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星の記憶 ー 十二幻想記 ー  作者: ぶれ
第3章:星の門

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第11節:雷の記憶



森をわたる風が、緑の葉をひとひら、ひとひらと揺らした。

その音はまるで、遠い日の嵐を思い出させるかのようにライルの胸に滲みこんでいく。


あの日、彼の中で生まれた“雷”は、今も脈を打ちつづけていた。

それは心臓の鼓動とともに息づき、時に静かに、時に鋭く、掌の奥で青白く光る。

あの嵐から、もう二年が経っていた。


ライルは十五を過ぎ、身体も少しずつ大人の輪郭を帯びてきた。

森の奥、星の門を望む丘の近くには、彼が整えた簡素な修練の場がある。

焦げた木々の跡の中に、新たに芽吹いた若木が立ち並び、

その根元にはいくつもの焦げ跡と、微かに光を帯びた雷石の欠片が転がっていた。


「――今度は、ここまでか。」


掌から放たれた稲光は、枝葉を焦がすことなく、ふっと空気に溶けた。

それは制御の成功を意味していた。

力を暴走させることなく、意図した通りの形で消すことができたのだ。


「上達したわね。」

木陰から声がした。エルシュだった。


彼女は相変わらず白銀の髪を風に流し、

その瞳の奥に、どこか別の世界を映しているような静けさを宿していた。

以前よりも少し、表情が柔らかくなった気がする。


「まだ、怖いです。」

ライルは息を整えながら答えた。

「怒ったり、焦ったりすると……勝手に暴れそうになる。」


エルシュは頷く。

「雷は感情と繋がる。焦燥や恐怖、強い願い――それらが燃料になる。

けれど、制御とは“静けさ”の中に立つこと。

光を放つ前に、自分の心を灯さなければならない。」


彼女の言葉は、まるで星の輝きが人に語りかけるようだった。

ライルはそれを胸に刻み、ゆっくりと目を閉じる。

息を整え、空気の震えを感じ、指先に意識を集める。


パチリ、と微かな音。

青白い光が、まるで小さな精霊のように彼の周囲を漂った。


「……できた。」

「うん、それが“形”よ。」

エルシュは優しく笑う。


彼女の笑顔は、どこか遠くの記憶を呼び起こした。

あの日の嵐。雷鳴。燃える森。

そして、初めて彼女に出会った夜のことを。


けれど同時に、ライルの胸の奥にはもう一つの感覚が芽生えていた。

それは言葉にできない、不安の影。

最近、森の奥にある星の門が、時折微かに唸るような音を立てるのだ。


風が止まる。空気が一瞬、重くなる。

そのたびに雷石の欠片が、淡く共鳴して光った。


「……エルシュ。門が、鳴いている気がするんです。」

「鳴いている?」

「はい。眠っているのに、夢を見ているような……そんな感じで。」


エルシュは少しだけ目を伏せた。

「星の門は生きている。完全に閉じられたわけではないの。

けれど、その夢が誰を呼ぶのかまでは、私にもわからない。」


彼女の声は穏やかだったが、微かな緊張があった。

ライルは気づいていた――

エルシュが時折、空を見上げて何かを思い出していることに。

彼女はかつて門の向こうを知る存在だった。

今は堕天した身として地に在るが、その記憶は完全には消えていない。


「……もし、またあの嵐が来たら?」

「嵐は、試練よ。」エルシュは静かに言った。

「自然が怒るのではない。星が、次の歩みを問うの。」


その言葉の意味は、まだライルにはわからなかった。

けれど、風の匂いが少し変わってきていることだけは確かだった。

森の奥で眠る門の脈動が、確かに少しずつ強まっている。


「雷の記憶は、消えない。」

エルシュがふと呟く。

「けれど、恐れのままにしておけば、それは災いとなる。

受け止め、学び、祈りに変えなさい。

君の中の雷は、きっと“門”の声に近いものだから。」


ライルは頷いた。

夜風が彼の髪を撫で、空に散る光が星々を繋ぐ。

彼は胸の奥で、小さく答えた。


――ならば、僕はその声を聴こう。

――そして、二度と誰も傷つけない。


森の奥で、雷石が微かに鳴った。

まるで、彼の誓いに応えるように。

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