第2節:門の崩壊と大戦の黎明
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大いなる星の息吹が、地に理をもたらして幾千の季節が巡った。
星座の神らは自らの領を整え、種を与え、人々に「役割」を授けた。
しかし、**理**は永遠に均衡ではいられなかった。
星の光が交わるその軌道に、微かなる歪みが生じたのだ。
星々が定めた法を超え、互いの「素」が干渉を始めた。
その交わりは最初、祝福のように美しかった。
雷が水を導き、水が火を鎮め、風が土を肥やした。
だがやがて、それは混沌の種と化した。
星々の門を通じて流れ込む力は、ひとつの星系には余るほどの奔流となり、
天上に住まう幻想種と、地上に生きる者たちとの間に「差」を生んだ。
幻想種は星の力を直接操る者たちであり、
彼らの体は光に近く、思念がそのまま力となった。
地上の種族――人や獣、竜や精霊は、
その光の残響のみを受けて生まれた。
彼らは祈り、星を仰ぎ、門の向こうにいる存在を「神」と呼び始めた。
こうして、崇拝と誤解が生まれた。
幻想種は神ではなかった。
だが、彼らが築いた塔の頂から見下ろす光景は、
人の眼にはまさしく「神々の居所」と映った。
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その時代、もっとも栄えたのが水瓶座の民であった。
彼らは知識と観測の種族であり、
「星の門」を技術として解析し、制御しようとした。
星と星を繋ぐ「導脈」は雷の流れのように震えていた。
彼らはその脈動を模倣し、人工の雷を生み出した。
それが、のちに**雷素**と呼ばれる始原の力である。
雷素は星界と地界を繋ぐ鍵となり、
瞬く間に他の種族にも模倣された。
火の座の民はそれを兵器に転じ、
風の座は加速器と呼ばれる機構を造り、
地の座は雷素を核に動く機械生命を錬成した。
やがて、星界の各門を管理する者たちの間に「所有」の概念が芽生えた。
誰がどの門を制御するか。
どの星に繋がる力を受けるか。
理は静かに分裂し始めた。
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そして――
ひとつの事故が起きた。
水瓶座の大都・アクルミアにて、
雷素を用いた星門制御実験が行われた。
導脈の共振を拡張し、
閉じた門を一時的に再開放する計画だったという。
だが、計算を担っていた高位幻想種の一族が、
その瞬間、暴走した。
門は「星」ではなく、「外」へと繋がったのだ。
星界の理を超えた“無の彼方”――虚空より流れ込む黒い雷が、
大陸を覆い尽くした。
都市は光に呑まれ、塔は崩れ、空は裂けた。
一瞬にして千の命が消え、
残った者の魂は星の門の中へと吸い込まれた。
それが、門崩壊。
幻想種たちは恐れた。
地上の民は怒り、そして誤解した。
「天上の者が、星を壊した」
「神々が我らを見放した」
この日を境に、幻想種と地上種の分断が始まる。
門を守護する者たちは封印を選び、
星々の力を地上に落とす道を断った。
封印の光は空を覆い、
雷素は制御不能となり、
世界は静寂に沈んだ。
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だが、それは終わりではなかった。
むしろ、それが“世界の始まり”だった。
地上の種族は、星の光を失った夜を「初の闇」と呼び、
この時代をもって暦を刻み始めた。
門の崩壊により滅んだ十二星座の民のうち、
地上に痕跡を残したのはわずか四座。
他は一部を残し星々の彼方へと消え、
あるいは、天と海の深奥に隔たれた。
こうして、
星々の時代は幕を下ろし、
「封印の時代」が訪れる。




