟――
雷素を宿す子らが生まれる場所である。
星の門が閉ざされる瞬間、
幻想種たちは自らの肉体を星界に還した。
その魂は「素」となり、風や水、石や樹の中に溶け込んだ。
ゆえに、この時代以降、幻想種の血を引く者たちは、
地上に散った“素の残響”として生まれることになる。
血は混ざり、形を変え、代を重ねるごとに薄れ、
やがて――人々の中に「神話」として残った。
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封印から千年。
大陸は四つの群島に分かれた。
海は深く裂け、かつての大陸間の導脈は沈んだ。
残された四座――
風の座は西へ、火の座は南へ、
水の座は東に、地の座は北に――
それぞれが独自の理を築き始めた。
そして、彼らの末裔たちが四大陸の基層民族となる。
この時代、人々は“星”を忘れ、
“天”を畏れ、
“雷”を忌むようになった。
雷は封印を破った象徴であり、
破滅を招くものとして語り継がれたのだ。
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それでもなお――
ごく稀に、封印の残響が地上に滲み出ることがあった。
雷窟と呼ばれる断層の奥、
封印の亀裂から流れ出る微細な“星素”。
その光を受けて生まれた者たちは、
星々の記憶を夢に見る。
彼らは時に、異様な力を持って生まれる。
そして、恐れられる。
――物語の舞台に立つ少年、ライルもまた、そのひとりであった。
彼が持つ“雷素”の輝きは、
封印された星の記憶そのもの。
その血脈は、遠き昔、星門を開こうとした水瓶座の民の系譜に連なる。
だが、彼自身はそのことを知らない。
誰もが神話を忘れた世界で、
彼だけが、かすかに星の夢を見る。
それが、この物語の始まりである。




